お客様にとってもっとも関心のある知財や独禁法・金融・労使関係などの最新の話題をお届けします。
御社の法務・経営戦略にお役立てください。
-
パンデミックによってもたらされた法制度への変化のうち、どのようなものが永続するのだろうか (22/04/01)
ロシアのウクライナ侵攻を受け、米国は、ロシアの最大かつ重要な金融機関や国有企業、プーチン大統領を含む多くの著名人を対象に、大規模な経済制裁を相次いで実施している。これらの新しい制裁措置の範囲と複雑さ、および制裁措置を遵守しなかった場合に深刻な影響をこれらの規則が及ぼしうる可能性を考慮すると、米国内外の企業はこれらの規則が自社のビジネスにどのように適用されるのかを理解し、起こりうるリスクを評価するための措置を講じることが極めて重要である。
ロサンゼルスのダウンタウンにあるスタンレー・モスク裁判所に入ると、98の法廷のすべてにマイク、カメラ、モニターが備え付けられていることに気がつく。これはロウワーマンハッタンのフォーリースクエアでも同様だ。ガラスの仕切りによって弁護士席と証人席は囲まれ、書記官席と裁判官席の正面にも仕切りとして立っている。離れたところにある陪審員席では陪審員が、ビデオで登場する専門家や他の証人の話に耳を傾けているのが見える。法廷では、一人の弁護士がマスク越しに動議を主張し、相手方の弁護士がCourtCallやzoomで主張を行う声が遠くから聞こえてくる。この2年間のうちの大半、これらの法廷の活動は縮小していたが、再び活気を取り戻している。カリフォルニア州、ニューヨーク州、そして全米の裁判所では、マスクをした参加者とバーチャルな参加者を組み合わせたトライアルや審理が今ではよく見られる光景となった。
バーチャルトライアル
隔離の義務化が発表された当初、裁判所のシステムは停止やオンライン化がなされた。カリフォルニア州では、陪審トライアルや審理を中断し、時効やトライアルのタイミングに関する規則を停止する緊急規則が施行された。連邦裁判所と民事裁判所は、審理や裁判のためのウェブビデオ設備に投資した。ロサンゼルス郡の高等裁判所では、音声とウェブビデオの機能が訴訟当事者に無料で提供されるようになった。複雑な手続きや技術的な問題もあったが、カリフォルニア州でのzoomトライアルは合理化され、少なくともあと1年はこの状態が続くと思われる。カリフォルニア州は、民事訴訟法367.75条で遠隔トライアルの妥当性を成文化し、これは2023年7月まで有効である。この法律は、陪審トライアルを含む民事トライアルやその他の民事訴訟手続きの全部または一部をビデオで行うことを認めている。これは実際のところ、当事者や証人が法廷に足を踏み入れることが一度もなかったり、選ばれた証人だけがビデオで登場したりすることを意味する。
東海岸では、ニューヨーク州の裁判所が2020年3月に行政命令68-20により陪審トライアルを停止した。 カリフォルニア州とは異なり、ニューヨーク州は遠隔陪審トライアルを法制化していない。その代わり、2020年9月にニューヨークは陪審トライアルの再開の判断を各裁判所に委ねた。例えば、Lawrence Knipel判事は2021年3月、ブルックリンにあるニューヨーク州最高裁判所民事部で陪審トライアルを再開することを発表した。 陪審トライアルを再開した裁判所は、マスク着用の義務付け、ソーシャル・ディスタンシング、証人がビデオで証言できるオプション、そしてすべての法廷にガラスのパーテーションを設置するなど、カリフォルニア州の裁判所に見られるような調整を多く実施した。
ニューヨークのベンチトライアル訴訟では、バーチャルに移行するオプションもある。2021年12月13日、ニューヨーク州裁判所システムの商業部は、当事者の同意により、バーチャルな証拠調べとベンチトライアルを許可するルール36を採択した。私たちの経験では、バーチャルベンチトライアルはほぼ問題なく実施されている。実際、裁判官の中にはバーチャルベンチトライアルを好む人もおり、当面はこのオプションを訴訟当事者に提供することを希望している。
遠隔トライアルを依頼するかの判断は、弁護士に委ねられている。遠隔トライアルは、バーチャルな法律実務の他の側面以上に、対面での手続きと比較すると明確なデメリットがある。しかし、マスク着用の義務化により、当面はバーチャルトライアルの方が対面トライアルより優れているかもしれない。法廷でのマスク着用は、それが続く限り、マスクが顔の表情を隠し、声を消すので、対面トライアルの重要な人間的利点のいくつかを排除することになる。同じ弁護人でも、マスクをしている人の話を聞くのに苦労するよりかは、zoom越しに話す弁護人の澄んだ声と遮るもののない顔を見ることの方が魅力的かもしれない。
