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最高裁は、Murphy 対Nat’l Collegiate Athletic Ass’n事件判決において、適法なスポーツ賭博拡大への道を開いた (18/10/25)
2018年5月14日、アメリカ最高裁判所は、Murphy 対Nat’l Collegiate Athletic Ass’n事件判決において、適法なスポーツ賭博拡大への道を開いた。Murphy事件において、最高裁は、プロフェッショナル&アマチュア・スポーツ保護法(25年以上にわたって、州がプロ及びアマチュアスポーツへの賭博を認める新しい法律の制定を禁止していた連邦法、以下「PASPA」という。)は州の権利を侵害し違憲であると判断した。PASPAによる賭博禁止がもはや存在しないため、適法なスポーツ賭博は既に拡大し始めている。つまり、決定から数週間以内で、アメリカにおける最初の適法なスポーツ賭博(ネバダ州外で)がデラウェア州とニュージャージー州で行われた。他の州もこれに追随することになるだろう。この記事では、アメリカでのスポーツ賭博に対してMurphy判決が有する潜在的な法的示唆について検討していくこととする。
Murphy判決の背景
議会は、当時既に許されていた州以外における法的なスポーツ賭博の拡散を防止するため、1992年にPASPAを制定した。個人に対してスポーツイベントに対する賭博を禁止するのではなく、議会は、「いかなる政府組織も、競争性のあるスポーツイベントに基づく賭け事を法律によって支援、運営、広告、促進、ライセンスや権利を与えること」は違法であると宣言することによって、州に対してスポーツ賭博を適法化することを禁止した。当時、個別のスポーツイベントに対して広く賭博を認めていたのはネバダ州だけだった。デラウェア州、オレゴン州及びモンタナ州は、スポーツプールやNFLパーレーのような限定された形態のスポーツ賭博を認めるだけであった。
この現状は、インターネットが普及したことで違法なスポーツ賭博の形態が変容したときも含めて、20年以上も維持された。もはや個人が地元のブックメーカーで賭ける必要はなく、年間何千億ドルも引き受ける国際的なブックメーカーのオンラインアカウントを作ることができる。2012年に、ニュージャージー州は、スポーツ賭博の歳入によって困窮しているアトランティックシティを復活させることができ、市民に新たな仕事を生み出すと考え、ニュージャージー州のカジノや競馬場でのスポーツ賭博を認める法律(PASPAでは明らかに禁止される法律)を作った。4つの主要なプロスポーツリーグ(メジャーリーグ、全米バスケットボール協会、全米フットボールリーグ、全米ホッケーリーグ)は、全米大学体育協会とともに、PASPAの独立した条項に基づき、ニュージャージー州が彼らのスポーツイベントに対する賭けを許すことを禁止するために連邦地裁に民事訴訟を提起した。連邦地裁は差止命令を出し、第3巡回区合衆国控訴裁判所もこれを認めた。この決定の後に、ニュージャージー州はその法律を既存のスポーツ賭博法の廃止という枠組みで捉えようとしたが、その試みも再度連邦地裁と第3巡回区合衆国控訴裁判所によって拒絶された。
6年に及ぶ法廷闘争の後に、最高裁判所は下級審の判決を破棄し、PASPAは反徴用理論(州及び州の法律制定の能力に対する連邦議会の権限の限界を認める理論)の侵害であり違憲であるというニュージャージー州の主張を支持した。最高裁は、「連邦議会が憲法上ある行為を要求したり、禁止する法律を制定することができる場合であっても、州に対してその行為を直接強制する権限は有していない」と結論付けた。「憲法は連邦議会に対して、州ではなく、個人を規制する権限を与えた」と述べた後、最高裁は「連邦議会はスポーツ賭博を直接規制することはできるが、もしそうしないことを選択したときは、各州が自らの判断で自由に行動できる」と締めくくった。
連邦議会は今後PASPAを置き換えるために動くか。
