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米国最高裁による特許権消尽の範囲拡大 (18/05/10)
米国における特許権消尽原則下では、特許権保有者または被許諾者が自身の特許製品を”認可販売”した場合、米国特許法下にある特許権保有者の権利は”消尽”される。従って、特許製品のいかなる下流の購入者も特許法による更なる制限無く自由に特許製品を使用または転売することができる。
Impression Products, Inc. v. Lexmark International, Inc., 事件 137 S. Ct. 1523 (2017年)では、最高裁は特許権保有者が米国内で転売された特許製品であるトナーカートリッジに対し契約上の再販売禁止条項を施行する際、対象のカートリッジが元々米国外で販売されていたとしても米国特許法に頼ることはできないと結論づけ特許権消尽の範囲を大幅に拡大した。
裁判所はこの状況においては転売者や契約上の再販売禁止条項を侵害した顧客に対し特許権侵害ではなく、契約違反の申し立てを行うよう特許権保有者に助言している。
Impression Products 事件で特許保有者であるLexmarkはトナーカートリッジの製造および世界的販売を行っており、それらカートリッジの部品および使用方法について複数の特許を保有していた。Lexmarkは自身の顧客に対しインクが無くなった際、使用済みインクカートリッジをLexmarkに返却する事で新しいカートリッジを契約に基づいた割引価格で購入できると勧めていた。
カートリッジ転売者であるImpression Productsは、この契約上の再販売禁止条項について把握しており、米国内で販売されていた割引済みカートリッジおよび海外で合法的に販売されていたカートリッジを入手し、補充を行ってから米国の顧客に対して契約上の禁止に反して再販していた。
LexmarkはImpression Productsに対し、特許侵害であるとして訴訟を起こしている。
最高裁はLexmarkへの連邦巡回裁判所での全裁判官による審理を覆し、Lexmarkはカートリッジの初販売時に自身の特許権を国内外共に消尽しており、特許法を用いていかなる契約上の再販禁止条項を施行することは製品の疎外に対する多大な制限および”商取引ルートの妨げとなる”ため特許法の使用はできないと判断した。
特許権消尽の原則における大幅な変更を示すこととなった裁判所の判断は、Lexmarkの米国における特許権は米国内外での初販売を問わず消尽されたとし、Lexmarkが世界中のいかなる場所においても特許製品であるカートリッジの”認可販売”を行った段階で、補充済みの対象カートリッジ購入者を特許侵害として訴訟を起こすことはできないとしている。
裁判所は同様の理屈をLexmarkのライセンシーによる認可販売にも当てはめ、”特許保有者によるライセンシーへの制限を課す権限は、特許権保有者がライセンスを用いて購入者に対し特許法を通じて施行可能な再販禁止を課せる訳ではない”と結論付けている。裁判所はまた”認可販売”はライセンシーが特許製品の販売時にライセンスの条件に従う度に発生し、特許消尽の目的のためにライセンシーによる販売は”特許権保有者による販売同様”として扱われる。
例えば、特許ライセンスによってライセンシーが購入者に対し契約上の再販禁止条項に同意を求めるよう条件付ける可能性があり、ライセンシーがこの規定に従っていたとしても、その販売は”取引済みの製品について全ての特許権を消尽する”。しかし裁判所は、Lexmarkが他の契約法上の救済を利用できるかもしれないとも述べている。
また、もし特許権保有者が再販禁止条項を含むライセンスを承諾した場合、またライセンシーが製品を顧客に(予め禁止条項を購入者に伝えた上で)販売し購入者がこの禁止条項を侵害した場合、特許権保有者は購入者に対し契約違反として申し立てを行える可能性が生じる。
最高裁によるImpression Products事件での判決後、特許権保有者の米国における特許権は対象製品の認可販売が世界中どこにおいても行われた段階で特許製品は消尽される。特許権保有者は再販禁止条項の施行において米国特許法の使用が大幅に制限されるため、自身の特許ポートフォリオライセンス業務について再考するべきである。
一例として、特許権保有者はライセンス契約時においてライセンシーによる特許権保有者の再販禁止条項違反者への販売を制限する条項を含むことを検討できる。もしライセンスが販売対象から外されている顧客名を明示している場合、そしてライセンシーが対象顧客に対して無認可販売を行った場合、裁判所はそのような無認可の販売が特許権保有者の特許権を消尽につながらないと判断することもあり得る。
しかし、自身の再販禁止条項に違反する購入者を特定することは困難かつ高額費用がかかる恐れもあるため、特許権保有者は契約上の救済の使用が可能である立場にいるべきである。
特許権保有者が契約違反に関して起訴できる根拠を持ち合わせていることを保証するために特許権保有者は自身が後の購入者と確かに契約関係を結び、また購入時に再販禁止条項について把握していることを確認しなければならない。例えば、特許権保有者は自身のライセンス契約書内の規定にてライセンシーが後の購入者との間で(1)購入者が再販禁止条項に同意、および(2)同意において特許権保有者を第三受益者として指名することを含む契約の取り決めを必須化することができる。
今後、裁判所によるImpression Products事件の判決によって特許権保有者は、彼らの特許および特許製品の契約上の権利が完全に保護されるよう自身のライセンス業務における現状を見直す必要性が生じる。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
chietogawa@quinnemanuel.com