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反トラスト法・不正競争防止法アップデート (18/09/18)
アルゴリズムと共謀協定
人間ではなくコンピューターのアルゴリズムが商品やサービスの価格を決定する場合に独占禁止法の適用はあるだろうか。この問題は現在、全世界にわたって独占禁止法当局を悩ませている。当局は当然のように適用されると言う。しかしながら、人為的な介在なくしてアルゴリズムで決定された価格がどのようにして競争者間の違法な共謀を促進するのかについて、法律的に検討することは難しい。この問題について、私たちは独占禁止法が確定的に適用されるわけではなく、その適用可能性はアルゴリズムの性質やそれが採り入れられた状況を考慮して決定されると考えている。ありふれた検討ではあるが、関連する状況としては以下の3通りが考えられる。
(a)アルゴリズムが明示的な共謀を促進している場合、つまり競争者間の合意が特定できる場合は、独占禁止法が適用される。
(b)アルゴリズムが暗黙の共謀又は意識的な並行を促進している場合、つまり競争者間で明示的な合意なくして自分たちの行動を調整しているときは、独占禁止法は適用されない。
(c)アルゴリズムが中間的な共謀を促進している場合、言い換えれば、明示的な共謀とまではいかないが暗黙の共謀を超える場合は、独占禁止法が適用される可能性があるにとどまる。この状況においては、暗黙の共謀に付随して、共謀の意思を裏付けるような競争者間の書簡や情報のやり取りなど、他のプラス要素に関する証拠がある場合に独占禁止法違反が認められる。EUではこの実務は「協調行為」として知られている。
おおまかにいえば、関連するアルゴリズムとしてはこの3つの形態が存在する。
暗黙の共謀アルゴリズム
このアルゴリズムは、人為的な価格決定をコンピューターアルゴリズムに変えた。これは市場の需要に応じて、そして競合他社とコミュニケーションを図ることなくして、価格をダイナミックに変えるものであり、これによって暗黙の共謀を可能にしている。現在の独占禁止法の下では、このようなタイプのアルゴリズムは本来的に違法というわけではなく、実際にもホテル業界や公共交通業界においては一般的であった。つまり、これらの業界では空室や空席の可能性を最小限にするために、需要に応じて価格を調整していた。しかしながら、事業者がそれぞれの暗黙の共謀アルゴリズムをお互いに共有するか、または一つのアルゴリズムを使うことを合意した場合は、独占禁止法違反の問題が生じる。この場合、悪ければ違法な明示的な共謀となり、よくても違法な中間的共謀である。前者の例として、2015年のアメリカ合衆国司法省におけるDavid Topkins事件が挙げられる。ポスターの販売事業者であるTopkinsは、アメリカのAmazonマーケットプレイスにおいて販売されていたポスターの価格を固定することについて、他のポスター販売事業者と合意した。この合意を実行するため、Topkinsとその共謀者は、市場の状況に応じてそれぞれの価格の変化を調整することを目的として、ポスター販売用の特定の価格アルゴリズムを採用することに合意した。もちろん、これに対してアメリカ合衆国司法省が罪を問うことを可能にしたのは、Topkinsとその競争者との間の、共同して暗黙の共謀アルゴリズムを実行するという明示的な合意の存在であった。
はっきりとしないのは、競合他社が暗黙の共謀アルゴリズムを創作するために同じITベンダーを雇った状況やITベンダーが全員のために同じアルゴリズムを使った状況である。これらの状況下では、明示的な合意が欠けるため、現行の独占禁止法において唯一可能性のある違反は中間的共謀となり、当局は共謀の意図を裏付ける関連するプラス要素を特定しなければならない。
監視アルゴリズム
このアルゴリズムは、存在する共謀協定を推し進めるべく、競合他社の市場における行動を監視するために事業者によって作られたものである。監視アルゴリズムがあることで、共謀協定を遵守しているかを確認するための競争者間の定期的なミーティング、会話及び報告を省くことができる。それは価格やその他の市場条件として合意された情報を自動的に収集するだけでなく、ルールの逸脱を探索したり、より洗練されたものとして、不正に対する報復手段としても利用することができる。もちろん、このような明示的な共謀が独占禁止法違反になることは疑いがないし、監視アルゴリズムは違法な合意を効果的に監督するために作られた単なる道具に過ぎない。この行為が現行の独占禁止法によって捕捉されることは明らかである。
アルゴリズム学習機械
アルゴリズムを学習する機械は、すぐさま価格や市場の変化に反応するためだけでなく、絶えず学習し改良していくためにも、競合他社のデータや決定を含むビッグデータを収集している。このアルゴリズムは、それを利用する事業者の利益を最大化することを唯一の目的として、人間の介在なくして無限のシナリオを計算する能力を有している。これにより、もしかしたら競争者間の相互依存(暗黙の共謀)が共同の利益最大化にとって最適の結果をもたらすということが示されているのかもしれない。このアルゴリズムによる共謀が現在の独占禁止法の範疇に含まれると判断することは困難である。
我々は、このエリアにおける独占禁止法の関心は、主要な管轄全体にわたって飛躍的に増加していくと予期している。共謀協定を実行するためにアルゴリズムを使用する事業者に対して独占禁止法を執行することは比較的容易である。しかしながら、現行の独占禁止法のルールを変更することなくして、暗黙の共謀を促進するアルゴリズムを訴追できるかは疑わしい。もし、予想したとおり、アルゴリズムが競争者とのコンタクトなくして共謀を促進するという簡便さを理由に、暗黙の共謀に関するケースが増えた場合は、政府や独占禁止法当局は、議論の余地が残っていたとしても独占禁止法のルールを広く解釈することで、それらを自分たちの業務の範囲内に含ませようとするだろう。もしかしたら彼らは同じ目的を達成するために独占禁止法自体を修正しようとするかもしれない。
我々は、すでに当局がこれらの問題の調査を進めようする傾向が強くなってきていることを確認している。2018年6月19日に、フランスとドイツの独占禁止法当局が、アルゴリズムによって提起された上記の問題を分析するための共同プロジェクトを立ち上げ、これらの問題に対処するためのアプローチを検討している。プロジェクトの最後に彼らは共同の論文を公表しようとしている。2018年7月24日には、欧州委員会が4つの独立した決定において、電気機器メーカーであるAsus, Denon & Marantz, Philips及びPioneerに対して、彼らがEUの競争法に違反してオンラインの小売店に対して再販売価格を固定したり又は再販売価格の最低限価格を設定したとして、罰金を科した。この罰金は1億1100万ユーロを超える。まだ決定は公表されていないが、興味深いのは、各メーカーが、流通網において設定された再販売価格を追跡できるばかりか、価格が下げられた場合に迅速にそこに介入することができるアルゴリズムを採用した監視ツールを使用していたと思われることである。欧州委員会はこのケースにおいて、アルゴリズムやそのプログラマーではなく、むしろそれらを採用したメーカーを標的にした。加えて、各メーカーは自らのアルゴリズムを個別に配置しており、そのアルゴリズムが共謀を促進したと示す証拠はなかった。しかしながら、これらのケースは、独占禁止法当局が、アルゴリズムを使用する会社を摘発するために、価格に関するアルゴリズムの使用とその容易性について調査する傾向が強まっていることを例証している。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
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