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連邦規則が踏み込まない場所:遠隔地での宣誓証言録取手続 (19/07/18)
Where the Federal Rules Don’t Tread: Depositions in Distant Locations
連邦規則が踏み込まない場所:遠隔地での宣誓証言録取手続
連邦規則が2015年に改正されて以来、裁判所が関連性と均衡の適切なバランスをとることに焦点を当ててきたことから、電子書証開示に関係する費用について多くのことが書かれてきた。これが証言録取地のこととなると、どう展開するだろうか?証人や当事者は、提示された証言録取地が不当な負担や費用を生じさせる場合に何をすべきだろうか?そして、一部あるいは全部の費用を、証言録取を申請した当事者に負担させることはできるのだろうか?
The Location of Party Depositions Is Not Set by the Federal Rules of Civil Procedure.
当事者の証言録取地は連邦民事訴訟規則で規定されていない。
連邦規則は明示的に、証言録取が面前かつ口頭尋問の方法で行われることを規定している。連邦民事訴訟規則第30条。罰則付召喚令状(サピーナ)の送達権限を規定する規則第45条によると、証言録取がその者の居住地、雇用地、または通常かつ現実の業務執行地から100マイル以内の場所で行われる場合のみを除き、いずれの当事者も証言録取手続への出頭を強制されることはない。連邦民事訴訟規則第45条(c)。証言録取手続について一般的に規定する第30条は、このような問題を証言録取の時期及び回数(すなわち、裁判所の許可が必要か否か)、及び証言録取手続の行われ方(例:長さ、異議、証言の記録方法)の問題として取り扱う。参照:連邦民事訴訟規則第30条(a)-(f)。規則第45条とは対照的に、規則第30条は、当事者の証言録取の場所について地理的制限を設けていない。代わりに、規則第30条は通知した当事者に対し、一方的に場所を選択することを認め、通知に「証言録取の日時及び場所を記載し、証言供述者の氏名が判明している場合はその氏名と住所を記載する」ことのみを求める。連邦民事訴訟規則第30条(b)(1)。しかしながら、相手方当事者にとって証言録取手続の時間及び場所を選択する能力が片面的であることをもって、典型的に紛争になることはない。なぜなら、裁判所は当事者に対し、証言録取の予定を立てる場合には合理的かつ好意的であるよう求めているからである。けれども、いくつかの事案においては、証言録取のための旅費に関連する費用が多額で不公平となってしまうことにより、一方当事者が、異なる場所での実施あるいは他方当事者に全部または一部の費用を支払ってもらうことを望むことがありえるかもしれない。
Courts May Order Deposition Locations Changed or Costs Shifted to the Requesting Party.
裁判所は証言録取手続の場所を変更し、証言録取を請求した当事者にその費用を課すことを決定できる。
一方当事者が許容される証言録取の回数を超えた場合を想定すると、裁判所は極めて異常な状況になった場合にのみ証言録取の全面禁止を決定する必要性を感じるだろう。参照:Salter v. Upjohn Co., 593 F2d 649, 651 (5th Cir. 1979)(「裁判所にとって、並外れた異常な状況なしに宣誓証言を獲得することをまったく禁止することはかなり異常であり、このような決定はおそらく間違っているだろう。」);Zimmerman v. Al Jazeera Am., LLC, 329 F.R.D. 1, 5 (D.D.C. 2018)(「証言録取の完全禁止は稀有な場合にのみ取られるべき異常手段である。」)。よって、仮に当事者が証言録取地に合意できなければ、連邦規則は一方当事者に対し、規則第26条(c)に従って保全命令を求めることを認める。本項では、「裁判所は、正当な理由があれば、不当な負担または費用から一方当事者またはその他の者を保護するために命令を下すことができる」と規定されている。参照:Philadelphia Indem. Ins. Co. v. Fed. Ins. Co., 215 F.R.D. 492, 495 (E.D. Pa. 2003)(「通常、証拠開示(discovery)を求める当事者は、裁判所が異なる場所を指定する保全命令を認める権限を有することを条件として、証言録取地を決定することができる。」)。正当な理由を示す責任は、保全命令を求める当事者側にある。裁判所は証言録取地の決定及び関連する救済措置について広範な裁量を有する。この裁量権の行使にあたっては、裁判所は一般的にコスト、利便性、及び効率性に焦点を当てる。正当な理由があるか否かを決定するために、裁判所は概して、判例法を通して確立されてきた推定地から検討を始めている。
Depositions of a Plaintiff Corporation and Its Agents Should Presumptively Take Place in the District in Which the Suit Was Brought.
