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訴訟ファイナンスに関連して作成された文書への弁護士の秘匿特権と職務活動の成果の法理の適用について (20/02/26)
訴訟ファイナンスは訴訟に見られる経済的不平等の問題を解決するものである。それは訴訟者に対し訴訟で発生した弁護士費用や必要支出を、訴訟者が勝訴した場合にはその判決もしくは和解で得た利益の部分と引き換えとすることを条件に、第三者訴訟ファイナンス会社が提供し、訴訟人が訴訟費用を融通することができる手続きである。訴訟ファイナンスは新しくはないものの最近になってアメリカで人気の手続きとなり、裁判所が取り組むべき課題を浮上させてきた。その一つは訴訟者(通常原告)と訴訟ファイナンサーとの間で交わされた会話や文書が訴訟において証拠開示できるか否かである。
原告らはそのような文書は以下の2つの理由から証拠開示に使用できないと主張した。関連性と特権。関連性に関して裁判所らはそれぞれ異なるアプローチをしてきている。第7巡回裁判所は例えば、ミラー(イギリス)ltd VS キャタピラーInc (Miller UK Ltd. v. Caterpillar, Inc.)*(以下ミラー訴訟と略す)の裁判において原告とファイナンサーの間で作成された実際の資金調達の合意を含む取引文書らには関連性がなかったとした。なぜならそれらが訴訟での主張と防御に実際に関連してはいないからだ。参考文献:17 F. Supp. 3d 711, 721 (N.D. Ill. 2014); see also Benitez v. Lopez, 2019 WL 1578167, at *1 (E.D.N.Y. Mar. 14, 2019); MLC Intellectual Property, LLC v. Micron Tech., Inc., 2019 WL 118595, at *2 (N.D. Cal. Jan. 7, 2019); Space Data Corp. v. Google LLC, 2018 WL 3054797, at *1 (N.D. Cal. June 11, 2018); Kaplan v. S.A.C. Capital Advisors, L.P., 2015 WL 5730101, at *5 (S.D.N.Y. Sept. 10, 2015); Yousefi v. Delta Electric Motors, Inc., 2015 WL 11217257, at *2 (W.D. Wash. May 11, 2015). ファイナンサーに提供された文書で合意の実際の条件とは関係しない非取引文書は、「あきらかに」原告の主張と関係性があり、関連性があるとされた。Id at 730.しかし裁判所はこれらは具体的事実による諮問であるとした。Id. at 722. 取引文書がその特定の訴訟においては企業秘密の流用とは関連性のないものであったとしても、ミラー訴訟での裁判所の判断はそれが異なる申し立てを主張する他の裁判において関連性がないかもしれないことを意味するわけではない。Id. at 722-23.
他の裁判所ではさらに、訴訟ファイナンサーに提出された文書が関連性のあるものでしたがって、証拠開示できるかどうかの判断は個別的な諮問によるものであるとしている。例えば再バルサルタンNDMA汚染製品責任訴訟(re Valsartan Nitrosodimethylamine (NDMA) Contamination Products Liability Litigation)では、裁判所は大規模不法行為事件における原告によって訴訟ファイナンサーと共有された文書の証拠開示を否定した。裁判所は「何か不都合なことが起こった」ため、ファイナンサーが最終の訴訟もしくは和解判断をなした、原告もしくは集団の利益が守られていなかった、または利益相反が存在していた場合でない限り、そのような証拠開示は不適切であるとした。2019 WL 4485702, at *3 (D.N.J. Sept. 18, 2019). 裁判所はまた、この訴訟を他のタイプのこれらの種類の文書に関連性が認められるかもしれない訴訟と区別した。それは例えば、特許権をめぐる争いに関する訴訟;特許有効性や侵害、査定、損害、印税率、訴訟前デューデリジェンス調査と原告が稼働中の会社であるか否かなどの中心的課題に文書が関連性をもっていたかもしれない訴訟;文書が証人の信憑性と先入観を加味して関連性があったもの;問題になっている不法行為に関する原告の処遇を訴訟ファイナンサーが手配、資金提供した場合の訴訟などがあげられる。Id. at *6
文書に関連性があるとされていても弁護士の職務活動の成果の法理、もしくは弁護士・依頼者間の秘匿特権の対象である場合には当事者は証拠開示を差し控えるかもしれない。職務活動の成果の法理は訴訟を予期して準備された資料を提示から守る。しかし、これはその情報が第三者へと開示され、その開示が潜在的な敵対者がその情報を手に入れる機会を実質的に増大させる場合にはこの法理は放棄される。弁護士・依頼者間の秘匿特権は弁護士と顧客の間の法的助言を得るためになされる機密の会話を保護する。さらにこれは第三者が同一の法的利益をその会話において訴訟人と共有しない限り、一般に第三者に会話が開示された場合にもそれは放棄される。(共通の利益の法理)
