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最高裁判所が法令特有の裁判籍ルールの重要性を強調 (17/08/20)
最高裁判所は、TC Heartland LLC v. Kraft Foods Group Brands LLC U.S., 137 S. Ct. 1514(May 22, 2017)において、特許権侵害訴訟は、侵害の疑いが発生した場所、又は、侵害の疑いのある者が設立された州においてのみ申立てることができると判断し、ほぼ30年間における実務的取扱いを根本から覆した。当該判決は、特許原告と裁判所が、それぞれのケースにおいて、いかなる裁判籍が適切であるかを決定するために用いるべきアプローチを変更するものである。当該判決は、また、連邦民事訴訟手続におけるより混乱した側面の1つである、裁判籍の目的のための住所とは何か、という疑問にスポットライトを当てるものでもある。
裁判籍と住所:歴史的概要
紛争を裁定するための裁判所の権限に関する人的管轄権及び事物管轄権の理論とは異なり、裁判籍のルールは、94ある連邦司法区のうちのどの裁判所がその訴訟当事者のための裁判所として利用可能であるかを決定するものである。1789年以来、議会は適切な裁判所を特定するための特別な基準を規定してきたが、それらの基準は時とともに変化してきた。
当初、民事訴訟における裁判籍は、被告が「住民」であった場所及び被告が訴状送達されたことが「判明した」場所のいずれにおいても適切であるとされてきた。しかし、これは濫用の対象になるとみなされるようになった。原告が、例えば、被告が他州に旅行するなどした際に訴状送達の対象となった場合、被告に対し、その本拠とする州から離れた場所で訴訟をするよう強制するなどしたためである。そこで、議会は、19世紀後半に法律を改正し、裁判籍を、被告が「住民」であった地区(あるいは、異なる州の市民間におけるケースでは、いずれかの当事者が「住民」であった地区)へと制限した。
これらの初期における裁判籍の法令は、特に、当事者が法人である場合、厳密にはどこが当事者が「住民」であった場所であるのか、という疑問を提起した。その答えは、1892年の最高裁判所判決によると、法人は設立された州のみにおいて「住民」である、というものであった。その結果、法人は、不正行為の疑いのある行為が行われた場所がどこであるかや、当該法人が他州の連邦裁判所における管轄の対象となったか否かにかかわらず、設立された州(または、もし異なるならば、原告が設立された州)の連邦裁判所においてのみ、民事訴訟を提起され得ることになった。
20世紀前半の継続的な経済成長及び法人の活動範囲の拡大に伴い、法人を被告とするケースにおける厳密な裁判籍の制限は、原告にとって不公平であるとみなされるようになった。例えば、コネチカット州の法人が、ニュージャージー州においてビジネスを行い、その活動が、ニュージャージー州からニューヨーク州へと旅行途中のバージニア州の居住者に対して損害を与えたような場合、当該原告は、バージニア州かコネチカット州のどちらかにおいて訴訟提起することを強制されることになるだろう。つまり、当該主張の対象となる活動にもっとも近接したニュージャージー州の連邦裁判所は、当該主張の裁判籍としては、選択することができないことになるだろう。
こうした懸念に応えて、議会は、1948年に、「一般裁判籍法」として知られるようになった法律を制定し、再度、裁判籍のルールを自由化した。同法は、以前の法律における「住民」との文言を「居住者」との文言に変更し、そして初めて、法人被告の居住地を、「設立された、又は、ビジネスを行うことをライセンスされた、又は、ビジネスを現在行っているいずれかの司法区」と明確に定義した。当該主張を生じさせる出来事が発生した場所における裁判籍(いわゆる「取引裁判籍」)を認める1960年代のさらなる改正と併せて、1948年法は、従前の裁判籍法令において規定されてきた法人の居住地に対する厳格なアプローチからの明確な方針変更を示した。
