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改正されたFDAのルールが製薬関連紛争の和解に与える影響とは (17/03/23)
13年にも及ぶ官僚的な分析及びルール制定を経て、アメリカ食品医薬品局は、ジェネリック薬品に関する申請及び承認、ならびにそれに関連する2003年メディケア処方薬・改善・現代化法(「MMA」)第11章の医薬特許関連紛争について規定した、新たなルールを制定した。
昨年12月に施行されたこのルールは、「不要な紛争の削減、505(b)(2)の申請及び略式新薬承認申請(「ANDA」)に係る承認手続きの遅延の解消、及び製品名及びジェネリック薬品製造業者に関するビジネス上の確実性の提供」を目的としたものである。
一部の改正は、長年にわたるFDAの実務慣行を法制化したものであるが、その他は、判例法における進展を法制化したり、連邦食品・医薬品・化粧品法(「FD&C法」)の遵守及び執行を促進のためになされた。
特に注目すべきは次の2点。
(1)特許権者とジェネリック薬品会社との和解契約とジェネリックの独占性との関係
(2)新薬申請(「NDA」)の申請者による、治験的同等性評価のある承認医薬品、通称「オレンジブック」からの削除要請に関連するもの。
(1)特許権者とジェネリック薬品会社との和解契約とジェネリックの独占性との関係
このルールは、和解合意や同意判決が、505(b)(2)の申請及びANDAにおける特許証明書に対して、どのような影響を与えるかを明確に規定している。これまでのFDAルールは、505(b)(2)の申請及びANDAの申請者に対して裁判所が特許侵害を認める旨の「最終決定」をし、これらの申請者が特許無効の判断を得ることができなかった場合にだけ、505(b)(2)の申請及びANDAの申請者に対し、パラグラフⅣ証明(対象となる特許を侵害しないか、又は当該特許が無効であると主張するもの)からパラグラフⅢ証明(特許の有効性に同意し、ライセンスを得ずに自らのジェネリック製品を市場に出した場合には特許侵害になることを暗黙の裡に承認するもの)に変更することを求めていた。
しかし、これまでのルールは、505(b)(2)の申請及びANDAの申請者が、特許侵害を認定した和解契約や同意判決の後に、修正した証明書を提出する必要があるかどうかについて明示的に規定していなかった。このルールでは、このギャップが取り除かれ、505(b)(2)の申請及びANDAの申請者は、裁判所が特許侵害を認定した裁判上の和解や同意判決にサインし、これらの決定をした時点で(かつ特許無効が認められていない場合)、パラグラフⅣ証明からパラグラフⅢ証明に変更するものと規定した。
もっとも、このルールにおいても、疑義が全くなくなったわけではない。すなわち、505(b)(2)の申請及びANDAの申請者が、和解に至り、かつ和解に至る過程で問題とされる特許についてライセンスを取得した場合には、かかる特許に関する特許証明書を変更する必要がないとも解される。この点は、今年1月に出されたFDAの「180日独占ルール:Q&A」というガイダンスにおいても明らかにされている。同ガイダンスは、「(ANDA)申請者は、訴訟提起された場合でも、例えば、特許の期間満了前に市場に参入できる旨の和解によってこれを解決した場合には、潜在的に180日間の独占期間の適用を受ける可能性がある」としたうえで、「特許が有効で、ライセンスを取得するまでは特許侵害に該当する旨の申請者の和解合意」があるときは、申請者はパラグラフⅣ証明からパラグラフⅢ証明に変更する必要性はないとしている(「180日独占ルール:Q&A」10頁(質問12)、19頁(質問30)。
ただし、裁判上の和解や同意判決において、特許侵害が認定されないままサインされた場合には、505(b)(2)の申請及びANDAの申請者はパラグラフⅣ証明を維持し続ける方が適切と解される。
(2)新薬申請(「NDA」)の申請者による、治験的同等性評価のある承認医薬品、通称「オレンジブック」からの削除要請に関連するもの。
もう一つは、ブランド薬品の特許にチャレンジする実質的に完全なANDAの申請者に付与され得る180日間のジェネリック市場における「独占性」、及びチャレンジされた特許が期間満了ないし無効とされたことを受けてオレンジブックから削除又は「掲載取消」された場合に、当該独占期間にどう影響が出るかという点に関するものである。
このルールでは、当該特許に基づく180日の独占期間が満了するか、消滅するまで、その特許や特許情報をオレンジブックから削除しないという、FDAの現在の実務慣行を法制化した。特許や特許請求がリストに掲載されるための法的条件を満たさなくなった(リストに掲載されている特許について無効であるという裁判所の認定がなされ、それに対して上訴がされていないか、上訴ができない場合等)と考えるNDA保持者は、すぐにFDAに特許又は特許情報を修正するよう通知しなければならない。
FDAは、パラグラフⅣ証明の提出に基づく180日の独占性を享受しうる最初の申請者が存在しない場合には、オレンジブックから特許又は特許情報を削除することが求められる。
ただし、NDA保持者の要求が、180日の独占性の根拠となっている特許をリストから削除することである場合、FDAは当該特許に基づく最初の申請者の180日の独占期間が満了するか、消滅するまで、当該特許又は特許情報をオレンジブックに掲載し続けなければならない。
その結果、このルールにおいては、現行の実務慣行とも合致するが、最初の申請者は、180日の独占性の基礎となる特許についてNDA保持者からオレンジブックからの削除要請があったとしても、これによって最初の申請者としてのステータスを失うことはない。
FDAの新たなルールは、FD&C法505(j)(5)(D)に挙げられている180日の独占性の喪失について、明示的には触れていない。しかし、パブリックコメントや法制化に至るまでのFDAのコメントによれば、ANDA申請者による「オーソライズドジェネリック」薬品(一般的には、ラベルにブランド名が表示されることなく、ジェネリック薬品として販売されているブランド薬品のことを言うと定義される)の商業的販売は、ANDA申請者が享受し得た180日間のジェネリックに関する独占期間の起算点となるというのが、FDAの解釈であると解される。
FDAのコメントにおいても指摘されているが、FDAは180日の独占性について追加の法制が必要か否かについて、さらに検討するとしている。それまでの間、FDAは180日の独占性に関する追加の情報を「180日独占ルール:Q&A」のガイダンスの中で提示している。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
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