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英国贈収賄防止法の施行への対応 (11/06/28)
2010年4月8日、英国において旧来の贈賄規制を大幅に改正する2010年贈収賄防止法が成立し、同法は、2011年7月1日に施行される予定である。
英国の贈収賄防止法において刑事責任の対象となる違反行為には、①贈賄、②収賄、③外国公務員に対する贈賄、④贈賄防止措置の懈怠の四つの類型がある。
同法における①贈賄とは、(1)他者に対して不正な行為をさせる意図で、(2)他者の不正な行為に報いる意図で、又は、(3)利益を収受すること自体が不正な行為であると知り若しくは信じ、金銭上の又はその他の利益の申出、約束又は供与を行うことをいう。また、②収賄とは、(1)不正な行為がとられることを意図して、(2)それ自体不正な行為となるような場合に、若しくは、(3)不正な行為に対する報酬として、金銭上又はその他の利益の要求、約束又は収受をすること、又は、(4)金銭上又はその他の利益の要求、約束又は収受を予期し又はその結果として、収受者によって又は収受者の要求又は同意若しくは黙認を受けた他者によって不正な行為がとられることをいう。そして、③外国公務員に対する贈賄とは、事業又は事業上の利益の取得又は維持を意図して、外国公務員に対し又は外国公務員の要求又は同意若しくは黙認を受けた第三者に対し、直接又は第三者を通じて、金銭上又はその他の利益の申出、約束又は供与をすることをいう。最後に、④贈賄防止措置の懈怠の違反行為は、営利団体の関係者が、営利団体のために事業又は事業上の利益を取得し又は維持することを意図して贈賄を行った場合に、贈賄を防止するために適切な手続を整備していたことを立証しない限り、営利団体の責任を問うものである。
この贈収賄防止法の適用範囲は広く、上述の違反行為は、英国内で実行されたことが要求されない。前三者の違反行為については、行為者は、英国民、通常の居住者、英国内で設立された企業であるなど英国との緊密な関係を有してさえいればよく、後一者については、主体となる営利団体や違反行為者に英国との緊密な関係は求められず、営利団体が英国内で設立され又は英国内で一部又は全部の事業活動を行っていればよいとされる。したがって、例えば、英国民やその通常の居住者を雇用する企業や英国内で事業活動を行っている企業は、同法の適用を受ける可能性があることを認識する必要がある。
同法の適用を受ける企業は、贈収賄防止法が世界で最も厳格な腐敗行為防止法の一つとされていることに注意しなければならない。現在、米国内で事業活動を展開する企業は、同国の海外腐敗行為防止法(FCPA)への対応を実施しているものと思われるが、英国の贈収賄防止法の規制は、米国におけるFCPAのそれよりも大幅に厳格なものとなっている。
両者の主な相違点としては、①FCPAが外国公務員に対する腐敗行為を禁止するのに対し、贈収賄防止法は民間人に対する腐敗行為も禁止している点、②FCPAには民間人に対する贈収賄に関する規制がないのに対し、贈収賄防止法は贈賄に加え、収賄をも規制している点、③FCPAには会計に関するもの以外、企業の厳格責任を問う規定はないのに対し、贈収賄防止法では贈賄を防止できなかったことについて企業の厳格責任を問う規定を設けている点、④FCPAでは事業促進等のための支払や手続円滑化のための支払が抗弁として認められるのに対し、贈収賄防止法ではこれらは抗弁とはならない点、及び、⑤FCPAでは、個人には5年以下の禁固又は2万5000ドル以下の罰金、企業には200万ドル以下の罰金が課されるのに対し、贈収賄防止法では個人には10年以下の懲役又は無制限の罰金、企業には無制限の罰金が課される点などが挙げられるが、いずれの点においても、贈収賄防止法の規制がFCPAのそれを上回るものとなっている。
したがって、同法の適用を受ける企業は、今後は、FCPAを遵守しているだけでは十分であるとは言えず、FCPAによる規制だけでなく、贈収賄防止法による新たな規制についても遵守してゆくことが求められる。同法の広範な違反行為の定めによって、英国の重大犯罪局(SFO)の取締権限が拡充されたことに伴って、今後、SFOによる捜査活動が英国内外で強化されることが予想されることからすれば、同法への対応は、同法の適用を受ける企業にとって非常に重要な問題となる。
同法の適用を受ける企業が行うべきこととしては、贈賄防止措置の懈怠に関する違反行為への対応がある。前述のとおり、同法は、贈賄を防止するための「適切な手続」を整備していたことを立証しない限り、営利団体が刑事責任を負うことを規定するが、2011年3月30日に英国司法省が公表したガイダンスにおいて、この点が解説されている。
同ガイダンスは、何をもって「適切」とするかという点は、企業が直面している贈賄リスク並びに事業の性質、規模及び複雑さによって異なると述べている。その上で、同ガイダンスは、企業が「適切な手続」を整備する際の原則として、①手続はリスク及び事業規模に見合ったものにすること、②贈賄防止のためにトップマネジメントが積極的に関与すること、③企業内外の贈賄リスクの性質及び程度について分析すること、④贈賄リスクを低減するために、自社に見合ったリスクベースアプローチをとって、自社へのサービス提供者に対するデューディリジェンスを実施すること、⑤贈賄防止の方針及び手続を企業内外のコミュニケーションを通じて組織全体に周知すること、⑥贈賄防止のための手続を監視・点検し、必要に応じて改善するという六つの原則を指摘している。これらの原則は、検察官や裁判所を拘束するものではないため、絶対的な基準と考えることはできないものの、これらは、贈収賄防止法の適用を受ける企業が贈賄防止のための「適切な手続」を整備する際の一定の指針となるものと考えられる。
以上から、英国の贈収賄防止法の施行に際して企業が行うべきことは、次のとおりである。まず、企業は、同法の適用の有無について検討する必要がある。企業が英国内で事業活動を行っている結果、同法の適用を受けることになる場合、企業は、米国のFCPAへの対応だけでなく、新たに英国の贈収賄防止法を遵守するための対応をとるべきことを認識しなければならない。同法を遵守し、同法の定める贈賄防止措置の懈怠の責任を負わないために、企業は、自社が直面している贈賄リスク並びに自社の事業の性質、規模及び複雑さについて分析を行い、それらを前提に、自社の贈賄防止のための方針及び手続を点検し、同法のガイダンスに示された六つの原則に沿った「適切な手続」がとられているか否かを検討することになる。そして、企業は、以上の検討によって明らかになった贈賄防止のために必要な手続を速やかに構築し、実施してゆくことが求められる。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
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