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ワシントンD.C.の巡回裁判所、内部調査を適用される弁護士・依頼者間秘匿特権を強化 (15/11/05)
2015年8月11日、米国控訴裁判所であるコロンビア特別区裁判所は、内部調査に関して権限を維持しようとするすべての企業にとって重要な決定をした。ワシントンD.C.巡回裁判所は、デポジションの前に企業内弁護士が内部調査文書をレビューすることで、また、サマリー・ジャッジメントにおいて調査について言及したことにより、企業が弁護士=依頼者秘匿特権を放棄したとする地裁の決定を排除する職務執行令状を発布した。(参照:In re Kellogg Brown & Root, Inc. et al., No. 14-5319, 2015 WL 4727411 (D.C. Cir. Aug. 11, 2015)。地裁の判決を退けて、D.C.の巡回裁判所が判示したところによれば、地裁の決定を維持した場合には「(秘匿)特権に関するあらゆるクレームを打ち負かし、内部調査を保護するため、相手方が使いうる調査や開示方法の詳細について、全国の企業内弁護を担当する法律事務所に警鐘を鳴らすこと」になり、また、これらの「警鐘は確かな根拠に基づくだろう」とした。(参照:同上、12頁。)。
「なかりせばbut-for基準 不合格」
2005年に、ハリー・バルコは、虚偽請求取締法に基づき、被告代理人のケロッグ・ブラウン・アンド・ルート社(KBR)に対する苦情を提出し、KBRが戦時中のイラクにおける軍事契約を指揮しつつ、管理コストを増大させ、リベートを受け取っていると主張した。 バルコは詐欺容疑でKBRの内部調査に関する文書を求めた。 KBRの主張によれば、内部調査は法律上の助言を得るという目的に終始したものであり、しかも文書は弁護士・依頼者間の秘匿特権によってディスカバリーの手から逃れられたというのである。コロンビア特別区連邦地方裁判所は、当該調査は、法的助言を求める目的よりも、特定の規制要件に準じて行われたということ、さらに、KBRはその問題になっている文書が「法的助言を求めるために作られていなかったのであれば」という点に関しての主張が不十分であったという知見に基づいて、権限の訴えを退けた(参照: United States ex rel. Barko v. Halliburton Co., 37 F. Supp. 3d 1, 5 (D.D.C. 2014)。)。 2014年6月27日には、ワシントンD.C.の控訴巡回裁判所は、職務執行令状のためのKBRの最初の申請を許可した(参照:In re Kellogg Brown & Root, Inc., et al., 756 F.3d 754 (D.C. Cir. 2014)。)。D.C.の巡回裁判所は、権限に関するKBRの主張が、米国最高裁の画期的な判決であるアップジョン株式会社対米国、449米国383(1981)における特権の主張から「実質区別できない」と判示した(参照:同上、 757頁。)。 D.C.の巡回裁判所の判示においては、「アップジョンと同様、KBRは、潜在的不法行為を知らされた後、事実を収集し、法令遵守を確保するための内部調査を開始した。そしてKBRの調査については、これもアップジョンと同様に、KBRと法人としての行為能力を同じくする、社内の法務部門の主導のもと行われていた。本法廷もアップジョン判例と同様に考察すれば、企業の特権に関する主張に対する適用法理は本判決においても同様に適用される」と述べた。(参照:同上。)。ワシントンD.C.の巡回裁判所はさらに、「地裁判決は間違った法理を適用しているために、結論を誤ったと言わざるをえない。地裁によって明示されたなかりせばbut-for基準は、弁護士・依頼者間の特権の分析には適さない。地裁のアプローチ方法によれば、弁護士・依頼者間の秘匿特権は、接触に際しての唯一の目的が法的な助言の提供あるいは取得でない限り明らかに適用されない。これでは正当な判断とはいえない。」と述べた(参照:同上、 759頁。)。ワシントンD.C.の巡回裁判所は、適切なテストとは、賢明かつ適切に適用され、それでも法的な目的かビジネス目的かはっきりと区別せず、かつしようとしない「主たる目的」テストであると判示した(参照:同上。)。ワシントンD.C.の巡回裁判所は、このテストが十分役割を果たしたとの判決を下し(法的助言を求めることがもともと主たる目的でなかったという議論はともかく)、なぜ特権によって書類を添付してはいけないのかという問題点につき、さらなる議論を尽くすため、控訴審に差し戻した(参照:同上、 764頁。)。
