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司法省の拡張的な法理論によるFCPAの適用範囲の拡大 (15/04/01)
海外腐敗行為防止法(以下「FCPA」又は単に「法」という。)は、米国法人による外国公務員への贈賄の蔓延が発覚したことを受けて1977年に施行されたものであり、「それら腐敗行為をやめ、公平なビジネスのための公正な競争環境を作り、公衆からの市場の廉潔性に対する信頼を回復することを目的」としている(A Resource Guide to the U.S. Foreign Corrupt Practices Act, 米国司法省(以下「DOJ」という。)及び米国証券取引委員会(以下「SEC」という。)執行部門著, Nov. 14, 2012, 2頁。以下「FCPA Guidance」という。)。その目的のために、連邦議会は、法人及びその従業員、代理人がビジネスを獲得又は保持するために外国公務員に賄賂を支払うことを禁止する贈賄禁止規定を同法に設けた。
同法施行後数十年にもわたりFCPAの取締りはほとんど行われず、取締りが本格的に行われるようになったのは、2000年代前半に、同法の2度目の改正が行われてからであった。それ以降、FCPAの取締りは強化され、2004年にはわずか5件であったのが、2010年にはDOJまたはSECによって行われた取締りは74件に上った(Melissa Aguilar, 2010 FCPA Enforcement Shatters Records, Compliance Week (Jan. 4, 2011)参照)。
政府によるFCPAの取締りが強化されたにもかかわらず、それが連邦裁判所で争われることはほとんどない。政府は、法令遵守を継続することの証明と引き換えに、政府が訴追を行わないことに合意する不訴追合意(以下「NPA」という。)や訴追延期合意(以下「DPA」という。)を法人との間で締結することが増えてきている。NPAやDPAによって解決されない事案は、通常多額の刑事又は民事の罰金を伴う司法取引又は和解によって解決されることが典型的である。同法の適用範囲について解釈した裁判例がほとんどないため、DOJ及びSECが、連邦裁判所でほとんど吟味されていない積極的な法理論を主張することが可能となっている。本稿は、最近の政府の理論のいくつかについて説明し、FCPAの適用範囲の拡大について検討するものである。
FCPAにおける「外国公務員」
DOJ及びSECは、FCPAの定める「外国公務員」に該当する者について拡張的に解釈してきた。一般論として、同法の贈賄禁止規定は、外国公務員の公務員としての立場での行為若しくは判断に影響を与えること又はビジネスを獲得若しくは保持するために不当な便宜を受けることを目的として、金銭その他価値ある物を当該外国公務員に支払うことを禁止する(15 U.S.C. § 78dd参照)。「外国公務員」の定義は、その一部において「外国政府又はその部局(department)、機関(agency)若しくは関連機関(instrumentality)の職員又は従業員」と規定している(§§ 78dd-2(h)(2)(A))。
同法は、「instrumentality」を定義していない。公式な法的指針がないまま、DOJ及びSECはこの用語に独自の定義を追加し、国有会社又は国が支配権を有する会社(以下「SOE」という。)をも含むものと解釈している。SOEを外国政府の「instrumentality」と分類することによって、DOJ及びSECは同法下においてSOEの個々の従業員も「外国公務員」に当たると判断している。
DOJ及びSECによる「関連機関(instrumentality)」の拡大 過去数年にわたり、DOJ及びSECはSOEの従業員に対する違法な支払に着目してきた。たとえば、2010年には、DOJは、アルカテル-ルーセントに対して、マレーシアの電気通信会社であるテレコム・マレーシア・バーハド(以下「TMB」という。)の従業員に対する不適切な支払を理由として訴追を行った。支払は、アルカテル-ルーセントの子会社が参加している進行中の競争入札に関する非公開情報の見返りとして行われたものだった。TMBはマレーシア政府が43%を保有するにすぎない会社であったが、DOJはそれでもTMBをマレーシア政府の「関連機関」であると判断した。具体的には、DOJの訴追事実において、マレーシア財務省はすべてのTMBの多額の支出について拒否権を有し、重要な経営事項を決定していたと主張された。DOJはまた、マレーシア政府は、「特別株主」の地位にあった財務省を介してTMBについて利害関係を有していたと主張した。さらに、DOJは、ほとんどのTMBの重役は政治任用制(political appointee)によるものであると主張した。これらの要素に基づき、DOJは、TMBの従業員を「外国公務員」であるとみなした。
