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ヘイロー事件後、特許損害賠償実現は困難の見通し (17/04/27)
背景
2016年のヘイロー対パルス事件にて最高裁は、特許事件に関する損害賠償に起因する問題に介入し、議会によって制定された特許法と折り合わないという連邦巡回裁判所による既存の見解を却下した。この判決は数々の火付け役となり、特許保持者がヘイローの「ゆるい」基準下で精算し始めるだろうと予測された。しかし、ヘイローに関する最近の例をふまえると、異なる結果をもたらしていることが分かる。
ヘイロー事件以前に、連邦巡回裁判所は特許法第284条下における損害賠償の基準を2007年のシーゲート事件で制定している。シーゲートは特許保持者に対し明確かつ説得力のある証拠として次のような2段階検査を作成した:(1)「侵害者が有効な特許の侵害行為となる高い可能性を持つ行動にもかかわらず、実行した」(例、客観的な無謀さ)。(2)侵害のリスクが「既に知られているあるいは疑問の余地がないほど明らかな場合、被告である侵害者も把握しているはずである」
ヘイローは284条の通俗的な言葉と直接的に食い違うとしてシーゲート事件での検査を拒否している。とりわけ、この条件では裁判所が「発見または評価された額の3倍まで賠償額を引き上げる可能性」のみについて言及しており、そのような賠償を引き上げる際の条件は一切制定されていないと主張。
結果的に裁判所は無謀行為の発見に対し284条下にそのような条件が存在しないとし、命じられた賠償の前提にならないと理由づけた。
(284条内の)「可能性」という言葉が明らかな裁量を暗示するため、最高裁は「地区裁判所は損賠賠償をどのような額で命じるかといった判断における裁量を楽しんでいる」という見解を示したにもかかわらず、裁判所は損害賠償の規定を緩めることはないと結論づけている。
それどころか、裁判所は、地方裁判所により柔軟性を与えるべく、シーゲートの「過度に厳密」で「適応性のない制約」を却下した。
そうした柔軟性は地区裁判所がより過失のある侵害者に対する損害賠償を評価する許可を与えることを目的としている。
ヘイロー事件後に発生した事件について
まだ1年も経っていないうちに、ヘイローは既に60件以上もの公表・非公表の判決、そして200件にもおよぶ論文や出版記事内で広く引用されている。最高裁によるヘイロー事件の判決への第一印象として柔軟性の向上が損害賠償の劇的増加につながるかといった疑問が浮上したが、今のところ裏付けられていない。むしろ、裁判所は自身の裁量を慎重に行使しており、最高裁によれば侵害が「故意、不道徳、悪意があり、また不誠実で意図的な不正であり、目に余る剽窃者を特徴づける」場合のみ損害賠償を命じている。
例えば、陪審によって故意の侵害が発見された後も、幾つもの裁判所において自身の裁量を用いて損害賠償を却下するケースもあった。ボストン大学対エバーライト 事件では裁判所は故意の侵害が発見されたものの「被告が特許738を意図的にコピーしたわけではない、チップの隠蔽を侵害とみなしていない、特許範囲を合理的に調査し、自身の商品が彼らが思う真っ当なクレーム解釈を持って侵害していないという誠実な信念がある」として損害賠償を求めなかった。同様にソシエダド・エスパニョ-ラ対ブルーリッジ事件で裁判所は陪審が故意の侵害を発見した後も、「陪審によって発見された故意の損害は…損害賠償を命じるに至らない、ましてや3倍賠償も課せられない」と損害賠償申し立てを却下した。さらに裁判所は「ヘイロー事件の後に損害賠償を命じる基準は言語両断である」とし、被告はそのような行為に携わっておらず:「被告は[原告の]特許請求に対する合理的な調査を行い、特許が彼らの行動によって損害されておらず、その特許がおそらく無効であると考えた誠実な判断を証拠として提示した」
同様にプレジディオ・コンポーネンツ対アメリカン・テクニカル・セラミック事件で、裁判所は「ヘイロー社は…故意の侵害の発見時に必要のない損害賠償を保留させた」とし、原告の損害賠償における申し立てを「その行為は競合である2社間におけるありふれた激戦的特許侵害行為にしかすぎない」として却下した。
結論として、ヘイローは284条下における損害賠償を評価する際の柔軟性を裁判所に与えているが、シーゲートの「過度に厳密な」枠組みを取り外すことに対しては慎重に対処されており、多くの場合侵害がひときわ顕著でない限り損害賠償は命じられていない。ヘイロー事件によって一斉に損害賠償が命じられるという最初の懸念は実現しないようにも見受けられるが、ヘイローによる真の影響は時とともに明らかになっていくだろう。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
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