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ESG指標と訴訟リスク (22/04/26)
環境・社会・ガバナンス(以下、「ESG」)の要素を考慮することは、今日のビジネス界ではいたるところで見られるようになった。2020年時点で、米国では全運用資本の3分の1がいわゆる「ESGファンド」によって運用されており、気候変動などの社会・環境問題に配慮したビジネスへの投資意欲が高まっていることが反映されている。参照:MarketWatch, ESG Investing Now Accounts for One-Third of Total U.S. Assets Under Management, November 17, 2020,
https://www.marketwatch.com/story/esg-investing-now-accounts-for-one-third-of-total-u-s-assets-under-management-11605626611;Adec Innovations, What Is ESG Investing?, https://www.adecesg.com/resources/faq/what-is-esg-investing/.
プライベート・エクイティの分野では、「あらゆる規模のディールメーカーがESGリスク要因をディリジェンス対象に組み込んでおり、中にはESGを価値創造プロセスに組み込んでいるところもある。Pitchbook, US PE Breakdown, Annual 2021 (以下、「Pitchbook」) at 3. このようにESGファンドへの巨大な資金流入と、ESGに関するメディアの注目により、ESG格付け、指標、データを提供するビジネスが急成長してきた。2020年12月にKPMGは、世界にはすでに150のESG格付けとデータプロバイダがあると推定した。参照:KPMG, Sustainable Investing: Fast-Forwarding Its Evolution, February 2020、次にて入手可 https://assets.kpmg/content/dam/kpmg/xx/pdf/2020/02/sustainable-investing.pdf. UBSは、ESGデータやサービスによって生み出される世界の収益は2025年までに2倍以上になる可能性があると予測している。参照:UBS, Future Reimagined: Will ESG Data and Services Demand Accelerate Post-COVID & Who Will Win?, June 18, 2020, https://www.ubs.com/global/en/investment-bank/in-focus/covid-19/2020/esg-data-and-services.html.
原則的には、ESG格付けのコンセプトはシンプルに思える。格付けプロバイダは、企業がESGの実践や配慮をどの程度業務に取り入れているかを、AAAからDまでのスケールなどを用いて格付けをする。参照:Kevin Prall, ESG Ratings: Navigating Through the Haze, August 10, 2021, https://blogs.cfainstitute.org/investor/2021/08/10/esg-ratings-navigating-through-the-haze/.ただ、実際はもっと複雑なものである。何を測定するか、どのように測定するか、また、どのような目的で測定するかについて合意が得られていない。最も根本的に、ESGとインパクト投資間で混乱が広がっている。「ESGとは、企業の経営リスクや価値に影響を与える環境・社会・ガバナンスの要素を指し、内部または内向きの影響に焦点を当てたものである。」 Pitchbook at 20.これに対し、インパクト投資は、「企業の事業、製品、サービスによる外部への影響に焦点を当てる」ものである。Id. ESGとインパクト投資の基本的な混同は、ESG格付けが環境や社会的福利に対する企業の影響を測定しているという誤った印象を与える可能性がある。ただこれは、通常は発生しない。ほとんどのESG格付けは、ESG関連要因のリスクと機会を測定し、企業が環境や社会に与える影響に関しての測定は行わない。また、ESG格付けは、不完全で信頼性の低いデータから不透明で一貫性のない格付け方法まで、多くの方法論上の問題に直面している。
ESG評価やその他の指標が実際に何を反映しているかについての広範な混乱と、その生成方法についての一貫性と透明性の欠如が相まって、この分野はグリーンウォッシングや不正確または誤解を招く投資家の開示請求にとっての格好の場となっている。この急速に発展している分野では、格付けの提供者と利用者の双方が、ESG格付けの意味、いかにして作成されたのか、利用されるのか、そしてその限界について明確かつはっきりとしていることを確認する必要がある。
ESG格付とは?
