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アメリカ連邦裁判所は「constituency(構成)取締役」による不注意での権利放棄のリスクをハイライトし、秘匿特権放棄を判定 (19/11/28)
Argos Holdings Inc. vs Willington Tr Nat’l Ass’n 2019 WL 1397150(S.D.N.Y Mar. 28, 2019)の判例にて、ニューヨーク南部地区の連邦裁判所は弁護士・依頼者間の秘匿特権がKirkland & Ellis LLP and Simpson Thacher & Bartlett LLP の弁護士たちが会社の依頼人である3人の取締役たちと通信を行った際に放棄されたとの判決を下した。3人の取締役は会社の所有者であったプライベートエクイティのパートナーでもあった。ヘッジファンド、ヴェンチャーキャピタルファンドやプライベートエクイティファンドが頻繁に自身が投資する会社の取締役会の役員として、自社の従業員たちや社長たちを選任するために、この判決はこのようなタイプの状況で秘匿特権放棄が不注意にて起こりうるということの重要なリマインダーであるのである。
では、裁判所は弁護士と3人の取締役との間の通信を、取締役が取締役としての役割を果たしているときとになしたものと、プライベートエクイティファームのパートナーとしての役割を果たしているときに交わしたものとに分けた。裁判所は前者の会通信を秘匿特権として保護されるとした一方で、後者は保護されていないとした。
弁護士・依頼者間の秘匿特権
アメリカの最高裁判所がUpijohn Co vs U.S 499 U.S. 389 (1981)の判例で説明したように秘匿特権は弁護士と依頼人の間のオープンで率直な通信を促進するために存在している。(引用マークとサイテーション省略)
秘匿特権では弁護士と彼または彼女の依頼人の間の職務上の関係の下で法的助言を得る、もしくは助言により補助を得る目的で交わされたわれたいかなる秘密の通信は開示から守られる。この特権は (1)通信が存在している(2)特権を享受する人々の間で形成されたものであること(3)秘密に (4)依頼人のための法律知識を調達・提供の目的のためのものであるときに適用される。(Third)of the Law Governing Lawyers( 弁護士らを律する法律)の言いなおし。秘匿特権を主張する当事者は弁護士・依頼者間の秘匿特権が適用されることを証明する負担を負う。弁護士とのすべての通信に秘匿特権であるわけではない。秘匿特権として認められるためには両者の通信が法的助言を得る目的で交わされたものであって、ビジネス上の助言であってはならない。裁判所の下したArgos Holdingsでの判決の持つ中心的な重要性は、特権的通信は「通信を行うものが当然に通信の内容を特権的地位にある相手方以外のいかなるものも知りえないと信じている」秘密裏の状態で行われなくてはならないとされている点である。
(Third)of the Law Governing Lawyers(弁護士らを律する法律)の言いなおし。したがって一般のルールは「第三者が存在し、その存在を依頼人が認識している場でおこなわれた通信は機密であるとはみなされないため、開示からの秘匿特権はない。」秘匿特権は通信が最初は秘密裏に行われたものの、のちに第三者と共有された場合にも放棄される。Third)of the Law Governing Lawyers(弁護士らを律する法律)の言いなおし。
背景事実
どちらの法律事務所もプライベートエクイティファームであるBC Partnersの弁護を担当しなかった。BC PartnersはArgos GPとArgos LPの両方の株式を所有し、3人の取締役をArgos GPの取締役会に役員として指名していた。(「BCPの取締役ら」)取引の後、原告は2015年にBC Partnersが行ったPet Smart社の買収の際に資金提供源となった、借入契約を結んでいるWillington Trustを管理エージェントであると主張して、Chewyの資産と株式についている特定の先取特権の放棄とChewyのPet Smartの債権の保証を放棄することの判決を求める訴訟を起こした。開示手続きをめぐる議論ののち、原告団は法律事務所たちとBCPの取締役らに関する13の文書の秘密保持命令を求める申し立てを行った。原告らはBC Partnersが法律事務所団の依頼人であったこと、共通利益主義が通信を保護していたことについては主張しなかった。かわりに原告らは文書はBCPの取締役らがArgos GPの取締役会役員としての立場で通信を享受したこと、Argos GPのステークホルダーとしてのBC Partnersはその取締役が保証されているのと同じ情報へのアクセスを保証されていること、という理由から秘匿特権があると主張した。