原告会社とその代理人の証言録取は、訴訟が提起された地区で行われるべきことが推定される。
この推定の理論的根拠は簡単である―原告は法廷地を選択したのだから、たとえ原告側証人が外国に居住していようと、証言録取のためにその地に出頭しなければならないことについて不満を述べることは聞き入れられない。参照:Hyde & Drath v. Baker, 24 F.3d 1162, 1166 (9th Cir. 1994)(「たとえ地方裁判所が香港からはるばる来ることを要求しようが、原告は訴訟を当該地域で提起したのであり、したがってそこに出頭しなければならないものと期待されるから、当該裁判所が原告側証人に対しサンフランシスコで行われる証言録取のために香港からやってくるよう決定することが、裁量権の濫用にはならない。」)。
Depositions of a Defendant Corporation and Its Agents Should Presumptively Take Place in the Corporation’s Principal Place of Business or Where the Witness Works or Resides.
被告会社とその代理人の証言録取は、当該会社の業務本拠地若しくは証人の業務地または居住地で行われるべきことが推定される。
参照:Salter v. Upjohn Co.,593 F2d 649, 651 (5th Cir. 1979)(「会社の代理人及び役員による当該会社の宣誓証言は、特にこの事案のように当該会社が被告である場合には、通例その業務の本拠地にて獲得されるべきであるということは、優に解決されている問題である。」);Farquhar v. Shelden, 116 F.R.D. 70 , 72 (E.D. Mich. 1987)(「判例法は、被告がその居住地、業務執行地または雇用地において尋問されることが推定されるであろうことを示している」ことを指摘している)。この推定は業務の本拠地が外国である場合であっても認められている。参照:米国でのBarko v. Halliburton Co. 関連事件, 270 F.R.D. 26, 29 (D.D.C. 2010)(被告の会社としての証言録取をその業務本拠地であるヨルダンのアンマンで行うことを決定し、これに参加するための費用を被告に負担させることを求めた原告の請求は棄却された。)。
Courts May Order a Deposition Held in a Different Location “When Justice Requires.”
裁判所は「公正性が求められるときは」証言録取を異なる地で行うことを決定できる。
8A Wright & Miller, Fed. Prac. & Proc. §2112 (3d ed.)。被告会社、その代理人、及び経営者が業務本拠地以外の場所で証言録取をされることは、かなり一般的となっている。参照:Sugarhill Record Ltd. v. Motown Rec. Corp., 105 F.R.D. 166, 171 (S.D.N.Y. 1985)(「法人被告は、全当事者の利便性や司法経済の一般的重要性のために、……頻繁に業務本拠地以外の場所で証言を録取されている。」)。公正性の観点から証言録取地を異なる地に設定するか、条件を付すかを決定するために、裁判所は通例、コスト、利便性、効率性に焦点を当てる。参照例:SEC v. Aly, 320 F.R.D. 116, 118 (S.D.N.Y. 2017)(「設定された場所のコスト、利便性、及び訴訟の効率性を含む裁判所の裁量権行使を導く要因」)。多くの裁判所は、以下の要因を含むもっと具体的な要因を通してこれらの一般規範を評価する:(1) 全ての代理人が法廷地の管轄区域内に所在しているか否か;(2) 相手方当事者が証言録取を求める会社代表者の数;(3) 証言録取手続中に、裁判所の介入が求められるような証拠開示に関する重大な紛争が発生する可能性;(4) 証言録取を求められた者が、仕事のため法廷地の管轄区域に出張することがままあるか否か;(5) 請求の性質及び当事者間の関係性に関する衡平。参照例:Cadent Ltd. v. 3M Unitek Corp., 232 F.R.D. 625,629 (C.D. Cal. 2005)。外国の被告が関係する場合には、裁判所は、当該外国の実体法及び手続法が証言録取を妨げるか否か、当該証言録取が当該外国の主権を侮辱する潜在的可能性があるか否か、を含むその他の具体的な要因も考慮することができる。参照事件:Vitamin Antitrust Litig., 2001 WL 35814436, at *4 (D.D.C Sept. 11, 2001)(「原告は被告に対し、証言録取手続に参加するための宿泊費及び食費を含んだ……証人の旅費として合理的な費用を償還するものとする」という条件の下で、被告外国会社及びその代理人の証言録取を米国で行うことを決定している)。
The 2015 Federal Rules Amendments Meant to Ensure the Availability of Cost-Shifting, Not Make It More Frequent.
