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ウェアラブル・コンピューター-スマートフォン戦争における次の戦地か? (14/04/23)
コンピューター部品の急速な小型化と高速無線信号技術の発展は、モバイルコンピューター機器をユビキタスなものにした。今やユーザーはデータやアプリケーションに事実上どこからでもアクセスすることができる。新世代のウェアラブル・コンピューター機器はテクノロジーへのアクセスをさらに容易にしようとしている。リサーチ会社Gartnerによれば、ウェアラブル・コンピューター市場は2016年までに100億ドルに達するものと予想されている。
近時、数多くの様々なウェアラブル・コンピューター技術が現れているが、3つの機器のカテゴリー-スマートウォッチ、スマートグラス、そしてウェアラブルフィットネス機器-において特に顕著である。最初は、スマートフォンが、スマートフォンと交信した情報を表示する多くのウェアラブル機器のネットワーク・ハブとして稼動するだろう。現在の大手スマートフォンメーカーはすでにBluetooth Low Energy規格を採用しており、それによりユーザーは、インターネットへのデータ接続を行うためにスマートウォッチやスマートグラスといった周辺機器をスマートフォンに接続することができる。その結果、ウェアラブル・コンピューター市場をめぐる争いは、GoogleのAndroid搭載機器とAppleのiOSやMicrosoftのWindows搭載機器が競合するスマートフォン戦争と同様に明確に分かれることもありうるだろう。
もしウェアラブル・コンピューター機器の市場が予想される通りに急速に拡大すれば、機器製造業者からチップメーカーまでサプライチェーンのすべての段階におけるプレイヤーにとって、戦略的に訴訟を提起するインセンティヴが生じるであろう。スマートフォンの登場と非常によく似て、ウェアラブル・コンピューター機器の登場は知的財産をめぐる多くの法廷闘争を生み出す可能性がある。
プレイヤー
技術系最大手の間ではウェアラブル・コンピューター特許をめぐる激しい競争が行われている。Samsung、Apple、Google、Motorola Mobility、Microsoft及びHTCは積極的に特許による保護を得ようとし、自身の価値あるウェアラブル・コンピューター技術を保護するために特許を取得し、この急成長市場を支配しようと自らの位置付けを戦略的に行っている。ウェアラブル・コンピューター市場への参入が予期される者も、ウェアラブル・コンピューター特許のポートフォリオを有する小さな会社を積極的に買収している。たとえば、Jawboneは最近BodyMediaとそれが有する誰もが欲しがる生体認証監視特許のポートフォリオを取得した。Googleはスマートウォッチ開発を手がけるWIMM Labsとその特許を取得し、またHon Haiからスマートグラス特許のポートフォリオを取得した。ウェアラブル・コンピューターの世界で知的財産を有するプレイヤーとなりうる会社としては少なくとも次のものが挙げられる。
スマートグラス
Google Glassはスマートグラスのカテゴリーの中で最も注目を集めている。この心躍るカテゴリーにあって、スマートグラスは現実を拡張し、消費者に自己の周囲の情報をリアルタイムで提供し、より早く、より途切れのないコミュニケーションを可能にすることが期待されている。あなたが覚えているべき人の名前を電話が教えてくれ、会議中に常に電話に目を落とす必要がなくなる世界を考えてみてほしい。
Google Glassがあれば、消費者は写真を撮り、Eメールを読み、インターネットサーフィンをし、GPSナビゲーションに従い、そして音声によって、もしかすると動作によって機器に指示を与えて操作しながら、常に前を向いて現実とつながっていることが可能になる。MicrosoftやSamsungからも同様の製品が発売されるとの噂があるが(もっとも公式発表はない)、VuzixのM100 smart glasses、フィットネスと地図情報を表示しトライアスロン選手向けに設計されているRecon InstrumentsのJet sunglasses、1つではなく2つの投影スクリーンを有するMetaのSpaceGlassesなど、その他のプレイヤーとなりうる者が数多く存在する。現在のところ、第一段階の眼鏡製品はいずれも2014年中に消費者に出荷されると予想されている。
スマートウォッチ
技術系最大手の間ではSamsungとSonyが先行しており、近時、それぞれからGalaxy GearスマートウォッチとSony SmartWatch MN2が発売されることが報道された。
ユーザーはEメール、携帯電話用メール、電話を手首で受信することができる。スマートフォンをEメールを読むなどの基本的な作業にとどめて利用者のポケットに入れたままにしておくことで、スマートフォンの電池が長持ちする。スマートフォンと一体化した時計は、Samsung (Galaxy Gear)、Sony (SmartWatch MN2)、Apple、Google、そしてKickstarterが資金提供するPebble TechnologyやFossil時計ブランドの一部門が独立したMetaWatchというブランドを含む多くの新興企業からも発売、発表され、又は開発中だと噂されている。
