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注目すべき動向:新テキサス州ビジネス裁判所:新しい法廷における管轄権と手続規則の攻略
(25/02/28)
他州におけるそれにも増して、テキサス州においてはビジネスが非常に好調である。テキサス州には個人および法人の州所得税がないため、Amazon、Tesla、HP、Oracleなどの大手ブランドがローンスター州に進出を拡大しているのも不思議ではない。
Why Texas, Texas Economic Development
Corporation, https://businessintexas.com/why-texas/ 参照。過去20年間、Chief Executive誌はテキサス州を「ビジネスに最適な州第1位」にランク付けしてきた。同上。このようなビジネスの勢いは自然と商事訴訟の増加をもたらした。しかし最近まで、テキサス州の裁判所制度は(特定の申立てに対して裁判官を輪番制で割り当て、またその判断に理由を付することが求められていないなど)、複雑なビジネス紛争の迅速な解決には適していなかった。この問題に対処するため、テキサス州は下院法案19を可決して、テキサス・ビジネス裁判所を創設し、2024年9月1日から事件の審理を開始した。この裁判所の仕組みと手続きの特徴を理解することは、テキサス州でビジネスを行い、それ故にこの新しい法廷で訴訟を行う可能性のある人々にとって重要である。
ビジネス裁判所は、テキサス州の現在の行政司法地域を反映した11の地方裁判所支部に分かれており、一般の州地方裁判所支部と並行して管轄権を有する。テキサス政府法典§25A.004(b)、(c)、(d)。最近、テキサスの複合都市圏にまたがる5つの地方裁判所支部が、(州の残りの地域にビジネス裁判所を拡大するかどうかの決定が行われる前に)、「試験運用」ベースで事件の受理を開始した。テキサス政府法典§25A.002(e)、(m)、(c)、(j)、(f)。これらの支部には、第一支部(ダラス)、第三支部(オースティン)、第四支部(サンアントニオ)、第八支部(フォートワース)、第十一支部(ヒューストン)が含まれている。
ビジネス裁判所は、原則として一般の地方裁判所を管轄する規則と手続きの下で運営されるが、商事紛争についての魅力的な法廷となる可能性のある独自の規則がいくつか存在する。それには具体的に以下のものがある:
裁判官の資格と任命:ビジネス裁判所のすべての裁判官は、以下のいずれかで少なくとも10年の経験が必要:(1)商事訴訟の実務、(2)企業取引法の実務、または(3)テキサス州の民事裁判官として勤務。テキサス政府法典§25A.008(a)(4)(A)-(D)。ビジネス裁判所の裁判官は、一般市民による選挙ではなく、知事により2年任期で任命されるという点で他のテキサス州の地方裁判所の裁判官とは異なる。テキサス政府法典§25A.009(a)-(c)。
移送:ビジネス裁判所は特定の限定された事項(後述)について管轄権を有し、原告と被告の双方がその管轄権を援用することができる。事件は、原告が直接この裁判所に提起する場合、被告がビジネス裁判所に移送を請求する場合(連邦の手続きと類似)、または一般地方裁判所の裁判官がビジネス裁判所への移送を請求する場合にビジネス裁判所に係属させることができる。テキサス政府法典§25A.006(k)。
陪審要求:陪審トライアルは、その訴訟が提起されたか、または提起することができた郡の裁判所で行われる。そのため原告は大都市圏のビジネス裁判所に訴訟を提起しながら、小規模な郡の裁判所で陪審裁判を行うというオプションを有することになる。テキサス政府法典§25A.015(b)-(c)。
書面による意見:ビジネス裁判所の裁判官は、当事者が処分的判断に関連してそれを要求した場合、または問題が「州の法律実務にとって重要である」場合に書面による意見を発行しなければならない。テキサス最高裁判所規則360(a)-(b)。この要件は、将来の商事紛争における判断をより予測可能なものにするのに役立つ先例的な判例法の発展に資するもので、その意味で裁判官が処分的申立てについて説明や理由を付すことなく判断を下すことができる(そして頻繁にそうする)一般の州裁判所を規律する規則とは著しく対照的である。
ビジネス裁判所の管轄権
ビジネス裁判所での訴訟を希望する当事者は、それについて一般管轄権または補充的管轄権が認められる必要がある。そして、ビジネス裁判所には3つの一般管轄権のカテゴリーが存在する:
第一に、ビジネス裁判所は、係争額に関係なく、関係当事者のいずれかが上場企業である場合に管轄権を有する。テキサス政府法典§25A.004(c)。これにより上場企業は原告または移送を求める被告として広くビジネス裁判所にアクセスすることができ、これによって上場企業に対する小規模な根拠のない訴訟を抑制することができる。