連邦規則の2015年改正は、費用負担の転換をより頻繁にさせることではなく、その可能性を確実にすることを意図している。
2015年、米国最高裁判所は、証拠開示にかかる費用負担を相手方に転換する裁判所の本来の権限を明文化した規則第26条の改正を承認した。具体的に言えば、本改正は、当事者またはその者をとりわけ「不当な負担や費用から」保護するために保全命令を申し立てた場合に、裁判所は「証拠開示のための時間、場所、または費用の分配」を指定することができると述べる。連邦民事訴訟規則第26条(c)(1)(B)(強勢部分加筆)。しかしながら、諮問委員会は、本改正は「費用負担の転換が一般的な実務になるべきであることを意味するものでない」,「証言録取に応じる当事者は通常対応に必要な費用を負担する、という推定は残る」と説明した。連邦民事訴訟規則第26条諮問委員会注釈。よって、書証開示の文脈と同様に、証言録取の文脈においても、裁判所が証言録取を請求した当事者に費用負担を転換するために裁量権を行使するか否かを、当該事案の特定の事実によって決定しなければならず、そして決定し続けることとなる。参照:Oxbow Carbon & Minerals LLC v. Union P. R.R. Co., 322 F.R.D. 1, 10-11 (D.D.C. 2017)(書証開示手続において費用負担の転換を保証しているか否かの決定は、事案の特別の必要性、議論の量、当事者が保有している方策、問題となっている論点の重要性、及び審理しているこれらの論点について申し出られた証拠開示の重要性による);8A Wright & Miller, Fed. Prac. & Proc. §2112 (3d ed.)(「裁判所は、尋問場所を選択し費用の支出について条件を付すことにつき広範な裁量を有し」、これは当該事案の具体的事実によって異なる)。
Costs Associated with the Deposition of a Foreign Witness May be Shifted to the Other Party.