「Balancing Test 不合格」
差戻審の地裁は、KBRは特権を放棄していたと判示した(参照:United States ex rel. Barko v. Halliburton Co., Case No. 05-cv-1276, 2014 U.S. Dist. LEXIS 181353 (D.D.C. Nov. 20, 2014) [Dkt. 205]。)。地裁は、会社法30条(b)(6)の指すものはディスカバリーの準備のための特定の特権文書の見直しであるという解釈に基づき権利放棄を認定した。地裁は、証拠に関する連邦規則612条を適用し、証人尋問に際して、証人が尋問前に記憶を喚起するためにメモを書いていた場合、「正義の観点から、そのような選択肢を当事者が必要とすると裁判所が認めるのであれば」相手当事者も同じものを作ってもらい、任意の証拠部分に編纂する権利があるとした(参照:証拠に関する連邦規則612条。)。
裁判所は、開示に際していくつかの有利に作用する要因と不利に作用する要因を特定し、利益衡量ののち「開示することが衡平に適うだろう」と結論づけた(参照:Barko, 2014 U.S.
Dist. LEXIS 181353 41頁。)。また、地裁は、KBR略式判決の訴状の補足説明という事実に基づき、バルコの請求によって内部調査を実施し、政府に不正行為を報告しなかったということだけでなく、KBRが調査中に不正行為を発見した時に「KBRがそのような開示を行う」という権利放棄を発見した(参照:同上、 25,26頁。)。地裁は、特権に関する調査内容を「俎上に載せる」ことで、KBRが特権を放棄したと結論付けた(参照:同上、 31頁。)。
KBRは、ワシントンD.C.の巡回裁判所に2015年8月11日に発布された職務執行令状の第二の適用事例となった(参照:In re Kellogg Brown & Root, Inc. et al., No. 14-5319, 2015 WL 4727411 (D.C. Cir. Aug. 11, 2015)。)。ワシントンD.C.の巡回裁判所は、証人によって裏付けられた証拠類に関しては、証人の記憶喚起に際して文書が用いられたかどうかが不明であったため、証拠に関する連邦規則612条が適用できないと決断し、特権が放棄されたかどうかを決定する際、Balancing Test を適用することが不適切であったという結論を維持した(参照:同上、 4頁。)。裁判所は、Balancing Test が仮に適切であったとしても、地裁の結論はアップジョン社判例により排除されており、「不確実な特権あるいは一定であることを主張するが広く裁判所によって申請を変更する結果にされるということは、全く特権がないよりは少しはいい」ということを示してくれたと述べる(参照:同上、 5頁。Upjohn Co. v. United States, 449 U.S. 383, 393 (1981) 引用。)。KBRのサマリー・ジャッジメントの脚注については、D.C.巡回裁判所は、補足説明は「事実の羅列」であり、「議論」ではないと述べた。またいずれにせよ、「補足説明内でのみ繰り広げられる粗略な議論に関わる」のはD.C.巡回裁判所の業務ではないとした。さらに、地裁はサマリー・ジャッジメントの申立人であるKBRに対するあらゆる推論を引き出すことが要求されていたのであり、よって、内部調査により不正行為はないことが明らかになったという、KBRに有利な推論を引き出すべきではなかったと述べた。(参照:同上、 9頁。)。
「全国の顧問弁護士の事務所」
ワシントンD.C.の巡回裁判所の決定は、「内部調査に弁護士・依頼者間の秘匿特権とワークプロダクト保護に関する申請に明示的に入り込んだ不確実性」を回避するための欲求によって後押しされた。(参照:同上、1頁。)。ワシントンD.C.の巡回裁判所が示唆するように、「全国の企業の顧問弁護士事務所」は、彼らの行う内部調査について訴訟においての特権維持を求めるべく、「どのような捜査および開示慣行の説明」を企業側からなすことができるかという定義を打ち立てた点について、KBRに関する決定を有益であると考えるだろう(参照:同上、12頁。)。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
chietogawa@quinnemanuel.com