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合衆国司法省及び合衆国特許商標庁が自発的なF/RANDコミットメントの対象である標準規格に不可欠な特許権についての救済方法に関する政策方針を示しました。 (13/01/23)
合衆国司法省反トラスト部門(DOJ)、及び、合衆国商務省の機関である連邦特許商標庁(USPTO)は、特許権及び標準規格策定分野において、重要な利害を有するトピックについて次のような見解を表明する。すなわち、司法手続における差止め、又は1930年関税法337条(※1)に基づく調査における排除命令が、それらの救済策を求める特許権者が、RAND又はFRANDによるライセンスコミットメント(※2)の対象になっている標準化に不可欠な特許権を主張している場合において、適切に発行されたかどうかという点である。
特許制度は、発明家に対して、彼らの知識を応用し、リスクを取り、そして研究開発への投資を行うためのインセンティブを与えること、及び、特許権を公表することで公表された知識の上に更なる技術革新を可能とすることにより、技術革新及び経済成長を促進するものである。また、これらの努力は、知識を広め、新しく価値のある技術を提供することで、社会全体に利益をもたらし、低価格を実現するとともに質を向上させ、消費者の選択肢を増やすものである(※3)。DOJ及びUSPTOは、特許を与えられた発明を他者が実施することを阻止するという特許権者の権利が、これらの便益を得る基礎となることを認識している。このことは、「有効で執行可能な合衆国の特許権を侵害する製品を合衆国に不法に輸入すること」(※4)を禁止する形で、1930年関税法337条にも具体化されている。知的財産の執行に関する政府の2010年共同戦略プランで述べられているように、「知的財産権の強力な執行は、技術革新を促進し、創造的で革新的な産業において合衆国が世界的なリーダーであることを確保するために、不可欠な政府の役割である」(※5)。したがって、歴史的にもそうだったように、輸入品が有効で執行可能な合衆国の特許権を侵害している場合には、その排除は一般的には適切な救済方法である。
標準化団体の設定した標準規格、特に自発的に作成された標準規格は、我々の経済においてますます重要な役割を果たすようになった(※6)。自発的に作成された標準規格、すなわち、技術的な仕様やその他の基準を含む合意は、標準化を進める民間部門の団体によって作成されるのが一般的である(※7)。
自発的に作成された標準規格は、補完的商品間の相互利用可能性を高めることで、公衆衛生や安全を守ることに寄与することから効率的な資源配分や生産を促すことまで、様々な形で、公共の利益に資するものである(※8)。相互利用可能な標準規格は、多くの重要な技術革新を市場に送り出すための道筋を整えるものであり、その中には、現代の特徴である、複雑なコミュニケーションネットワークや高度な携帯コンピュータデバイスも含まれる。実際に、自発的に作成された標準規格は、機械的なもの、電子的なもの、コンピュータに関するもの、又は、コミュニケーションに関するものであれ、消費者が依拠するようになった多くの製品の相互利用可能性の基礎となる重要な技術的な進歩を含んでいる(※9)。
しかしながら、共同の標準規格作成は、リスクなしには行うことはできない。たとえば、標準規格が、その作成過程に参加した参加者の特許技術を含むものとして成立した場合、成立した標準規格内で異なる技術に移行したり、全く異なる標準規格に移行したりすることは、非常に難しく費用がかかる可能性がある。その結果として、特許技術を保有する者は、市場での力を得て、市場から競争業者を排除するため、又は、標準規格設定前であり、他の技術を選択可能であった段階で可能であったよりも高いライセンス価格を得るために、特許権を主張するという特許を用いた妨害を行うことで、市場で力を利用できる可能性がある。この種の特許権を用いた妨害は、他の問題も起こす可能性がある。たとえば、特許権を実施する見込みの者が、自らの利益を守るために、標準化された技術に同意することを延期若しくは避けたり、又は、標準規格の作成、実施に十分な投資を行わないことも起こりうる。標準規格を実施する製品の消費者も、特許権を用いた妨害が、不当に高いロイヤリティを生み出し、それが、高価格という形で消費者に転嫁されるという範囲で、不利益を被る可能性がある(※10)。
