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連邦巡回区控訴裁判所は特許期間の延長に関する基準を提供し、自明型二重特許の限界について明らかにした (19/03/01)
Novartis AG v. Ezra Ventures, LLC事件において、連邦巡回区控訴裁判所は、特許法156条に基づき認められた特許期間の延長と自明型二重特許の相互作用について大いに期待されていた判決を出した。自明型二重特許は、裁判上認められた原理で、特許権所有者が、先に期限の切れた特許におけるクレームと同一又は明らかにその修正版といえるクレームを有する単一の発明に関して、法律上定められた特許期間を延長することを排除する理論である。裁判所は、自明型二重特許は、特許法156条により有効に取得された特許期間の延長を無効化しないと判断した。
特許法156条は、1984年制定の医薬品の価格競争と特許期間回復法の一部であり、製品が食品医薬品局などの当局からの承認なしに商業的にマーケティングできないことから、特許権所有者が特許期間の初期に失った特許期間の価値を回復させるために制定された。特許法156条は、規制の検討対象となった製品をカバーする特許に関して、5年を上限として、規制の検討に要した期間と同一の期間の特許期間の延長を認めるものである。特許権所有者が規制の検討対象となっている同じ製品をカバーする一つ以上の特許を保有しているとしても、期間延長できるのは一つの特許のみである。法律上は、特許権所有者が期間延長できる特許の中から自由に選択をすることができる。
Novartisは多発性硬化症薬のジレニアをカバーし、特許法156条(a)により特許期間延長が可能な特許を少なくとも2つ所有していた。Novartis は、ジレニアの活性成分であるフィンゴリモドを含む、様々な合成物に向けられた最初の特許―米国特許第5604229号(299特許)―について特許期間の延長を申請することを選択した。この期間延長により、229特許権の有効期間は2019年2月18日までとなった。Novartisの2番目の特許―米国特許第6004565号(565特許)―はフィンゴリモドの管理方法を対象にするもので、2017年9月23日をもって期間満了するものであった。
Ezraは、229特許の期限が切れる前に、ジレニアのジェネリック医薬品の市場化を求めて、略式新薬承認申請を申し立てた。これに対して、Novartisはデラウェア地区の連邦地裁に229特許権侵害訴訟を提起した。Ezraは229特許は無効である又は主張されていない565特許の期間が過ぎれば229の特許期間も終局的に放棄されること理由として訴え却下の判決を求めたが、連邦地裁はEzraの申立てを否定した。そして満場一致の判決で、連邦巡回区控訴裁判所もこれを肯認した。裁判所は、「特許法156条は、特許権所有者が製品、その使用方法又は製造方法に関して複数の特許を所有することを認めている。規制の検討プロセスによって一部の有効期間が消費された特許の中から、特許権所有者がどの特許の期間延長を求めるかの選択に関して、法律上の制限はない。」と説明した。
連邦巡回区控訴裁判所は、Novartisは「一つの特許についてだけ期間延長される」とする特許法156条(c)(4)の要件に違反する、というEzraの主張を否定した。Ezraの主張によると、Novartisは2つの特許権について期間延長を取得した。すなわち、229特許権は、565特許権によって主張される方法を実行するために必要な合成物をカバーしているため、229特許権の期間延長は同様に565特許権にも「有効に」適用されるとEzraは主張した。しかし、連邦巡回区控訴裁判所は、「『有効に』という文言を特許法156条(c)(4)における『延長する』という文言を修飾するものとして解釈する理由はない。」と結論付けた。同様に、特許権所有者に対して一つ以上の特許権の期間延長がないことを確認するような要件は、「特許法156条の歴史、構造、文言に照らしても存在しない」とした。実のところ、「議会は特定の特許権に対する期間延長のみを認めるよう制限しているのではなく、特許権所有者に選択権を与えるような柔軟なアプローチを採用した。」したがって、裁判所は、期間延長におけるNovartisの229特許権の選択は、特許法156条(c)(4)には違反しないと結論付けた。「565特許権の方法が229特許権の延長された期間の間実行できないということは、特許法156条に基づき229特許権に与えられた法的状況の結果として許容されている。」
次に、裁判所は、「期間延長により229特許権がNovartisが特許的に不明瞭と主張する565特許権の後に期限満了することから、229特許権は自明型二重特許を理由に無効であるか否かという論点」について検討した。裁判所は、そのようなシナリオにおいて自明型二重特許は有効に取得された期間延長を無効化しないとするMerck Co. v. Hi-tech Pharmacal Co.事件判決の「論理的な期間延長」であると判断した。Merck事件において、裁判所は、「特許法156条の素直な解釈は、期間延長に関するその他の列挙された法律上の要件を満たす限り、期間延長を義務付ける」と判断した。その論理を本件で適用して、連邦巡回区控訴裁判所は、「もし特許権が期間延長前の有効期限においてその他の法律により有効であれば、それは期間延長の全期間において有効である。」と結論付けた。
連邦巡回区控訴裁判所は、Ezraのポリシーに関する主張も否定した。裁判所が説明するように、本件では自明型二重特許に関する先の判決を刺激するような潜在的な駆け引きに関する懸念は生じていない。さらに、裁判所は、自明型二重特許は法律上認められた時間の制限を超える特許の期間延長を防止することを意図した「裁判官によって作られた原理」であると説明した。本件では、裁判所は、Ezraに同意することは、裁判官によって作られた原理が法律上認められた期間延長を遮断することを意味すると判断し、裁判所はそれをすることを拒否した。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
chietogawa@quinnemanuel.com