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米国海外腐敗行為防止法(FCPA) (15/09/01)
記録的和解の年、2014年
海外腐敗行為防止法の下、贈収賄の罪に問われている企業は、和解した直近のケースが信頼できる前例とされるならば、この問題を解決するために少なくとも高額な罰金を支払うことになる。2014年、FCPAにおける和解金は平均1.57億ドルで、1977年にFCPA法が施行されて以来最高の平均値であり、計16億ドルを記録した。また昨年、米国司法省(「DOJ」)は、FCPAケースにおいて史上2番目となる高額な罰金を課し(7.72億ドル)、4件は1億ドル超の和解をみている。これらの大規模な前例のない和解は、FCPAの執行における重要な傾向を示し、FCPAの摘発と法人顧客のための指針を提供するものである。本稿では、FCPAの概要ならびに記録的な年となった2014年を再考する。
米国海外腐敗行為防止法 概要
FCPAは、以下のことを禁止している。(1)会社や個人が、ビジネスにおいて、名誉を得るためまたは維持するための目的で外国人の官公職員に賄賂を送ること、そして(2)それらの贈与に関連する虚偽の経理を計上すること。(参考:15 U.S.C. §§ 78m(b)(2), 78dd-1から3。)その法令は、DOJおよび米国証券取引委員会(「SEC」)により遂行されている。賄賂は申し出だけでも構成要件に該当する。相手が拒否したとしても同様である。そして賄賂は金銭でなくても、物品やサービスの提供も対象となる(参照:§ 78dd-1(a) (“anything of value”(いかなる対価))。)。“Foreign official”(外国人の官公職員)という単語も広く定義されている(参考:United States v. Esquenazi, 752 F.3d 912, 925-26 (11th Cir. 2014)。外国人の官公職員という単語を外国政府の「機関」と翻訳することができるなど、解釈における複数要素の試験対象を提供している)。たとえば、外国政府の経営する会社の従業員の親戚に、米国の会社でのインターンシップの機会を与えることも、外国人の官公職員への賄賂に当たりうる。(参考:Bank of N.Y. Mellon Corp., Current Report (Form 8-K) at 2 (Jan. 23, 2015)。銀行に対して同様の行為につきFCPAアクションを推奨したことについて議論している)。FCPAは、米国証券を発行するか、米国内でFCPA違反行為をする外国企業に対し適用される。代理人を通じて行った場合であっても同様である。(参考:§§ 78dd-1(a), -3(a))
また、某日本企業との2014年の和解によって実証されたように、米国企業と共同で事業を行う外国企業は、米国の共謀罪の規定の下でFCPAの摘発に直面する可能性がある。1977年以来、FCPAの取り締まった贈与額トップ10の内、8件には外国企業が関わっている。
記録を打ち破った2014年、特筆すべきケース
2014年のUnited States v. Alstom Grid, Inc., No. 3:14-cr-247 (D. Conn. Dec. 22, 2014).のFCPAケースは、米国政府によって課された罰金のうち2番目に多額なものであった。フランスの電力会社であるアルストムS.A.(「アルストム」)は、インドネシア、サウジアラビア、エジプトなどの国で外国人の官公職員にアルストムの「コンサルタント」が支払った賄賂に関して、FCPAの会計規定に違反する罪を認めた。司法取引の一環として、アルストムは贈収賄から得た利益の2.5倍超の7.72億ドルの罰金を支払うことに合意した。企業の審査に伴い、DOJは、共謀とFCPAの直接違反で4人のアルストムの幹部を告発した。2014年に確定したFCPAの他の3つのケースについても、それぞれ1億ドル以上の罰金となった。FCPAで和解した中で歴史的に6番目に大きいもので、世界中でアルミニウムの生産をするアルコアワールドアルミナLLC、すなわち、アルコア社(「アルコア」)の子会社は、バーレーンで外国人の官公職員に子会社のエージェントによって支払った賄賂に関連して、FCPA贈収賄防止協定に違反する罪を認めた。和解の一環として、アルコアとその子会社は、罰金として3.84億ドルを支払い、DOJおよびSECへの利益を返還した。ZAOヒューレット・パッカードA.O.すなわち、米国カリフォルニア州の技術会社のヒューレット・パッカード社(「HP」)のロシアの子会社は、共謀と、FCPAの贈収賄防止及び会計規定の直接違反の事実につき罪を認めた。また、ポーランド、メキシコにおけるHPの子会社は、DOJと起訴猶予と不起訴契約を締結した。和解の一環として、事業体全体として1.08億ドルを支払った。ニューヨークをベースにした化粧品会社であるエイボン・プロダクツ株式会社(「エイボン」)の子会社であるエイボン・プロダクツ(中国)有限公司は、FCPAの会計規定に共謀して違反したことにつき罪を認めた。和解の一環として、エイボンとその子会社は1.35億ドルを支払った。これらの和解のために裁判所に提出する書類には、(1)会社の総合的な内部調査、(2)社内で改良された内部統制システム、(3)責任を負う従業員に対して社内で適切な懲戒処分をするなどの改善策、(4)会社とDOJとの協力、が必要だ。こうした事例において、米国政府はFCPA訴訟10件において計16億ドルを徴収した。
米国政府は、個人、企業の調査協力に焦点を当てていると言える
その他の傾向として、記録破りの罰金に加え2014年の和解は、米国政府がますます以下の2つに焦点を当てていることを示唆している。すなわち(1)FCPA訴訟において個人、そして(2)FCPAの調査への企業の協力である。
2014年に、米国政府は、FCPA関連違反の11人に対して起訴または罰金を認めた。9人の個人が、有罪を認めたか、または、FCPA関連の請求に応じた。
また、2014年の和解に関するDOJの陳述が示唆するには、協力、FCPA違反の自主的な開示と相まって、罰金の減額や不起訴や起訴猶予合意に繋がる可能性があることを示唆している。例えば、バイオラッド社との和解についてのプレスリリースで、DOJは「大部分における」企業の自主的な開示と協力により、不起訴契約を締結したと述べた。
FCPAの捜査協力に関してDOJが強調しているにもかかわらず、その効用は不明である。2014に和解したケースが信頼に足りうる指標であるならば、米国政府に協力している企業は依然として高額な罰金を支払うことになるであろうし、有罪答弁を提起されるかもしれない。さらに、政府が定量化方法についての具体的ガイドラインを定めて、和解のために協力することを高く評価するとされるDOJ反トラスト局のコーポレートリニエンシー政策とは対照的に、FCPAの捜査にはそのようなガイドラインはない。それゆえに、FCPAのコンテキストにおいて、企業が米国当局に協力する価値(もしあるとすれば)を適切に判断するような仕組みはない。また、企業が、減額された罰金を甘受するか、米国当局と連携して審査を回避しても、(1)企業は風評被害を受けたり、ビジネスに悪影響を受けたりする可能性があり、(2)従業員が起訴されるおそれがあり、そして、(3)株主や競合他社、そして外国の執行機関が法的措置を開始する可能性がある。
可能であれば、FCPAの摘発を受けた企業は米国政府と協力し、2014年における記録的な和解とその利益を取り巻く論争にもとづいて、以下のことを行う事が望ましい。(1)総合的な内部調査を実施。(2)特に海外子会社及び代理店に対する内部統制機能を改善。(3)改善策を実施し、保証される場合、責任ある従業員に対する適切な懲戒処分をすること。(4)米国政府との間で自発的に開示をすることに対する利点と欠点とを比較検討することである。
2014年、FCPAの執行の面で記録的な年を経て、今後も罰金の増加と個人に対する関心は継続するだろう。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
chietogawa@quinnemanuel.com