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懲役20年の求刑を無罪へ。 (15/07/01)
6日間の裁判の記録。
クイン・エマニュエルは刑事裁判においてすばらしい結果を残したと全米のマスメディアが報じている。代理を務めたのはコロンビアの石油会社であるペトロタイガー社の共同創業者であり、前CEO(共同最高経営責任者)ジョゼフ・シーゲルマンである。
http://www.bloomberg.com/news/articles/2015-06-15/justice-department-stumbles-in-closely-watched-foreign-bribery-case、 http://www.wsj.com/articles/ex-ceo-of-petrotiger-sentenced-to-probation-over-bribery-1434469990(記事「ペトロタイガーの事案は海外腐敗行為防止法における法令順守についてどのような意義があるか。シーゲルマンの法定代理人とその他の専門家による考察。」※他多数の報道あり)
ニュージャージー州の連邦地方裁判所で、2015年6月2日に訴訟が始まった時、シーゲルマンは収賄、マネーロンダリング、および電信やコンピューターを利用した詐欺行為の罪を犯したとして、20年以上の懲役と数百万ドルの罰金を求刑されていた。しかし、訴訟開始後、検察当局は2週間もたたないうちに罪名を5つに減らし、最後の6週間までには当初の6つの罪名のうち、半分にあたる3つを取り下げるに至った。そして、最終的に検察当局は、執行猶予付きの求刑とすること、また、罰金については、当初よりわずかなものとする求刑に変更する、という取引に同意した。
つまり、被告人の答弁書に記載されたものと同様の、被告人に有利な判決文の内容とすることに検察当局も同意したのである。検察当局は、シーゲルマンが外国の公務員に不適切な支払いを行っていたことを認める趣旨の発言よりも、彼が適切なデューデリジェンスを実施していることを認識していたという、「意識的な回避を行った」という答弁を受け入れるとしたのである(もちろん、実際には、シーゲルマンは不適切な支払いをしたという事実はなかった)。最も重要な部分は、本件は故意犯ではなく、過失犯としての枠組みで弁論がなされることになったという点だ。
シーゲルマンに拘留期間なしの執行猶予を言い渡す際、ジョセフ・イレナス裁判官は、シーゲルマンの罪を性格上の欠陥に例え、彼のこれまでの良い働きと、雇用の創出や将来的にも良い行いをする能力を称賛する一方で、当局の主張を批判した。
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米国司法省は、2年間の調査を経て、2014年5月、6つの罪を犯したとしてシーゲルマンを起訴した。その内容は、数百万ドルの契約を獲得するために、シーゲルマンが、グレゴリー・ワイズマン(ペトロタイガー社の代表弁護人)と、ナット・ハマークショルド(ペトロタイガーの共同最高経営責任者)と共謀した上で、賄賂を受け取った行為、マネーロンダリング、電信・ネットを利用した詐欺行為、犯罪収益のやり取りをした行為、そしてコロンビアの州が所有する石油会社、エコぺトロル社の従業員への贈賄をした行為についてである。
そして、起訴される時には既に、彼の罪責追及のため、外堀は埋められていた。ワイズマンとハマークショルドはシーゲルマンと共謀の上、贈賄、収賄をしたとの容疑を既に認めており、さらに、当局に対して捜査に協力することに同意していたからである。
事実、ワイズマンは起訴される前でさえ、当局に対し全面的に協力をしていた。具体的には、ワイズマンは、2012年12月、FBIから接触されてからたった数日後の時点で、次のことに同意していた。彼のクライアントであるシーゲルマンとの3時間にも及ぶ会話を秘密録音し、シーゲルマンが上記の罪を犯したことを認めたという証拠を得ること、そして、その証拠を用いて当局がシーゲルマンを起訴するということについてである。その秘密録音がなされた時、ワイズマンはシーゲルマン経営するベンチャー企業である、フィリピンに拠点を置く多国籍建設会社の法務顧問の一人として行動していた。また、彼は、シーゲルマンの個人的な顧問弁護士として、様々な案件への対応を任されていた。