1988年と2011年における一般裁判籍法の追加改正は、法人当事者を含むケースにおける裁判籍の拡大を促進した。1988年、議会は法人被告の居住地に「申立てが開始された時点における人的管轄権の対象となるすべての司法区」を含めるよう再定義した。議会は、2011年に、定義をさらに洗練し、「すべての裁判籍の目的のために」との文言を規定することにより、法人被告の居住地は「当該民事訴訟に関して人的管轄権を有する」すべての司法区が含まれるとした。人的管轄権は、被告における適法な送達手続の可用性に基本的に依拠するので、一般裁判籍法の2011年改正は、一般的な連邦裁判籍のルールを完全に確立した、つまり、最初の連邦裁判籍法のように、法人被告は設立された州だけではなく、送達手続の対象となるあらゆる州において訴訟提起され得るようになった、ように見えた。
TC Heartlandと特許裁判籍法
一般裁判籍法の2011年改正は、法人被告に対する民事訴訟における適切な裁判籍を決定するための単純な枠組みを提供するもののように見えた。つまり、被告が当該裁判所の属する州で設立された場合、又は、被告が適切に送達手続がなされた州に十分な接点を有しており、それゆえ当該裁判所の人的管轄権の対象となる場合、その裁判籍は適切である。TC Heartland事件における最高裁判所の決定は、事は常に単純というわけではないことを思い出させるものである。
当該ケースの原告であるKraft Foods Group Brands LLCは、デラウェア州の連邦裁判所において、特許権侵害を主張してTC Heartland LLCを提訴した。TC Heartland, 137 S.Ct.1517. 侵害しているとされる製品はデラウェア州に発送された、-これはデラウェア州の連邦裁判所においてTC Heartlandに人的管轄権を生じさせる行動である-、が、当該企業は、1957年の最高裁判所判決が、特許法の裁判籍に関連する条項につき、侵害したとされる者は設立された州においてのみ提訴され得ると解釈したと主張し、当該企業が設立され、本店が所在する、インディアナ州の裁判籍への転籍を試みた。Id. 1990年の連邦控訴裁判所の決定に依拠し、地方裁判所と控訴裁判所は、特許法の裁判籍条項(「特許裁判籍法」)における「居住者」との文言は、一般裁判籍法における「居住者」との文言と同義である、すなわち、法人被告が「当該民事訴訟に関して人的管轄権を有する」すべての州、と判断し、TC Heartlandの主張を排斥した。Id. at 1517-18.
8対0の意見にて、最高裁判所はこれを差し戻した。裁判所の判決によると、Thomas裁判官は1897年まで遡り、以下のとおり指摘した。議会は、特許法に基づくケースに特別に適用される別個の裁判籍のルール、すなわち、裁判籍を被告が「住民」であった地区(同様に主張された特許権侵害が発生した場所の地区)の裁判籍に限定するというもの、を提供してきた。Id. at 1518. 続いて、議会は、特許裁判籍法における「住民」という文言を「居住者」という文言に変更したが(現在28 U.S.C.§1400(b)として成文化)、特許裁判籍法では「居住者」の更なる定義は含められず、また、明示的にも黙示的にも、特許裁判籍法の文言が一般裁判籍法の文言に従って解釈されるべきであると示されることもなかった。Id. at 1520. 事実、最高裁判所は、一般裁判籍法が、「居住者」の定義として「すべての裁判籍の目的のため」適用されると明示的に述べているにもかかわらず、一般裁判籍法の導入文言である「法によって定められる場合を除いて」は、その他の法律における特別の裁判籍のルールの別個独立の効果を保全する「セーフハーバー」を構成すると判断した。Id. at 1521.