MSCI、RepRisk、Sustainalyticsなど数百の組織がESG格付けや類似のデータを作成している。参照:Feifei Li & Ari Polychronopoulos, What a Difference an ESG Ratings Provider Makes!, January 2020,https://www.researchaffiliates.com/publications/articles/what-a-difference-an-esg-ratings-provider-makes.これらの格付け機関は、一般的に様々なソースからESG課題に関連する企業の定量的・定性的情報を収集し、単一の格付け(例えば、「AA」や「52」など)に落としている。これらの格付けはその後、投資家やファンドマネージャーが投資戦略の指針として、また、金融機関がESGファンドやETFを組成する際に利用される。参照:Beth Stackpole, Why Sustainable Business Needs Better ESG Ratings, December 6, 2021, https://mitsloan.mit.edu/ideas-made-to-matter/why-sustainable-business-needs-better-esg-ratings; Boffo, R., and R. Patalano, OECD Paris, ESG Investing: Practices, Progress and Challenges,2020,https://www.oecd.org/finance/ESG-Investing-Practices-Progress-Challenges.pdf.
投資家やファンドマネジャーの中には、ESG評価が低すぎるという理由で、自動的に企業を検討対象から外す、もしくは「スクリーニング」する人もいる。例えば、Morningstarは「ESGスクリーナー」を提供しており、ユーザーはSustainalyticsの企業レベルのESG評価から導き出したポートフォリオレベルの評価に基づいて、ファンドをフィルタリングすることができる。参照:Morningstar, The Morningstar Sustainability Rating Explained, November 19, 2019, https://www.morningstar.com/articles/957266/the-morningstar-sustainability-rating-explained. 同様に、BlackRockのファンド「iShares MSCI KLD 400 Social ETF」は「MSCI KLD 400 ソーシャルインデックス」に連動しており、企業のMSCI ESG評価がBB以上であることが入るための条件、B以上であることが残るための条件となっている。ESG評価は、企業のESG関連目標のベンチマークやモニタリングにも利用することができる。例えば、貸し手は融資の金利をESG格付けや指標に固定させることができる。借り手がその格付け以下に下がった場合、資本コストが上昇する可能性がある。このように、企業が特定の格付け機関から取得する特定のESG格付けは、その企業の資本市場へのアクセスや資本コストに直接、また時には「自動的に」さえ影響を与える可能性がある。
ESG格付けへの批判
近年のESG格付け、指標、データの爆発的な普及に伴い、これらの格付けが実際に何を示しているのかがより詳細に精査されるようになり、いくつかの注目すべき批判がなされている。
ESG格付けが実際に測定しているものについての誤解: ESG評価に関する最大の懸念は、投資家やその他の利用者が測定しようとしている内容について実際には理解していない可能性があることかもしれない。多くの投資家は自らの価値観に合う企業を見つけるためにESG格付けを参考にしているにも関わらず、ESG格付けのうち多くが環境や社会に対する企業の外部への影響と全く関係がないことを知り、驚く人もいることだろう。最大手のESG格付け機関とその方法論を検討するとこの問題がよくわかる。
現在ESG格付けプロバイダ最大手であるMSCIは、実際に企業が環境や社会に与える影響を測定しているわけではなく、むしろその逆で、そうした問題(企業自身が貢献する可能性がある)が企業自身のオペレーションに与える影響を測定している。この手法は、企業にとってのリスク(水不足から生じる企業運営へのストレスなど)を特定することに重点を置き、そのリスクに対処するために企業の方針がどのように方向づけられているかに二次的に焦点を合わせている。参照:ASX, MSCI ESG Ratings Methodology, September 30, 2021, https://www.youtube.com/watch?v=dkMJv14h75o. 言い換えれば、MSCIの格付けは、ビジネスが環境や社会に与える害を反映するのではなく、その害が企業に噛み付きに戻ってくるのかどうかを反映しているのである。
