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製造物責任訴訟アップデート (17/08/20)
注目の話題:専門家証言による製造物責任請求の立証責任を回避するための原告の努力
多くの製造物責任訴訟における主要な主張は、製造業者がその製品のリスクの十分な警告を怠り、その製品が損害を生じさせた、というものである。それらの立証責任を満たすために、原告は、通常、因果関係や製品の警告の十分性といった論点についての専門家の証言を申し出る。しかしながら、近時、裁判所が、Daubert v. Merrell Dow Pharmaceuticals, Inc., 509 U.S. 579 (1993)や、類似の州の基準に基づいて、信用性がないとして原告らの専門家証拠を排斥した場合において、原告らは、専門家証拠を申し出ることの代わりに、専門家証拠なしに立証責任を満たすことができると主張することに方向転換し、非専門家証拠や、被告の会社資料から抜粋された、いわゆる「アドミッションズ」に依拠することにより、サマリージャッジメントを勝ち抜こうと試みている。
原告らにとってのこれらの主張の求めは明確である。もし許可されれば、原告らは、Daubert事件を回避することができ、専門家のディスカバリーやブリーフィングに伴う経費を削減することができ、そして、より低い立証責任により、より迅速にトライアルを進めることができる。これらの論点は、全国的に連邦及び州の控訴裁判所に係属している大規模な不法行為訴訟においてなされる主張の前線であり中心である。
例えば、In re Mirena IUD Products Liability Litigation, 202 F. Supp. 3d 304 (S.D.N.Y. 2016), appeal pending, No. 16-2890(L) (2d Cir. 2016)では、子宮内避妊器具であるMirenaが、子宮の二次穿孔を引き起こしたことについて争われた。多地区訴訟(MDL)裁判所は、原告らが、彼らの全主張にとって不可欠な要素である因果関係について、許容可能な十分な証拠を欠いているという理由により、原告側の因果関係に関する専門家を排斥し、製造業者であるBayerのためのサマリージャッジメントを認容した。MDL裁判所が認めたとおり、裁判所は、長い間、共通の知識と経験のほかに、「複雑な因果関係の論点が含まれているケースにおいては、専門家の証言が要求される」と判断してきた。Id. at 311. 原告は、FDAが承認したMirenaの表示とBayerの他の子宮内製品の表示、Mirenaについての医師らへのレター、従業員の陳述書及び内部文書を含む、非専門家証拠が十分に因果関係を立証していることから、専門家の証言は必要ではないと主張した。
MDL裁判所はこれらの文書のそれぞれに言及し、原告の主張を拒絶し、「いかなる裁判所も、アドミッションズが、要求された専門家の証言に代替することができるとは判断しておらず、本裁判所も最初の判断者になるつもりはない。そのような裁定は、専門家の証言を要求した目的を無視し、陪審員の憶測に任せ、医薬品や医療器具の製造業者による自由で率直な議論を萎縮させることになるだろう」と判断した。Id. at 320. MDL裁判所は、「アドミッションズが専門家の証言に代替することは決してないとまで言う必要はない」と付け加えた。Id. しかし、「もしそのような陳述が十分であるならば」、それらは陪審員が憶測なしに因果関係を見つけるのに十分なほど「明確、具体的または詳細」でなくてはならない。Id. at 320, 327. MDL裁判所は、原告により引用された非専門家証拠は、あまりにも「曖昧」であった、と判断した。Id. at 320.
Mirena事件は、現在、第2巡回区連邦控訴裁判所における控訴手続中であり、そこで裁判所は、非専門家証拠が十分に因果関係についての専門家証拠に代替し得るか否かを判断することになるだろう。
同様に、In re Lipitor (Atorvastatin Calcium) Marketing, Sales Practices and Products Liability Litigation, --- F. Supp. 3d. ---, 2017 WL 87067, at *13-17 (D.S.C.), appeal pending, No. 17-1140(L) (4th Cir. 2017)において、MDL裁判所は、専門家の証言は、Lipitorが糖尿病を引き起こしたという原告の主張を立証するために要求されると判断した。裁判所は、他の複数ある理由のうち、原告は因果関係に関する専門家証拠を欠いているという理由により、内部電子メールや外国におけるLipitorの表示などの非専門家証拠が、因果関係の「アドミッションズ」に相当するという原告の主張を拒絶し、被告製造業者Pfizerのためのサマリージャッジメントを認容した。Lipitor事件は、第4巡回区連邦控訴裁判所における控訴手続中であり、Quinn EmanuelがPfizerのリードカウンセルを務めている。
Mirena事件とLipitor事件は因果関係の専門家証拠の要求から離れようとする試みを例示しているが、原告らは、他の大規模訴訟において、In re: Zoloft Litigation, 2017 WL 665299, at *8 (W.Va. Cir. Ct.), appeal pending sub. nom J.C. v. Pfizer, Inc., No. 17-0282 (W. Va. 2017)、想定される潜在的な副作用を医師に説明するために、処方薬の表示が十分であったかどうかについて、専門家の証言の必要性を回避するための同様の主張を試みた。
Zoloft事件は、西バージニア大規模訴訟パネルにおいて訴訟提起され、妊娠中にPfizerの抗うつ剤であるZoloftを母体に使用したことにより、子供たちが心臓疾患を伴って生まれてきたとの主張が含まれていた。原告らは、Zoloftの表示が想定される先天性欠陥のリスクを十分に警告していなかったと示す専門家証拠を提示することができず、代わりに、観察データの科学的解釈に関する被告の内部文書、動物研究及び毒物学報告、出生結果に関する有害事象報告、妊娠中の使用に関する外国における表示言語に依拠しようとした。
パネルは、それぞれの文書を精査し、それらは専門家の証言に代替することはできないと判断した。反対に、裁判所は、当事者らのこれらの内部的な科学的又は医学的文書の異なる解釈は、「原告の警告の欠陥という主張により示された論点の複雑さを明確に例示している」、「平均的な陪審員の知識や経験を超えているので専門家の証言が要求される」と理由付けた。Id. at *17. 原告らはこの判決に対して控訴し、本件は現在、西バージニアの最高裁判所に継続中であり、Quinn EmanuelがPfizerのリードカウンセルを務めている。
Mirena事件、Lipitor事件、そしてZoloft事件は、証拠が認められない場合において、専門家証拠の使用から方針転換し、代わりに、会社の文書により大きく依存することによってサマリージャッジメントを回避するための、複雑大規模不法行為訴訟における原告による戦術の最近の例である。製造物責任の追及に直面する製造業者にとって、これらは注視すべき重要な控訴裁判例であろう。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
chietogawa@quinnemanuel.com