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SCA Hygiene事件後に続く特許事件の公正な抗弁について (17/06/25)
2017年3月21日、連邦最高裁判所はSCA Hygiene Products Aktiebolag 対 First Quality Baby Products, LLC, 580 U.S. ___, No. 15-927, slip op. (2017年3月21日)に関して待ち望まれた意見を公開し、特許侵害に対する損害賠償申立ての衡平における懈怠原則に対する抗弁を排除した。これにより裁判所は侵害被疑者が得られる衡平抗弁の体制を明白化した。衡平法上の禁反言(エストッペル)は大抵懈怠原則に沿って主張、弁償されており、当事者達が侵害被疑者の行為における特許権所有者によって特許権所有者の許可に関する推論を生じさせるような既存の関係を持つ場合に得られる抗弁として持続される可能性がある。
特許侵害抗弁時の懈怠は今後与えられない
SCA Hygiene事件での裁判所の判決は特許事件の抗弁における懈怠を排除する形となった。裁判所は35 U.S.C. § 286. SCA Hygiene, slip op. at 16にて規定された6年間の損害回収期間内にて取り上げられた特許侵害申立てに対する抗弁に懈怠は与えられないと見解を示した。
裁判所はPetrella v. Metro-Goldwin-Mayer, Inc., 572 U.S. ___ , 134 S. Ct. 1962 (2014)事件において懈怠が著作権侵害申立てを妨げることはできないと断定した論理に従ってこの判決に至った。
裁判はまたPetrella事件において特許法の3年間の期間制限が対象となる申立ての適時性が事件特定の懈怠判断よりも”一般的に厳しい原則の基準に基づいて判断されるほうが良いという議会の判断を必然的に反映している”と理由づけた。SCA Hygiene, slip op. at 4 (Petrella, slip op. at 14を引用).
こうした事件にて懈怠を適用させることは”判事に対し、司法権を超える’法律を無視する’役割を与える”ことになる。Id. 同様に、裁判所によってSCA Hygine事件にて”告訴あるいは反訴申立てが6年を超えて行われた侵害に対するいかなるリカバリもなされない”という特許法の規定が”特許所有者が告訴申立て日から遡って6年以内に行われたいかなる侵害に関する損害のリカバリも可能であるという議会の判断”を表していることが判明している。Id. at 6.
従って、裁判所は懈怠が第286条下における6年以内に発生した損害に対する特許事件の抗弁として使用できないと判断。Id. at 4, 16.
衡平法上の禁反言における原理について
懈怠は使用不可となるものの、衡平法上の禁反言は特許侵害における申立ての抗弁となり得る可能性があり、また懈怠と密接に関係している。 SCA Hygiene事件にて裁判所は衡平法上の禁反言が懈怠とは異なり、特許所有者がほぼ間違いなく違反となる製品への投資を行うよう侵害被疑者に説き勧める問題への予防となると明確に述べている。SCA Hygiene, slip op. at 16.
衡平法上の禁反言は度々遅延につながることがあるが、重視すべきは誤認を招く行為及びそのような行為に依拠した侵害被疑者についてである。衡平法上の禁反言は頻繁に懈怠抗弁と連携していると断定されているが、これら二つの抗弁における要素や効果は異なるものである。
SCA Hygiene事件に先立った特許事件における懈怠抗弁は遅延によって侵害被疑者に対する提起及び重大な損害をもたらす特許所有者による不合理で弁解の余地のない遅延時にのみ必要とされていた。 A.C. Aukerman Co. v. R.L. Chaides Const. Co., 960 F.2d 1020, 1028 (Fed. Cir. 1992)。懈怠は提起前の損害のみに対する抗弁となり得る。 Id. 対照的に、衡平法上の禁反言は遅延や損害以上が必要とされる。
その必要事項として:(a)特許所有者による誤認を招く行為(または沈黙)により特許所有者が自身の特許を強要しないと侵害被疑者が合理的に推論するに至る;(b)特許所有者の行為に対する侵害被疑者の信頼;そして(c)特許所有者による申立て続行が許可される場合の重大な侵害が挙げられている。Id.
