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増大するEディスカバリー費用の転嫁 (13/12/10)
1990年代半ばからのEディスカバリーの出現以来、電子的に蓄積された情報(電子蓄積情報)の収集、複製、検討、分類、処理及び提出に関する費用は、急激に増大した。たとえば、2007年、訴訟当事者は、約27億9000万ドルをEディスカバリーに使っているが、これは一年前の金額から43パーセントも増加したものである。George Socha & Tom Gelbmann, A Look At The 2008 Socha-Gelbman Survey, Law Tech. News, Aug. 11, 2008参照。ランド研究所によるFortune 500企業に関するより最近の事例研究では、訴訟当事者における電子蓄積情報の提出に関するトータルコストの中間値は、驚くべきことに事件あたり180万ドルにも達することが明らかになった。Nicholas Pace & Laura Zakaras, Rand Institute for Civil Justice, Where the Money Goes: Understanding Litigant Expenditures for Producing Electronic Discovery, 28 (2012)参照。ディスカバリーリクエストに対応する可能性のある、クラウド、会社のサーバ、ハードドライブ及び携帯用装置に保存された電子メールやその他の電子的な文書の圧倒的な分量を考えれば、このようなEディスカバリーのコストは、2013年以降も増加の一途をたどるであろう。
これらのコストを支出しようとする際、勝訴した訴訟当事者は、Eディスカバリーの費用のある程度の部分を連邦民事訴訟規則54条(d)(1)及び28 U.S.C. § 1920(4)に基づく請求可能な費用として、償還を求めることができる。Eディスカバリーに関する費用のそのような償還を求めた訴訟当事者の試みの成否は事件によってまちまちである。たとえば、Race Tires Am., Inc. v. Hoosier Racing Tire Corp., 674 F.3d 158, 159, 162 (3rd Cir. 2012) (コピー関連作業によって生じたEディスカバリーの費用のうち、3万ドル(8%)の償還を認めた。)、Fells v. Virginia Dept. of Transp., 605 F. Supp. 2d 740 (E.D. Pa. 2011) (電子記録の処理に関するいかなる費用についても、それが技術的に「コピー又はスキャン」に該当しないことを理由に、その償還を否定した。)、Lockheed Martin Idaho Technologies Co. v. Lockheed Martin Adv. Envtl. Sys., Inc., 2006 WL 2095876, at *2 (D. Idaho July 27, 2006) (ドキュメントレビューのデータベースに関するEディスカバリー費用の全額460万ドルの償還を認めた。)参照。これらのような最近の決定は、完全に一貫しているものではないものの、Eディスカバリーで生じた費用のうち少なくともいくらかの部分について、相手方当事者の負担としたいと望む訴訟弁護士に対して、指標を提供するものである。
費用転嫁の法律上の根拠
規則54条(d)(1)は、勝訴当事者が、訴訟において発生した一定の費用及び支出について、相手方当事者から取り戻すことを認めている。「連邦法、これらの規則、又は裁判所の命令が別段の定めを置いていない限り、弁護士費用以外の費用は、勝訴当事者に与えられるべきである。」連邦民事訴訟規則54条(d)(1)。この規則に基づいて、実際に生じた費用の請求書を裁判所書記官に送付した場合、費用の償還は適切であるという推定が働く。しかし、裁判所は、金額を減額する裁量を有している。同上、Plantronics Inc. v. Aliph, Inc., 2012 WL 5269667, at *2 (N.D. Cal. Oct. 23, 2012)も参照。敗訴当事者は、その後、勝訴当事者が費用の償還を受ける権利を有しないことを積極的に立証して、推定を覆す負担を負うことになる。
しかし、「費用」という用語は、規則54条において定義されていない。代わりに、償還可能な費用の全体について、28 U.S.C. § 1920によって定義がなされている。Taniguchi v. Kan Pac. Saipan, Ltd., 132 S. Ct. 1997, 2001-02 (2012) (規則54条(d)によって認められた裁量は、1920条において列挙されていない費用及び支出の償還を認める別の根拠となるという考え方を否定した。)参照。1920条に基づく償還可能な費用には、特に、「その事件に用いるために必要であった場合に要した謄本作成費用、コピー費用」が含まれている。28 U.S.C. § 1920(4)。しかしながら、Eディスカバリーの費用償還を認めた裁判所においてさえ、いくつかの裁判所はすべてのEディスカバリー費用の償還を認める一方で、ほんの一部の償還以外はそれを否定する裁判所もあるように、個々のEディスカバリーに関する費用を1920条(4)に基づいて償還可能なものとして扱うか否か、そしてどのように扱うのかについて、統一性を欠いている。