現在MSCIのESG格付けがBBBとそれなりに高いとあるファストフード会社の例は、その特に顕著な例となっている。参照:Cam Simpson, Akshat Rathi, & Saijel Kishan, The ESG Mirage, December 10, 2021, https://www.bloomberg.com/graphics/2021-what-is-esg-investing-msci-ratings-focus-on-corporate-bottom-line/. 牛肉などの食肉製品のサプライチェーンにより、欧州の一部の国全体よりも多くの二酸化炭素を排出しているとされる同社は、ESG評価に二酸化炭素排出量を含めていない。これは、MSCIが同社のサプライチェーンは気候変動によるリスクを抱えていないと考えているためである。言い換えると、MSCIは同社の排出量が会社の収益性にリスクを与えないためにそれを無視したのである。Id. J.P. Morgan Chase(以下、「JPM」)はさらに別の例を示している。過去10年間、JPM は引き受ける化石燃料ローンの数を有意義に減らすことはなかったが、引き受けるグリーンエネルギーローンの数に関しては増加させた。Id. グリーンエネルギー融資を増やすことで収益性が高まったため、MSCIは同社のESG評価を引き上げた。
また別の主要なESG格付け機関であるRepRiskは、同様に国際的なESG基準の非遵守による風評被害に対する企業のリスクに基づいてESG格付けをする。参照:RepRisk, RepRisk Methodology Overview, https://www.reprisk.com/news-research/resources/methodology (last visited January 14, 2022). 第一にRepRiskは、一般投資家が期待するようなインプット、すなわち国連の持続可能な開発目標のような国際基準の非遵守の事例を間違いなく使用する。しかしこれらの事象は、企業にもたらす風評リスクに応じて重み付けされる。例えば、RepRiskの手法では、「深刻度」を「事象や批判のリスク」と定義している。Id.(強調追加)。言い換えれば、RepRiskは、企業の善行に基づいて格付けしているのではなく、企業の悪行が風評被害につながる可能性の程度に基づいて格付けしているのである。
一貫性があり比較可能なデータの欠如: 格付けされる企業は、一般的にESG格付けを要求しないため(信用格付けとは異なり)、格付けプロバイダは、一般に入手可能な情報や購読サービスに大きく依存せざるを得ない。ESG Data Convergence Projectが適切に表現しているように、問題は 「ESGデータは混乱している」ことである。参照:ESG Data Convergence Project, September 2021, at 1, https://ilpa.org/wp-content/uploads/2021/09/ESG-Data-Convergence-Project-Summary_29Sept21.pdf. 本Projectの目的は、「PE業界のための標準化されたESG指標に収斂させる ことで、未公開企業から有意義でパフォーマンスベースのESGデータの臨界量を創出する」ことだ。Id. at 2. サステナビリティ会計基準審議会(「SASB」)、Carbon Disclosure Project、気候関連財務情報開示タスクフォースなどの多くの政府間組織や非営利団体が、企業間や業界内で重要なESGデータポイントの定義と詳細化に多大な労力を費やしてきた。Id. 例えば、SASBは77業界向けに基準を公布しており、これは「各業界の財務パフォーマンスに最も関連する環境、社会、ガバナンス(ESG)課題のサブセットを特定 」するものである。参照:Sustainability Accounting Standards Board, About Us, https://www.sasb.org/about/.
しかし難しいのは、「市場参加者があまりにも多くのフレームワークや取り組みに分散しているため、どのフレームワークにおいてもクリティカルマスや意味のあるデータが不足する」ことになってしまっていることである。ESG Data Convergence Project, supra. Bloomberg LPの持続可能な金融ソリューションのプロダクトマネージャーであるLenora Sukiはこの状況を最近次のように要約した。「現在、持続可能性に関する情報は多くの場合、非財務的で、拡散し、多様化しており、意思決定者がそれを咀嚼し、戦略や業務上の意思決定に反映させることは困難である。」と。Stackpole, supra. 特に、ESG関連情報開示のための共通の制度がまだないため、企業の関連情報開示は異なる報告書に散在し、その信頼性に差があり、あるいは、異なる国々での企業の慣行によっては利用できないこともある。Id.
今年中にグローバルな開示基準の発行が予想されている、国際サステナビリティ基準委員会の2021年11月の設立が問題の解決につながるかもしれないものの、比較可能で一貫したデータがない現状では、不完全、未検証、または不正確な情報に基づくESG格付けが行われる可能性がある。Timberlandの元COOで、現在はタフツ大学に在籍している人物は、次のような見解を示している。「報告は完全ではなく、結果はほとんど未監査で、比較可能ではないため、ESG格付けは未監査で外挿や内挿のされた悪いデータを使用することが多いのだ。」と。Id.
