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英国Unwired PlanetのFRAND判決 (17/10/20)
背景
近年、”FRAND”問題が注目すべき論点になってきており、世界中における訴訟や行政審査の対象となっている。一般的に、標準必須特許(“SPEs”)は、技術標準の実施に必要な特許のことをいう。多くの技術標準が、WiFiおよび携帯電話から、電気プラグおよびコンセントまで、幅広い技術を管理している。多くの場合、技術標準を設定している組織は、そのメンバーに対し、公平かつ合理的かつ非差別的に、FRANDの諸条件に基づき、その技術標準を実施するのに必要なSPEsをライセンスする準備を要求する。しかし、そのことは具体的に何を意味するのだろうか。2017年5月4日、英国高等裁判所(特許)のBirss判事は、検討の末、無線製品の提供者に対して特許ポートフォリオのFRANDロイヤルティを設定する166ページにわたる意見を述べた。特に米国においては、どの程度、本判決が他に追従されるか不明ではあるものの、FRAND宣言の文脈において、契約上・競争法上の義務を評価する複雑なプロセスに現在従事する者は、本判決の内容に精通しておくべきである。
本件紛争
2014年3月、Unwired Planet(“UP”)はHuaweiと他の企業に対して、UPがエリクソンから買収した約2000件の特許ポートフォリオのうちの6つの英国特許の侵害につき、それらの特許は、2G GSM、3G UMTSそして4G LTE標準に不可欠なものであると主張して、訴訟提起した。訴訟提起後、UPは被告らに対して、ポートフォリオ全体のライセンス付与を提案し、その後、不可欠な特許についてのみ限定してライセンス付与する条項を提案した。被告は、反対に、当該特許の有効性と不可欠性を争い、UPの行為はEU競争法下における「優越的地位の濫用」であると主張した。(Unwired Planet ¶ 5.)。裁判所が、UPの特許のうちの2つは有効、不可欠かつ侵害されたと結論付けた一連の別個の技術的トライアルの後、裁判所は、これらの論点を精査するための総合的なベンチトライアルを実施し、その結論を詳細な166ページにわたる意見の形で述べた。それは、https://www.judiciary.gov.uk/wp-content/uploads/2017/04/unwired-planet-v-huawei-20170405.pdf にて入手可能である。
高等裁判所の意見
英国裁判所の意見は、多面的であり多くの関心事項を含んでいる。とりわけ英国裁判所は、FRANDの「根底にある目的」は、SEP所有者による「ホールドアップ」や、経済的に強力なライセンシーによる「ホールドアウト」または「リバースホールドアップ」を回避しながら、イノベーションに対し報酬を与えることであると結論付けた。(Unwired Planet ¶¶ 92-95.)。前者の状況では、SEP所有者は、SEPのライセンス付与を拒否することにより、「実施者を人質にとって金を要求する」ことができ、後者の状況では、潜在的なライセンシーは「ライセンス交渉プロセスを過度に引き伸ばし」、最終的にSEP所有者に対してFRANDのライセンスレートよりも低い金額を受け入れさせることができます。(Id.)。「ホールドアウト」 と「ホールドアップ」の間の緊張関係を調べるにあたり、裁判所は、Huawei 対 ZTE 事件(Case C-170/13) 16th July 2015 [2015] Bus LR 1261における欧州連合裁判所の判決、並びに、ワシントン州法下での契約違反の文脈におけるFRANDライセンス条項を検討したワシントン州地方裁判所の判決であるMicrosoft 対 Motorola事件, Case No. C10-1823JLR2013, US Dist LEXIS 60233 (W.D. Wash. April 25, 2013)における判決を含む、他の管轄における判決を検討した。これに関連して、英国裁判所は、FRANDにおける義務が、当事者にとって、交渉の意味をどのようなものにしているかにつき意見を述べ、FRANDは、一連のライセンス条項だけではなく、「一連の条項が合意されるプロセス」を規定していると理由付けた。(Id. ¶ 162.)。裁判所によれば、特許所有者と特許実施者の双方が、FRAND条項に同意するべく公正に交渉することを要求されるが、交渉中における提案については、それらが「交渉それ自体を妨害または詐害」しない限りにおいては、FRANDより高くても低くてもよいとのことである。(Id. ¶ 765.)
英国裁判所は、注目すべき方法で、米国における判決とは異なる判断をとっているように見受けられる。第1に、モトローラ判決(裁判所が、FRANDは可能なロイヤルティレートの範囲を拡大すると結論付けた)と異なり、英国裁判所は、FRANDは単一レートを示すべきであると結論付けた。当該英国裁判所は、それぞれの当事者が、「FRAND条項を主張する資格があり、また、どちらもFRAND条項以外のものを主張する権利はない」と説明した。(Id. ¶ 156.)。しかし、この判決の結果として、裁判所は、単一のFRANDレートを上回るまたは下回る提案は、実際のFRANDレートからの逸脱が「過度」でない限り、競争法に違反することはなく(Id. ¶ 153)、当事者は、FRAND宣言に基づく権利を主張するために競争法違反を示す必要はない、と結論付けた。
第2に、FRANDロイヤルティレートを計算する際、英国裁判所は、特許権者のロイヤルティは特許を付与されたものの価値を前提としなければならず、当該特許技術の標準の採用により追加されたいかなる価値も前提としてはならない、とした、米国連邦巡回控訴裁判所の最近の結論、Ericsson, Inc. 対 D-Link Sys., Inc.事件, 773 F.3d 1201, 1232 (Fed. Cir. 2014)、とは対照的に、特許所有者に、標準化された特許技術に起因する価値の一部を回収することを認めた。
英国裁判所は、FRANDロイヤルティレートを計算するための2つの方法論を採用した。1つは、同一技術の過去のライセンスを含む、比較可能なライセンスレートの分析であり、もう1つは、比較可能なライセンス分析の結果を「クロスチェック」するために用いられる「トップダウン」アプローチである。(Unwired Planet¶ 806(10).)。「トップダウン」アプローチは、価値を、ある製品の特定の標準の合計SEPロイヤルティ負担額に割り当て、その上で次に、その合計ロイヤルティの一部分を、問題となる特定の特許に配分する。
結論
Unwired Planet事件の判決は、かなり限定されているものの増加しつつあるFRAND関連の判例法への重要な追加である。この判決が他の裁判所によって採択されるかどうか、またそうだとしても、どの程度採択されるかは不明確であるものの、SEPsとFRANDのライセンス供与に関する紛争に関与する全ての法律家は、この判決を認識すべきである。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
chietogawa@quinnemanuel.com