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クラスアクション:スポケオ事件のインパクト
強力でありながら予見性の低いゲートキーパー (17/02/24)
2016年5月のスポケオ事件における最高裁判決は、合算された損害額が莫大なものになる恐れから重要な和解を多数促すことになった「損害のない」制定法違反に基づくクラスアクションの波を抑えることを保証するものであった。
スポケオ最高裁判決は、制定法の「単なる手続違反」では憲法第3条の当事者適格を満たさず、損害が存在しない連邦法の違反に基づく訴訟は排除されると判示したものと解される。スポケオ最高裁判決が出てからの6ヶ月間、この判断はこれらの訴訟を制限する効果を示してきた。もっとも、下級審の裁判所による解釈は、未だ統一されておらず、そのため、現状ではどの裁判所で裁判がなされるかが大きな意味を持っている。
スポケオ事件では、原告は、信用報告情報を生み出す「人物検索エンジン」が、公正信用報告法(FCRA)に違反して、不正確な個人情報を拡散したと主張した。被告であるスポケオは、これらの主張が、憲法第3条の要求する「事実上の損害」を十分に主張できているかを争った。
最高裁は、本件における個別の主張が十分なものであったか否かについては原審に差戻したが、制定法違反の場合の「事実上の損害」の分析の仕方について、重要な側面を明らかにした。
まず、裁判所は、議会が法律において定義した全ての損害が、憲法における事実上の損害のレベルに達しているわけではないとした。そして、裁判所は、具体性と特定性は異なる要件であると強調。「具体的な」という形容詞は、「その文言の通常の意味-『抽象的』ではなく『リアル』であること-を示すものである」。最高裁は、議会が、訴訟提起をし得る「無形」の損害を画定する役割を担うことは認めたものの、当事者適格が認められるためには、画定された損害や損害の危険について、具体的な事実上の損害が認められる必要があると判断した。
次に、連邦最高裁は、議会が認識した損害(例えその損害が具体的で特定されていたとしても)を守るための手続要件に違反しただけでは、それ自体で認識可能な損害を構成するものではないとした。むしろ、手続要件違反は、別個に「具体性要件を満たすのに十分なだけの危険の程度」が認められる場合にのみ、憲法上の当事者適格が認められる、と述べた。
スポケオ事件以降、制定法違反に基づくクラスアクションに直面している被告側は、すぐに憲法第3条の当事者適格に関する抗弁の申立(申立の変更)を行った。裁判所はその後に出された150件以上の判断のうち、約40%の事件において当事者適格が認められないと判断した。
結論の違いの大部分は、問題となった損害の主張の合理性の違いに起因するかもしれないが、既に巡回裁判所に移ったいくつかの少数のケースにおいてですら、理論上の違いを見出すことは困難なケースが少なくない。
いくつかの裁判所は、原告が、被告による制定法違反によって生じたとする「具体的な損害」を特定できなかったとたいした躊躇もなく結論付けた。(※1)
しかしながら、他の裁判所は、「事実上の損害」アプローチの事実に特化する性質や最高裁による明確な指針の欠如をとらえ、同じような事実関係の下においても当事者適格を認めている。(※2)
短い期間で言えば、上記で述べたようなコンセンサスの欠如は、訴答段階におけるスポケオ事件をめぐる議論をますます白熱させることになるだろう。原告は、より上位の明確さや継続性が登場するまで、自らに有利と思われる巡回裁判所の管轄裁判所に訴訟提起することが想定される。もっとも、この6ヶ月だけをみても、スポケオ事件は、あらゆるタイプの企業を巨額の法定損害賠償にさらしてしてきたこの種のクラスアクションにおける重要なゲートキーパーとしての役割を果たしてきたのである。
【参考】
Spokeo, Inc. v. Robins, 136 S. Ct. 1540 (2016)
※1
Hancock v. Urban Outfitters, Inc., 830 F.3d 511,514 (D.C. Cir.2016)では、原告は、Urban Outfittersがクレジットカードによる取引の際に、顧客のZipコード(郵便番号)を取得した行為が消費者保護法に違反すると主張した。D.C.巡回裁判所は、スポケオ事件に依拠して、唯一の損害は「制定法では許されないにも関わらずZipコードを聞かれたこと」であると原告が認めたことから、原告が本来要求される「真実の損害の危険」を主張しなかったと結論付けた(同)。第8巡回裁判所も、Braitberg v. Charter Communications, Inc., 836 F.3d 925, 927-30 (8th Cir. 2016)において、ケーブルプロバイダが、制定法に違反して原告の個人情報を破棄しなかったケースで、原告が「(情報の)保持したことによって損害の重大な危険を特定できなかった」として、同じような結論に至った。
※2
第6巡回裁判所は、Galaria v. Nationwide Mutual Insurance Co., No. 15-3386, 2016 WL 4728027, at *3 (6th Cir. Sept. 12, 2016)で、当事者適格を主張するために、原告は彼らに関する情報が現実に悪用されたことを待つ必要はないと判示した。「原告らに関するデータが悪用されることが文字通り確実とはいえないとしても、十分で実質的な損害の危険が存在する。」(判決中の脚注や引用は省略)。
Remijas v. Neiman Marcus Grp., LLC, 794 F.3d 688, 693 (7th Cir. 2015)事件では、データ漏洩のケースで「ハッキングの目的は、遅かれ早かれ、詐欺的な請求をするか、顧客のアイデンティティーを不正利用することにあると考えられる。」として当事者適格を認めた。同じように、Strubel v. Comenity Bank, No. 15-528-CV, 2016 WL 6892197, at *5 (2d Cir. Nov. 23, 2016)において、第2巡回裁判所は、銀行がクレジットカード契約における特定の事項について適切な通知を怠ったと主張した原告について、当事者適格を認めた。第2巡回裁判所は、「自らの義務を通知されていない顧客はかかる義務を履行できない可能性が高い」ことから、必要な通知を怠った場合、原告は「個人的及び私的な形」で影響を受けることになる、とした。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
chietogawa@quinnemanuel.com