自発的に標準規格を作成する過程で、ご都合主義的な行動が生じることを避けるために、参加者に対して、最も利用可能な技術を標準規格に入れるように促すとともに、いくつかの標準化団体は、参加者による自発的なライセンスの約束に依拠してきており、その中には、参加者が保有する標準規格に不可欠な特許のライセンスをF/RANDの条件で約束するものが含まれる。標準化団体とその参加者は、標準規格の広範囲での採用を成功させるために必要な互恵的なライセンス交渉を促し、標準規格を実行する参加者に、特許で保護された技術が、ライセンスを望む参加者にとって利用可能であるという安心を提供するために、このような自発的なF/RANDコミットメントに依拠する(※11)。
このような自発的なF/RANDコミットメントを作成する中で、標準規格に関係する製品やサービスも提供する特許権者は、市場が拡大することにより利益を得ることになり、発明のライセンスに注力する特許権者は、収入源の拡大から利益を得ることになる。これらの動機付けは、標準規格作成過程において、最良の技術を提供することを特許権者に促すことになる。F/RANDコミットメントは、ネットワークで操作可能なデバイスを導入することで、新規参入者と既に地位を確立した市場参加者の両方に対して、分け隔てなくネットワークへのアクセスを許すことによって、後続の技術革新を増加させることにも寄与する(※12)。これら及びその他の考えうる便益の観点から、合衆国は、標準化の効率性及び技術革新への動機付けを損なうことになるだろう画一的なロイヤリティ不要又は市場価格を下回ったライセンスを強制することよりも、自発的なF/RANDライセンスを支援するシステムを推奨することを国内国外を問わず続ける。
また、特許権者の自発的なF/RANDコミットメントは、有効で執行可能な標準規格に不可欠な特許権の侵害に対する救済策の適切な選択にも影響を与えうる。いくつかの場面では、差止めや排除命令は、公共の利益と一致しない可能性がある。この問題は、F/RANDの負担付特許権に基づく排除命令が、現状の標準化団体に対する特許権者のF/RANDコミットメントの条件に合致しないように見える場合に深刻となる。決定権者は、標準規格に不可欠でF/RANDの負担付特許権の保有者が、標準規格の実行者に対して、特許権者がF/RANDコミットメントと整合する形で得られるであろう条件よりも、より負担の重いライセンスの条件を受け入れるようにプレーシャーをかけるために、排除命令を利用しようと試みていると結論付ける可能性がある。つまり、特許権者は、標準規格に含まれているF/RANDの負担付特許権が標準化団体のポリシーに基づいて合理的なライセンス条件で利用可能であろうという信頼に依拠している企業に対して、増大した市場における力を及ぼしていると結論付けられる可能性がある(※13)。そのような排除命令は、標準規格に不可欠であるF/RANDの負担付特許権の保有者によるご都合主義的な行動の危険を軽減すべく標準化団体が採用した方法を台無しにすることで、競争及び消費者に対して害を与えうるものである。
これは、法律で規定された公共の利益の要素に対する考慮が、標準規格に不可欠のF/RANDの負担付特許権の侵害に対して対処するための排除命令の発行と常に対立すると言っているわけではない。排除命令は、ライセンスを受けるべき者が、F/RANDライセンスを受けることができなかったり、拒んだりし、特許権者のF/RANDに基づくライセンスコミットメントの範囲外で行動している場合のようにいくつかの状況においては、依然として適切な救済策でありうる(※14)。たとえば、ライセンスを受けるべき者がF/RANDに基づくロイヤリティとして決定されている金額の支払いを拒んだり、F/RANDの条件を決めるための交渉を拒んだりした場合、排除命令は適切となりうるだろう。特許権者に対して正当な補償を行うというライセンシーとしての義務を逃れようとして、F/RANDの条件として合理的に考えうるものから明白に外れた条件を強く要求することは、解釈上の交渉拒否とみなしうるかもしれない(※15)。また、排除命令は、ライセンスを受けるべき者が、損害賠償を命じることができる裁判所の裁判管轄の対象ではない場合にも適切となりうる。ここに列挙したものは網羅的なものではない。むしろ、公共の利益に対する考慮が標準規格に不可欠なF/RANDの負担付特許権の侵害に基づく排除命令の発行に優先するかどうかを決定する場合、又は、いつそのような救済措置を講じるべきかどうかを決定する場合の関連要素を挙げたものである。