プロバイダ間の一貫性のなさ: クレジット格付けとは異なり、ESG格付けはプロバイダによって大きく異なる場合がある。例えば、MSCIはNissan Motor Co.にCCCという極めて低い評価を与えているが、Standard & Poor’sは61点で、MSCIのA評価とほぼ同じだ。参照:Tracy Alloway, What’s Wrong with ESG Investing as Explained Through the Medium of Ohio, November 16, 2021, https://www.bloomberg.com/news/articles/2021-11-16/what-s-wrong-with-esg-investing-as-explained-through-the-medium-of-ohio. MIT Sloan Sustainability Initiativeの「Aggregate Confusion Project」の研究者は、ESG格付けがプロバイダによって異なる理由を以下3点主要な理由として特定した。
スコープ:プロバイダの中には、企業の二酸化炭素排出量や労働慣行などの特定の属性を考慮するように努めているものもいるが、そうでないものもいる。
測定:同じ属性を測定しようとするプロバイダが2つあったとしても、それらの測定方法は異なる場合がある。例えば、労働慣行の測定では、企業の文書化された方針(行動規範など)に着目する場合もあれば、結果(事故の発生頻度など)に着目する場合もある。
重み付け:プロバイダによって、様々な属性の測定値を組み合わせて総合的なESG格付けを行う際に異なる重み付けをする。参照:generally Florian Berg, Julian F. Kölbel, & Roberto Rigobon, Aggregate Confusion: The Divergence of ESG Ratings, May 19, 2020, , https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=3438533.
その結果、格付けプロバイダ間でESG格付けが大きく乖離していることがよくある。
プロバイダ内のばらつき: 同じプロバイダによるESG格付けであっても、事業によって異なる要素に基づく場合がある。これは、「ほとんどのESG格付機関が業界特有の集計ルールを使用している」ため、企業の全体的な ESGスコアは、その業界にとって最も重要な課題についてのパフォーマンスを反映することになるからである。 Id. at 14. 例えば、MSCIのオンラインの「Materiality Map」によると、その製薬会社へのESG格付けは「製品の安全性と品質」に焦点を当てており、気候変動とは全く関係がないことがわかる。一方、「石油・ガス貯蔵・輸送」業界の企業に対するMSCIのESG格付けは、気候変動に重点を置いており、労働問題とは全く関係がない。
利益相反: Aggregate Confusion Projectの研究者によると、「ESG評価者は、クレジット評価者のように評価を受ける企業からではなく、それを利用する投資家から報酬を得ている 」ため、「クレジット格付けが乖離する潜在的理由として議論されているレーティングショッピングの問題は…ESG評価プロバイダには当てはまらない 」という。Id. at 7. しかし、証券監督者国際機構(以下「IOSCO」)は、企業が格付けを受けるためにお金を払っていない場合でも、ESGコンサルティングを含む他のサービスのために同じプロバイダ(またはその関連会社) にお金を払うことがあることに懸念を示している。参照:IOSCO, Environmental, Social and Governance (ESG) Ratings and Data Products Providers Consultation Report 16, July 2021, https://www.iosco.org/library/pubdocs/pdf/IOSCOPD681.pdf (以下、「IOSCO Report」). つまり、格付けプロバイダは、自社のコンサルタントが考案したESG戦略を評価している可能性があり、コンサルタントは格付けの方法論に関する特別な見識を用いて顧客に「試験」の「対策」をし、その格付けが誤解を招くかもしれない手段で高いESG格付けを達成できるようにしている。(例えば、男女差別を軽減するために、一部の社員をロボットに置き換えるなど)Id. at 26.
