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最高裁は、Cy pres(可及的近似の原則)を適用したクラスアクションの和解に対して懐疑的な見解を示した (19/03/01)
2018年10月31日、最高裁はFrank v. Gaos事件の口頭弁論を開いた。この事件はプライバシー権侵害における可及的近似の原則を用いたクラスアクションの和解に対する異議に関する第9巡回区控訴裁判所のケースに対する上訴審である。Cy presという言葉は、フランス語の“cy pres comme possible” (“できる限り近い”)の短縮形であり、慈善的贈与を行う遺言者の意思に効果を与えるための信託法や不動産法に基づく公平の理論を指している。クラスアクションにおいて、可及的近似の原則は、裁判所が請求されていない又は分配できないクラスアクションの和解金を、次にベストな受益者のクラスに間接的な利益として分配することを許容する。裁判所は、これまでクラスアクションにおける可及的近似の原則の潜在的な危険性、例えば和解金の分配に関与する裁判官や部外者の公平性、自己の利益追求、不正の外観等の問題について議論してきた。
ケースと和解の事実関係
原告らは、被告がユーザーの検索単語をその検索結果ページのURLに含ませたと主張した。すなわち、もしユーザーが結果ページにあるリンクをクリックすれば、到達するウェブサイトはユーザーの検索単語を「referrer header」において受け取ることになる。ウェブ分析サービスはこの情報を取得したり拡散することができる。原告らはこの検索情報の開示は個人的又は高度に繊細な情報を含み得ると指摘し、Stored Communication Act (保管された通信に関する法律)違反に基づく請求及び数々の州法上の請求を主張した。
ケースの当事者は最終的に和解することに同意した。被告は850万ドルを和解金として支払い、それは(1)World Privacy Forum, AARP, 及び何人かの原告の弁護人の母校を含む様々な大学等のcy pres受益者への分配、(2)212万5000ドルの弁護士費用への充填、(3)名を連ねた各原告への5000ドルの補填に分割された。被告はまた一定のFAQ情報をウェブサイトに提供し、その他どのようにユーザーの検索情報が開示されるのかに関する情報も提供したが、被告の検索、分析又はウェブヒストリーの実務や機能性について変更することは要求されなかった。
連邦地裁及び第9巡回区控訴裁判所の判決
連邦地裁は、和解は連邦民事訴訟法23(e)の「公平、適切及び合理的」であるという要件を満たすと判断して、2015年3月に最終的な和解を承認した。また裁判所は、1億2900万人の個人ユーザーである原告らをクラスとして扱い、クラスメンバーが提案された和解により直接の支払いを受け取らない限りクラスとして認可されないという異議者の反論を退けた。裁判所は、(1)付与が分配不能であったから可及的近似の原則による全ての支払いは適切であった、(2)連邦民事訴訟法23(b)(3)の優越性の要件は支給が可及的近似の原則に基づくものであったか否かにより影響を受けない、(3)可及的近似の原則による受領者とクラスメンバーの利害との間に実質的な結びつきがあり、受益者と当事者の関係性が選択のプロセスに影響を与えたという証拠がない、(4)弁護士費用は合理的である、と判断した。第9巡回区控訴裁判所も和解を承認したが、一人の裁判官は、「和解金の47%がクラスの弁護人の母校に寄付されることは問題である」と指摘して、部分的に反対意見を示した。
控訴審及び最高裁の口頭弁論における争点
最高裁における争点は、クラスメンバーに対して直接の救済をもたらさない可及的近似の原則によるクラスアクションの和解はクラスアクションの認可を支持できるか、及び和解は「公平、合理的で適切」という要件を満たすかどうかという点であった。口頭弁論において、クラスの原告らの原告適格の問題について激しい議論が交わされた。裁判所はまた、可及的近似の原則のみによる和解に懐疑的であった。裁判官のコメントは、そのような和解は極めて稀であると指摘するものから、それを完全に排除するべきではない(しかし厳格な審査の対象となる)と提案するもの、またそのような和解の適否に関して大きな疑問を呈するものまで広範囲にわたった。
最高裁は原告適格に関して更なる説明を要求した
2018年11月に、最高裁は原告らが原告適格があるか否かに関して補充の主張を要求した。これまで最高裁が再主張を求めたことはなかった。このことは裁判所がケースに関して原告適格の争点のみについて判断する可能性があることを示している。そのような決定は、少なくとも近い将来において、Frank v. Gaos事件のような類似の可及的近似の原則を用いた和解の利用を可能にするかもしれない。
可及的近似の原則を用いたクラスアクションの和解の除去
要するに、可及的近似の原則を用いたクラスアクションの和解においては、当事者はどのようにして受益者が選択されるか、受益者が誰かについて慎重にならなければいけないし、特にクラスメンバーが僅かな補償しか受けず又は全く補償を受け取らなかったり、直接の利益を受けない場合は、しっかりとした精査を行う必要がある。
さらに、クラスメンバーに直接の利益をもたらさないFrank v. Gaos事件に類似した可及的近似の原則による和解は、たとえ裁判所が最終的には承認するとしても、厳格な審査、懐疑、異議申立てのリスクにさらされる可能性がある。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
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