お客様にとってもっとも関心のある知財や独禁法・金融・労使関係などの最新の話題をお届けします。
御社の法務・経営戦略にお役立てください。
-
条約上の保護を確保する為の対外投資のストラクチャリング (16/12/15)
ビジネスで対外投資を行う場合、税務やその他の恩恵を最大化できる地域(マン島やバージン諸島等)を介してストラクチャーを組むことが、一般に行われている。しかし、収用や税の徴収といった外国政府の介入からの保護を得るために、対外投資のストラクチャーを組もうとする投資家は、それほど多くないと思われる。投資家は、濫用的な政府の行動から投資家を守る条約のネットワークの存在につき、気づいていないことがある。このネットワークの恩恵を得るには、事前のプランニングが必要となる。
これらの条約には、二国間で締結される条約(二国間の投資協定又はBITs)、エネルギー投資といった特定の事項に関連する複数国間の投資協定や特定地域における投資協定(多国間投資協定又はMITs)及び自由貿易協定(FTA)が含まれる。BITs、MITs及びFTAsでは、特別の法廷において、海外投資家が投資先国に請求することを認める等の保護規定を置くのが一般的である。しかし、これらの保護を受けるためには、条約上の利益を得るため、慎重に海外投資のストラクチャーを組むことが、強く要求される。
外国で投資を行う会社は、会社の種類や大きさにかかわらず、外国政府や役人との間で難しい壁に、時としてぶち当たる。例えば、ハンガリーによる、食料品店に対する最近の手数料や税の徴収は、海外の大きな食料品チェーンを標的にしたもののように思われる。その他の著名な例としては、近年、ベネズエラの国際的な石油メジャーや鉱業会社が、数時の国有化により経営が行き詰ったこと等が挙げられる
。
対外投資に対する収用や規制的収用といった介入は、もはや、発展途上国政府だけの問題ではない。世界的な金融危機を受けて、先進国も、海外投資家に不当な影響をもたらす規制的収用を行っている。例えば、近年、(民主主義への移行を果たして40年となる、欧州連合の加盟国である)スペイン王国は、再生エネルギーの投資家に対し行った規制措置に関連して、投資協定に基づく訴訟を世界で一番多く提起されている。ベルギーも、国が主導したFortis Bankの解散につき、中国の保険会社であるPing Anから訴訟を提起されている。
これまで述べた状況からすれば、海外の投資先国における投資は、(投資先国の政治リスクの状況にかかわらず)投資先国において有効な投資協定を有する国を通じて行うことが非常に望ましい、と言うことができる。以下、投資協定の概要と、投資について、どうすれば投資協定上の保護を受けることができるか、につき説明する。
投資協定とは何か?
投資協定は、対象となる海外「投資」の保護と促進を約束する国際公法である。対象となる投資には、有形無形の財産権、会社における利益、契約上の権利、ライセンス等が含まれる
。
BITs、MITs及びFTAs条約は、政治リスクからの保護を与えるものである。これらの保護は、特に、投資を公平かつ正当に取扱うようにする義務、迅速で十分かつ効果的な補償なく収用を行わない義務、投資先国の国民よりも海外投資を不利に扱わない義務、国籍を理由とする差別を行わない義務を含むものである。
これらの義務の違反に係る紛争ついては、一方的な仲裁要求により、仲裁にて解決する旨、各国は、Bits、MITs及びFTAsで合意している。これらの紛争は、一般的に、投資家と国家間の紛争を審理するために、世界銀行によって特別に創設された、国際紛争解決センター(ICSID)の名で知られている機関によるか、又は、国際連合国際商取引法委員会により定められた規則(UNCITRAL Rules)を用いた事件ごとの仲裁廷にて、判断されている。
投資協定上の保護を受けるための、投資のストラクチャリング