第二に、ビジネス裁判所は、係争額が500万ドルを超え、かつ以下のいずれかに該当する場合に事件を審理することができる:(1)株主代表訴訟等のデリバティブ訴訟、(2)企業統治に関する訴訟、(3)組織自体、支配人または上級役員、発行証券の引受人、または組織の監査人に対する州または連邦の証券法または規則に関する訴訟、(4)組織自体またはその所有者が、所有者、支配人、または上級役員の職務上の作為または不作為について提起する訴訟、(5)所有者、支配人、または上級役員が組織に対する義務に違反したことを主張する訴訟、(6)所有者または統治者に、組織が有する債務についての責任を負わせようとする訴訟、または、(7)事業組織法から生じる訴訟。テキサス政府法典§25A.004(b)(1)-(7)。
最後に、ビジネス裁判所は、係争額が1,000万ドルを超え、かつ以下のいずれかに該当する訴訟も審理をすることができる:(1)「適格取引」(銀行またはその他の金融機関による金銭または信用の貸付もしくは前貸しを除く、問題となる対価が少なくとも1,000万ドルの取引を意味する)から生じる訴訟、(2)当事者がビジネス裁判所が管轄権を有することに合意した契約(保険を除く)に関する訴訟、または(3)組織または組織を代表して行動する役員による金融法または商事法の違反に関する訴訟(銀行およびその他の類似の金融機関を除く)。テキサス政府法典§25A.004(d)(1)-(3)。
上記のカテゴリーにかかわらず、ビジネス裁判所は、政府機関が当事者である事項や、家族法、財産法、保険法に関する事項など、特定の列挙された事項について管轄権を明示的に制限している。最も注目すべきは、ビジネス裁判所が競業避止条項、消費者取引、および欺瞞的取引行為に関する事項もその管轄権から除外していることである。テキサス政府法典§25A.004(g)。
さらに、ビジネス裁判所は、訴訟における少なくとも1つの請求がビジネス裁判所の一般管轄権の範囲内にあり、すべての当事者が残りの請求に対する補充的管轄権に同意する場合には、その訴訟におけるあらゆる請求について補充的管轄権を有する。テキサス政府法典§25A.004(f)。そして当事者は、以下のいずれか遅い方から30日以内に弁論(請求の)分離を申し立てるか異議を唱えない限り、ビジネス裁判所の補充的管轄権に同意したものとみなされる:(1)その申立てを行った当事者のビジネス裁判所への出頭、または(2)最初の訴答書面もしくは移送通知の提出。地方規則2 参照。その一方で、いずれかの当事者が同意しない場合には、関連する請求は一般の地方裁判所で別個の訴訟として審理されなければならない。これらはビジネス裁判所での訴訟の障害となる可能性がある。例えば、当事者が補充的管轄権に異議を唱え、それにより付随する請求を一般の地方裁判所で審理することを相手方に強制する場合、これらの裁判所において並行して審理される法律または事実の問題について最初に判断を下す裁判所(ビジネス裁判所か一般の地方裁判所か)の判断が、後に判断を下す裁判所の判断に対して既判力を生じさせる可能性がある。他方で、これらの規則は上場企業である被告にとって有用なものとなる可能性がある。なぜなら、自身に対して主張された請求のみを移送させる一方で、それが認められない立場にある他の被告に対する請求を元の裁判所に残すことができるからである。
第15控訴裁判所
ビジネス裁判所の一般管轄権の範囲内に入る訴訟には、新設された第15控訴裁判所に上訴することができるという追加的な利点がある。この控訴裁判所は、ビジネス裁判所の命令または判決に対する控訴について専属的管轄権を有する。テキサス政府法典§25A.007(a)。この新しい控訴裁判所の特徴の1つは、ビジネス裁判所としての地方裁判所と同様に、裁判官が商事紛争に関する専門知識を有することである。このように、テキサス州の商事紛争の法廷は、全国の他のビジネス紛争を扱う裁判所とは一線を画している。第15控訴裁判所の合憲性はすでに異議が申し立てられたが、その合憲権は認められている。Dallas County 事件、Case No. 24-0426 参照。
テキサス・ビジネス裁判所は新しく、成長の痛みを経験する可能性が高いものの、ビジネス訴訟に関与する原告と被告の双方にとって魅力的な裁判所となる可能性が高い。この裁判所は、商事紛争の経験を有する裁判官がもたらす利点を訴訟当事者に提供すると同時に、テキサス州のビジネス法を規律する信頼することのできる明確な法的先例を集積させることになる。テキサス州民事訴訟規則に精通し、ビジネス裁判所固有の規則の下での実務に意欲的なQuinn Emanuelのテキサス州所在の各事務所は、この新しい法廷を顧客が活用するためのサポートの準備を整えている。