従って衡平法上の禁反言は懈怠とは異なり、特許所有者側による行為がいくらか必要となってくるのである。確定すれば衡平法上の禁反言は提起前の損害のみならず申立てに関するすべての救済を妨げることとなる。Id. at 1028, 1041.
衡平法上の禁反言の実行について
衡平法上の禁反言は期間を重要視しておらず、特許所有者の行為が自身の特許を強要しないと示唆しているかという部分にあり、調査の焦点は特許所有者及び侵害被疑者間の関係性であることが主である。長期に渡る沈黙に続く特許強要のあからさまな脅迫があれば衡平法上の禁反言が持ち出される可能性もある。例えば、特許所有者が複数の特許に関する侵害通知書を提供したものの、該当特許のうち一部のみ追求している場合、特許所有者が省いた特許に関して続行する意図がないと侵害被疑者が推論することは合理的であるとも捉えられる。
Aspex Eyewear Inc. v. Clariti Eyewear, Inc., 605 F.3d 1305 (Fed. Cir. 2010)事件で特許所有者は侵害被疑者に対し、侵害被疑者の製品のうち”一部”が特許所有者の特許のうち4件において対照となる”可能性”があると主張した手紙を送っている。Id. at 1308.
数日以内にAspex社は5件目の特許に関してどの製品がどの申立てを侵害しているか特定されていない同様の手紙を送っている。Id. at 1309.
侵害被疑者は特許所有者が主張する申立てや製品の製造番号を含めたより詳細情報を求める返答を行った。 これを受けて特許所有者は元の文書にて記載し、侵害被疑者がそれに対し返答した該当する5件の特許のうち2件の申立てについてのみ明らかにした。Id.
その後3年間連絡が途絶え、再び文書が届いた際に特許所有者は3年前に明記されなかった残り3件のうち1件についてのみ明らかにした。Id.
裁判所はこの一連の出来事に対し、特許における暗黙の撤退とみなすことが可能であり、特許所有者が特許を行使しないと推論することは理にかなっていると判断した。Id. at 1311.
Radio Systems v. Lalor, 709 F.3d 1124 (Fed. Cir. 2013)事件において裁判所は、侵害被疑者が初回催告書に返答したのち特許所有者が4年半以上も沈黙を貫いたことで衡平法上の禁反言認定を主張した。709 F.3d at 1125, 1130.
侵害被疑者との継続する関係性に基づいた特許所有者による行為は衡平法上の禁反言認定へとつながる可能性がある。
High Point Sarl v. Sprint Nextel Corp., 817 F.3d 1325 (Fed. Cir. 2016)事件において裁判所は、前任の特許所有者が関心のある特許について、Sprint社と連携したCDMAネットワークに関して自身の特許侵害に対する懸念を主張しなかったことで衡平法上の禁反言への略式判決を下した。被告であるSprint社は特許前任者であるLucent社とライセンス契約及び供給契約を結んでおり、その他売り手とのSprint社のCDMAネットワークの総合運用性の標準規格開発を行っていた。
長年にわたりSprint社のネットワークは拡大し、特許所有者による異議申立てのないまま複数の売り手により供給された無認可の機器を使用していた。
実際、特許所有者は”侵害懸念に対する沈黙のみならず、特許に関するライセンス契約に積極的に関与しており、その他侵害の可能性がある売り手と総合運用性について意見を交わし、ビジネス関係を継続していた”のである。817 F.3d at 1331.
この特許に関する沈黙と並行して行われていた構築及び開発から得る利益への援助を踏まえ、Sprint社のネットワークが衡平法上の禁反言認定を支持するに十分な誤認を招く行為であったことがわかる。
同様にMass Engineered Design, Inc. v. Ergotron, 633 F. Supp. 2d 361, 386 (E.D. Tex. 2009) 事件で裁判所は、該当製品における特許所有者及び侵害被疑者間における6年もの期間が衡平法上の禁反言認定を支持するに十分であると判断している。
この事件では特許所有者が侵害被疑者の製品を特許に関する言及や主張をすることなく6年間もの間販売しており、更に侵害被疑者に対しその他対象を通じた該当製品の販売を奨励していた。Id. at 386.