DOJのTMBに対する訴追は、どのような場合に法人が外国政府の「関連機関」に該当するとされるかという点について、政府が採用する最も拡張的な立場を反映している(Mike Koehler, Foreign Official Limbo . . . How Low Can It Go? FCPA Professor (Jan. 10, 2011)参照)。というのも、DOJ又はSECが、外国政府が43%を保有するにすぎない営利企業をその外国政府の「関連機関」であるとして訴追したことはいまだかつてなかったのである。TMB事件を契機として、企業は、ある会社が「国が保有する」会社だと政府に判断されるためには外国政府が厳密にどの程度の「支配権」を有していなければならないのか戸惑っている。その疑問に対する正確な回答は依然不透明なままだが、DOJ及びSECは、保有権それ自体が決定的な要素ではなく、むしろ、「ある企業が外国政府の機関又は関連機関かどうかを決定するためには、支配、地位、機能」という要素に着目すべきである、と述べている(FCPA Guidance 20頁)。
DOJ及びSECによる「関連機関(Instrumentality)」の解釈に対する異議申立て
近時、DOJ及びSECによって訴追がなされたいくつかの事案において、SOEの従業員が「外国公務員」に該当しないことを理由とした刑事告訴の却下の申立てが行われた。これらの異議申立ては大半の場合成功しない。実際、「外国公務員」についての政府の拡張的な解釈を争った5つの事案のうち3件は即座に却下された(たとえばUnited States v. Esquenazi, et al., 1:09-cr-21010 (S.D. Fla. 2009); United States v. O’Shea, No. 09-00629 (S.D. Tx. 2009); United States v. Nguyen, No. 2:08-cr-00522 (E.D. Pa. 2008)参照)。残りの2件では、DOJ及びSECによる、SOEの従業員はFCPAの「外国公務員」に該当しうるという訴追理論を肯定する意見が述べられる結果となった(United States v. Carson, No. 09-77 (C.D. Cal. 2009)及びUnited States v. Noriega, No. 10-1031 (C.D. Cal. 2010))。
Carson事件は、Control Components, Inc.の役員が、中国、韓国、マレーシア、アラブ首長国連邦において、国有の取引先の従業員に対しておおよそ490万ドルの賄賂を支払ったとされた事案である。被告らは、SOEの従業員はFCPAの「外国公務員」には該当し得ないことを根拠に却下するよう申し立てた(United States v. Carson, 2011 WL 5101701, *1 (C.D. Cal. May 18, 2011)参照)。裁判所は、被告らの申立てを却下したものの、「国有会社がFCPAにおける関連機関に該当するかどうかという問題は、事実問題だ」と述べた(同上)。「裁判所においては、ある会社が完全に政府に保有されているということだけでは、その会社が政府の『関連機関』といえるかどうかを法律上の問題として判断するには不十分である。」(同上)とし、次のように続けた。
ある営利法人が政府の関連機関に該当するかどうかという問題に関係する諸要素は、次のものを含む。(1)外国政府が法人及びその従業員をどのように特徴付けているか、(2)法人に対する外国政府の支配の程度、(3)法人の活動の目的、(4)法人が自身に指定された機能を営むにあたって独占的又は支配的権限を有するかどうかという点を含む、当該外国の法の下での法人の義務及び特権、(5)法人設立時の状況、(6)外国政府による財政的援助(たとえば、補助金、税制面の優遇、貸付など)の水準を含む、外国政府が法人を保有している程度、である(前掲3-4頁)。
これらの要素に基づき、裁判所は、本件のSOEは外国政府の関連機関であると結論付けた(同上)。したがって、Control Componentsの役員による様々なSOEの従業員への支払は、FCPA違反となった。
Carson事件は、FCPAの「外国公務員」法学について極めて重要な事件である。なぜなら、裁判所が、支配、地位、機能という要素が、いつどのような状況下においてSOEが外国政府の関連機関に該当しうるかという判断に関係するという政府の見解を容認したからである。この指針にもかかわらず、文化的な考慮がこの判断を困難なものにしている。実際に、政府は「ある外国政府が米国の制度に類似した方法で組織されている場合は、何が政府部門あるいは政府機関にあたるかは通常は明確である」が、「政府が非常に異なる方法で組織されている場合には」SOEを見分けることはより難しくなりうることを認めている(FCPA Guidance 20頁)。たとえば、アジアにおいて、国有又は国が支配権を有する営利法人は非常に一般的だが、常に外観から明らかではない。特に、中国においては、政府による法の拡張的解釈によれば大多数の病院はSOEとなるため、医師、看護士、病院事務従事者は「外国公務員」とされる。このことは、「国営病院において薬品を処方する医師は薬品の提供会社からコミッションという形で『キックバック』をしばしば受けるということは中国においてはよく知られている』(Daniel Chow, China Under the Foreign Corrupt Practices Act, 2012 WIS. L. REV. 573, 585 (2012))という中国の病院にあっては、そこで薬品を販売する外国の製薬会社にとって潜在的なFCPA違反の問題を引き起こしうる。