BIT又はFTAによる投資の保護を受けるためには、最初に、投資先の地域が他国と締結したBITsやFTAsを特定し、それが有効であるかを確認する必要がある。国が投資協定に署名しても、様々な理由から、それが国内で承認されず、条約が執行できないことや、国が条約を失効させてしまうことも、しばしばある。特定の国が当事者となっている投資協定を特定する方法はいくつも存在し、また、投資協定の仲裁を専門とする弁護士は、投資先国と他の国との間で締結された、最も有利な条約上の保護を受けることができる条約をピンポイントで助言することもできる。
関連する投資協定が特定できたら、(i) 投資に対する必要な保護を含んでいるか、(ii) 投資先国に対し、投資家が自ら請求することを認めているか、につき、調査しなければならない。必ずしも全ての投資協定が、完全な保護の規定を置いているわけではなく、また、保護規定の違反につき、国際仲裁を行うことすら、投資家に認めていないものもあるため、この調査は非常に重要である。
潜在的に適用となる投資協定を調査すれば、ビジネス判断をする上で、法域を比較し評価することができ、会社の投資ビークルや持ち株会社に対しても、税務や規制を含む、適切な投資協定へのアクセスを可能にすることができる。オランダやルクセンブルグといった地域や、英国領のオフショア、BVI、ジャージー、マン島やジブラルタルは、税制上の恩恵を与えることで有名であり、投資上の保護を併せ持つ広い投資協定のネットワークの一員でもある。
これらの段階を踏んだ上で、選択した法域にて持ち株会社を設立し、投資ビークルや特定の地域で設立された特別目的ビークルの上に同会社を配置するのが、典型的な手法である。ストラクチャーを組む前に、支配権等の問題を評価し、説明できるようにするため、法的助言を得ておくことは、非常に重要である。
重要なのは、条約上の保護を受けるために会社のリストラクチャリングを行うことは、プランニングの段階だけでなく、既存の投資についても行われるということである。1つの投資が投資協定の対象から外れていることが分かった場合、適用となる協定の保護を受けることができるよう、投資をリストラクチャーすることは可能である。紛争が生じた際に条約上の保護が受けられるよう、紛争が発生する前にリストラクチャリングが行われることが、極めて重要である。
条約上の保護の執行
投資先国において適用となるBIT、MIT又はFTAを有する法域を介して投資を行うようストラクチャーを組んだら、政府による干渉に対し、ICSIDにて、又はUNCITRAL規則に基づき、国に対して請求をし、救済を求めることができる。
例えば、2009年に、ベネズエラで、採掘に関する2つのコンセッションの開発に投資をしたカナダの金採鉱会社は、ベネズエラ政府が採鉱活動を中止し、最終的に当該コンセッションを終了させ、会社の資産を没収し、計画地を占領したため、政府の違法な介入の被害者となった。カナダ・ベネズエラ間のBITに基づき、ICSIDに訴訟提起することにより、カナダの会社は、BITにおける「公平かつ正当な取扱い」の基準にベネズエラが違反したことの損害として、7億6000ドルの救済を受けた。現在までに、ベネズエラは、損害額の50%を既に支払い、残りの金額全額を支払おうとしている状況である。
国家は、歴史的に、投資協定上の仲裁による賠償判断に従う傾向にある。例えば、BIT上の請求の対象となることが多いベネズエラは、(上記の賠償判断を含む)賠償債務につき、これまで支払いを行ってきた。さらに、1998年から2002年にかけて、アルゼンチン経済が崩壊したときに判断された賠償債務につき、何年も異議を唱えていたアルゼンチンは、減額を求めるものの、賠償債務の支払を始めている。その他の例としては、エクアドルによるオクシデンタル・ペトロリウムに対する2008年の1億ドルの支払いを挙げることができる。
上記の条約上の保護を確保する手続を経ることは、どこで投資を行うにしても、必要である。海外で投資を行おうとする企業は、決められたデューデリジェンスの一部として、この手続が採るべきである。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
chietogawa@quinnemanuel.com