将来的には、少なくとも民事事件において、両岸のトライアルはビデオ通話を含むハイブリッド方式が主流になると思われる。今回のパンデミックは、訴訟当事者が遠隔地からでも訴訟手続きの利用を有意義に行えることを法制度参加者らに示した。さらに、特に当事者以外の証人にとって、バーチャルに出廷するオプションがあることは、ストレス、不便さ、そして関連コストを軽減する。証人が日常的に遠隔地に出頭するようになれば、カリフォルニア州民事訴訟法1989条の「トライアルの召喚状は州内の証人にしか届けることができない」というルールや、連邦規則45条の「100マイルルール」のような召喚権の地理的制限が過去のものになる可能性は容易に想像できるだろう。遠隔技術によって証人の物理的なロケーションがほとんど無関係になるのに、遠方の証人を利用できないものとして扱う規則を設けるのは、あまり意味のないことである。このような理由から、遠隔の要素が含まれたトライアルは、パンデミックの終結後もずっと裁判制度の中に存在することになると考えている。
バーチャルデポジション
バーチャルデポジションもまた、パンデミックから発展したものである。バーチャルデポジションは、バーチャルトライアル以上に賛否両論を呼んでいる。その理由は容易に理解できる。 バーチャルデポジションには、供述を録取する側と弁護側の両方の弁護士にとって長所と短所がある。供述者と同じ物理的空間にいることで、供述を録取する側の弁護士は、ボディランゲージ、音声、および人間の存在による微妙なダイナミクスを使用して、供述者に影響を与えようとすることができる。一方、バーチャルデポジションでは、供述者は自身の弁護士が同席することはなく、部屋に一人でいることが多い。同じ部屋に供述者の弁護士が同席することは、供述者の緊張をほぐし、ボディランゲージを通して円滑なコミュニケーションを促進することができる。私たちの経験では、弁護側の弁護士が供述者と同じ部屋にいないことは、供述を取る側にとって大きなメリットである。バーチャルデポジションでは、ケース内で合意されたルールによっては、弁護側の弁護士が供述者と同席することも可能である。また、供述者が長い文書に目を通して時間を無駄にすることなく、画面上の関連する証拠物のページや文言にすぐに誘導できることも、供述を取る側の弁護士にとっての利点である。
2021年末、ニューヨーク州裁判所商業部は、バーチャルデポジションを規則37で体系化した。この規則では、当事者の同意がある場合、または「正当な理由を示す」申し立てがある場合に遠隔地でデポジションを行うことができる。この理由は、COVID関連の健康への懸念から費用の問題、移動の制限に至るまで多岐にわたる。裁判所が申し立てを決定する際に考慮する要素には、移動の時間と費用を含む当事者らと供述者の距離、当事者らと供述者の安全性、安全に彼らを招集できるか、供述者が当事者であるか、申し立てと弁護に対する証言の重要性などが含まれる。
最終的には、バーチャルデポジションの利便性と効率性が対面での利点に勝ることが多い。弁護士、法廷記者、ビデオ撮影者、供述者は、飛行機に乗って一日中(実際には、両岸や他の国々が関与している場合は2日間)移動するのではなく、自宅や地元のオフィスで快適にZoomにログオンすることができる。これにより、時間と費用を節約し、実質的な法律業務にそれらを費やすことができる。
しかし、好みにかかわらず、バーチャルデポジションには調整が必要である。対面式のデポジションでは、弁護士は供述者が目の前に持っている資料を正確に見ることができるという利点がある。ビデオではより複雑である。弁護士は通常、自己申告システムに頼るか、視聴スキームの設定を依頼しなければならないが、これは常に利用できるオプションではない。また、証拠物の使用には、追加のステップが必要になることもある。弁護士は、証拠物の展示とスクリーンの共有を計画するか、証拠物共有プログラムを提供するベンダーを用意するか、証拠物のハードコピーを(これもおそらく自己申告システムを利用して)事前に弁護士と証人に届けるよう手配しなければならない。ただ、移動時間の短縮で節約した分、ベンダーや配送のコストを増やしたとしても、余裕をもって予算に計上することができる。
