お客様にとってもっとも関心のある知財や独禁法・金融・労使関係などの最新の話題をお届けします。
御社の法務・経営戦略にお役立てください。
-
IPRに関するITCの取り扱い (19/04/18)
米国国際貿易委員会(ITC)は、知的財産権が絡むクレームについて迅速な手続処理を担う機関である。337条調査において裁定されたこれらのクレームは、最初の申立てから10か月以内にトライアルまで到達するのが一般である。337条調査の圧倒的過半数は特権侵害の主張が関係しているため、実務家にとって、ITCと特許審判を迅速に処理するその他の手段―特許庁審判部(PTAB)によって遂行される当事者系レビュー(IPR)手続―との間の相互作用を理解することは重要である。
IPRは、当事者の特許権が侵害されているかどうかではなく、発行された特許の特許性についてのみ審判することに特徴がある。PTABは、先行技術特許やその公表に照らして無効と考えた特許(又は特定の特許クレーム)について取り消す法律上の権限を有する。この権限を踏まえて、ITCで主張される特許は、しばしば同時並行でIPRを通じてその有効性が争われる。そのような場合、ITCはIPRの審決に対してどのような敬意を払うのだろうか。
同時並行で行われる337条調査と関係があるIPR手続には2つの重要な指標がある。(1)IPRを開始するためのPTABの決定、及び(2)PTABによる特許や特許クレームを取り消す旨のIPRの「最終的な書面決定」の発行である。ITCは伝統的にそれぞれの指標について異なる取り扱いをしてきた。
337条調査の手続の迅速性により、IPRは歴史的に337条調査のスケジュールに関してほとんど影響をもたらさなった。このことは(1)の手続は済んだが、まだ(2)の段階に到達していないIPRにとって、特に顕著に表れる。実のところ、ITCは係属中のIPR(手続は開始されたが、まだ最終的な書面決定には至っていないIPR)に基づいて337条調査を保留することはない。審理保留の申立てを否定するにあたって、ITCの行政法判事(ALJ)は、ITCの調査は調査開始後「実行可能な最も早い時期」に結論を出すという制定法上の任務についてよく指摘する。IPRの申立てから最終的な書面決定の発行まで一般的に18か月かかることから、係属中のIPRを理由に337条調査を止めることはかかる任務に反することになる。ITCによる係属中のIPRに対する無関心は、係属中のIPRを理由にしばしば審理を保留する連邦地裁の特許事件と比べ、重要な対比となっている。
しかしながら、一度PTABが最終的な書面決定を出せば、その最終決定は337条調査に大きな影響を与える。この調査は2つの主要な段階で構成される。侵害段階(ディスカバリーに始まり、ALJの仮決定の発行に終わる)と損害回復段階(ALJの仮決定の発行後に始まり、委員会による調査の最終処分又は損害回復の期限満了で終わる)である。ITCにおける最近の発展は、特定の状況下においてIPRの最終書面決定がいずれの段階に対しても影響を与えうることを明確にした。
2018年8月に初めて、ITCはIPRの最終書面決定に基づいて、侵害段階の337条調査を保留した。この草分け的な命令は、とある電圧調整器に関する特許事件(No.337-TA-1024)において、ALJの判事長であるBullock氏によって下された。侵害段階の337条調査がこれまでIPRに基づいて保留されたことはなかったが、この命令はITCによるポリシーの変更を示唆するものではないと思われる。実は、1024号特許の調査は、究極的にITCの審理スケジュールをIPRの審理スケジュールよりも後倒しする数多くの遅延に帰結する特異な一連の状況(以下に簡潔に記載する)を伴っていた。他の珍しさとしては、全ての当事者(原告、被告及び不公正輸入調査室)が審理保留を支持した点が挙げられる。
1024号調査の特異な状況に関しては次のとおりである。証拠調べ手続は当初2017年7月24日から開始される予定であった。2017年7月6日に、Bullock判事が病的な問題を理由に7月の口頭弁論を取り消し、次の弁論は最終的に2017年11月に再度調整された。2017年10月に、Bullock判事は唯一主張されていた特許の不侵害に関する被告らのsummary determinationの申立てを認めた。この命令により、調査の侵害段階は有効に一旦停止された。原告はBullock判事の決定に対する検討を委員会に求め、2018年2月に委員会は更なる検討のためケースをBullock判事に差し戻した。ディスカバリーが再度行われ、口頭弁論は2019年4月に再度設定された。しかし、4月に予定された口頭弁論のかなり前である2018年7月31日に、PTABは調査において唯一主張されていた特許を無効とするIPRの最終書面決定を下した。その決定を踏まえ、被告らはすぐさま決定の連邦巡回区裁判所に対する上訴を差し止める調査の保留を申し立てた。原告及び不公正輸入調査室いずれも保留の申立てを支持する答弁書を提出した。