最高裁が指摘したように、その判決は、連邦議会に対して、スポーツ賭博に参加する個人の能力を直接規制する新しい法律を制定するか、スポーツ賭博に関する規制をそれぞれの州に任せるか、いずれかを選択する機会を与えている。PASPAの草案者の一人で上院議員であるオリン・ハッチ氏は、PASPAに取って代わる法律を今後取り入れることをすでに表明しており、それは「競技場における誠実さや秩序を守る」ために必要であると彼は信じている。提案された法律がどの程度賭博の拡大を制限しようとしているのかという点が、利害関係のある当事者にとってできるだけ早く答えてもらいたい重要な質問である。
賭博に対する大衆の意見は、1990年代初期にPASPAが成立して以来、より寛容な見方に移行しつつある。ほとんど全ての州が今は富くじを運営している。かつてはラスベガスとリノにほぼ独占的に認められていた適法なカジノ賭博は今は大多数の州に広がっている。インターネットは、海外のプロバイダーとの違法なスポーツ賭博をコンピューターやスマートフォンを持つ人にとっては誰でも容易にアクセス可能なものとした。Daily fantasy sportsやNCAAが提供するMarch Madness bracketなどのゲームは、有害な賭博と許容できる賭博との区別を曖昧にした。全ての新しい法律はこの移行を反映する可能性が高く、そのため賭博を禁止するよりも規制する方向に働くことになる。しかしながら、法律制定のプロセスを明確化することに加えて、新しい連邦規制は以下で検討するような数多くの困難に直面することになる。
利害関係
州、リーグ及び賭博提供者は、州レベルで多くの賭博を許容する法律が制定される中で、連邦政府を置き去りにして、自らの利益に資する地位を確保するために素早く動き出している。ニュージャージー州及びデラウェア州を含むいくつかの州では、既に新しいスポーツ賭博法の下で賭けの受付を開始している。それは2018年6月にそれぞれの州内のカジノでスポーツ賭博を受け付ける形でスタートした。ミシシッピ州では2018年8月1日よりカジノでスポーツ賭博の受付を開始した。およそ十数の他の州は法律を検討しているか、スポーツ賭博を認める法律を制定したがまだ積極的に賭けの受付を開始していないかのどちらかである。
ニュージャージー州がMurphy判決前にスポーツ賭博を適法化しようとしていたことに反対していたにもかかわらず、スポーツリーグはスポーツ賭博の拡大やそれが生み出す追加の収入を得る機会を受け入れることに大きな関心を示した。NBAとそのコミッショナーであるアダム・シルバーはその先頭に立っていたが、その一方でNFLとNCAAは増加するスポーツ賭博に最も抵抗を示していた。NBAは最近MGM Resorts Internationalとの間で提携関係を結び、MGMをリーグの「公式ゲームパートナー」として、MGMに対してNBAの公式データへのアクセス権を与えた。
ある連邦規制はスポーツリーグに好意的で、リーグが常に支持してきた「Integrity fee」の可能性を含め、少なくとも最低限のスポーツリーグの保護を図ろうとしている。Integrity feeは、スポーツブックにより行われた全ての賭けに対する税金として運用され、そのお金はイベントにおける賭博活動の監視やアスリートに対する賭博の教育のためにリーグに対して支払われることになっている。Integrity feeは、伝統的に多くの構成員、特にスポーツブックの運営者になろうとする者の間で人気がなかった。ある州では、提案された法律に、スポーツブックが勝った賭け金ではなく、合計の賭け金に対する1%のIntegrity feeを含めていた。その額は、合計賭け金の4~5%であるスポーツブックの典型的な収入の20%以上に及ぶものであることを考慮すると、スポーツブック運営者にとってはおよそ支持できないものである。
州の役割
それぞれの州の役割は、州がスポーツ賭博を認め始めた今となっては特に、明確化される必要がある。富くじやカジノ賭博と同様に、スポーツ賭博を認めるという決定は、Murphy判決以来それぞれの州に委ねられている。連邦規制の範囲にかかわらず、州の立法者は、自らの州でスポーツ賭博を認めるという決定及びどの程度消費者に提供するかという決定をするにあたって関連する数々の疑問について検討しなければならない。これらの要因には、スポーツ賭博がその州のプロ・アマスポーツにどのようなインパクトを与えるか、スポーツ賭博が既存の適法な賭博とどのように適合するか(これには商業的な又は部族的な賭博を含む可能性がある)、及びモバイルによるスポーツ賭博を認めるかどうかについてのそれぞれの評価を含む。