このような問題があるにもかかわらず、現在、ESG格付けは規制されていない。ESG格付けのプロバイダに対して、特定の慣行や手法を採用すること、データソースや手法に関する特定の開示を行うことを求める法律も存在しない。このような規制を求める声もあるが、投資家に誤解を与えないように格付け方法を開示していれば、規制は必要ないとの意見もある。参照:Mark Schoeff, Jr., Experts Downplay Need for Universal ESG Standards, December 1, 2021, https://www.investmentnews.com/experts-downplay-need-universal-esg-standards-214711. SECは、気候関連の開示をより強固にすることを要求する見込みで、これは上述したデータの不備の問題において役に立つ可能性があるものの、SECはESG格付けに焦点を当てる意向は表明していない。参照:U.SU.S. Securities and Exchange Commission, Prepared Remarks Before the Principles for Responsible Investment “Climate and Global Financial Markets” Webinar, July 28, 2021 https://www.sec.gov/news/speech/gensler-pri-2021-07-28. そして、欧州連合はこれまでのところ、5つの格付け機関そのものよりも、ESGファンドの規制に重点を置いている。参照:Alicia Karspeck, New ESG Regulation Out of Europe Redefines Investment Risk, August 1, 2021, https://www.triplepundit.com/ story/2021/new-esg-regulation-europe/726291. 2021年3月に公布されたEUの新規制は、資産運用会社に持続可能性方針が投資判断にどのように影響するかを開示するよう求め、投資家への情報提供を強化する。金融サービス分野における持続可能性関連の開示に関する2019年11月27日の欧州議会および理事会の規則(EU)20190/2088。
ESG訴訟リスク
ESG格付けやその他の指標から生じる可能性のある訴訟リスクはいくつかある。現在までのところ、誤解を招くようなESG格付に基づき訴えを提起されたものはいない。しかし、他のいくつかの分野での過去の経験は、ESG格付けが上記と同じ問題を示し続ける場合のリスクを示している。
グリーンウォッシング - 誤解を招く開示: 近年「グリーンウォッシング」、すなわちブランディングやマーケティングを通じて、製品や業務が環境に優しいという印象を与えるが、実際はそうでない、もしくは暗示された範囲には及ぶものではないことに対して企業の責任を追及するケースが目立って増えてきている。参照:Quinn Emanuel, Greenwashing Claims on the Rise: Avoiding Dirty Laundry, Mar. 22, 2021,https://www.quinnemanuel.com/the-firm/publications/greenwashing-claims-on-the-rise-avoiding-dirty-laundry/#rootNodeId=1054&pageNumber=1&byNewsType=17096.グリーンウォッシングを主張するために誤解を招くようなESG格付けに依拠した訴訟はまだないが、投資家や規制当局がESG格付けは誤解を招くと主張することは、想像に難くない。
グリーンウォッシングの請求は、州や連邦の規制当局、民間の原告によって、州や連邦の証券法やその他の法律の違反を主張し提起されてきた。連邦及び州の規制当局は、証券法や消費者保護法に基づき、一般には企業が自社の事業の持続可能性を偽っていると主張し、いくつかの訴訟を起こしている。このカテゴリーで最も注目すべき訴訟は、ニューヨーク州司法長官が、Exxon Mobilがニューヨークの証券法に基づいて炭素排出の真のコストを偽って表示したと主張して起こしたものである。ベンチ・トライアルの結果、裁判所は虚偽表示を重要ではなかったと判断した。People of the State of New York v. Exxon Mobil, 119 N.Y.S.3d 829 (Table) (N.Y. Sup Ct. 2019) 民間の原告、通常はグリーンウォッシングで告発された企業の個人または株主団体も、同じ法令に基づく訴訟を起こしている。多くの場合にこれらの訴訟は、特定の製品の環境または健康への影響に関する企業の虚偽表示に焦点を当てている。このような訴えは2021年に比較的多く提起された。参照例:Swartz v. Coca-Cola Co., Case No. 3:21-cv-04643-JD (N.D. Cal.) (Coca Colaがボトルのリサイクル性について虚偽の表示をしていたと主張); Bentley v. Oatly Group AB, Case No. 21-cv-06485 (S.D.N.Y.) (Oatly が特に同社のオートミルクに関して持続可能な方法で生産しているなどと不当表示をしていたと主張) 等。誤解を招くようなESG格付けに基づく同様の訴訟は想像に難くない。