外国の証人の証言録取と関連する費用負担は相手方当事者に転換されうる。
例えば、Haviland & Co. v. Montgomery Ward & Co.では、裁判所は、証人がフランス在住で貧弱な健康状態にあることに基づいて、原告が訴訟を提起した地区で原告役員の証言録取手続を行う必要がある、という一般規範に沿わない判断をした。31 F.R.D. 578 (S.D.N.Y. 1962)。しかしながら、この推定を覆すための条件として、裁判所は、原告がニューヨークにおいて録取証人を立てる考えであること、または「被告代理人のためのファーストクラスの航空券、必要なこういった証言録取手続に参加するための日当、及びそこに参加するための合理的な弁護士費用を含む」尋問する当事者(被告)の証言録取のためのフランスへの旅費を支払う考えであること、を決定した。同上580。Republic of Turkey v. Christie’s, Inc.において、ニューヨーク南部地区は再び、原告が訴訟を提起した法廷地での証言録取手続に原告が出頭することを求める一般規範を変更することが適切であると判決した。326 F.R.D. 402 (S.D.N.Y 2018)。この推定を覆す裁判所の決定は、当事者の関連する負担―原告側証人が渡航しなければならないであろう距離(14時間)と、外国語であるがゆえに書面の翻訳や証言の翻訳が必要となるという複雑性から、被告が証人に対し直接証言録取する必要性―のバランスをとったことが根拠となっている。同上406。裁判所は、原告が、ニューヨークやトルコの代わりにいずれの当事者も請求していないロンドンで証言録取手続を行うことに合意して、被告に対しニューヨークで証言録取を行った場合と比較して追加される費用のおよそ25%を償還するか、あるいは、原告がニューヨークで録取証人を立てて何らの支払もしないか、のいずれかをできると決定したのである。同上406-07(なお、当事者双方とも証言録取の必要性について責任を負担していたために、被告は追加費用の全額を補償することを求められていなかったことを指摘している)。
しばしば引用されるカリフォルニア中央地区の事案であるCadent Ltd. v. 3M Unitek Corp.,では、イスラエルの会社がロサンゼルスにて訴訟を提起したが、原告及びその役員(並びにその従業員)がイスラエルまたはニュージャージーに住んでおり、原告が彼らの証言録取を予定していることに被告が気付いたところ、原告はロサンゼルスで当該証人から証言を録取することを拒否した。232 F.R.D. 625,628 (C.D. Cal. 2005)。被告はロサンゼルスで証言録取を強行することを申し立て、原告は、証言録取手続が、主位的には原告の業務本拠地であるイスラエルで、予備的には、被告が本件に関連する原告の費用の一部または全部をそれぞれ支払うことを条件として、ニューヨークまたはロサンゼルスで行われることを求める保全命令を求めた。同上。裁判所は、訴訟が提起された地の管轄区域内で原告請求の証言録取手続を行うべきであるという推定から入るよりもむしろ、ここでなされるべき推定は通常法人被告側で負担するべきこと、すなわち証言録取手続が業務本拠地で行われるべきことであるという原告の主張を受け入れたようだ。同上。しかしながら裁判所は、「多くの要因が当該推定を消滅させる役目をし」「裁判所はそれにより証言録取手続が法廷地管轄区またはその他の場所で行われるべきとの結論に至ることがありうる」ことを指摘した。同上628-29。裁判所は、法人被告が「業務本拠地、特に法廷地内に所在する業務本拠地以外の場所で頻繁に証言を録取される」ことは指摘した上で、「常識と思われるようないくつかの要因がロサンゼルスで証言録取手続を行うことに対して有利に作用した」と判決した。同上630。裁判所の観点では、当事者の全員がロサンゼルスに居住しているかオフィスを構えており、少なくとも証人の一人はロサンゼルスを定期的に訪れていて、さらに原告は当該管轄区域内で業務を行っていたことから、ロサンゼルスで証言録取手続を行うことは、イスラエル(「危険」である可能性もある)やニューヨーク、ニュージャージーで行うよりも、「より利便性が高く、より時間がかからず、より費用がかからない」ということであるようだ。同上。繰り返すと、裁判所は、法人の証言録取は業務本拠地で行われるべきだという推定から検討を始めているようであり、ロサンゼルスで証言録取手続を行うことは「被告にとってもかなりの費用が抑えられることになる」ことを理由に、被告に対しイスラエルからロサンゼルスまでの証人の渡航にかかる航空券代金及び宿泊費の半額を支払うことを命じることで、原告の渡航費用を部分的に被告に転換した。同上。裁判所は、勝訴当事者は究極的にこれらの費用を回収できることも指摘した。同上(裁判所は具体的に示さなかったが、規則第45条(d)(1)にしたがい、勝訴当事者は一定の費用を取り戻す権利がある)。
Deposition Costs Will Not Be Shifted When Doing So Would Result in Unfairness.