その録音の内容のほとんどがシーゲルマンに対して良好な内容であったとしても、クイン·エマニュエルは、その録音内容をシーゲルマン訴訟における証拠として用いることを認めるべきではなく、排除すべきであるとの申し立てを裁判所に対して行った。なぜなら、録音当時、ワイズマンはシーゲルマンの会社の法律顧問であり、かつ、個人的な弁護士として契約関係あった。シーゲルマンとの関係を利用して、彼に対する情報収集を行う行為は、弁護士倫理の重大な違反といえるからである。裁判所はこの申し立てを却下したものの、この申し立てを行ったことは、イレナス裁判官に対し、ワイズマンはクライアントに対する、プロとしての義務、行為規範を無視するような考えを持つ者である、と印象付けたという点において、効果的な行動であったということができる。この申し立てをしたことは、最終的には訴訟の結論を左右する1つの要素となった。
この訴訟を有利に進めるための障害となったのは、シーゲルマンの友人や同僚が彼の無罪獲得へ協力するよう説得することの困難さに加え、この訴訟はペトロタイガー社が米国政府に対して告発を行ったことに端を発するしたといいうことである。ペトロタイガー社は、前述の通り、彼が共同創業者として、また、かつて共同最高経営責任者として率いていた会社である。その会社は内部調査を行い、米国の大手法律事務所に当局へ提出する報告書を作成するよう依頼をしたのである。多くのホワイトカラー(事務労働者)の場合、経営者は内部告発により被告人となることから、本件は典型的なケースであったとも思える。
しかし、本件特有の事情として、会社自体がコロンビアに拠点を置いていたということ、このことが弁護活動を難しくさせたのである。即ち、このことは、殆ど全ての関連文書および証人も同様に、コロンビアに存在するということを意味するのである。これは、通常であれば刑事被告人が享受できる、重要な証拠の多くが、提出命令や証人喚問を受ける対象とならないことを意味した。提出命令の効力が及ばなければ、シーゲルマンは法廷において彼の味方として、証言をしてくれる証人を得ることについて、非常に限定された能力しか持たないということになるのである。これとは対照的に、検察当局は主張を組み立てるために必要な情報全てに容易にアクセスすることができるよう、すでに準備をしていた。なぜなら、ペトロタイガー社とコロンビアの法執行当局が積極的に捜査に協力したからである。本件は、この点において、平等な競争条件ではなかったということができる。
そこでクイン・エマニュエルは、シーゲルマンを弁護するため、必要な情報へアクセスすべく、直ちにコロンビアの法制度に精通した弁護士のチームを組み、この問題を解決するための行動を起こした。その結果、前述の通り、コロンビア国内にいる証人となるものは証言をする法的義務はない上に、証言をすることはコロンビア国内でも注目を集めることとなることから、コロンビアで報復の脅威に直面する結果となるという状況であったにも関わらず、クイン・エマニュエルは多数のコロンビア人の証人を説得し、証人等が米国に赴き、シーゲルマンに有利な証言をするという同意を得ることに成功したのである。
クイン・エマニュエルは、2014年5月から2015年6月までの間で、複数の大陸間で、多数の司法制度に対応するため、米国のみならず他国のオフィスとのネットワークを活用し、多数の地域の事務所と連携して、事前審理に備えたのである。
* * *
6月11日、司法省は、わずか6日間の証拠調べの間、シーゲルマンが1日たりとも刑務所で過ごすことなく、自由の身になることを認めるという並外れた条件の取引をすることに合意した。本訴訟において分水嶺となったその瞬間は、高い精度で実行された数ヶ月におよぶ準備と秘密録音に焦点を当てた綿密な訴訟戦術によりもたらされたのである。陪審員を説得するための第1段階は、当局の主張には確固たる証拠が何もないということを示すことだけでなく、当局に協力的な承認であるワイズマンとハマーショルドの証言には、信用性がなく、その内容も事実無根であるということを示すことであった。誘導尋問を行ったクイン・エマニュエルのパートナー、ビル・バークは、「冒頭陳述において、当局の提出した証拠書類の鍵となる部分について注意深く読んでみると、シーゲルマンが罪を犯したことを証明できる要素は何もないのである」、と陪審員に対して問題提起をした。続けて、陪審員にワイズマンとハマーショルドについて、「彼らは自己保身のために嘘の証言をしようと動機づけられ、証言をするに至ったのであると説明した」。そのように冒頭陳述を始めた目的は、当局に協力的な態度を取る二人がそのように証言をなしたのは、当局の機嫌を取るためであり、それが、二人が偽証をした理由の全てである、と陪審員が最終的に結論付けることを企図するだけでなく、彼らはシーゲルマンが悪者であるかのような利己的な主張をしているが、確固とした証拠書類を示すことすらできていないと陪審員が最終的に結論付けることをも企図していたのである。