Race Tire事件の影響
第3連邦巡回控訴裁判所は、1920条(4)に基づくEディスカバリー費用の償還の妥当性及び範囲について直接判示した、最初の、そして議論はあるものの唯一の控訴裁判所である。Race Tiresにおいて、第3連邦巡回控訴裁判所は、約60万ページにも及ぶ電子文書の収集、処理、TIFF変換、OCR及び提出に関する36万5000ドルを超えるEディスカバリー費用を含む費用請求を審理した。Race Tires Am., Inc., 674 F.3d at 159, 162。
原審である地方裁判所は、電子的な謄写や複写に相当するものとして、被告の費用請求を認めた。同上163ページ。地方裁判所は、ディスカバリーのために電子情報を検索し準備するのに必要な「専門性」(この専門性は通常法律家は有していない)は、「ディスカバリーの過程で不可欠なもの」であるから、1920条(4)に基づく費用償還が可能であると判示した。同上。第3連邦巡回控訴裁判所は、これに反対し、原審決定を破棄するとともに、請求されたコストの8%のみを償還するように原審裁判所に命じた。同上171ページ。
この決定に至る中で、第3連邦巡回控訴裁判所は、まず初めに、Eディスカバリーの費用が、1920条(4)に示されている「謄写」費用に該当するかどうかを分析した。同種の裁判所が、謄写費用の範囲の解釈について見解が相違していることを指摘した上で、第3連邦巡回控訴裁判所は、問題となっている作業は、「実例証拠や公的記録の認証」のためのものではなく、いかなる解釈においても、「謄写」とすることはできないものであるから、究極的には、上記費用がどの範囲で拡張されるのかを決定する必要はないと判示した。同上166ページ。
Race Tiresの裁判所は、次に、Eディスカバリーに関する作業が、「コピーの作成」と考えられるかどうかを決めるために、費用請求を検証した。同上。裁判所は、文書をスキャンすること、ファイルをTIFF形式に変換すること、及びVHSテープをDVDに変換することのみが、1920条(4)に基づいて適切に償還可能であると述べた。同上171ページ。加えて、裁判所は、Eディスカバリーに関するあらゆる作業が、「不可欠」「高度に技術的」又は「費用を削減する」といった理由で償還可能であるという原審地方裁判所の見解を明白に否定した。同上168ページ。裁判所は、1920条の条文解釈から完全に乖離したものとして、この見解を批判した。同上169ページとCBT Flint Partners LLC v. Return Path, 676 F. Supp. 2d 1376, 1381 (Fed. Cir. 2009)(他の理由で否定)(eディスカバリーのベンダーの「高度な技術サービス」は「21世紀のコピー作成作業に相当するもの」である)(Cargill Inc. v. Progressive Dairy Solutions, Inc., 2008 WL 5135826, at *6 (E.D. Cal. Dec. 8, 2008)を引用)を比較参照。
1920条(4)が、デジタル化時代以前において、コピー作業に必要な「すべての段階」の費用償還を規定していたわけではなかったように、第3連邦巡回控訴裁判所は、「電子蓄積情報を収集、蓄積、処理、検索、選択、抽出する」といった、電子的コピーの作業処理の全コストについて費用償還が認められるわけではないと判示した。Race Tires Am., Inc., 674 F.3d at 169-70。根本的に、Race Tiresの裁判所は、1920条(4)に基づいて費用償還するためには、「物理的な文書の準備及び複製」によって費用が生じなければならないと述べた。同上(引用元省略)。
さらに、Eディスカバリー費用は、「技術的な専門性」を持つ第三者的なコンサルタントによってコピーを作成する作業が行われているからという理由だけで、費用償還不可とされたわけではない。同上169ページ。Race Tiresの裁判所は、その作業を行うために必要な専門性や作業を行う者が誰であるかといった要素は、1920条(4)の文言から導きだされる要素ではないと判示した。同上。実際に、Race Tiresは、第9連邦巡回控訴裁判所のRomeroルールが、長い間、これらの種類の費用について、1920条(4)に基づく費用償還を認めてこなかったと述べた。Romero v. City of Pomona, 883 F.2d 1418, 1427-28 (9th Cir. 1989) (1920条(4)は、文書の提出に関する「知的作業」にまで拡張される者ではなく、物理的な準備や複製にのみ適用されると判示)参照、ただし他の理由で判例変更。
