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標準規格に不可欠な特許権に関する司法省、FTC及び特許商標庁の見解 (13/06/21)
はじめに
特許権を公平で合理的かつ非差別的(Fair, Reasonable and Non-Discriminatory、「FRAND」)な条件でライセンスすることを約した、標準規格に不可欠な特許権(「不可欠特許権」)の所有者が利用可能な訴訟上の救済策に対して、近頃、世間及び規制サイドの注目が集まっている。不可欠特許の所有者と標準規格実施者との間で、特許権ライセンスの条件について合意できなかった場合、不可欠特許権の所有者は、差止めを含む侵害に対する救済を求めて、時折、侵害訴訟を提起してきた。
ここ数ヶ月の間に、連邦取引委員会(FTC)並びに、それとは別に合衆国司法省反トラスト部門(司法省)及び連邦特許商標庁(特許商標庁)の共同政策見解は、不可欠特許権の所有者が利用可能な救済策についてのそれぞれの見解を提供した。現在のところ、これらの機関は、不可欠特許権の所有者がその特許権について差止めを得ることができるかどうかの明確なルールを避け、この問題について微妙な市場アプローチを取っているように見える。FTC並びに司法省及び特許商標庁はともに、不可欠特許権の所有者と問題とされている侵害者との間の交渉に関する状況に焦点を当てている。
標準化団体及び自発的同意による標準規格
技術的な標準化は、標準化団体として広く知られる任意団体によってしばしば行われる。標準化団体は、広く採用されれば、異なる企業によって提供される製品やサービスの間で、相互利用を可能とするような技術的な標準規格を公表する。たとえば、Institute of Electrical and Electronics Engineers (「IEEE」)及びその会員組織によって策定・公表され、広く普及した802.11無線規格は、個人が、家、職場、喫茶店又は空港にいるときを問わず、WiFiホットスポットに接続することを可能にしている。共同での標準化作業に関連する個人及び組織は、しばしば問題となっている標準規格をカバーする、不可欠特許権を保有している。定義からわかるとおり、標準規格の要件を満たすためには、不可欠特許権の実施が技術的に必要である。不可欠特許権の侵害訴訟の被告は、反訴を通じて、標準化への関与を通じて、不可欠特許権の保有者は、FRANDの条件による不可欠特許権のライセンスコミットに服すると主張してきた。
国際貿易委員会(ITC)と連邦地方裁判所のどちらか又は両方に訴訟が係属する前に、企業が、不可欠特許権のライセンス交渉に成功しなかった場合に、メディアや規制サイドの関心が寄せられてきた。不可欠特許権の保有者は、損害賠償と差止めを求めて、地方裁判所とITCの両方に訴訟を提起してきた。実施者は、逆に、不可欠特許権の保有者が求めてきたライセンスはFRANDではないとして、確認判決を求めてきた。FTC、司法省及び特許商標庁は、最近、このような場合において、差止による救済を得る適切性に関連する、それぞれの政策的な立場についての見解を公表した。
不可欠特許権及び差止による救済に対するFTCの見解
2012年11月、Robert Bosch GmbHによるSPX Services Solutionsの買収提案に関する調査の一部として、FTCは、パブリックコメントのため、Boschに対する訴え及び命令を発した。決定及び命令に関連するステイトメントの一部として、FTCは、不可欠特許権の保有者が、その特許権を望む者に対して差止めを求めることとは、FRANDと矛盾すると述べた。Statement of the Federal Trade Commission, In the Matter of Robert Bosch GmbH, at 1, FTC File Number 121-0081 (Nov. 26, 2012)。FTCは、不可欠特許権について差止めを求めることは、過大なロイヤリティを高価格という形で消費者に転嫁させることにつながる可能性があると加えた。同上2ページ。依然として、FTCは、差止めによる救済に関する政策について、不可欠特許権の保有者は、ライセンスを望まない者に対する差止めが認められるべきであることを明確にしつつ、個別具体的なアプローチをとっているように見える。同上参照。
In the Matter of Google Inc., FTC File No. 121-0120の文脈において、FTCは再び、FRANDのコミットメントを行った不可欠特許権の保有者が差止めによる救済を利用できるのかという点について、現在の立場を示した。FTCは、不可欠特許権についての差止めによる脅しは、競争を阻害し、消費者価格を引き上げる可能性があるという立場をとった。しかしながら、FTCは、その適用をライセンスを希望する者及び企業に限定する立場である。Statement of the Federal Trade Commission, In the Matter of Google Inc., at 1, FTC file No. 121-0120 (Jan. 3, 2013)。Googleに関して提案された同意命令の中で、FTCは、Googleの子会社であるMotorola Mobilityが、FRANDコミットメントの対象となっている不可欠特許権について差止めを得ることができる、手続的なフレームワーク及び条件を明らかにした。
司法省及び特許商標庁による珍しい共同政策方針
上記とは別に、司法省及び特許商標庁は、2013年1月8日、FRANDコミットメントの対象となる特許権についての救済策、とりわけ差止めの利用可能性についての共同政策方針(司法省・特許商標庁政策方針)を発表した。
司法省及び特許商標庁は、他者による特許発明の実施を排除する特許権者の権利は基本的なものであるという認識を示した。司法省・特許商標庁政策方針2ページ。司法省及び特許商標庁はまた、自発的な標準規格策定は、補完しあう製品の間の相互利用を促すことにより、効果的な資源の配分及び生産を促進するものであると述べた。同上3ページ。しかしながら、司法省及び特許商標庁は、不可欠特許権に関する差止めや排除命令が、競争を阻害する可能性があったり、FRANDコミットメントと矛盾したり、eBay Inc. v. MercExchange, L.L.C., 547 U.S. 388 (2006)で規定された衡平の要素を満たさなかったりする場合が存在しうると指摘した。司法省・特許商標庁政策方針は、差止めが適切となる特定の状況を示した。
「たとえば、ライセンスを受けるべき者がFRANDに基づくロイヤリティとして決定されている金額の支払いを拒んだり、FRANDの条件を決めるための交渉を拒んだりした場合、排除命令は適切となりうるだろう。特許権者に対して正当な補償を行うというライセンシーとしての義務を逃れようとして、FRANDの条件として合理的に考えうるものから明白に外れた条件を強く要求することは、解釈上の交渉拒否とみなしうるかもしれない。」
司法省・特許商標庁政策方針は、ライセンスを望まない者に対する差止めに影響を与えうるとともに、FRANDの条件によるライセンスを望まないとされる状況にも影響を与える可能性がある。この方針は、特定の不可欠特許権の保有者やFRANDコミットメントを取り上げたものではない。
結論
標準規格に不可欠な特許権及びFRANDコミットメントは、公の議論や規制サイドの関心の対象になり続けるだろう。司法省、FTC及び特許商標庁による最近の調査や政策方針が将来の特許訴訟にどのように影響を与えるかについては注視し続ける必要があるが、これらの機関は、潜在的なライセンシーがFRANDによるライセンスを受けようとしているかどうか、受けるとしてどの範囲で受けようとしているのかについての決定に焦点を置き、差止めの利用可能性についての類型的なルールを規定することを避けようとしている。現在の裁判例の下では連邦地方裁判所において、(他の特許訴訟と同様)差止めは自動的に許容されるものではない一方、司法省、FTC及び特許商標庁は、FRANDコミットメントの対象となる不可欠特許権の事件において、訴訟当事者がそれぞれライセンス交渉においてライセンスを望んでいたかどうかを調査する必要があるという方針を示したことになる。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
chietogawa@quinnemanuel.com