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ポケモンGO:リアリティゲームの増加に伴い、どのような法の欠缺が待ち受けているか? (16/12/15)
2016年7月8日、ポケモンGOのサービスがアメリカで始まり、瞬く間に人気が出た(最初のひと月で、4500万人以上がダウンロードし、スマートフォンでゲームを始めた)。避けられないメディアによるポケモンGOの報道は、スマートフォンのような技術を使って利用者に身体を使わせる「拡大したリアリティゲーム(又は「AR ゲーム」)」の概念を、多くの人に知らしめた。
現実世界の上にバーチャルゲームの世界を位置づけると、ARゲームは、ジオキャッシング(利用者がGPSを使って、隠された「宝物」(通常は、小物のついた小さな箱)を見つけたり、オンライン上で実際の位置を「チェックイン」するゲーム)のような確立されたゲームよりも、もう一段上の段階に行くものといえる。
ポケモンGOは、携帯端末上のゲームアプリを使って利用者が特定する、現実世界の場所に出現するバーチャル「ポケモン」(特殊能力を持つ仮想動物)に関するゲームである。アプリは、利用者が仮想のゲームアイテムを獲得できる現実世界の場所や、ポイントを獲得し、レベルアップやステータスを改善する現実世界の場所(ヴァーチャル「ポケストップ」)や、戦闘できる現実世界の場所(仮想ポケモンジム)を提供する。利用者は、短時間でより多くのポケモンを引き寄せるため、ポケストップに「ルアー」を配置することもできる。他の利用者にもルアーは見えるため、ルアーは、ポケモンの出現を求める他の利用者も引き寄せる。
ゲームでは、コミュニティ内の関心を呼ぶ箇所にポケストップやポケモンジムが配置されているが、オンライン上のフォームにて、ある場所をポケストップやポケモンジムとして使用するのを止めるよう申請することもできる(ゲームの不適切利用の申請もできる)。 https://support.pokemongo.nianticlabs.com/hc/en-us/articles/221968408参照。アプリは無料だが、アプリ内での購入は可能である。
ゲーマーを自宅のコンピューターやテレビスクリーンから遠ざけ、現実世界での実際の人間の交流に引き付けるARゲームの影響につき、多くの人は称賛しているが、その結果に、必ずしも全ての人が満足しているわけではない。メディアリポートは、不満を抱く2つのグループに注目している:指定された物理的な場所(警察署、美術館や家の庭など)にポケモンGOの利用者がやってくるのを好ましく思わないグループと、ゲームをしながら怪我をしてしまうポケモンGOの利用者を好ましく思わないグループである。
ゲーム制作者であるナイアンティックは、これらの不満を抱く人々からどのような法的リスクにさらされているのであろうか。
不法侵入/妨害(Nuisance)
私有地の所有者達は、妨害(Nuisance)と不法侵入を主張して、既に暫定的なクラスアクション(putative class action)を提起している:Marder v. Niantic (N.D. Cal., filed July 29, 2016) と Docich v. Niantic (N.D. Cal., filed Aug. 10, 2016)。彼らの主張は、ナイアンティックによる地理的指標の設置は、利用者による土地に対する迷惑な侵入という害悪をもたらした、また、ナイアンティックが提供する問題解決の方法(ゲームの目的地から外すことを土地の所有者に事後的に認め、また、許可なく私有地に入らないよう、利用者に注意を促す方法)は、ナイアンティックの責任を免責するものではない、というものである。
原告らの請求は認められないように思われる。第三者の行為による不法行為責任は、従来から、原告に対する危害の不合理なリスクを被告が作出したことを基礎としている。ロサンゼルス内を走るディスクジョッキーを最初に捕まえた運転手に賞金を渡しインタビューするという、ラジオ局に起因する危険運転という予見し得る危害とは異なり(Contrast Weirum v. RKO General, Inc., 15 Cal. 3d 40 (1975)。参加者による危険運転の結果、他の運転手が亡くなったコンテストを開催したラジオ局に対する責任が認められた事案)、主張された危害は、必ずしもゲームの構成要素ではない。むしろ、今回の事実は、スポーツイベントの限定チケットや「在庫処分」セールから生じた危害といった、Weirum事件の裁判所が区別した事実以上である。裁判所は、「コモディティを慌てて購入することは、コモディティ自体が不足する事態から生じる偶発的で避けられない事情である。