Romero ルールは、Eディスカバリーに関する費用の償還を否定するために、地方裁判所によって解釈されてきた。たとえば、Oracle v. Googleにおいて、Googleは、Eディスカバリーの費用として、300万ドル近くの費用請求を行った。Oracle Am., Inc. v. Google Inc., 2012 WL 3822129, at *3 (N.D. Cal. Sept. 4, 2012)。裁判所は、その費用は、ディスカバリー文書を整理したり、検索したり、分析したりするためのものであり、そのような「知的な活動」の費用は、Romeroの下、償還可能ではないという理由で、GoogleのEディスカバリー費用の請求を完全に否定した。同上、また、Gabriel Techs. Corp. v. Qualcomm Inc., 2010 WL 3718848, at *10-11 (September 20, 2010) (Eディスカバリーのコンサルタントフィー関する150万ドルの費用償還の保証申立てについて、その作業が、知的活動であり、「文書の物理的な準備及び複製」ではないことを理由に、否定した)、Computer Cache Coherency Corp. v. Intel Corp., 2009 WL 5114002, at *4 (N.D. Cal Dec. 18, 2009) (OCRやメタデータ抽出に関する費用は、「文書の物理的な準備及び複製」ではないという理由で、Eディスカバリーに関する費用として請求されたもののうち、半分以下しか認容しなかった)も参照。
Race Tires後の状況
第3連邦巡回控訴裁判所は、「同巡回区の地方裁判所に対して、Eディスカバリーの費用がどの範囲で償還可能であるかという問題についての明白な指針を提供することが必須である」と判示した一方で(Race Tires, 674 F.3d at 160)、他の巡回区における地方裁判所決定の多くもまた、Race Tiresの判示したルールに従う傾向にある。本稿執筆時点で、7つの巡回区の5つの地方裁判所が、Race Tiresで示された分析に基づいて、Eディスカバリー費用の大部分の償還を否定している。たとえば、El Camino Resources, Ltd. V. Huntington Nat’l Bankにおいて、裁判所は、Eディスカバリー費用の償還の適切性については様々な考え方があるが、「よく理由付けされた」Race Tiresのアプローチは、拡大して適当するアプローチが不適切であることを説得的に示していると述べた。El Camino Resources, Ltd. V. Huntington Nat’l Bank, 2012 WL 4808741, at *5-7 (W.D. Mich. May 3, 2012) (請求されたEディスカバリーコスト8万4000ドルのうち、2000ドルのみの償還を認めた)。
同様に、Johnson v. Allstate及びCountry Vitner v. Gallo Wineryにおいて、裁判所は、Race Tires決定を「説得的」で「役立つ」と述べ、Eディスカバリーに関する費用を「コピーの作成」に限定し、「訴訟データベースの作成、電子蓄積情報の処理、及びメタデータの抽出といった、Eディスカバリーに関する提出前の処理費用の償還を否定した。Johnston v. Allstate, 2012 WL 4936598, at *6 (S.D. Ill. Oct. 16, 2012) (12万2000ドルのEディスカバリー費用を償還できない「電子蓄積情報の収集、保存、処理、検索、抜粋、抽出」として否定した)、Country Vitner v. Gallo Winery, 2012 WL 3202677, at *2-3 (E.D. N.C. Aug. 3, 2012) (11万1000ドルのEディスカバリー費用を否定し、「ネイティブデータのTIFF及びPDFフォーマットへの変換やファイルのCDへの変換といったコピー作業」に対する218.59ドルのみを認めた。)。
反対方向の意見として、少なくとも一つの地方裁判所は、第3連邦巡回控訴裁判所の見解に従うことを拒否している。In re Online DVD Rental Antitrust Litig.において、第9巡回区のカリフォルニア北地区地方裁判所は、70万ドル近くのEディスカバリーコストを敗訴当事者に償還させることを認めた。In re Online DVD Rental Antitrust Litig., 2012 WL 1414111 (N.D. Cal. April 20, 2012)。裁判所は、拘束力のある第9連邦巡回控訴裁判所の判例を欠く状況において、事件の事実関係の下では、費用償還を広範囲に認めるアプローチが適切であると判示した。同上1ページ。注目すべきは、裁判所が、2ページの簡潔な決定において、「知的作業」に対する償還を否定した第9連邦巡回控訴裁判所のRomero決定について触れなかったことである。