前回の住宅ローン危機の際に発生した訴訟の波が参考になる。住宅ローン担保証券(以下、「RMBS」)のスポンサーに対する請求を行った投資家は、RMBSスポンサーがRMBSに与えられた高い格付けが不正確で誤解を招くものであり、格付け機関が「スポンサーペイズ(スポンサーが支払いを行う)モデル」によって矛盾していることを知っていたと主張することがとりわけ多かった。参照例:Abu Dhabi Commercial Bank v. Morgan Stanley & Co., Case No. 08-cv-07508- SAS-DCF (S.D.N.Y.), Complaint 111-14. スポンサーは、信用格付機関が担保となる住宅ローンに関する不正確なデータに依拠していることを知っていたことから、格付そのものが信頼できないことも知っていた。Id. 68-69. 注目すべきは、IOSCOがESG格付けを利用している19の組織に対して行った調査で、「ユーザーは一般的にESG格付とデータ製品への形式的な検証していないことが明らかになった。」ことである。IOSCO Report at 30. 多くのユーザーはまた、彼らが「ESG格付けやESGデータ製品の基礎となる生のESGデータへの検証プロセスを、それがリソースを多く必要とし、入手可能な情報では実施が不可能な場合があるために、実施していないことを示した。」Id. at 30-31. 現在入手可能なESG関連データのばらつきを考慮すると、ユーザは格付けが信頼できないことを知っていたか、知るべきだった等の議論に直面する可能性がある。
このリスクは特にファンドマネージャーにとって深刻かもしれない。ファンドマネージャーは、ESGファンドへの投資に対して高い手数料を請求することがある。参照:Rebecca Moore, Morningstar Finds ESG Funds Are More Expensive Than Conventional Funds, October 26, 2021, https://www.planadviser.com/morningstar-finds-esg-funds-expensive-conventional-funds/. 投資家は、これらのマネージャーの中には、その市場規模と洗練された能力により、ESG格付けが実際に反映している内容について、格付けプロバイダ自身よりも深い見識を有しているものがいるとの主張をするかもしれない。大規模なファンドマネージャーは、格付け機関が入手できないような情報を投資先企業から直接入手することができるかもしれない。実際SECは、特に企業のESG関連目標の遵守を監視していないESGファンドに対する法執行に関心を示している。参照:Kevin Muhlendorf & Holly Wilson, SEC Enforcement Related to ESG Investing Likely to Increase in 2022, January 7, 2022, https://www.jdsupra.com/legalnews/sec-enforcement-related-to-esg-6849948/.
格付けプロバイダ自身もターゲットとなる可能性がある。過去に起きたRMBS訴訟では、格付け会社は詐欺、過失、過失による虚偽表示に対する請求に直面した。参照例:Abu Dhabi Commercial Bank v. Morgan Stanley & Co., Inc., 651 F. Supp. 2d 155 (S.D.N.Y. 2013) (3つの理論すべてに基づく請求); California Public Employees’ Retirement Sys. v. Moody’s Investor Serv., Inc., 226 Cal. App. 4th 643 (2014) (過失による虚偽表示請求). 格付けが通常、憲法修正第1条の保護の対象となる意見であると判断されたため、民間訴訟当事者によるこのような請求のほとんどは認められなかった。参照例:Abu Dhabi Commercial Bank, 651 F. Supp. 2d at 175-76 (様々な控訴審の意見を引用). 格付け機関は一般に、格付けの正確性を「純粋かつ合理的に信じていなかった」場合にのみ責任を問われるが、通常この基準を満たすことは困難である。Abu Dhabi Commercial Bank, 651 F. Supp. 2d at 176 (In re IBM Corp. Sec. Litig., 163 F.3d 102, 109 (2d Cir. 1998)を引用).