証言録取費用は公平性を欠く結果となるときは転換されない。
例えば、Palateria La Michoacana, Inc. v. Productos Lacteos Tocumbo S.A. de C.V.の事案では、コロンビア地区の裁判所は、紛争を開始した当事者の企業担当者は証言録取手続のためメキシコからアメリカまで赴かなければならないと決定し、関連する費用は証言録取をする当事者に転換されるべきだという原告の請求を棄却した。292 F.R.D. 19, 22 (D.D.C. 2013)。外国の当事者がアメリカで訴訟を開始したという事実に着目すると、裁判所は、証言録取をする当事者は相手方当事者よりも関連する渡航費用を負担することができたという主張を退けたわけである。裁判所はまた、原告会社が時折役員を米国に送っていることも含めて米国国内での影響力を拡大したこと、原告会社が規則第30条(b)(6)で指定される者の選択を通して渡航費用をいくらかコントロールできたことも指摘した。同上24-25。米国でのBarko v. Halliburton Co.に関する事件では、裁判所は、被告の会社としての証言録取手続はたとえそれがヨルダンのアンマンであっても被告の業務本拠地で行われる、という一般規範から逸脱する論拠はないと決定した。270 F.R.D. 26, 29 (D.D.C. 2010)。被告が人的管轄の不存在を理由に請求棄却を申し立てたあと、裁判所は、原告が開示手続を行える管轄を制限しワシントンD.Cで証言録取することを知っていたと認めた。同上27。本件における重要な要因は、証言録取手続は「連邦規則にしたがって」行われるという被告の合意であった。同上29(本「事案は、連邦規則にしたがって証言を獲得することが外国法によって禁止されている外国管轄地には関係していない」)。決定にあたり裁判所は、証言録取手続には司法による介入が求められうるという原告の根拠のない主張と、ヨルダンで証言録取手続を行うことは「米国で行っていれば被告に課されたであろう負担よりも大きな負担を原告に与えることとなる」という原告のもっともな主張を退けた。同上。裁判所はさらに、ヨルダンで証言録取を行うことによる原告の追加費用を被告に転換すべきとの原告の請求には「理由がない」と判決した。同上。
Where Costs May Not Fairly be Imposed on Either Party, Courts Have Discretion to Order a Deposition by Other Means.
いずれかの当事者に対して費用を公平に課すことができない場合、裁判所は証言録取を別の方法で行うことを決定する裁量を有する。
例えば、Hernandez v. Hendrix Produce, Inc.の事案では、ジョージア南部地区の裁判所は、メキシコの農村地域に居住する移民労働者である原告らに対し、原告らはインターネットによるビデオ証言録取手続を利用することによってメキシコからジョージアに赴いて面前の証言録取手続を行った場合の費用よりも15,000ドルの支出を抑えられたのであるから、当該ビデオ証言録取手続費用をまかなうため、被告農産会社に1,000ドルを支払うよう命じた。297 F.R.D. 538, 540-41 (S.D. Ga. 2014)。SEC v. Alyの事案では、ニューヨーク南部地区の裁判所は、証言録取手続をニューヨーク、パキスタン、またはその他の国のいずれかで行うことが当事者の一方にとって不当な負担をなくすものではないと決定したあとで、被告は自己の居住地で証言録取するべきである、という一般規範に反する判断をした。320 F.R.D. 116, 118-19 (S.D.N.Y. 2017)。それよりも裁判所は、証言録取手続を、「一方又は双方に不便な証言録取地とすることから生じる負担を軽減するために頻繁に好まれる解決策」であるビデオ会議方式で行うことを決定した。同上119;参照:Robinson v. Tracy, 16 F.R.D. 113, 115 (D. Mo. 1954)(旅費の負担を被告に転換することを求める原告の請求を棄却し、規則第31条にしたがって証言録取手続を書面質問の方法で行うことを決定している)。
Conclusion.
