お客様にとってもっとも関心のある知財や独禁法・金融・労使関係などの最新の話題をお届けします。
御社の法務・経営戦略にお役立てください。
-
国際仲裁アップデート
オーストラリアの最上級裁判所が同国の国際仲裁法の合憲性を支持 ほか (14/04/23)
オーストラリアの最上級裁判所が同国の国際仲裁法の合憲性を支持
TCL Air Conditioner (Zhongshan) Co. Ltd. v. The Judges of the Federal Court of Australia [2013] HCA 5において、オーストラリア高等裁判所は、同国の国際仲裁法(International Arbitration Act。以下「IA Act」)の仲裁判断の執行可能性に関する重要な規定を、全員一致で支持した。IA Actは、国際商事仲裁におけるUNCITRALのモデル法(UNCITRAL Model Law on International Commercial Arbitration)に、オーストラリアでの法的拘束力を与えるものである。この事件は、中国の会社であるTCL Air Conditioner(TCL)とオーストラリアの会社であるCastel Electronicsとの契約から生じた。その契約は、紛争はオーストラリアの仲裁に付されるものと規定していた。両社間の仲裁は、Castelへの賠償の支払を命じる仲裁判断が出される結果となった。TCLが債務不履行となった後、Castelは、IA Actに基づき、上記仲裁判断の強制執行をオーストラリア連邦裁判所に求めた。その後TCLは、IA Actはオーストラリアの裁判所に司法権を与えるオーストラリア憲法第3章に違反していることを根拠として、上記強制執行を中止するよう、高等裁判所に申し立てた。
TCLは、2つの相互に関係する議論を高等裁判所に対して行った。第1に、TCLは、IA Actは連邦裁判所に対して仲裁判断をそのまま承認しなければならないとすることにより、連邦裁判所の組織としての尊厳を害していると主張した。第2に、TCLは、IA Actは仲裁機関に司法権を与えており、許されるものではないと述べた。本質的に、TCLは、賠償を命じる仲裁判断が正しいか否か、あるいは仲裁人が法律について間違いを犯したか否かにかかわらず、IA Actが、裁判所は仲裁判断を強制執行しなければならないとすることは違憲であると主張したが、高等裁判所はこれに同意しなかった。同裁判所は、その理由として、IA Actは、例えば仲裁判断がオーストラリアの「公序良俗(public policy)」に反する場合等に、オーストラリアの裁判所が仲裁判断を無効にする方法を規定していることから、IA Actがオーストラリアの裁判所の尊厳をおとしめることにはならないと述べた。また、高等裁判所は、「仲裁人による紛争の裁定は、争いを終結させ又は判決を下す国家主権の行使を含むものではない。」と述べ、仲裁合意が同意による私的な性質を持つものであることを強調し、国家主権であって同意とは独立している司法権の性質と対比した。この判決は、オーストラリアにおける仲裁判断の強制執行可能性に対する深刻な異議申立てを解消するものである。
裁判所又は仲裁人のいずれが仲裁の前提条件充足の有無を判断するべきかを
アメリカ連邦最高裁が決定することに
2013年12月2日、アメリカ連邦最高裁判所は、BG Group PLC v. Republic of Argentina. 133 S. Ct. 2795 (2013) (granting cert.)の審理を行った。同裁判所に示された争点は、「多段階の紛争解決過程を含む紛争において、裁判所又は仲裁人のいずれが、仲裁の前提条件を満たしているか否かを判断するのか」である。本件係争は、イギリス・アルゼンチン二国間投資協定(Britain-Argentina bilateral investment treaty。以下「BIT」)に関するものである。BITは、ホスト国と他の国の投資家との間で生じた紛争について規定しており、紛争がホスト国の裁判所に提出されて18か月間解決されなかった場合に限り、その紛争は仲裁を受けることができると定めている。