その結果、一般裁判籍法と特許裁判籍法の双方が、法人被告が「居住者」である地区における裁判籍を認めているが、「居住者」との文言は、それぞれの法律において異なる意味を有することになった。一般裁判籍法においては、その意味は、被告が人的管轄権の対象となるすべての地区と明示的に定義されている。特許裁判籍法では、その意味は、過去において常に有していた意味、すなわち、特許権侵害訴訟における法人被告は、設立された州にのみ居住する、との意味を保持している。
本ケースの事実関係に対し、かかる理由付けを適用し、最高裁判所は、TC Heartlandはデラウェア州において設立されていないため、それゆえ特許裁判籍法の目的においてデラウェア州の「居住者」ではないと判断した。Id. TC Heartlandがインディアナ州を本社とするインディアナ州の法人であった事実とあわせて、裁判所の判断は、デラウェア州の連邦裁判所は、特許裁判籍法に基づくKraftの特許権侵害訴訟のためには、許容することのできない裁判籍と結論付けた。
特別裁判籍法の継続的な重要性
TC Heartland事件における最高裁判所の決定は、特許業界においてかなりの注目を集めることになった。なぜなら、この決定は、米国の特許訴訟実務における重大な変化を生じさせる可能性があるからである。1990年以来、特許権侵害を主張する原告は、より特許権侵害の主張をするには望ましいが、しばしば当事者や紛争とは直接の関連がない特定の連邦司法区、もっとも有名なのはテキサス州東部地区、に訴訟提起するために、連邦高等裁判所の現在では却下された特許裁判籍法における「居住者」の解釈を活用してきた。TC Heartland事件をきっかけに、特許原告は、彼らの望ましい裁判地と、侵害行為及び侵害を疑われる者のビジネス活動との間のつながりをより明確に示さなければならず、そうでなければ、被告が設立された州の裁判所へ転籍されるリスクを負う可能性がある。
なお、TC Heartland事件は特許訴訟の世界を超えて重要である。なぜなら、当該事件は、連邦法の特別裁判籍条項の重要性と継続的な生存性を強調しているからである。特許法は、当該法に基づいて発生した請求のための特別裁判籍ルールを提供している点において、特段、特殊なものではない。解説者は、少なくとも100の特別裁判籍ルールを定めた連邦法を認識しており、そのうちの多くは、当事者の一方又は双方の「居住地」と裁判籍とを少なくともある程度結び付けている。
事実、TC Heartland事件は、一般裁判籍法と他の連邦法における多様な特別裁判籍条項との間の関係性を探求している一連の最高裁判所判例のうちの最新のものとみなされる。1942年、そして1957年、最高裁判所は、特許裁判籍法は、一般裁判籍法「によって補足されたものではない」、「特許権侵害手続における裁判籍をコントロールする独占的な条項」であると判断した。しかしながら、1966年のPure Oil Company v. Suarez事件において、最高裁判所は、商船船員に関する特定の請求を規定するJones法の裁判籍条項に関して、反対の結論に達した。特許法における判決と区別して、最高裁判所は、一般裁判籍法は「少なくともそのような法律において反対の制限的指示がない限りは、基準として居住地を用いている全ての裁判籍条項に適用される」デフォルトルールを規定するものであると判断した。384 U.S. 202, 204-05 (1966). より近年においては、2000年のCortez Byrd Chips, Inc. v. Bill Harbert Construction Co.,事件において、最高裁判所は、特許権侵害の主張だけではなく、国営銀行とTitle VIIの雇用差別の主張を規制する法令の特別裁判籍条項の制限的解釈にも適用すると指摘した。裁判所によれば、これらのケースは「特別裁判籍条項の分析は法令に特定のものでなければならないということを単純に示すもの」である。529 U.S. 193, 204 (2000).