申立てを認可するにあたって、Bullock判事は「337条調査の保留は原則として好ましいことではないが、その保留が許容されていることは委員会の意見から明らかである。」と指摘した。彼はさらに、1024号の「調査は保留が最も利益に合致する明らかな例を提供している」と指摘し、それは「全当事者が審理を保留することが訴訟経済に合致すると考え、不公正輸入調査室がそれに反対しておらず、また、他の調査にある要素―もうすぐ期限が切れる特許又は調査の進行期と再調査の初期段階が混在する状態―が存在しないとき」であると言及した。
珍しい状況及びBullock判事の保留命令における文言を考慮すれば、1024号の調査は、337条調査の保留を好ましくないとするITCの長年のポリシーを変更することを意味しているものではない。しかし、1024号の調査は、まだ侵害段階にある調査の保留を取得できる可能性があることを示したといえる。
侵害段階と同様に、337条調査の損害回復段階もIPRの最終書面決定により影響を受けうる。とりわけ、特許の効力を否定するIPRの最終決定によって、潜在的にITCは損害回復命令の実行を停止することにつながる可能性がある。最近の2つのITCケースは、PTABがIPRの最終書面決定を下した後に、ITCがどのように損害回復命令を取り扱うことになるのかについて、ロードマップを提供した。
まず一つ目は、IPRの最終書面決定に基づきITCが損害回復命令の効力を停止するという事態が、3次元の映画システム特許に関する事件(No.337-TA-939)で発生した。委員会が当該ケースで損害回復命令の停止を決定する前は、ITCはIPRに反応して自らの活動を保留したり停止することはなかった。939号特許の調査において、ALJが手続で主張されていた934号特許の侵害を理由とする337条違反を認定した仮決定を出した5か月後―しかし、委員会がALJの決定を検討し又は損害回復命令を発行する前に―PTABが934号特許は無効と認定するIPRの最終書面決定を出した。そのPTABの決定から3か月後、委員会は934号特許は無効ではないとするALJの判断を認可した。934号特許の有効性に関するPTABの意見に不同意であることを確認したにもかかわらず、委員会は自ら発行した損害回復命令を停止して、PTABの決定に対する全ての上訴を保留にした。委員会は「PTABの最終決定に対する上訴を含め、最終的な決定が出れば、委員会は934号特許クレームに関して適切な措置を講じる予定である。」と指摘した。
ロードマップを示した2つ目のケース(ソフトウェアに関連するあるネットワーク装置に関する特許事件(No.337-TA-945))は、939号特許の調査後に終了し、問題となっているIPRの最終書面決定はITCの損害回復命令の実行を停止しないと最終的に判断する形で、939号事件とは反対のアプローチを採用した。そこでは、委員会は(2つの特許権侵害に基づいて)損害回復命令を出したが、それはPTABが同じ2つの特許を無効と判断する最終的な書面決定の3週間前であった。PTABの決定にかかわらず、委員会は既に発行された損害回復命令の実行を停止することを求める被告の要求を否定した。委員会は、本件での命令と939号特許の調査において下した指令について、2つの重要な背景においてケースを区別することによってその整合性を図った。まず、(1)本件では、PTABが最終的な書面決定を出した時点で損害回復命令が既に下されていたのに対し、939号調査のケースではPTABによる最終的な書面決定時には何ら損害回復の決定は出されていなかった。また、(2)本件では、PTABの決定が上訴で審理されている間に、停止が損害回復命令を完全に否定することを要求することになるのに対し、939号調査のケースでは、損害回復命令の停止は、ITCが337条違反を認定した3つの特許の中の一つの特許(934号特許)についてのみ適用されたため、損害回復の救済が完全に否定されたわけではなかった。
本件では、IPRの最終書面決定に対する上訴がなされている間は、特許は有効であるという点についても指摘している(PTABは全ての上訴が尽くされ又は上訴期間が満了するまで取消認可を出さないと述べている)(それとは対照的に、連邦巡回裁判所は、連邦地裁による特許無効の判断は、委員会の損害回復命令に対して直ちに排他的効力を有すると説明している)。
まとめると、1024号特許、939号特許及び945号特許に関する判断は、正しい状況下においてー例えば、ITCが損害回復命令を出す前に、IPRの最終書面決定が下される場合―ITCは、後に出される損害回復の実行を含め、337条調査を一旦停止する裁量を行使することができるということを示唆している。しかし、これらの限定的な状況を除けば、ITCは自ら抱えるケースのスケジュールや既に発行された損害回復命令を停止することはないと思われる。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
chietogawa@quinnemanuel.com