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Gucci America v. Guess?, Inc.:「タッチ・ベース」テストを適用して解決された
秘匿特権に関する国際紛争 (11/05/25)
最近の商標権侵害事件の決定であるGucci America, Inc. v. Guess?, Inc., 271 F.R.D. 58 (S.D.N.Y. Sept. 23, 2010)は、ニューヨーク南地区連邦地方裁判所の「タッチ・ベース」原則への支持を確固たるものにした。同原則の下で、裁判所は、問題となっているやり取りが、米国の法的手続に関係し、又は、米国法に関係する助言を反映するものであるか否かによって、米国の秘匿特権に関する法律を適用すべきか否かについて決定を行う。
Gucci事件において、James Cott予審判事は、Shira A. Sheindlin裁判官の付託を受け、問題となっているやり取りがイタリアで行われたものであり、イタリア人の社内法務担当者が関与するものであるにもかかわらず、米国法が弁護士・依頼者間の秘匿特権に関する紛争を規律すると判示した。重要なことに、そのやり取りは、イタリア及び米国で並行するGuessに対する侵害訴訟につながった調査の間に行われたものであった。Gucci America, Inc. v. Guess?, Inc., 271 F.R.D. 58, 61-64 (S.D.N.Y. Sept. 23, 2010).
Gucci Americaは、同社のイタリアにおける関連会社であるGuccio Gucci S.p.A.(以下「GG」という。)の法務部の従業員であるVanni Volpiが関与するやり取りに関して秘匿特権を主張していた。Volpiの主な職責は、全世界におけるGGの商標権の保護及び実施プログラムを管理することであった。2006年にGGに入社する前は、Volpiは、Chanel及びLouis Vuittonの法務部において知的財産権の専門家として勤務していた。しかし、Volpiは、法律の学位を有しておらず、イタリア弁護士会の会員でもなかった。2008年、Volpiは、侵害の可能性があるGuessの活動について情報を得るため、Gucci Americaを含め、全世界にあるGucciの様々な関連会社の法務部に連絡を取り始めた。問題となっているのは、Guessの活動に関するVolpiの調査によって生じたおよそ150のVolpiのやり取りが、弁護士・依頼者間の秘匿特権及びワークプロダクト原則によって開示から保護されるか否かである。
法選択に関する分析
弁護士・依頼者間の秘匿特権に関する裁判所の分析は、秘匿特権の問題は「コモンローの原則に従う」とする連邦証拠規則第501条に従って始められた。Gucci, 271 F.R.D. at 64(非当事者のイタリアの会社とノルウェー、ドイツ及びイスラエルにある同社の弁理士との間のやり取りは、外国「に専ら関係する問題についてのものである」ので、米国に「タッチ・ベース」していないと判示したGolden Trade S.r.L. v. Lee Apparel Co., 143 F.R.D. 514, 521 (S.D.N.Y. 1992)を引用)。Gucci事件の裁判所が述べているように、コモンローは、「法選択の問題」を含んでいる。Id(スウェーデンの従業員とアメリカの弁護士との間、及び、スウェーデンの社内弁護士と米国での訴訟活動に関連するスウェーデンの従業員との間のやり取りに米国法を適用したAstra Aktiebolag v. Andrx Pharm., Inc., 208 F.R.D. 92, 97 (S.D.N.Y. 2002)を引用)。そして、裁判所は、「タッチベース」原則を適用した。Gucci, 27, F.R.D. at 64-65. 同原則の下では、「米国にタッチベースしている全てのやり取りは、連邦の(秘匿特権の)規則に従う……」。Golden Trade 143 F.R.D. at 520.