特許所有者による該当製品の販売助長は侵害被疑者が特許所有者が自身の特許権を主張しないと信じるに至る十分な行為であった。Id.
訴訟における侵害被疑者の興味深い方法の一つとして、交渉時に特許所有者に対しサンプル製品を提示し、特許所有者による指示がない限り新製品が非侵害対象となることを伝えるものがある。Scholle Corp. v. Blackhawk Molding Co., Inc., 133 F.3d 1468 (Fed. Cir 1998)事件を参照のこと。
Scholle事件では前任の製品に関する訴訟開始後、侵害被疑者が新しいデザインのサンプルを特許所有者に提示し、特許所有者による反対がない場合であれば新しいデザインは非侵害対象であると主張した。Id. at 1470.
特許所有者は新製品に関して返答を行わず、その間も両当事者は進行中である前任製品の訴訟についてなどを含むその他事項に関してやりとりを行っていた。
裁判所はこのような協力的行為に関して、とりわけ以前のような脅威を考慮すれば、特許所有者が製品のデザインに基づく訴訟を行わないという理論的な推論を生じさせると判断している。 Id. at 1470-71;John Bean Techs. Corp. v. Morris & Assoc., 2016 WL 7974654 (E.D. Ark. Dec. 14, 2016)も参照のこと。(侵害被疑者の顧客に対し訴訟を脅迫していた特許所有者へ積極的に申立てがなぜ無効であるかを説明する内容の手紙を送っていた侵害被疑者に対して略式判決を下した;特許所有者は一度も返答することなく、かつ12年近く経って訴訟を起こしたのである)。
特許所有者が特定の特許取得手続きや特許申立てを行わないという理論的な推論だけでは衡平法上の禁反言は確立されない。侵害被疑者は自身が特許所有者の誤認を招く行為に依拠していたことを示さなければならない。
依拠に関する事実は該当製品の拡大販促や、該当製品の拡大販売、該当テクノロジーを用いた製品部門の拡大、及び/または工場建設や該当製品を製造、販促、そして販売するための従業員の雇用に伴う支出増加などが含まれる可能性があり、これらは特許所有者が訴訟を行わないという理解に基づいて最低でも一部分において着手されていることを前提にしている。 誤認を招く行為について、当事者による行為の経緯は依拠に関して説得力のあるものである可能性がある。
例えば上記で述べたAspex事件において、同じ特許所有者が以前にもその他特許について訴訟を起こしており、侵害被疑者は該当製品を市場から撤退させる差しどめ命令に同意する旨の返答を行っていた。 侵害被疑者は特許所有者が侵害を懸念する最初の手紙の後、3年も沈黙することをせずに訴訟申立てを行っていた場合、製品撤退を行っていただろうと証言している。Aspex, 605 F.3d at 1312.
最後に、のちに侵害を申し立てられることとなる製品部門を入手した企業はその前任者と特許所有者間の交渉過程を探索すべきである。衡平法上の禁反言は契約関係が結ばれている後任関係者に適用される。Radio Sys. Corp. v. Lalor, 709 F.3d 1124, 1131 (Fed. Cir. 2013)を参照のこと。
従って、特許所有者は後任企業が催告書の存在を知らず、また催告書後の沈黙に依拠しなかったという抗弁は衡平法上の禁反言による有効な抗弁を破ることができない。Id. at 1130-31.