被告は申し立てに反論し、BCPの取締役らが法律事務所らの依頼人ではないBC Partnersのパートナーでもあることから、秘匿特権は第三者機関の存在により弁護士と依頼人間の秘匿特権は放棄されたと主張した。被告はさらにBC PartnersのArgos GPでのステークホルダーとしての地位は自動的にArgos GPが法律事務所らとの間に持つ弁護士と依頼人の秘匿特権の中に自身を包含するものではないと反論した。
裁判所の判断
連邦地方裁判所は原告のArgos Gpの秘匿特権が自動的にArgos GPのステークホルダーとしてのBC Parter へと広がり適用されたという主張を退け、シェアホルダーたちは弁護士・依頼者間の秘匿特権によって守られている企業文書へ、シェアホルダーと会社の間の訴訟なしに、また正当な理由なくアクセスする権利を法の下認められてはいないとした。(いわゆるGarner Exceptionに言及)裁判所はBCPの取締役らがここで問題となっている通信をArgos GPの取締役会役員として行ったのか、もしくはBC Partners のパートナーとして行ったのかに着目して分析を行った。前者では通信は弁護士・依頼者間の秘匿特権に当たるが、後者では秘匿特権は放棄されたと判断された。
3つの文書に関して、裁判所は原告団がBCPの取締役らがArgos GPのメンバーとしての立場で弁護士らと通信を行っていたことを示す証明をしたの結論に至った。これらの通信はArgos GPの取締役会全体(BCPの取締役らを含む)に送られ、3人のBCPの取締役らのBC Partnersとのかかわりというよりもむしろ、PetSmartやArgos GPとの関係性を特に明らかにした。またこれらの通信はBCPの取締役たちのBC Partners ドメインのメールアドレスではなく、Pet Smart.comのドメインのメールアドレスへと送られた。これらの事実はBCPの取締役らが通信を享受した際にArgos GP の取締役会役員としての立場のもとふるまっていたことを証拠づけた。
対照的に、残りの文書について裁判所は、「BCPの取締役らとのやりとりが彼らがBC Partnerでのパートナーとしての立場からではなく、Argos GPの取締役しての立場から行ったものであるとのことを示唆する証拠がない」ため秘匿特権の放棄を認定した。裁判所にとって最も重要であった点はもしかすると、通信がBCPの取締役らにだけ送られ、Argos GPの取締役会全体には送られなかったという点かもしれない。加えて、多くの通信でBCPの取締役らは「BCPコンタクト」と言及され、BC Partnersのもしくは「外部」のメールアドレスが使用されており、BC Partnersに対比してArgos GPのビジネスとの「特段の関連性」がないように見えた。これらの理由から裁判所は秘匿特権が放棄され、証拠書類の提出が必要であると結論を出した。
結論
Argos Holdingsの例は思いがけずに起こる秘匿特権放棄に関する教訓であり、この判例はいかにして同様の状況を避けることができるのかについての道筋を示している。
例えば裁判所は特権を守るために設計された文書、プロトコル、訓練は権利放棄(ウェイバー)を阻止する方向に働いたであろうとした。そのようなプロトコルは特権的な取締役会での通信を自身の投資会社への自身の同僚へと取締役が転送することのリスクについて取締役に教え、取締役たちに投資会社のメールアドレスではなくポートフォリオ会社のメールアドレスを使用することを奨励することができるだろう。同様にポートフォリオ会社は弁護士たちに特権的通信はいつでも取締役会全体に送ること、取締役たちに対してはポートフォリオ会社のメールアドレスを使うこと、また明白な言葉使いをもって取締役としての立場に立ち職務を遂行している取締役と、パートナー、従業員またはステークホルダーとしての立場に立つ取締役との間での通信をはっきりとわけることを奨励すべきである。最後にポートフォリオ会社とその投資会社のステークホルダーたちは共通利益協定や適用可能であれば共同代理をすることを考慮すべきである。これらのイニシアティブをとることは思いがけずに起こる特権放棄を阻止するのに大いに役立つことだろう。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
chietogawa@quinnemanuel.com