そのような状況において、本件のようなラジオで繰り返し、特定の場所に最初に到着するよう煽られた公道における競争のような事態は生じていない」(15 Cal. 3d at 49);Melton v. Boustred, 183 Cal. App. 4th 521 (2010)も参照(異議申立てを認め、第三者の行為の責任が主張された他の事件を要約し、「MySpace上に投稿された音楽とアルコールを提供する無料パーティーへの公の招待が害悪をもたらすことは、通常の住宅所有者であれば認識している事由である」との原告の主張を認めなかった事案)。
妨害(Nuisance)と不法侵入はポケモンGOに「必要な要素」ではないため、暫定的なクラスアクション(putative class action)の原告らにとって、「見知らぬ第三者が引き起こす害悪を避ける法的義務」を課すために必要な、ナイアンティックが「原告らに対する害悪の危険を高める積極的な行動を取った」事実を主張立証することは、困難であるように思われる。Melton, 183 Cal. App. 4th at 535
過失/不注意
ナイアンティックが、ポケモンGOの地図に従った現実世界での行動、又は、(珍しいポケモンが現れることもある時間帯である)夜遅くに危険な地域でゲームをプレイした結果、生じた利用者の怪我につき、責任を負う可能性は低いと思われる。裁判所は、伝統的に、(読者が記事を購読していた場合であっても)一般に公表された情報を信頼した結果生じる潜在的な危険から、全ての情報受領者を守る義務を認めるのを嫌う傾向にある。First Equity Corp. of Florida v. Standard & Poor’s Corp., 869 F.2d 175 (2d Cir. 1989)(ニューヨーク州とフロリダ州の先例を要約し、「問題となっている出版は、広く公になっている情報を源としている。潜在的な原告らのクラスは多数に及ぶ。極めて慎重に準備をしても、全ての間違いを無くすことはできない」と述べた上で、請求棄却を認容した)。同様の判断が、双方向の情報についても当てはまる。
例えば、裁判所は、渋滞した田舎の高速道路を歩け、というグーグルマップの指示に従う中、車に轢かれたグーグルマップの利用者が提起した、グーグルに対する請求を棄却した。Rosenberg v. Harwood, No. 100916536, 2011 WL 3153314 (Utah Dist. Ct. May 27, 2011)。グーグルが危険を予見し得たことを認識しつつも、裁判所は、怪我の現実的な可能性は比較的低く、グーグルと原告の関係性は希薄なもので、主張された義務によりもたらされる過度な負担を考慮に入れると、このような義務をグーグルに課すことに反対であるという、政策的判断を重視した。
また、申し立てられた危険なコンテンツの発行者は第三者であり、ナイアンティックではないので、ある利用者が他の利用者を引き付ける「ルアー」を使用したことにより生じた損害について、ナイアンティックは、米国通信品位法上の抗弁を持ち得るといえる。例えば、Doe v. MySpace Inc., 2008 WL 2068064 (5th Cir. May 16, 2008)(MySace利用者の他の利用者に対する性的暴行を理由とする、MySpaceに対する過失による不法行為の請求を棄却)。Gibson v. Craigslist, Inc., No. 08 Civ. 7735 (RMB), 2009 U.S. Dist. LEXIS 53246 (S.D.N.Y. 2009)(原告の殺害に使用された拳銃の広告を第三者が掲載したことを理由とするCraigslistに対する請求を棄却)。
位置情報のプライバシー
ARゲームは現実の行為を前提とするため、ゲームでは利用者の位置情報を記録することが必要で、他の利用者にその情報を広く伝える場合もあり得る。長年にわたり、そのような位置情報は、発展するプライバシー法の議論の中心を占めてきた。昨年、(インターネットプライバシーの主な監督機関である)連邦取引委員会は、最善のデータプライバシー実務について記載した長文の報告書を発表した。連邦取引委員会「Internet of Things: Privacy & Security in a Connected World」参照( https://www.ftc.gov/system/files/documents/