結論。
要するに、裁判所は、それが実務的または効率的とみえる場合には当事者の証言録取地に関する一般的な推定に従う。しかし、仮に証言録取手続を特定の地で行うことが「不当な費用負担」を生じさせる結果となる場合には、白紙に戻る。裁判所は、証言録取手続を異なる地で行うことを決定でき、一方当事者に対し相手方当事者に関連する費用の全部または一部を支払うことを求めるまたは証言録取手続をその他の代替的な手段で行うことを決定できる。たしかに、ある裁判所がうまく述べたように、裁判所は「特定の事案における必要性が求めるのと同じくらい創造的になることができる」のである。DePetro v. Exxon Inc., 118 F.R.D. 523, 525 (M.D. Ala. 1988)。
Appealing Arbitrations on Points of Law: Recent Developments and Trends
仲裁における法律上の論点に関する控訴:昨今の展開と傾向
仲裁地として適していると言われる法域の大多数においては、米国内のこうした法域も含めて、慎重に理由が示されたにもかかわらず仲裁判断を不服として国内の裁判所に上訴するという当事者の権利は制限されている。仲裁適合地と言われるこれらの法域の一つであるシンガポールは最近、仲裁判断から生じた法律上の論点について当事者が現地の裁判所に上訴することが許される余地があることを発表した。現在では、シンガポールの国際仲裁法(International Arbitration Act、”IAA”)が古くから言及されている限定的な理由(管轄;手続的違法;詐欺、汚職、または公序良俗;IAA第24項を参考)に基づいてのみ取消しの申立てを認めている。国内仲裁法の改正の必要性を考慮すると、協議会演習が近いうちに打ち出されるだろう。
仲裁の多くの参加者は、仲裁判断の終局性を仲裁の最も重要な利点であると考えている。仮に当事者が現地の裁判所に拘束されることを望んでいたならば、当事者はそもそも最初から紛争が裁判所で解決される道を選んでいただろう。このように、シンガポールの法務省による計画案は、上訴する権利を狭めるのではなくむしろ広げることによって、支配的な風潮に逆らって進みだしたようだ。世界的に見ても大多数の法制度はこのような権利を認めておらず、UNCITRALモデル法(多数の国において採択されており、IAAの基盤を形成している)は等しくこのような規定を置いていない。
このトピックに対するシンガポールのK・シャンムガム法務大臣の書面回答によれば、シンガポール法務省は、この問題について他の法域から得たインスピレーションを得たようである:
当省での法的枠組みをアップデートする取り組みの一部として、当省は、他の一定の法域においては仲裁の当事者が法律上の論点について仲裁判断に対し上訴できることを指摘しました。……国際仲裁の判断に含まれる法律上の論点について我が国の裁判所に上訴することを望む当事者にとっては、その手段が(シンガポールでは)存在しないのです。
2019年4月1日付K・シャンムガム法務大臣によるIAAに関する議会質問に対する書面回答第4項。
これらの―仲裁の当事者が法的論点について仲裁判断に対し上訴できる―法域の一つは、シンガポールとの密接な歴史的関係及び主要仲裁地としての役割に鑑みれば、イングランド・ウェールズだろう。(香港の仲裁法もこのような権利を含んでいるところ、シンガポールはアジアの主要な競合仲裁地への興味を示しているのかもしれない。)
イギリス法では、当事者は法律上の論点について裁判所に上訴する権利が認められている:
当事者間に別段の合意がない限り、仲裁手続の一方当事者は、(相手方当事者及び仲裁廷にこれを通知したときは、)当該手続において下された仲裁判断から生じた法律上の論点について、裁判所に上訴することができる。
1996年英国仲裁法(English Arbitration Act 1996)第69項(1)。
しかしながら、「権利」とは絶対的でも強制的でもない。上訴する権利は既定の条項であるものの、当事者はこれを排除することができる。排除しない場合よりもさらに多くの場合において、当事者は、ICCやLCIA(これらの機関は明示的かつ十分に包括的な用語で仲裁判断の終局性を確認している)などの人気の機関の仲裁規則を選択することによって、黙示的にこれを排除している。機関仲裁が普及していることを考えれば、法律上の論点に関する上訴がこれまでイングランドにおいてほんのわずかな数しかなされていないのは、驚くことではない。