いつどのような状況下においてSOEが外国政府の関連機関に該当しうるかということについては非常に不確かであるため、この点についてのさらなる司法的な指針が必要である。昨秋、連邦控訴審裁判所(第11巡回区)は、SOEの従業員がFCPAの下において外国公務員に該当しうるという政府の訴追理論の妥当性に関するUnited States v. Esquenazi, No. 11-15331-C事件の口頭弁論期日を開催した。今春に予定されているその判決は、「関連機関」という用語についての政府の拡張的な解釈が今後も存続するかという点についての指針を与えるだろう。
FCPAにおける「領域管轄(territorial jurisdiction)」
DOJとSECはFCPAの「領域管轄」条項についても拡張的な解釈を採用してきた。同法の成立以降に世界経済が急速に拡大したことから、米国法人は、外国の法人による腐敗行為の抑制が行われていないことによりFCPAが競争上の不利益を生み出したと訴えた。そのため、連邦議会は1998年に同法を改正し、とりわけ、「領域管轄」条項を加えた。この条項により、上場企業(すなわち、米国において証券を登録している法人又はSECに報告書を提出する義務を負う法人)及び外国の個人を除く外国法人は、「郵便又は州際通商のあらゆる手段を不正に利用した」り、「米国領域内において」不正な支払を「助長するあらゆる行為」を行った場合にはFCPAに服することとなる(15 U.S.C. § 78dd-3(a))。それゆえ、個々の行為者の国籍や法人の所在地にかかわらず、「米国領域内において」行われたいかなる行為にも米国管轄が与えられる。
DOJ及びSECのコルレス銀行送金(Correspondent Bank Transfers)理論
DOJとSECは、ある行為が「米国領域内において」起こったというためには、米国内に物理的に存在したことは必要ない、という拡張的な解釈をしてきた。たとえば、DOJは、その他の管轄権の根拠と併せてではあるが、領域管轄は米国内にあるコルレス銀行口座を経由して国外資金を送金させるような者にも及ぶという立場を採用してきた(たとえばUnited States v. Technip S.A., No. 10-cr-00439 (S.D. Tx. filed June 28, 2010); United States v. Kellogg Brown & Root LLC, No. 09-cr-00071 (S.D. Texas. filed Feb 6, 2009)参照)。コルレス銀行送金は、米国ドル建てで海外取引がなされる場合に発生する。外国通貨は米国ドルに換金されなければならず、換金のために、外国通貨は米国内のコルレス銀行を経由しなければならない。DOJによれば、この米国銀行機関との一瞬のコンタクトが「米国領域内において」起こるということになる。
近時のあるFCPAの事案において、日本企業であるJGC Corporation(日揮株式会社)は、合弁事業の一部として、その他の会社(これらの会社もFCPA違反に問われた。)と共に、ナイジェリア公務員への贈賄の共謀に加担したことを理由に、おおよそ2億1800万ドルを支払うことに合意した。日揮は米国国内企業(domestic concern)でも米国上場会社でもなく、日揮がそれらの代理人であったとDOJが主張したわけでもなかった。にもかかわらず、DOJは日揮の共謀者が米国上場会社又は米国国内企業であったことを理由に管轄を主張した。日揮の事案において共謀や幇助を理由に訴追を行ったことは明らかに適切であったが、DOJはそれにもかかわらずFCPA違反の責任はコルレス銀行口座を利用したことを理由とする「領域管轄」理論によっても根拠付けられることを示唆する主張も行った。
結論
これらの、そしてその他の拡張的な法理論を用いて、DOJとSECは、2009年以降、FCPAに違反したとされた個人・法人から民事及び刑事上の罰金として50億ドル近くを引き出した(Robert Cassin, 2013 FCPA Enforcement Index, FCPA Professor (Jan. 2, 2014)参照)。それゆえ、もし政府が引き続き積極的にFCPAの執行を行った場合、個人及び法人は政府の和解要求に黙従することが減り、DOJとSECの拡張的な法理論を法廷で争うことが増えるであろう。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
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