懈怠は特許所有者による断定的行為の証明の要求は必要としておらず、実際に懈怠に有利となるために重要である衡平法上の禁反言を証明する追加の証拠に大幅な遅延がない限り単に免責されない遅延を必要としているのである。
従って懈怠は特許侵害に対する実行可能な抗弁とはならないものの、これら衡平法上の禁反言に関する抗弁の開示における影響に変化は見られないだろう。
懈怠抗弁を指示するSCA Hygiene 事件前に展開される同様の事実は引き続き衡平法上の禁反言における開示の焦点となるだろう。
特許所有者の見解
商取引の過程及び侵害可能性のある市場規制中において、特許所有者は自身の行為が特定の法人に対して特許権を主張しないであろうという錯覚を抱かせる行為か否かを慎重に考慮すべきである。もし特許権所有者が非侵害または無効性を主張された場合、訴訟へ応答あるいは開始すべきである。
例えば、もし、催告書にて接触を始めたにも関わらず、特許権所有者がその時点で訴訟に進む意図がない場合、ひとまず経過観察の検討を行い、最低でも侵害被疑者の返答に反対する旨を伝えて将来的な侵害に関するあらゆる権利を保護するべきである。
もし侵害被疑者が自身の売り上げは僅少でありそれ以上の追求に足りないと主張した場合、特許権所有者は与えられた表明に基づいて訴訟を控えているが、状況が変わり次第すべての権利を保留すると返答することができる。
また、もし特許権所有者が僅少の売り上げ主張に対する返答を行わない場合でも、侵害者は続く沈黙が状況変化によって将来的な行為を示唆すると合理的に依拠しきれない可能性があることも念頭におくべきである。
特許権所有者はまた、事前に競合候補に対し率先的に警告を与えることを選択することもできる。これは例えば、まだ市場に参入していない競合がテクノロジー侵害につながりかねないプロジェクトに入札している可能性がある場合などが挙げられる。
無論、侵害の可能性に対する継続した警告は”衡平法上の禁反言を生じさせるに必要な行為とは真逆になる。Vanderlande Indus. Nederland BV v. ITC, 366 F.3d 1311, 1325 (Fed. Cir. 2004)を参照のこと。
侵害の可能性がある者との有益なビジネス関係過程における特許権所有者による考慮の重要なポイントとして特許権や損害可能性を生じさせる理由及び方法がある。
特許権所有者が将来的に特許権を主張する能力を温存する限り、黙諾や既知の侵害を継続して助長させる様子を見せてはならない。
Sprint Communications Co. v. Time Warner Cable, Inc., 2017 WL 978107 (D. Kan., March 14, 2017)事件で裁判所は特許権所有者及び侵害被疑者間の取引過程当事者間の契約が侵害者に対し”いかなる知的財産権も与えられないと明治されている”ため侵害被疑者が誤解をうけることはないとし、また特許権所有者が侵害被疑者に対し特許権を行使しないと示唆した証拠が見つからないと理由づけた。Id. at *4.
同様にRobertson Transformer Co. v. General Electric Co., 191 F. Supp. 3d 826 (N.D. Ill. 2016)事件で裁判所は略式判決を却下し、特許権所有者及び侵害被疑者間における”すべての通信記録”下にて記載されていた当事者達の合同プロジェクトが”当事者間でのロイヤリティ契約について明白に言及している”ため衡平法上の禁反言に該当しないと判断。 Id. at 834.
また当事者が侵害紛争の可能性を認識し、その譲歩として損害権を保持する時効期間の停止に合意することも可能である。
既存の特許を取得した特許権所有者は前所有者及び侵害可能者間の関係性を調査するべきである。衡平法上の禁反言の効果は発明の使用が特許持続期間終了まで延長されるための許可につながることである。High Point Sarl, 817 F.3d at 1331を参照。
従って、特許権の後続購入者は損害に対する前保持者の誤認を招く行為に依拠した侵害被疑者から衡平法上の禁反言を取り出すができるかもしれない。
教訓:常にフォローアップを忘れないこと
実際問題として特許権所有者及び侵害被疑者共において重要なのは当事者間の行為や特許権所有者が特許権の行使をしないという推論に支持(または反論)する行為や事実の有無を特定する関係性とコミュニケーションである。
結果的に、以下のような事実の調査及び展開を行うことが重要となる:
特許に関する主題であるテクノロジーにおける当事者間の関係性について。特許権所有者が侵害可能性を把握し、侵害被疑者に対し言及する立場にあるべきか?
特許または該当製品の前任者がどのように関与していたのか?