チームと学校に対するインパクト
スポーツ賭博の拡大に関する重要な懸念事項の一つは、アスリート、特にNCAAの学生アスリートのようなアマチュアアスリートに対するインパクトである。過去においては、NCAAは、適法なスポーツ賭博を行っている州に対して、賭博に近づくことを制限するため、特定のスポーツイベントの開催を拒否していたことがあった。これを受け、オレゴン州はNCAAのトーナメントゲームを誘引するため、2007年にスポーツ賭博を排除することとなった。プロリーグも同様のアプローチをとっている。2017年まで、MLB, NBA, NFL, NHLのプロスポーツフランチャイズは、数多くのより小さい市場に拠点をもつにもかかわらず、ラスベガスを拠点にするものはなかった。それも今では、ベガス・ゴールデンナイツが昨シーズンにNHLに参加したり、NFLのオークランド・レイダーズが2020年にラスベガスストリップの近くにできる新しいフットボールスタジアムに拠点を移すプランを発表したように、状況は変わってきている。この拡大が適法な賭博が他の州に広まっていくのと同じように続くのか、また、州の賭博法が様々なリーグや組織においてどのようにチームに影響を及ぼすのか、については明らかではない。
州の賭博に関する法令は、州内で活動するフランチャイズやアスリートに対する影響を評価するために、チームやプレイヤーの代理人によってしっかりと監視されるべきである。NCAAのチームにとって特に注意すべきことは、一方では州が運営する公立大学における学生アスリートを保護する利益、他方で適法なスポーツ賭博によって州の歳入を増やす利益、という異なる州の利益が存在することである。
既存の賭博運営者との関係性
州はまた、拡大されたスポーツ賭博の州内における既存のカジノ運営者に対する派生効果や確立されたビジネス関係に対する影響を検討しなければならない。州は、例えばスポーツ賭博を既存カジノでの本人による賭けに制限するべきか、それとも新しい独立したスポーツブックを認めるべきか、及びモバイル賭博のライセンスを既存のライセンスを持つカジノに限定するか、それとも新しい運営者に許容するかなど、数々の問題に直面することになるだろう。
これらの問題に対する決定によっては、州とインディアン民族との間の特定の合意も関係してくる可能性がある。カリフォルニア州、コネチカット州及びミシシッピ州を含む多くの州の民族は、州との長年の契約を通じて、特定のタイプのカジノ賭博やゲームを提供することについて独占またはそれに近い利益を有している。これらの民族の多くは、スポーツ賭博は既存の独占契約の対象範囲に含まれること、及びスポーツブック運営の権利を他人に与えることはこの独占契約に違反し、州の年間のスロットマシン収入における数十億ドルを保有する権利を民族に対して与えることになる、という彼らの見解を表明している。カリフォルニア州とコネチカット州は、民族と交渉しているため、まだ法的なスポーツ賭博を認めていない。民族に対する影響とこれらの契約の文言は、これらの州がどんな法律を制定することができるか、及びどの程度スポーツ賭博が広まっていくかという点について確実に影響を与えるだろう。
モバイルによる賭博
モバイルによるスポーツ賭博は、2010年以来、ネバダ州にいる消費者にとっては既に利用可能であった。ユーザーの位置情報を扱う技術の進歩によって、モバイル賭博のサービス提供者は、ネバダ州にいる人だけがモバイル装置からの賭けを行える仕組みを可能にした。この記事を執筆している時点では、ネバダ州は依然としてモバイル装置によって賭博を行うことができる唯一の州である。しかしながら、ニュージャージー州はすでにモバイルでのスポーツ賭博を承認し、2018年8月初頭から賭けの受付を開始することが予定されている。daily fantasy sportsの2大プロバイダーであるドラフトキングスとファンデュエルの双方を含むモバイル賭博の提供者は、ニュージャージー州のカジノとの間で自らがモバイルでのスポーツ賭博に関するプラットフォームになるべく、すでに提携契約を整備している。他の州もそれに従うことが想定される。