英国の裁判所が上訴を認める権限は、1996年英国仲裁法第69項(3)によってさらに限定されている。これは当事者に対し事実上の論点を法律上の論点として構成させない―そうでなければその事件を裁判所に付託することはできないであろう―ようにすることも、ある程度目的とされている。このように、法律上の論点について裁判所によって判断されるということが、(数ある要件の中でもとりわけ)「一方または複数の当事者の権利に実質的な影響を及ぼす」のでなければならず、「裁判所が争点について判断するあらゆる状況において公正かつ適切である」ことを要求している。また、本項は、「仲裁廷の争点に対する判断が明らかに誤っている」か、あるいは「争点が一般的公的重要性の一つであり、仲裁廷の判断が少なくとも重大な議論の余地があるものである」と裁判所が結論づけることも要件としている。
前者の基準(「明らかに誤っている」)は英国の裁判所により様々な表現で説明されてきた。「誤りは仲裁判断それ自体の文言によって標準的に論証可能であるべきであり、……誤りをあぶりだすには綿密すぎるような調査を求めるべきでない」と述べた者もいれば、誤りは「大きな理論的逸脱である」べきだと判決した者もいた。いずれの事案においても、裁判所は、法を適用し正しい結論について少なくとも一見明白な見解をとることを期待されている。判断が誤っていると裁判所がと考えるか否かは、判断それ自体によって決定できるものではない―「明らかに」誤っている必要があるのである。
シンガポールの計画案は、このイングランド・ウェールズのアプローチとどう異なり得るのであろうか?初期の段階では、確実性をもって言うことは困難である。しかしながら、おそらく2つの体系の区別に関するある具体的なポイントが存在するだろう。英国法の場合と異なり、シンガポールはオプトインの体系のみを考えているかもしれない:
我々が考えている改正の一つによって、当事者が契約するあるいはこの体系を組み込むことに合意したことを条件として、当事者に対し仲裁判断から生じる法律上の論点について裁判所に上訴することが認められるでしょう。このような上訴は、根拠薄弱なあるいは濫用的な上訴を防ぐ保護規定があれば、高等裁判所で審理される可能性があるでしょう。
2019年4月1日付K・シャンムガム法務大臣によるIAAに関する議会質問に対する書面回答第5項。
これに関し、シンガポールでは国内の仲裁における法律上の論点について上訴することが既に認められている、ということを想起することには価値がある(IAA第49項、1996年英国仲裁法第69項に類似)。この体系は、(英国の場合と同様に)当事者が排除できる可能性を備えていることを除き、デフォルトの体系として適用される。大臣の書面回答と共に読むと、シンガポールは、国内規定のオプトアウト性を、国際仲裁においてはオプトイン性に変更する可能性があるようだ。同様に、この計画案が、シンガポールの裁判所が「根拠薄弱な上訴を防ぐ保護規定」を採用することを見越していることは興味深い。これはおそらく1996年英国仲裁法第69条(3)の影響と、あらゆる上訴の範囲を狭める英国制定法による試みを思い起こさせるだろう。
これは我々をどこに残していくのか?伝統的な仲裁の観点からは、これは重要な懸念点である。仲裁判断の審査に関しては国家の裁判所は限定的な役割を担い、この計画案はその役割を拡大するだろう。しかし、仲裁が当事者自治に関する限り、仮に事態が悪化しても、裁判所の役割が拡大することは当事者がさらなる保護規定に合意する可能性を意味する。もし適切な「保護規定」が実際に改正制定法に組み入れられたならば、ことによると英国法に沿って、既存の権利を弱めるよりむしろ、追加的な権利の付与として理解されるかもしれない。このシナリオにおいて、残るリスクは、仲裁条項について交渉したときに、一方当事者が他方当事者に対して交渉力がないという理由のみによって、この体系を組み込むことに「合意する」ことである。少なく見積もっても、将来シンガポールを仲裁地とする仲裁について交渉することを予期する誰しもが、この潜在的な変革と、自身の要求が初めから明らかであることを確実にする重要性を認識する必要がある。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
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