特許権所有者及び侵害被疑者間における特定のコミュニケーションについて。特許権所有者は特許や、特定の申立て、そして該当製品に対する特定の申立てを把握し、特許権所有者が申し立てられた侵害を承知していたことが示唆されているかどうか?
侵害通告に返答する侵害被疑者による明白なコミュニケーションについて。行われた主張に対し侵害被疑者は特許権所有者へどのように返答しているか?
特許権所有者による侵害被疑者への返答はどのようなものであるか?主張について両当事者が違いに持つその他ビジネスに対立した沈黙期間が存在しているか?
特許権所有者が最後に侵害被疑者に対して主張に関するコミュニケーションを行った後、侵害被疑者はどのような行動をとっているか?この証拠は実際の依拠の立証みならず、損害の証明を支援する信頼の度合いも記録されるべきである。
衡平法上の禁反言はいかなる厳密式にも値しない具体的事実における抗弁である。侵害被疑者及び特許権所有者両者にとって全ての特許所有者の行為、その行為が侵害被疑者及び関係者によってどのように認識されているか、侵害被疑者がどのようにその損害における行為に依拠し損害の程度を経済的及び証拠に基づく観点から測っているかといった事実を整理することが重要となる。
多くの場合、事実は最後に返答を行った相手、及び特定の主張に関する沈黙の期間や無活動によって決められる。大抵、それらは侵害可能性における問題について最後に誰が主張を行ったかという部分にあたる。
国際仲裁
損害への焦点:損害賠償額を判断する仲裁の(自由)裁量は両当事者側にも積極的戦略が求められる。
国際仲裁は商業上及び投資協定の状況において、契約当事者達にとって紛争解決につながる効果的な場であることが証明された。国際仲裁の実情調査を行う目的は当事者達に対し、違反の有無及び該当する違反に対する責任を負わせる明白な許可を与えている。実質的権利の判断はその過程において重要となるが、ほとんどの事件で当事者達は金銭的な補償に関する重要な申立てがなされない限り仲裁に頼ることはない。申立人及び答弁者共に、損害は仲裁過程の中核をなしている。
Crystallex International Corp. v. Bolivarian Republic of Venezuela, No. 1:16-cv-00661 (D.D.C. Mar. 25, 2017) 事件に関するコロンビア特別区合衆国地方裁判所による最近の判決では、仲裁人が(連邦仲裁法及び外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約に関するニューヨーク条約に限られた)損害賠償額の裁定やその額の計算方法について証拠及び専門家による書類に基づく判断などの大幅な裁量を持っていることが確証された。
Crystallex事件での判決は仲裁する当事者が損害が脇に置かれる、あるいは後続の司法行為による改正などの期待無く仲裁時の損害や評価請求に関して積極的に追及、反対するべきであることを表している。
Crystallex事件の判決について。Crystallex社はベネズエラでの金鉱床における権利に投資したカナダ企業である。
最終的にベネズエラは採掘許可証の発行に失敗し、Crystallex社はカナダ及びベネズエラ間の二国間投資協定下において申立てを行った。
2016年ICSIC仲裁廷はベネズエラがCrystallex社の投資について“平等かつ公平な待遇”の責任、及び収用の責任があると判断した。
その上、仲裁廷はCrystallex社に対し損害金として12.02億ドルを与えた。
仲裁時にCrystallex社は損害計算を行う4つの異なる手法を提出している: “株式市場”手法−ベネズエラの行為がなかった場合のCrystallex社の仮定的株価評価を査定する;”複数市場”手法−Crystallex社を行為による影響のなかったその他市場参加者と比較する;“P/NAV”手法−Crystallex社の価値における仮定的変更を査定する;“関節売買比較”手法−企業価値をその他同様特性と比較する。
仲裁廷は“株式市場”及び“複数市場”の損害モデルを認可し、これら二手法の結果を平均することで最終損害金を決定付けた。
決定取り下げに移行するにあたりベネズエラは仲裁廷がこれらモデルを採用することでニューヨーク条約V(1)(c)条下における“余剰な権限”に基づく行為であると反論。
“株式市場”モデルに関してベネズエラは仲裁廷が法律上成立する収用日前の行為を誤って査定したと主張した。
裁判所はこれに対し、与えられたモデルは適切であるとみなして却下しているが、仲裁判断の報告における規格は仲裁廷による“深刻な誤り”が存在したとしても損害を脇に置くことは許されないと結論付けている。Crystallex, slip op. at 25 (citing Stolt-Nielsen S.A. v. AnimalFeeds Int’l Corp., 559 U.S. 662, 671-72 (2010)).