モバイル賭博の利用可能性は、本人によるカジノでの直接の賭博と比べて、2つの特徴的な違いをもたらす。第一に、最も明らかな違いは、モバイル賭博は消費者に対してスポーツ賭博をより身近なものにする。賭けが、家やスポーツイベントの最中を含め、カジノ場へ車で運転していかなくても、どこからでも行うことができる。第二に、モバイル賭博は、消費者が利用可能な賭けのオプションを大いに拡大させる。「ライブベッティング」や「インプレーベッティング」は、多くの個別のイベントにおいて賭博者に対してゲーム中に賭けるという選択肢を与えるし、またゲーム内での特定の結果に対する最新のオッズの提供を可能にするが、物理的なスポーツブックでは利用可能なオプションはより限定されるし、流動性に劣る。
スポーツビジネスの変容
議会や州政府によって認可された法律にかかわらず、スポーツイベントの消費者への売られ方やファンの楽しみ方は確実に変化するだろう。スポーツへの賭博はスポーツ放送時代の大部分において一般には認められない現実であったが、特定のイベントに対する賭博への言及は放送中にコメンテーターによってより自由に議論されることになるだろう。加えて、賭博サービスやデータ提供者による広告やスポンサーシップは、放送中またはスタジアムやアリーナといった、これらの会社がターゲットとするスポーツファンである観衆に直接アプローチすることができる場所においては、至る所に存在することになる。
NBAのMGMとの近年の取引が浮き彫りにしたように、最新の情報とパフォーマンスデータへのアクセスは、情報を熟知した上での賭けを実行するため、できる限りより多くの情報を求めることから、賭博提供者と消費者の双方にとって重要となる。このデータに対する強い関心は、アスリートが自分の健康やパフォーマンスに関するデータに関する権利を保護し、コントロールしたいときに、潜在的なプライバシーに関する問題を提起する。とりわけ、アスリートの特定の健康問題の開示を防止する権利については、特にそれが大学生アスリートである場合は、重大な法的問題を含んでいる。
Murphy判決の派生効果
Murphy判決における最高裁の明らかな反徴用に関する表現は、州と連邦政府が反目している他の法領域、特に、移民やマリファナに関する法律のように、議会が州より制限的な法律を課そうとしている領域において、含蓄を持っている。連邦規制の回避を求める州は、それらの規制に関するより広範な自治権を得るために、Murphy判決におけるニュージャージー州の成功した反徴用に関する議論を推し進めることができるかもしれない。
結論
PASPAの廃止により、スポーツ賭博が拡大する準備が整った。違法なスポーツ賭博の歴史的な人気と毎年違法に賭けられる莫大な金額を考慮すれば、すぐに重要な経済分野の一つになるだろう。
1980年代及び1990年代における州の富くじやカジノ賭博の拡大と同様に、一旦スポーツ賭博が始まれば、大多数の州はそれに参加することになるだろう。ある州はスポーツ賭博の市民に対する悪影響を懸念してそれを適法化することに抵抗するかもしれないが、その法制化の放棄は、適法なスポーツ賭博を提供する隣の州に対する、市民の賭博による潜在的な収入の機会を失い始めた州の困難・課題を浮き彫りにするだろう。スポーツ賭博がアメリカにおいてより受け入れられるようになってくると、多くの州がカジノでの直接の賭博に制限するのではなく、モバイル賭博を認めることになるだろう。この改革の最中において、リーグ、政府、スポーツブック及び試合提供者は、全員が自ら発展させた商品や自らが代表する人を保護し、成長させることに努めることになるだろう。そうなれば、新しい利益衝突、そして新しい法律が確実に発展していくことになる。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
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