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Blaise Laurent Mouttetの件において自明性のルールを緩和 (12/09/01)
連邦巡回控訴裁判所は、最近、Blaise Laurent Mouttetの件において、自明性についてのルールを緩和した。No. 2011-1451(Fed. Cir. June 26, 2012)。発明者であるBlaise Laurent Mouttetの横線算術処理プロセッサーの発明を特許局が拒否したのを肯定する中で、裁判所は、公開されているものの指定されていない代替手段に比べて、ある具体化案を先行技術文献が推奨しているというだけでは、提案されたデザインを遠ざけたことにはならないと判示した。
Mouttetは、横線算術処理プロセッサー(“Crossbar Arithmetic Processor”)と題された特許申請No. 11/395,232を2006年4月3日に提出した。これは、横線配列(“crossbar array”)という、結合部は薄いファイルまたは分子成分を用いてつながれている微細な導線の格子の中の微小な物質を用いて加減除の計算を行うことができるプログラム可能な算術ユニットを公開するものであった。この導線に加わる電圧をコントロールすることで、各接合部を高抵抗または低抵抗にプログラムすることを可能にし、処理後のユニットで数字データとして出力可能な二進データを格子部分が蓄えることができる。
合衆国特許局は、先行文献およびFalkに与えられた合衆国特許No. 5,249,144を含む4つの先行技術特許を根拠に、Mouttetのクレームを特許不可能として拒絶した。Falkの144特許は、算術および論理演算を行うための装置を公開したものだった。特許局の見解では、Falkは、横線配列に電気回路の代わりに交差する光学チャンネルを用いるという点以外は、Mouttetの発明のすべての要素を公開したとされた。Falkにおいては、横線の光学経路に沿った各交差部の光の強度が特定の論理状況を表し、算術を行うのに用いられた。Mouttetのクレームは、配列に導線を用いることを要件としていたため、特許局は、Falkの示唆を、分子スイッチを伴う電気導線の微細配列を示唆していたDasによる記事と組み合わせて用いた。
審判手続において、Mouttetは、光学機器は、電子機器には存在しない相互連結可能性を有しているから電子機器よりも望ましいというFalk特許の記述に依拠して、主張している発明は、Falkによって遠ざけられた(“teaching away”)ものであると主張した。合衆国特許法では、主張されている発明から遠ざけるような示唆は、主張されている発明が文献から自明であるとされることを妨げるとされている。KSR International Co. v. Teleflex, Inc., 550 U.S. 398, 416 (2007)で最高裁判所が判示したように、先行技術が、特定の公知の要素を組み合わせたものを遠ざけるような示唆をしている場合に、それらをうまく組み合わせる手段を発見した場合には、当該発明は自明とはされない可能性が高い。2011年3月29日、特許局特許審判抵触部(“Patent Office’s Board of Patent Appeals and Interferences”)は、Mouttetの主張を認めず、数年の経験のある電気技術者ならば、先行技術文献からの示唆によって、Mouttetの主張する回路が導かれることに気づくだろうということに同意し、審査官の申請拒絶を承認した。
控訴審において、連邦巡回控訴裁判所は、Mouttetの発明は、Falkおよびその他の先行技術に照らして、自明であるという決定を支持した。裁判所は、先行技術文献において、単に代替的なデザインを開示しただけでは、そこで推奨されなかった代替案を遠ざけることにはならないと判示した。Falkは、光学設備をデザインにおいて用いる特定の利点を挙げているが、光学チャンネルの代わりに導線を用いることが、プログラム可能な算術ユニットとしての回路の操作性を破壊するだろうとまでは述べていなかった。裁判所はさらに、先行技術においてより良い代替案が示されているという理由だけで、劣った組み合わせが自明性判断の目的において不適合になるわけではないと説明した。特に裁判所は、たとえ、Falkがいくつかの目的において電子回路が光学回路に劣っていると述べていたとしても、Mouttetは、Falkの主張する発明が電子回路を用いて作動する可能性が低いであろうことを示す文献を挙げていないと判示した。
この決定に従えば、たとえ先行文献において、推奨された具体案よりもいくつかの代替案が劣ると明示的に述べられている場合であっても、出願人(または訴訟当事者)にとって、複数の代替案を公開している先行文献が、主張されている発明を遠ざけるものであると示すことはさらに困難となる可能性がある。文献が、主張されている発明を示唆するものではないということを根拠に自明性を根拠とした拒絶に反論する場合、出願人は、その文献が、潜在的に予想される代替案より具体的な案を推奨しているのにとどまるものではないことを提示することが重要となる。出願人は、文献が積極的に非推奨の具体案を使うことを思いとどまらせようとしていること、または文献が非推奨の具体案がうまく働かない可能性が高いことを示していることを強調すべきである。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
chietogawa@quinnemanuel.com