それゆえ、TC Heartland事件に照らして、連邦法に基づき提訴されたケースの訴訟当事者は、当該訴訟が正しい裁判所における手続であるかどうかを決定するあらゆる特別裁判籍ルールをよく見なければならない。問題の1つの例を示す。連邦競合権利者確定訴訟法は、不動産を所有する当事者が、当該不動産に対してそれぞれ競合する主張を持つ2人又はそれ以上の人々に対して訴訟提起することを許容する。利害関係原告に、同一の不動産における複数の別々の主張をさせるのではなく、請求者被告らがそれぞれの紛争を解決するよう、効果的に働きかけるためである。特許法のように、連邦競合権利者確定訴訟法は、当該法に基づく競合権利者確定訴訟は、「請求者の1人またはそれ以上が居住している司法区」において訴訟提起できる、とする特別裁判籍条項を含んでいる。28 U.S.C. §1397.
連邦競合権利者確定訴訟法における「居住者」は一般裁判籍法に基づく「居住者」と同じ意味をなすのか、特許裁判籍法と同様に異なる意味を有するのか。その答えは、利害関係者の裁判籍のオプションに重大な影響を及ぼすことになるだろう。上記のとおり、一般裁判籍法は、法人被告の居住地を、適法な送達手続を通じて確定される人的管轄権への感受性の観点から定義している。しかしながら、連邦競合権利者確定訴訟法は、請求者に対する利害関係者による全国的な送達手続を許容している。28 U.S.C. §2361. もし、一般裁判籍法における「居住者」の定義が連邦競合権利者確定訴訟法に適用されるのであれば、少なくとも間違いなく、請求者のうちの1人が適法な送達手続を可能とする州との十分な結びつきを有する限り、全国のいかなる地方裁判所における競合権利者確定訴訟においても適法である。
実際、ある地方裁判所はまさにそのような結論に至っている。Fort Dearborn Life Insurance Co. v. Jarrettでは、イリノイ州の保険会社が、双方ともミシガン州東部地区に居住する2人の個人被告と、インディアナ州にビジネスの主要拠点を有するデラウェア州において設立された法人被告に対し、ミシガン州西部地区において、競合権利者確定訴訟を提起した。上級裁判所における支配的な決定がなく、また、連邦競合権利者確定訴訟法において「居住者」の特定の定義がないことから、地方裁判所は、一般裁判籍法における「居住者」の定義が適用されるべきであると結論付けた。そして、当該地方裁判所は、連邦競合権利者確定訴訟法は全国的な送達手続を許容しているため、「法人請求者の関与する法定の競合権利者確定訴訟においては、全国的な裁判籍が事実上存在する」と結論付けた。--- F. Supp. 2d ---, 2010 WL 203537, at *2 (W.D. Mich. May 20, 2010).
特に、第7巡回区控訴裁判所は、従業員退職金保証法の特別裁判籍条項の解釈の際、反対の結論に至っている。2002年のWaeltz v. Delta Pilots Retirement Planにおいて、裁判所は、もし議会が全国的な裁判籍を生じさせるのに十分な全国的な送達手続を意図していたのだとすれば、議会は、退職計画が実施される場所といった裁判籍のための他の法定拠点を特定していなかっただろうと理由付けた。301 F.3d 804, 808-09 (7th Cir. 2002). ERISAの裁判籍条項が、当事者の「居住地」ではなく、当事者が「判明する可能性のある」場所に焦点を当てている一方で、第7巡回区控訴裁判所の論理は、少なくとも間違いなく、裁判籍のための様々な代替的拠点のうちに居住地を含む法令上の裁判籍条項に適用され得る。
したがって、TC Heartland事件は、連邦法が請求原因であったとしても、それはいかなる地方裁判所においても訴訟提起できるということを意味するものではなく、また、原告にとって最も都合の良い地方裁判所において訴訟提起できるということを意味するものでもない、ということを訴訟当事者に思い出させるのに有用である。当事者は、法人被告に対する人的管轄権と同様の範囲の裁判籍を与える一般裁判籍法に準拠する可能性があるかどうか、そうでなければ、代わりに、議会が訴訟を進めることが可能な地方裁判所のリストを制限又は拡大することを選択したかどうか、を決定するために、あらゆる特別裁判籍条項を注意深く精査すべきである。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
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