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EU訴訟アップデート - 単一特許と統一特許裁判所 (13/10/18)
2012年12月、欧州連合(EU)は、いわゆる欧州単一効特許(単一特許)及び個別の翻訳要件についての2つの規則を採用した(規則(EU)No. 1257/2012及び委員会規則(EU)No. 1260/2012)。単一特許は、欧州特許条約が定める規則及び手続の下で欧州特許庁(EPO)によって付与される欧州特許であり、単一特許制度に参加する25の加盟国の領域において単一効が認められる。単一特許は、国内特許及び従来の欧州特許と並存するものである。
2013年2月、EU内で強化された協力手続を選択した25の加盟国は、統一特許裁判所(UPC)に関する合意に署名することにより、その法的枠組を完成させた。この合意は、欧州特許及び単一特許に関する訴訟について専属的管轄を有する専門的特許裁判所を創設するものである。UPCは、第一審裁判所、控訴裁判所及び登録局からなる。第一審裁判所は、中央部(パリに設置されロンドンとミュンヘンに2つのセクションを置く。)及び上記合意に署名した加盟国内の複数の地方・地域支部から構成される。控訴裁判所は、ルクセンブルグに設置される。
侵害及び有効性についての判断が国内における効力のみを有する現在の欧州の制度とは異なり、UPCの判断は、原則としてすべての参加加盟国について効力を有する。新しい制度は、潜在的な原告及び被告にとって莫大な影響を持つものである。すなわち、一方では、ほとんどの関連欧州市場における差止判決を得るために1つの訴訟で足りることになるが、他方では、単一特許を原始的に無効とするためにも1つの訴訟で足りることになる。この新たな欧州裁判所が、「通常の」欧州特許についての案件を審理する権限も有していることを考慮すれば、UPCの採用の結果はよりいっそう劇的である。
ヨーロッパ特許訴訟の展望は、近いうちに大きく変わることになり、極めて重要である!
単一特許方式及びUPCはいつから利用可能か。
いわゆるEU特許パッケージは、理論的には2014年1月1日から適用され得るものである。しかし、その前に、2015年より前の適用開始を相当程度困難にするいくつかの障害が取り除かれなければならない。
単一特許を創設する2つの規則は2013年1月20日に発効したが、これらの規則は、UPCに関する合意も効力を生じた場合にのみ適用される。一般論として、主権国家間の契約が成立するには、合意が当事国の立法機関によって批准されなければならない。特に今回の合意は、ドイツ、フランス及びイギリスを含む少なくとも13の加盟国による批准が必要とされている。2013年8月の時点で、合意を批准した加盟国は一つもない。イギリスは、すでに合意を実施可能とする知的財産法案を公表し、合意を批准するために必要ないくつかの準備を行っている。ドイツでは、批准の手続が2013年10月の総選挙後に開始されるはずである。
それに加えて、欧州連合司法裁判所(CJEU)は、もう一度EU特許パッケージの許容性を判断しなければならないであろう。2011年、スペインとイタリアが、単一特許の基礎を形成する2つの規則の法的根拠である、いわゆる加盟国の強化された協力手続に関して、EUに対して訴えを提起した。CJEUは2013年初頭にこの訴えを却下したが、その直後、スペインは、今度は規則のうちの一つそれ自体に対して別訴を提起した。スペインは、欧州特許条約の公式言語(英語、ドイツ語及びフランス語)のみが、新たな欧州特許訴訟の枠組みにおける公式言語となることをもって、言語差別であると主張している。現時点では、CJEUがいつ決定を出すかは明らかではない。
最後に、単一特許及びUPCの運用開始には、EPO及び加盟国の双方による多大な努力が必要となるであろう。委員会は、すでにシステムの詳細について作業を始めているが、それには、設備、人員、そして最後に重要なものとして、新制度を機能させる経験豊かな判事を確保するための膨大な努力を要するであろう。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
chietogawa@quinnemanuel.com