クイン・エマニュエルの弁護チームは、当局の主張を基礎づける最大の証拠(彼と非常に近い関係にあったビジネスパートナー二人の証言)を、その致命的な潜在的弱点に言及することで、当局の主張減殺する最大の証拠とすることを企図したのである。また、証人の信用性について疑義があることをも示そうとした。そのことを陪審員に告げるバークの表現の仕方についても特筆すべきものがある。即ち、彼が気さくで、信憑性のある話し方で、人を惹きつけるような人物であると陪審員に印象付けることとなり、この点は法廷弁護士としての技量を伺うことができるということができる。
(http://www.mainjustice.com/justanticorruption/2015/06/03/sigelman-trial-opens-with-tale-of-greed-by-prosecution-folksy-approach-by-defense/ 参照)
次のステップは、ワイズマンとハマーショルドは、信頼できない人物であることを証明することであった。当局は、一人目の証人として本件の捜査を指揮したFBIの担当者を出廷させた。バークは、彼が上記参考人の事情聴取をしたときに作成したメモの正確性について証言してもらうため、柔和な言葉を用いて彼に反対尋問を行った。この反対尋問により、当局が次に呼んだ証人であるワイズマンも、その証言の信用性に疑いがあるとの問題があることを証明することとなった。さらに、その担当者は、贈賄を受け取ったと自称するコロンビアの公務員、デビッド・デュランに対して、米国内での多数の駐車違反をしたにも関わらず、当局がその違反を揉み消し、訴追せずに、米国への入国、出国を許可していたという事実を証言した。それだけでなく、シーゲルマンが告発され、刑事被告人として訴訟準備をしていた間、デュランはフロリダにあるディズニーワールドで彼の妻と共に休暇を過ごすことさえ許されていたというのである。米国におけるデュランの“冒険”は訴訟手続きにおいて有意な事実であり、そのよう証言をバークは反対尋問により獲得したのである。
検察官は、その後、3日目にワイズマンに対して主尋問を行い、また、対する彼らにとっての最高位に位置付けられた証拠をシーゲルマンに対して浴びせかけた。しかし、3日目となる6月8日月曜日の期日の終わる頃には、クイン・エマニュエルのパートナー、ビル・プライスによるワイズマンへの反対尋問が開始され、その後、検察側は、自らの主張に理由がないことが徹底的に明らかにされる状況を経験することとなった。
裁判官が「交響曲」や「流血」と表現するように、プライスはワイズマンの信用性を崩すため、綿密に画策された反対尋問を行った。火曜日の冒頭2時間で、プライスはワイズマンから次のような証言を引き出した。証言の内容は次のとおりである。まず、ワイズマンは自らが脱税を犯したということを認めるということ、また、彼は自身のみならず、彼が自身の脱税スキームに参加するようリクルートした一派(おそらく無意識のうちに加担させられたのであろう)を庇おうとしたこと、さらに、彼は刑務所に入ることを避けるため、シーゲルマンに不利な証言をし、さらに、シーゲルマンについて複数の告発をなしたこと、そして、今自身が言ったことを除いた部分については全て真実であること、シーゲルマンが何らかの違法行為をしたとの事実と異なる印象を与えてしまったことについてだ。(なお、そのように証言したにもかかわらず、彼の性格的特徴を示すかのように、彼は当局を非難するのみで、自身に非があることを認めようとはしなかった)。彼の法定での証言と、以前彼に対して行われた、FBIにおける供述の録取書との食い違いに関する反対尋問では、ワイズマンは、直接的な表現で、FBIの担当者に責任があると陳述した。彼は全て真実を言ったのであるが、FBIの担当者は単に重要な証言の部分を省いたか、彼の話したことの意味を誤ってものと解したか、もしくは不正確な録取書を作成したのではないか、というものである。
その他にも、慎重に画策されたプライスの尋問の結果、ワイズマンはそれが不利益な発言とはならないと考えたのかもしれないが、FBIに協力する過程で、匿名の政府関係者が、彼に、彼が弁護士倫理上の義務に抵触する重大な違反をしていると示唆したことを証言したのである。その証言は、ワイズマンは当局を非難するつもりであったが、結果的に自身が不適当な行為を行ったことを自ら証言してしまった。しかも、わずか2時間の反対尋問の中で3度、自らの不正の話をした。この最後の入廷では、クイン・エマニュエルは検察当局がワイズマンに敵意を見せる機会に遭遇した。証言の休憩の間、クイン・エマニュエルは、匿名としている当局の検察官の名前を特定すること、当局の保有する全ての関連文書をクイン・エマニュエル側に引き渡すよう要求した。なぜなら、法廷での重要証人が、検察当局が重大な倫理的違反を遂行することを引き起こしたと証言したため、当局は、不正行為したのか、または、ワイズマンが嘘をついていたのかどちらか一方について認めざるを得ない状況となったからである。これは、クイン・エマニュエルの訴訟チームがかねてから想像していた通りの状況である。