裁判所がこのような決定を行ったのは、Volpiのやり取りが米国のGuessの活動に関連した情報を収集することに向けられており、彼の調査が、イタリア及び米国で並行するGuessに対する侵害訴訟を開始するための決定に寄与したからである。
このように判示する際、裁判所は、問題となっているやり取りについて「最も重要な関係」を有する国が、適用すべき秘匿特権に関する法律を決定すると規定している抵触法(第二次)リステイトメントの第139項に基づき、イタリア法を適用すべきであるとするGuessの主張を退けた。Restatement (Second) of Conflict of Laws § 139 (1989). 日本及びイギリスの秘匿特権に関する法律を、それぞれの国が「最も強力な又は主要な利害関係」を有するやり取りに対して適用する際に、リステイトメントに依拠したVLT Corp. v. Unitrode Corp., 194 F.R.D. 8, 17-18 (D. Mass. 2000)も参照。Guessは、Volpiのやり取りはイタリアで行われたこと、Volpiのやり取りの写しはイタリアにあること、及び、全てのVolpiのやり取りはGGの法務部における彼の職務の一環として行われたことから、イタリアが、「最も重要な関係」を有すると主張した。
裁判所は、むしろ、Volpiのやり取りの背後にある動機は米国においてGucciの商標を保護することにあり、与えられ又は要求された法的助言は、何一つとしてイタリア法に関係しないというGucciの主張を支持した。裁判所は、また、Gucciがイタリアでは差止命令によるを救済を得ることができないため、米国における訴訟は、イタリアにおけるそれと同様に、Gucciの全体的な訴訟戦略にとって重要であると認定した。Volpiがイタリアで働いていたこと、及び、やり取りがそこで行われたことは、関係するものの決定的なことではない。イタリアは、やり取りにいくらかの利害関係は有しているが、その利害関係は、せいぜい、米国の裁判所に係属している訴訟の活動に関連するやり取りに対して自国の法律を適用することについて米国が有している利害関係に等しいものである。また、結論に影響を与えたのは、米国の訴訟が米国特許商標庁に登録された商標‐米国法から生じる権利‐の実施に関係するということである。さらに、イタリア法は、初期の段階でごく限られたディスカバリーしか許容していないが、この事実は、幅広い米国の秘匿特権に関する法律を適用することが国際礼譲の原則に反するとしたGuessの主張を弱めるものであった。
弁護士・依頼者間の秘匿特権に関する米国法の適用
米国法の適用について、裁判所は、ほとんどのVolpiのやり取りは、弁護士・依頼者間の秘匿特権の範囲に問題なく含まれると認定した。裁判所は、United States v. Kovel, 296 F.2d 918 (2d Cir. 1961)を引用し、秘匿特権は、弁護士の代理人が、弁護士が依頼者を代理するのを補助する目的で行った秘密のやり取りを保護すると述べた。特に、従業員らの証言の収集のような、弁護士の代理人として行われる事実調査は、明らかに弁護士・依頼者間の指示に含まれる。Gucci, 271 F.R.D. at 71(Lugosch v. Congel, 2006 WL 931687, at *14 (N.D.N.Y. Mar. 7, 2006を引用)。これらの先例の下では、米国及びイタリアにおける訴訟の準備のために、Volpiが、資格を有する弁護士であるDaniella Della Rosaの指示に従って、Guessの活動の調査を補助していた際に行われた全てのやり取りは、秘匿特権の対象となる。
唯一保護されないやり取りは、VolpiがDella Rosaの代理人として活動しておらず、彼女の監督の下になかったと考えられるときに行われたやり取りである。
やり取りは、ワークプロダクト原則の下での保護も受ける
裁判所は、また、弁護士・依頼者間の秘匿特権の対象となるやり取りは、ワーク・プロダクトとしても保護されると判示した。裁判所は、係属裁判所の規則は常に手続的問題を規律すると論じ、ワーク・プロダクト原則を適用した。同原則は、文書が弁護士の指示によって作成されることまで要求しないが、訴訟になる見込みがあった「ことを理由に」作成されたことが要求される。Gucci, 271 F.R.D. at 74(United States v. Adlman, 134 F.3d 1194, 1202 (2d Cir. 1998)を引用)。
Gucci事件の実務的意義
Gucci事件で適用された「タッチベース」原則は、VLT Corp. v. Unitrode Corp., 194 F.R.D. 8, 15-16 (D. Mass. 2000)で適用された伝統的な比較衡量テストよりも、確かな手法を提示している。VLT事件の伝統的な比較衡量テストでは、裁判所は、「問題となっている主題、やり取りの当事者、その者が訴訟当事者であるかということ」を検討する。Gucciは、「米国との間に偶発的な関係以上」が必要であると述べてVLTの基準を承認したが、VLTが回避しようとした更に「厳格な」タッチ・ベース原則を適用した。
Gucci事件は、国際的な紛争に関して他国の弁護士と緊密に連携することの重要性が高まっていることを示している。さらに、同事件は、弁護士の指示及び監督の下で弁護士ではない者が法律関連業務を行うようにすることの重要性を強調している。加えて、米国において潜在的な訴訟を予期して作成された弁護士ではない者によるワーク・プロダクトは、その目的を明確に記載していなければならない。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
chietogawa@quinnemanuel.com