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特許訴訟アップデート (18/11/15)
実質的利益当事者に関する判決:
2018年7月9日に、連邦巡回裁判所はApplications in Internet Time, LLC対RPX Corp事件において、特許審判部による決定を取り消し、特許審判部は名を連ねていない当事者系レビュー申立人のクライアントが実質的利益当事者にあたるかどうかを検討するにあたって過度に制限的なテストを適用したと判断した。そのような判断をするにあたって、連邦巡回裁判所は、特許審判部において非当事者が実質的利益当事者になるかどうかを判断するに際しては柔軟なアプローチを採用しなければならず、公平性や実用性の両観点を考慮しなけれなならないと指摘した。
特許審査部のチャレンジ:
特許保有者であるApplications in Internet Time (AIT)は、Salesforce.com (Salesforce)を被告として、2つのAIT特許権侵害を理由に連邦地裁に訴えた。法令によると、Salesforceは訴状の送達を受けてから1年間、問題となっている特許の有効性を争うため当事者系レビューの申立てをすることができる。この1年の期間内に、Salesforceは、当事者系レビューの申立てに代えて、ビジネス方法特許レビュー(CBM)の申立てを特許審判部に対して行った。特許審判部は、Salesforceにおいて問題となる特許が米国改正特許法における「ビジネス方法特許」に該当することの証明ができていないことを理由にその申立てを退けた。
その後、1年の猶予期間が満了して8か月が経過したときに、第三者であるRPXが、AIT特許に対する当事者系レビューの申立てを行った。そこでRPXは自らのことを「唯一の実質的利益当事者」と特定して、これら2つの特許に関する当事者系レビューの申立ては禁止されないことの確認を求めた。SalesforceがRPXのクライアントで、RPXの「patent risk solution」サービスに加入していること、RPXとSalesforceのそれぞれの取締役会において共通のメンバーがいること、そして係争中のAIT訴訟と争点となっている特許に関して、RPXとSalesforceとの間で6回のコミュニケーションのやり取りがなされたことに争いはなかった。AITは告発された侵害者であるSalesforceもまた実質的利益当事者であると主張することによって、当事者系レビューの申立てはAITの訴状がSalesforceに送達されてから1年以上経過しているため禁止されると主張した。特許審判部はAITの主張を退けて、最終的に問題となっていた特許クレームを無効と判断した。
連邦巡回控訴裁判所:
控訴審において連邦巡回裁判所は特許審判部の最終決定を覆し、当事者系レビューの申立てが時間的制限にかからないと判断するにあたって特許審判部は「実質的利益当事者」の解釈について誤った理解をしていると判断した。「特許保有者のアクション」と題される315条(b)は、「手続の申立てが、申立人、実質的利益当事者、申立人の利害関係者が特許権侵害を主張する訴状の送達を受けた日から1年以上経過して提出された場合は当事者系レビューは開始できない」と規定している。歴史的には、特許審判部は、その人が手続をコントロールしたり又はすることができた場合は、その人が実質的利益当事者にあたると判断していた。この法律の立法的な歴史を検討した後、裁判所は「議会は『実質的利益当事者』の意義に関して広くコモンローの意味合いを持たせており、実務及び公平の観点から、手続によって利益を受ける者を含めることを意図していた。」と判断した。
非当事者が「実質的利益当事者」にあたるかどうか決定するには、公平性や実用性の両観点を考慮に入れた柔軟なアプローチが必要となり、非当事者が申立人との間で既存の確立された関係性を有する明白な受益者に該当するかどうかを判断することになる。
裁判所は、このより全体的なアプローチは特許審判部の自らの審判ガイドに定められたアプローチと一貫性があると指摘した。そして、この「事実依存型」の質問の中心にある2つの質問は、非当事者が「特許の審理を欲しているか」どうかと、申立てが非当事者の「要請」によって提出されたかどうかであると説明した。
連邦巡回裁判所は、特許審判部の証拠の考察について、SalesforceのRPXとの関係性や、RPXの組織としての性質、すなわち営利を目的とする会社であって、そのクライアントが「patent risk solution」の財源を提供しているという点を軽視しており、「許されないほど浅はか」であると判断した。特許審判部が、「総合的にみて、RPXがクライアントの金銭的利益を図るために当事者系レビューを申し立てることができたこと、そしてクライアントがRPXに支払っている重要な目的は特許不実施主体から訴えられたときに自分の利益を守ることにあるということを暗示する」事実を無視したため、裁判所は決定を無効にして、その判断に適合した更なる審理のために事案を差し戻した。
実質的利益当事者を特定するための関連する要素及び事実:
AIT判決によると、申立人及び特許保有者は、非当事者が実質的利益当事者にあたるかどうかを判断するにあたっては、次の要素を検討することになる。(1)申立人の手続参加に対する非当事者のコントロール、(2)非当事者の資金、(3)手続における非当事者による指示、(4)申立人のビジネスの性質。さらに、判決の中で指摘された特定の事実が追加のガイダンスを提供している。例えば、連邦巡回裁判所は、次の事実はSalesforceがRPXの当事者系レビューの申立てに関して潜在的に実質的利益当事者になりえたことを示すと指摘した。(1)Salesforceがこれらの特許の有効性を争うことについて時期的に禁止されている、(2)クライアントが特許不実施主体から訴えられた場合は当事者系レビューを申し立てるという目的をRPXが公表している、(3)RPXが自分以外の当事者が特許の有効性を争う可能性は著しく低いことを認めている、(4)RPXにおいて、本件の特許から生じる権利侵害のリスクに晒される可能性がある者としてSalesforce以外のクライアントを特定することができない、(5)RPXが自らの利益は100%クライアントの利益と連結していると公に述べている、(6)Salesforceが当事者系レビューの申立ての直前にRPXのメンバーシップの更新をした、(7)SalesforceとRPXが相互に共通する取締役会のメンバーを有している。加えて、連邦巡回裁判所は、RPXは当事者系レビューを申し立てる契約上の義務を一切負っていないというSalesforceの主張を退けた。「当事者系レビューの非当事者は、当事者系レビューを申し立てることについて申立人との間で明示又は黙示の契約がなかったとしても実質的利益当事者になりうる。」
申立人のビジネスの性質についての4つ目の要素に関しては、連邦巡回裁判所は、RPXによって作成された「自らの利益は100%クライアントの利益と連結している」と指摘する文書について、申立人のビジネスの目的は非当事者の利益を図ることにあると示すものとして関連性があるとした。連邦巡回裁判所はまた、申立人において当事者系レビューに関して独立した利益を有するという単なる事実は、非当事者が実質的利益当事者に該当することを避けるためには不十分であると述べた。
後の訴訟や特許手続に関する将来の見通し:
連邦巡回裁判所のAIT事件における判断は、特許保有者が申立人と非当事者の関係性を調査することになるため、特許審判部の手続におけるディスカバリーの範囲を拡大する可能性がある。裁判所により拡大された実質的利益当事者の枠組みの下では、特許審判部に対する申立てを検討している訴訟の非当事者は、自らの申立てがクライアントやメンバーに及ぼす影響について注意深く検討する必要があるだろう。このことは、特に申立ての非当事者が、有効性の争われている特許に関係する侵害訴訟において現在訴えられている場合には、よく当てはまる。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
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