しかしそれでも、格付け機関は規制当局による法執行のリスクに直面している。過去10年間、司法省(以下「DOJ」)は、住宅ローン危機につながる不正確な格付けについて、格付け機関といくつかの和解を成立させている。2015年、DOJはStandard & Poor’sと13億7500万ドルで和解し、2017年にはMoody’sと8億6400万ドルで和解している。参照:Department of Justice, Justice Department and State Partners Secure $1.375 Billion Settlement with S&P for Defrauding Investors in the Lead Up to the Financial Crisis, February 3, 2015, https://www.justice.gov/opa/pr/justice-department-and-state-partners-secure-1375-billion-settlement-sp-defrauding-investors; Department of Justice, Justice Department and State Partners Secure Nearly $864 Million Settlement With Moody’s Arising From Conduct in the Lead up to the Financial Crisis, January 13, 2017, https://www.justice.gov/opa/pr/justice-department-and-state-partners-secure-nearly-864-million-settlement-moody-s-arising. 連邦政府は、格付け機関に対する法執行活動を継続し、住宅ローン危機後の格付け機関の行為に関しいくつかの和解に至っている。参照:
MarketWatch, ESG Investing Now Accounts for One-Third of Total U.S. Assets Under Management, November 17, 2020, https://www.marketwatch.com/story/esg-investing-now-accounts-for-one-third-of-total-u-s-assets-under-management-11605626611.投資家のESG格付への依存度が高まっていることから、近い将来、これが規制当局の注目する分野となる可能性は十分にある。
契約違反: 3大格付機関の一つであるFitch Ratingsは、最近クレジット契約におけるESG指標の利用が増加していることを指摘する報告書を発表した。報告書が指摘するように、そのような条項が米国のクレジット契約に取り入れられるようになったのは最近のことだが、「欧州のクレジット契約では同様の条項が一般的であり、3Q21においてCovenant Reviewがレビューした全ローン文書の53%には何らかのバージョンのESG価格変動メカニズムが含まれている」 。参照:Fitch Ratings, ESG in Credit Documents (ESG Terms in Natural Resources and Industrials Credit Documents), https://www.fitchratings.com/research/corporate-finance/terms-conditions-series-esg-in-credit-documents-esg-terms-in-natural-resources-industrials-credit-documents-09-11-2021?mkt_tok=NzMyLUNLSC03NjcAAAGAznb4zYfv2UCyxDjw3Anoe28ucAfOu1Eu7OyTnQrJQq_1TV
nB2x5JWek9mlU19EE75VCybOCzF4vSHUfdVnX3kwyF7Yfu5mwW4mgCIGoYE. Fitchは、米国のクレジット契約において、合意されたESG目標の達成、不達成に基づいて価格設定がシフトされる最近の事例をいくつか観察している。このような規定は、天然資源や産業界の借り手など、ESGの重要な課題を抱える可能性のあるセクターでより頻繁に発生する傾向がある。
ESG格付けをめぐる問題を考慮すると、クレジット契約におけるESGに依存した価格設定メカニズムが発動されたかどうかについて争うことも考えられなくはないだろう。例えば、契約での価格が特定のESG格付けに固定されており、その後その格付けが下落した場合、その下落が単に方法論の非公表での変更ではなく、本当に実務の悪化を反映しているかどうかについて、意見の相違が生じる可能性がある。同様に、価格が固定されていたESG格付けが不正確な開示に基づいていたことが後に明らかになった場合、貸し手はその価格で貸し出すよう不正に誘導されたと主張する可能性がある。
ESG投資への急激な資金シフトと、ほとんど規制されていない方法で作成されたESG格付けやその他の評価基準の急激な増加により、大きな訴訟リスクと規制リスクが発生している。ESG格付けのプロバイダは、格付けの実際の意味、算出方法、限界を明確に説明し、実際に起こりうる利益相反や潜在的な利益相反を避けるようにしなければならない。ESG 格付けの利用者は、格付けが実際に何を示し、どのように生成され、その意味や意義について何が開示されているかを理解するよう注意する必要がある。比較可能性がない限り、説明責任は発生しない。一方、比較可能性がない以上、必要なのは透明性である。Q
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
chietogawa@quinnemanuel.com