自発的な標準規格作成の活動は、消費者の利益となり、公共の利益にも資する。我々は、標準規格に不可欠なF/RANDの負担付特許権の侵害に基づく差止めや排除命令の発行に注意することを推奨したが、DOJ及びUSPTOは、知的財産権の保護を強力に支援するとともに、F/RANDコミットメントを行った特許権者が、標準規格に寄与する技術の価値に見合うだけの適切な補償を受けられるべきであると考えている。発明者にとって、標準規格作成の活動に参加するインセンティブが存在し続けることが重要であり、標準化される技術における技術的革新が公正に評価されることが重要である。特許権者及びライセンスを受けるべき者によるご都合主義的な行動を軽減できるようにこれらの見解を示すことによって、DOJ及びUSPTOは、F/RANDコミットメントの意味をより明確にするように努めて、自発的な標準規格作成活動への参加の動機付けを強めることを意図している。
DOJは、競争を促進、保護することによって合衆国の消費者を保護することを目的とする行政機関である。USPTOは、商務省の機関であり、特許申請の審査、特許権の付与、及び、商務省を通じて、大統領に対して、国内及び特定の海外の知的財産権政策の問題について助言を行うことを目的としている(※16)。DOJ及びUSPTOは、F/RAND負担付の標準規格に不可欠な特許権が関係するいくつかのケースにおいて排除命令が合衆国の競争状況及びその消費者に与える影響、並びにそれらが否定されうる状況を懸念している(※17)。前述のとおり、いくつかの状況においては、F/RAND負担付の標準規格に不可欠な特許権の侵害に基づく排除命令が適切である可能性はあるが、個々のケースにおける事実関係次第ではあるものの、我々は、特許権者のF/RANDコミットメントの範囲内で侵害者が行動し、F/RANDの条件でのライセンスが拒まれていない状況においては、公共の利益は、排除命令の発行を阻止しうると考えている。
F/RAND負担付の標準規格に不可欠な特許権が関係するケースにおいて合衆国国際貿易委員会(USITC)が採用するアプローチは、継続的で活発な自発的標準化過程、そして合衆国の競争環境及びその消費者にとって重要となろう。相互に接続され、操作可能なネットワークプラットフォーム上において競争や消費者の繁栄が築かれる時代において、DOJ及びUSPTO(※18)は、USITCに対して、特許権者は自発的に、F/RANDに基づくその特許権のライセンスコミットメントを通じて、侵害に対する救済策として、差止めや排除命令よりも、金銭賠償を適切であると認めているということを強く主張する。
USITCは、「排除命令が、公衆衛生・福祉、合衆国の経済の競争状況、合衆国内の類似品又は直接競合する商品、及び合衆国の消費者に与える影響」を考慮する権限を持つ(※19)。USITCが述べてきたように、これらの公共の利益に関する要素は、「単にリップサービスとして意図されたものではなく」、むしろ「公衆衛生・福祉及び合衆国の経済の競争状況は、この法律を運用する上で最優先の考慮要素とされなければならない」(※20)。
USITCは、その公共の利益に関する要素を考慮した上で、排除命令は、上記で詳細に述べた状況においては不適切であると結論づけることが許される。あるいは、過去に他の理由でなされたように、USITCが、F/RANDライセンスを締結するための機会を当事者に与えるために、限定された一定期間、排除命令の効力発生日を遅らせるということが適切である場合もありうる。
最後に、F/RAND負担付の標準規格に不可欠な特許権が関係するケースにおいて、適切な救済策を決定する場合には、特許権者に対する適切な補償、及び発明者に対する標準規格作成作業への参加の動機付けの両方を促進することが考慮されるべきである。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
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