対照的に、より最近、他の事件で、カリフォルニア北地区地方裁判所は、Race Tires及びRomeroが示した見解に従い、償還できる費用をTIFFへの変換、OCR、CD、DVD及びHDの複製に関係するものに限定し、社内でのEディスカバリー費用20万ドルのうち、2万ドルのみの償還を認めた。Plantronics Inc., 2012 WL 5269667, at *17-18。また、この決定は、Race Tires及びRomeroの下、Eディスカバリーの費用償還の申立てを成功させる可能性を高めるために、訴訟当事者が従うべき「最良の実務」の参考にもなる。まず、訴訟当事者は、規則54条(4)の推定について、勝訴当事者が1920条に基づいて各費用について償還可能とするために、費用を詳細に項目化する必要があり、請求する費用について、詳細で項目化されたリストを準備すべきである。同上5ページ(Oracle America, Inc., 2012 WL 3822129, at *3引用)。第二に、訴訟当事者は、裁判所が「知的作業」と考えるような費用項目の説明を注意深く避けなければならない。そうしないと、Romeroルールに基づいて、費用償還を否定される危険性がある。同上21ページ。他に注意すべき点として、より費用がかかる代替的なフォーマットで文書を提出することは、特に、相手方当事者がそのフォーマットを要求していない場合には、裁判所によってその費用を否定される根拠とされるので、避けるべきである。同上23ページ。とりわけ、訴訟当事者は、Eディスカバリーの費用償還の場面においては、貪欲であることは良くないことであるということを忘れてはいけない。多大な費用請求書の提出、不誠実な会計、意図的である不明瞭な説明は、「請求の却下やときには償還可能な費用まで否定される」結果となるだろう。同上3ページ(Jansen v. Packaging Corp. of Am., 898 F. Supp. 625, 629 (N.D. Ill. 1995)引用)。
最高裁判所もゆくゆくは1920条(4)の適用をRace Tiresと同様に制限する可能性がある
最高裁判所は、Race Tiresにおいて、上告受理申立てを受理しないという選択をしたため、第3連邦巡回控訴裁判所以外では、Eディスカバリー費用の償還について明白な判例は存在しない。しかしながら、2012年始め、最高裁判所は、1920条(6)に基づいて費用償還可能なコストのカテゴリー(「通訳者の報酬」)の範囲について判示したが、これは最高裁判所が1920条(4)に基づいて償還可能なEディスカバリー費用の範囲をどのように解釈する可能性があるか考える上でも参考になる。
最高裁判所は、「通訳者」という言葉には口頭以外での翻訳を含めることはできないと述べ、1920条に基づく訴訟費用の償還について比較的制限的な立場を示した。Taniguchi, 132 S. Ct. at 2005。最高裁判所は、償還可能な費用は、「狭い範囲」に限られており、「比較的重要でない、付随的な支出」に限られていると述べた。同上2006ページ。最終的に、最高裁判所は、文書の書面による翻訳についての費用償還を拒否するようにという指示つきで、事件を第9連邦巡回控訴裁判所に差し戻した。
Taniguchiは文書の翻訳費用に関する判断であるが、Race Tiresにおいて上告受理申立てを受理しなかった決定とあわせると、Taniguchiの要旨は、最高裁判所が、1920条(4)を用いて、訴訟当事者がEディスカバリーに関連する費用のすべてを請求できるという議論に同調しないことを示しているようにも見える。
結論
Race Tires及びそれに続く訴訟は、訴訟を行う企業に対して様々な結果をもたらす。一方では、Race Tiresは、(少なくとも第3巡回区においては)敗訴当事者が、判決後に数百万ドルにのぼる可能性のある相手方当事者のEディスカバリーに関する費用を負担させられることを防ぐことになる。しかし、他方では、Race Tires及びそれに従う決定は、本案の請求に原因がない場合であっても、勝訴当事者が依然としてEディスカバリー費用の大部分について責任を負うことになるという重大な危険をもたらす。皮肉なことに、唯一の解決策は、問題そのものと同じところである、テクノロジーから導かれるのかもしれない。もし、企業が、電子蓄積情報の処理及びEディスカバリーの初期段階からより完全な自動化をできるならば、この問題はやがて解決される可能性がある。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
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マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
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