パンデミックから脱する中で、弁護士とクライアントは、対面式のデポジションを行うか、バーチャルなデポジションを行うかの選択を迫られることになる。これは、オール・オア・ナッシングの決断である必要はない。バーチャルデポジションのコストと時間短縮の利点から、バーチャルデポジションを取る決断が明確な場合もあるが、弁護側の弁護士も判断力を働かせ、可能な限りクライアント(供述者)と同じ部屋にいるようにすべきだ。最終的には、弁護士とクライアントは、特定のケースの予算とニーズを考慮しながら、対面式とバーチャルデポジションの長所と短所を比較検討する必要がある。しかし、バーチャルデポジションの成功に基づき、パンデミック後もバーチャルオプションが話題の中心となることは間違いない。実際、一部の弁護士は、対面式のデポジションは今後、標準ではなく、例外になるのではないかと考えている。
バーチャルでの法と動議
バーチャルデポジションを許可するかは、場合によってはオープンクエスチョンかもしれないが、バーチャルでの法と動議の日々が導入され、弁護士、裁判官、そして時にはクライアントが参加し、大きな成功を収めている。以前は裁判所まで足を運び、15分の口頭弁論を3~4時間待たなければならなかったものが、今ではまったく15分もあれば、また地元のオフィスや自宅から行えるようになった。そして弁護士らは今、ある地区でzoom審理にログインして参加した後、ログオフし、同じ日に地理的に離れた地区で別のzoomミーティングに参加することができるようになったのである。これにより、経費を削減し、より合理的な動議のカレンダーを作成することができ、裁判での衝突も起こりにくくなる。
遠隔審理が定着するかどうかは、裁判官によるところが大きい。パンデミック以前、電話による審理を好む裁判官や推奨する裁判官もいたが、そのような裁判官にとっては、zoom審理はアップグレードとなる。しかし、大半の裁判官にとっては、そうではなかった。パンデミック当初は、特に技術が十分でない場合に、バーチャルでの進行に消極的であった。今日、セキュリティとストリーミング機能のアップグレードにより、裁判官らは、遠隔地での出廷を好む人と、制限が解除された瞬間に対面での出廷に戻りたく思っている人とに分かれている。そして、これらは同じ裁判所内の人々であることもあり、私たちのファームのとある弁護士は、ある裁判官から、状況確認会議(ステータス・カンファレンス)でマスクをして出廷したことに感謝されたが、同じ週に別の部署の書記官から、彼女の裁判官は電話での出廷を好んでいると言われたことがある。
また擁護派の間でも、対面での議論(マスク着用をした議論を含む)の方が効果的かどうかについては見解が分かれるところである。バーチャル審問の有効性は、審問の主題にもよるだろう。私たちの経験では、和解協議は、当事者らが同じ部屋で互いや和解裁判官または調停者とより有意義に関わり、妥協点に向けて努めることができるように対面で行う方がより適している。さらに、複雑な法的議論や裁判所が直接見るべき証拠物が含まれる場合には、裁判官または当事者が直接審理を要請することがある。そして、主題がどのようなものであれ、相手方が対面で出廷している場合には、どの弁護士も遠隔地から出廷したがらないものである。
当初、遠隔審理には、説得力、証拠物の使用、会場の様子を読むことなどで、さまざまなデメリットがあるのではと懸念されていたが、現在では、こうした懸念の多くは根拠がないか、もしくは少なくとも遠隔機能のメリットがそれを上回るものであることが明らかとなった。
今後
パンデミックは、閉めることのできない扉を開いた。この2年間、両海岸での経験から、訴訟の多くの局面がバーチャルで実現でき、多くの場合、その効果のほとんどが犠牲にならないことを法制度が学んだことがわかる。訴訟当事者がこれを学んだ以上、訴訟手続きが対面で行わなければならないというパンデミック以前の前提に戻ることはできない。遠隔での訴訟手続きにより、トライアル、デポジション、審問はより効率的になり、弁護士やクライアントにとってより利用しやすくなった。その結果、弁護士、裁判官、クライアントは、パンデミックが終わった後も、遠隔での訴訟手続きがある程度続くことを容認し、またおそらくそれを期待するだろう。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
chietogawa@quinnemanuel.com