reports/federal-trade-commission-staff-report-november-2013-workshop-entitled-internet-things-privacy/150127iotrpt.pdfにて入手可能)。連邦取引委員会の報告書は、特に、消費者のプライバシーを守るため、スマートフォンのアプリ開発者は、情報を最小化する運用を推奨している。この運用は、サービスに本当に必要な情報のみに情報取得は限定すること、情報取得につき利用者の同意を得ること、情報の暗号化、情報保有期間の制限、特定の利用者に結びつく情報の秘匿化を含むものである。ポケモンGOのプライバシーポリシーは、第三者との間で共有された位置情報を収集し、匿名化することを含む、情報の取得と共有についての運用を規定している。ナイアンティック・ラボの「ポケモンGOプライバシーポリシー(2016年7月1日付)」を参照
(https://www.nianticlabs.com/privacy/pokemongo/enにて取得可能)。
そのため、ポケモンGOは、最善のプライバシー運用に沿っているように思われる。将来のポケモンGOと同様のゲームや機能を有するアプリの開発者は、そのプライバシーポリシーが強固なもので、位置情報が安全であることにつき、アプリの利用開始前に確認すべきである。位置情報の漏洩は、技術上のバグであるか、大雑把なデータ共有ポリシーによるかに拘わらず、プライバシーに関するクラスアクション訴訟の重大なリスクを抱えるものである。ちょうどこの9月、マサチューセッツの地方裁判所は、スマートフォンのニュースアプリが、利用者の位置データを同意なく、第三者に共有したと申し立てたプライバシー事案につき、手続を進めることを認めた。Yershov v. Gannet Satellite Info. Network, Inc., No. 14-CV-13112, 2016 WL 4607868, at *2 (D. Mass. Sept. 2, 2016)参照。
近時の最高裁のプライバシー法に関する決定であるSpokeo v. Robins, 136 S. Ct. 1540, 1549 (2016)事件を引用しつつ、英米の裁判所における訴訟において、個人情報と個人の位置情報の両方に関する個人のプライバシー権は、これまで長らく請求の基礎とされてきたものである、と、Yershov事件の裁判所は判示した。カリフォルニアの地方裁判所も、この9月に、スマートフォンアプリの「世界のプライバシー概念」は、非常に流動的であると判示しつつ、スマートフォンのプライバシー事案につき公判に進むことを認めた。Opperman v. Path, Inc., No. 13-CV-00453, 2016 WL 4719263, at *11 (N.D. Cal. Sept. 8, 2016) (アプリによる住所録の無許可アップロードと共有は、サマリージャッジメントに適さない)。
プライバシー法上の、この「流動性」を示すように、多くの位置情報プライバシーに関する請求は、請求原因を記載できなかったことを直接の理由として、棄却されている(In re Google Android Consumer Privacy Litig., No. 11-MD-02264, 2013 WL 1283236, at *14 (N.D. Cal. Mar. 26, 2013) 参照)(グーグルが利用者の位置情報を無断で追跡し、当該情報を匿名化しなかったとの申立てに基づくプライバシー侵害の請求が全て棄却された事案);In re iPhone Application Litig., 844 F. Supp. 2d 1040, 1078 (N.D. Cal. 2012)(位置情報の送信許可を利用者が積極的に取消した後にもかかわらず、アップル社のスマートフォンが位置情報を送信したと主張する、交信保存法上の請求を棄却したのものの、州法に基づく2つの請求を審理することとした事案)。この変わりゆく法律の状況を考慮すると、ポケモンGOの成功に投資しようとするAR開発者は、プライバシーに関する請求を遮断する最善の措置を採るよう注意を払うべきといえる。
実務上の観点からすれば、増加するリアリティゲームは、現実世界に与え得る影響を敏感に感じ取り続けなければらなければならない。しかし、生じ得る危害についての具体的な認識や、ナイアンティックと原告の通常存在しない特別な関係を立証することは難しい。そのため、不法行為法の現状は、ポケモンGOのようなゲームにおける第三者の行動につき、ゲーム開発者に責任を取らせようとする者に対して、課題を突きつけるものであるといえる。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
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