本件は、2000年代初頭におけるアルゼンチンの経済危機後、同国が実施した政策により、イギリス企業によるアルゼンチンへの投資の価値が著しく減少した際に起きた。紛争は、アルゼンチンの裁判所に持ち込まれずに、直接仲裁パネルに提出された。当該仲裁パネルは、1969年の条約法に関するウィーン条約(1969 Vienna Convention on the Law of Treaties)32(b)条に基づき、投資家による裁判所の利用を制限したアルゼンチンの危機後の改革に照らして、紛争をまず裁判所に持ち込むことは「不条理かつ不合理」であることから、紛争をまず裁判所に提出するという前提条件に従う必要はないと認定した。
アルゼンチンによる不服申立てについて、コロンビア特別区巡回区控訴裁判所は、BITには仲裁可能性の決定についての規定がなく、裁判所がまず紛争の解決を試みることを求めていると述べた(665 F.3d 1363, 1369 (D.C. Cir. 2012))。同裁判所は、当事者が仲裁可能性について仲裁したいと考えていることの明白かつ疑う余地のない証拠がないと認定し、地裁の判断を覆した(同上 at 1371-72)。
イギリス企業は、仲裁に好意的な連邦の政策、及び仲裁人が仲裁の前提条件が満たされているかどうかを判断するという推定が存在することを示す最高裁判例に依拠して、コロンビア特別区巡回区控訴裁判所の判断を覆すことを最高裁に要求した。これに対し、アルゼンチンは、当事者が仲裁に合意したかどうかに関して、「通常の推定は、仲裁人ではなく裁判所が最終決定権を持つというものである」と述べた別の最高裁判例に依拠した。一方で、問題の規定に類似の文言を含むBITの当事者であるアメリカは、民間投資家と主権者との紛争における新たな基準を実施するべきであると論じた。アメリカは、裁判所は「仲裁に対する同意に基づく異議についての仲裁上の判断については、初めから検討するべきである」と主張し、最高裁に対し、アルゼンチンの異議が同意に基づくものか否かについて判断するために、本件を差し戻すように要求した。口頭弁論(oral argument)において、数名の裁判官が、政府の立場は何らかの先例による根拠があるのか、それは筋が通っているのかについて質問した。一方当事者が主権者であることの意味について熟考する裁判官もいた。BITは何千も存在することから、この最高裁の判断は、多数の投資家・国家間紛争において仲裁の前提条件が判断される方法に影響を及ぼし得るであろう。
外国会社の関係会社が仲裁を開始することを管轄上禁止した仲裁人の判断にもかかわらず、
カリフォルニアの裁判所は、同社が訴訟を提起することを認める判断
Boeing Co. v. KB Yuzhnoye, No. CV 13-730 ABC (AJWx) (C.D. Cal. Oct. 28, 2103)において、カリフォルニア州中部地区アメリカ連邦地方裁判所のAudrey Collins判事は、ロシアの会社であるEnergia及びウクライナの会社であるYuzhnoyeに対する不当利得及び契約違反に基づくBoeingの請求に、ノルウェーの会社であるKvaerner Mossの関係会社Old Kvaernerが参加することができると判断した。Kvaerner Moss、Boeing、Energia及びYuzhnoyeは「創作契約(Creation Agreement)」の当事者であり、これには、当事者及びその関係会社は、この契約に基づいて行った特定の支払について払い戻しを受けうるものと規定されていた。Old Kvaernerは、関係会社として、Energia及びYuzhnoyeによって払い戻されるべき支払を行ったが、払い戻しを受けていないと主張している。
Energia及びYuzhnoyeは、スイスの仲裁判断がOld Kvaernerの請求を禁止したと主張した。その仲裁において仲裁人は、創作契約は関係会社に仲裁を開始する権利を与えていないと判断した。にもかかわらず、Collins判事は、当該仲裁判断は、「(仲裁の)管轄のみに関するものであり」、実体上の権利に関するものではないから、Old Kvaernerが裁判所において上記の権利を主張することを妨げるものではないと判断した。この決定は、仲裁への参加又は仲裁の開始を妨げられている当事者が利用できる手段という点で、潜在的な重要性を有している。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
chietogawa@quinnemanuel.com