健康管理リストバンド
他の会社は、たとえばJawboneのUP、AdidasのmiCoach、FitbitのFlex、NikeのFuelBandのように、一般大衆向け健康管理リストバンドとアプリケーションを製造している。健康リストバンドがスマートフォンにより一体化するように開発され、スマートフォンがより健康管理機能を有するようになるにつれ、スマートウォッチとリストバンドの市場が将来1つになることもありうる。たとえば、Adidasは最近miCoach Fitness Smartwatchを発表した。同様に、Pebbleは11月に、次世代のスマートウォッチ技術にフィットネス管理機能を組み込むことを発表し、SamsungのGalaxy GearはそのS Health追跡アプリケーションを通じてすでに健康管理機能を有している。
チップメーカー
Bluetooth技術により、ウェアラブル・コンピューター付属品付きのAndroidとiOSとの間で簡単に低電力接続が可能になったため、市場のいくつかの部分への参入障壁は低くなり新規の技術革新に熟したかもしれない。近時、チップメーカーのBroadcomのCEOは、「今日スマートフォンの大部分を作る会社は2つある。しかし、ウェアラブルを作ることができる小さな会社は潜在的には幾千とある。」「これらは時計、指輪、犬の首輪かもしれない。これらの種類のウェアラブルは百万ドル、あるいは数十万ドルするものではなく、数万ドルあるいはそれ以下であろう。クレジットカードででも買えるものだ。」と説明した。Broadcomと同業のチップ製造業者であるQualcomm、Intel、AMD、Marvell、Mediatek、ST Microその他は、ウェアラブルの新興企業が利用できるチップと接続基盤を提供することで利益を得ようとしている。特に健康・フィットネスの分野においてはウェアラブルの付属品の開発は、同じ基本オペレーティングシステム、Bluetoothと通信基盤に依拠しながら今後も続くと予想されている。
次なる戦地
ウェアラブル・コンピューターが現実のものになるにつれて、技術系最大手はスマートフォン戦争から学ぶのだろうか。それとも現在の戦略にさらに賭けるのだろうか。有名な「熱核反応戦争」を宣言し「Androidを駆逐」しようと目指したのはAppleであった。しかし、Androidを駆逐するどころか、今日、最も利益を上げている携帯電話販売者はSamsungであり、GoogleのAndroidは携帯電話用オペレーティングシステムのトップである。ある評論家は端的に次のように言った。
もしAppleの法的戦略の目的がAndroidの成長を抑制するあるいは少なくとも遅くすることにあったとするならば、今のところそれは惨めな失敗に終わっている。
しかしながら、市場に対する明白な影響はないものの、スマートフォン、タブレット、そしてその他のモバイルコンピューター機器に関する訴訟は早いペースで続いている。この成長市場における自身のシェアを守るために技術系最大手が今後も知的財産を含むあらゆる手段を意のままに使い続けることを疑う余地はほとんどない。
特許訴訟は金を追いかける傾向にある-そしてウェアラブル・コンピューターも例外ではない。このことは、産業界の巨人の間での訴訟に加えて、ノン・プラクティシング・エンティティー(「NPE」)によるウェアラブル機器に関する知的財産訴訟がおきる可能性も高いということを意味する。SportBrainというNPEはすでに、「個人データ収集機能の携帯計算機器及び無線通信機器への一体化」という名称の特許をめぐりAdidas、Fitbit及びNikeを訴えている。SportBrainは10年以上前には確かに存在したが、廃業した。しかし、その特許は存続している。議会はNPEによる訴訟に対応するための立法を検討しているが、失敗した新興企業やSportBrainのようなその他のNPEは必ず将来のウェアラブル・コンピューター特許訴訟の主役となるだろう。
まとめ
ウェアラブル機器市場はまだすべてが始まってはいない。多くの製品は噂か、ベータテスト段階か、将来の着手が発表されたのみである。しかし、2014年に最初の大きな機器の波が消費者に届くにあたり、主要な産業プレイヤーは注視していくだろう。もし初期の売上げが好調であれば、競合者は自社のウェアラブル機器の販売を加速し強化する可能性が高い。スマートフォン戦争においてそうであるように、成功、利益、そして増大する競争は訴訟の触媒となる。業界においては競合者を訴えあるいは自身を守るためにウェアラブル機器の特許ポートフォリオを利用する一方で、ノン・プラクティシング・エンティティーはライセンスによる利益を求めて通知を送り訴訟を提起するであろう。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
chietogawa@quinnemanuel.com