裁判所は“複数市場”モデルに関する価値の可能性についてはさほど言及していないが、同様にベネズエラの反論が仲裁判断の妨害を“認可するには不十分な誤りでしかない”と却下している。Id. at 27.
決断を下すにあたって差別的損害モデルを平均化する仲裁廷の判断に裁判所がいかなる懸念も示していないことも注目に値する。
申立人に関する予測について
仲裁、訴訟における申立人は損害を含む申立てを証明する責任を負っている。
Crystallex事件ではもし妥当な場合、申立人は仲裁時に幾つかの損害想定を主張することを検討してもよいだろう。仲裁におけるほとんどの制度的規則は仲裁人に対し証拠や専門家による文書を採用する大幅な裁量が与えられている。
仲裁における申立人はこれらの規則を応答者の責任のみならず、損害計算も踏まえた証拠として提出することが勧められる。
実際、Crystallex事件において法廷は4つの異なる損害モデルを提出されており、“互いに矛盾のない”とされるそのうち2件の平均を出すことで判決を下している。Crystallex, slip op. at 7.
異なる損害分析が非常に分岐された結論に至らない限り(一例として証拠の根本的事実が共通結果を確実に指し示さないなど)、申立人は複数の損害反論を提出するべきである。
複数モデル、または与えられたモデルの平均から損害額を設定する仲裁人の能力は申立人に対し賠償額に関する反論を強化し、特定の損害手法への抗弁に対する隔離を行う機会を与える。
実際、損害計算を確立している間(及びそれら計算を査定し支持するコンサルタントや専門家との取り組みの間)は仲裁経費での大幅な予算項目となる可能性があり、Crystallex社の結果ではこの経費が回収へのチャンスを高め、更には仲裁判断に対する最終的な司法異議への隔離を提供するものとなった。
答弁者に関する予測について
Crystallex社は仲裁における損害異議の積極的な争いの重要性を促進させている。
Crystallex事件の裁判所によって注記されているように、裁判官は仲裁廷が導き出した損害合計が“いかに明確に我々の限られた審査視野範囲外にあるか”といった部分を問い調べている。Crystallex, slip op. at 20 (Kanuth v. Prescott, Ball & Turben, Inc., 949 F.2d 1175, 1182を引用 (D.C. Cir. 1991). 従って、答弁者が仲裁判断における損害合計を排除または減少させる最適な機会は未だ仲裁廷そのものである。
答弁者は申立人によって提出されたあらゆる損害想定に反論し、妥当な事例では、損害算定において(法廷に対し申立人が責任に関して優勢である仮説で使用する)対立する手法の提出を検討することが懸命である。
しかし、ほとんどの法的制度下において答弁者は損害を反証する積極的義務は持ち合わせておらず、答弁者は損害反論を軽視しないよう慎重にあるべきである。これは仲裁裁判権に対する勝訴の成功見込みや、申立人の実質的申立て本案に対し優勢である場合でも該当する。
何より、答弁者は損害に関する反論を上告趣意書や尋問での提示のみに制限するべきではない。事件全体にわたって損害反論を含めることにより、仲裁人が適切な段階で反論を聞き、査定する準備を整える保証となる。
様々な面においてCrystallex事件での判決は目立つものではない:裁判所は損害額を決定する仲裁人の適正を踏まえ十分に確立された慣例を適用している。
しかし、判決に関しては根本的なICSIDの裁定は損害額に関する反論が国際仲裁にて扱われることによる巧妙化の増加を反映している。現在、申立人及び答弁者は仲裁戦略を策定するにあたりより一層積極的に損害反論を含めなければならない。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
chietogawa@quinnemanuel.com