ワイズマンの反対尋問が再開される直前、主任検察官は、プライスに対してワイズマンが虚偽の陳述をしているのだと説明した。プライスは、その後、とどめの一撃を刺した。たった5つの質問で、彼は事実を明らかにしたのである。「あなたが陪審員へ宣誓したことは、誤っていたのですか、正しかったですか?」 「正しかったです。」と、ワイズマンは答えた。しかし、裁判官はその後の静寂を破り、疑い深く尋ねた。「間違った記憶ではありませんか?あなたは幻覚症状がありますか?」「いいえ、私はただ…」ワイズマンは消え入るように言った。これが、有利な取引をする最良の機会であると考え、クイン・エマニュエルは、検察側に交渉に応じる用意があるかどうかを検察官に確認した。その結果、検察側は交渉に応じたのである。裁判官は、その日は火曜日。週末を迎えるには4日早いが、陪審員は役割を終えたとして、彼らを家に帰した。そして、バークはその案件を解決するため交渉を行った。
訴訟が予定よりも早く終わってしまったことの唯一のマイナス面は、クイン・エマニュエルが準備していた訴訟計画の残りの部分が履行されなくなったことくらいであろう。特に、Juan Morilloは当該訴訟において最も重要な法的事案―David Duranを雇用していた国有企業EcopetrolがFCPAにおける「外国政府の管制下にあり、外国政府が内部機能として扱う機能を担う機関」に該当するか検討する万全の体制を整えていた。モリロは、国境を超えた、ホワイトカラーの職種に関する調査を行ったという、他の者に類を見ない経験を基に、その専門知識を用いてコロンビアから証人を連れてくることに成功した。米国政府とコロンビア政府の結託により、当初刑事被告人をサポートすることに乗り気ではなかったにも関わらずだ。そして、米国法とコロンビア法の複雑な相互作用に基づく法的構成を展開した。その法的構成は本件事案の核心に迫るものとなった。
ビル・ブリュック、ビル・プライス、およびユアン・モリロの功績は、法廷弁護士、アソシエイト、パラリーガル、そしてアシスタントからなる専門チームの支援なしには生まれることはなかったであろう。彼らは、当局に対する裁判に立ち向かうために、冒頭陳述と反対尋問の方針決定に関して助力をし、また、米国内、コロンビア国内、そしてヨーロッパにおいて証人を発見し、尋問に備え準備を行った。また、世界中を飛び回り、重要文書を手に入れ、また、弁論準備手続きの段階から審理中に至るまで、いくつもの書面や申し立てを行い、さらに、米国中の広範囲にわたり活動する訴訟チームの業務計画の調整業務を行った。
判決文の読み上げの際、裁判官は当局の主張する海外腐敗行為防止法違反の主張の中でも、被告人に有利に働く事実は特に証明するのが難しいと指摘した。具体的には、裁判官は、政府がコロンビアからの証人と証拠に固有のアクセスする手段を持っていたことを指摘した点を挙げた。特に、本件で証人申請された(疑惑の)デビッド・デュランについてのアクセス手段に言及した。裁判官は、検察が主張するワイズマンの証言も、デュランが米国への出入国が許されることをも考慮してもシーゲルマンに対する懲役刑を宣告する理由にはならないとして、懲役刑の求刑を却下した。
裁判官は主任検察官に言った。「あなたは、裁判所の判決ではない方法で、公判を終了することを選択した。何らかの形であなたは理由を説明する必要がある」と。弁護チーム、そしてシーゲルマンにとって、答えは明らかである。この訴訟における膨大な準備は、訴訟におけるあらゆる面、特に陪審員が選任される前から当局の主張を内外から知ることに成功したという点において、弁護チームに自信を与えた。
しかし、そこには何ら驚きはない、我々は検察官が主張するあらゆることについて準備ができていたのである。綿密な訴訟戦略の結果、陪審員による審理のリスクなしに、当局の主張を退け、我々のクライアントにとって、訴訟における望んだ通りの結果をもたらす機会を得ることとなった。そして、クイン・エマニュエルの訴訟チームのプロフェッショナリズムと当局との友好関係は、戦いの白熱の渦中にありながらも決して妥協せず、その機会を利用し、シーゲルマンが何百万ドルもの罰金に処せられ、また、最も重要であるのは、彼が数十年も服役する危機を切り抜けたという、最善の結果を導き出すことを可能としたのである。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
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