デラウェア連邦裁判所は最近、アクセレーション・ベイVS アクティビジョン・ブリザード訴訟(Acceleration Bay LLC v. Activision Blizzard, Inc.)において職務活動の成果の法理も共通の利益の法理のいずれによっても原告とその訴訟ファイナンサーの間の会話を証拠開示から隠すことはできないとした。裁判所は文書が職務活動の成果の法理で守られていなかったとした。なぜならそれらは訴訟を予期して準備されたものではなく、ファイナンサーからローンを得るということを主な目的として準備されていたからだ。2018 WL 798731, at *2 (D. Del. Feb. 9, 2018). それらは共通の利益の法理にもあてはまらない。なぜならそれらが作られたとき、原告とファイナンサーの間の書面による契約は存在せず、訴訟はまだ提起されていなかったため原告とファイナンサーは同一の法的利益をもちえることはなかったはずだからだ。Id., at *3. アクセレーション・ベイ訴訟に照らしてみると、原告がファイナンサーらと共有する訴訟戦略で、ファイナンサーらが訴訟のメリットを査定しなくてはならないものを相手方へとひき渡さないといけなくなるとの懸念があった。しかしこの問題に関しての他の裁判所の判断を見るとアクセレーション・ベイでの判断が他のすべての訴訟に当てはまるわけではないということがわかる。参考 e.g., Miller, 17 F. Supp. 3d at 735(訴訟資金提供者と共有される非取引文書は弁護士の職務活動の成果の法理によって保護される。なぜならそれらは弁護士の「被告の主張されている企業秘密の不正流用に関する精神的印象、理論や戦略」からなる文書によって構成され、そしてしたがって“「訴訟のため」だけに準備された” ものであるからだ。)さらにこちらも参照 : Viamedia, Inc. v. Comcast Corp., 2017 WL 2834535, at *3 (N.D. Ill. June 30, 2017); In re Int’l Oil Trading Co., LLC, 548 B.R. 825, 837 (Bankr. S.D. Fla. 2016); United States v. Homeward Residential, Inc., 2016 WL 1031154, at *6 (E.D. Tex. Mar. 15, 2016); United States v. Ocwen Loan Svcg., LLC, 2016 WL 1031157, at *6 (E.D. Tex. Mar. 15, 2016); Doe v. Society of Missionaries of Sacred Heart, 2014 WL 1715376, at *3 (N.D. Ill. May 1, 2014); Mondis Tech., Ltd. v. LG Elecs., Inc., 2011 WL 1714304, at *3 (E.D. Tex. May 4, 2011).
訴訟ファイナンサーへの開示から情報を守るために訴訟人がとりうる対策がある。例えば、アクセレーション・ベイ訴訟で、裁判所は文書の「主要目的」が訴訟であったか、それゆえ会話が職務活動の成果の法理によって保護されていたか否かを判断するために「主要目的」テストを使った。Id., at *1. 他の裁判所はより範囲の広い「なぜなら」テストを採用。例えば、裁判所はカーライル投資運用 L.L.C VS モンマス・カンパニー S.A(Carlyle Investment Management L.L.C. v. Moonmouth Company S.A.)の訴訟で職務活動の成果の法理により訴訟ファイナンサーと共有された情報が開示から保護されるとした。なぜなら訴訟人とファイナンサーの間の交渉では、ファイナンサーに訴訟のメリットを示すために弁護士の訴訟への精神的印象、理論と戦略がほぼ確実にかかわってくるからだ。2015 WL 778846, at *8-9 (Del. Ch. Ct. Feb. 24, 2015) ミラーのケースも参照。17 F. Supp. 3d at 735(予期される訴訟資金提供者へと提供された原告の弁護士の被告の企業秘密の不正流用疑惑対する精神印象、理論と戦略を含む文書は、訴訟のために準備されており、したがって職務活動の成果の法理によって保護される。)
アクセレーション・ベイの訴訟で裁判所は職務活動の成果の法理の放棄の問題については一度も触れなかったものの、他の裁判所は原告と予期されるファイナンサーとの間で結ばれた秘密保持契約の存在だけで文書を開示から保護するのには十分であるとした。なぜなら秘密保持契約は第三者が潜在的な敵対者へと情報を開示する可能性を低めるからだ。参照。セイクレッド・ハート(e.g., Sacred Heart)2014 WL 1715376, at *4, Devon IT, Inc. v. IMB Corp., 2012 WL 4748160, at *3 (E.D. Pa. Sept. 27, 2012); Mondis, 2011 WL 1714304, at *3.
さらに共通利益の法理に関しては他の訴訟で裁判所らはアクセレーション・ベイ訴訟での判断に賛同している。リーダー・テクノロジーVS フェイスブック Inc 訴訟(Leader Technologies, Inc. v. Facebook, Inc.)では同じ裁判所が8年前に訴訟ファイナンサーと共有された文書に関しては共通利益特権は存在しないとした。なぜなら原告とファイナンサーの間でどんな取引も完成していなかったからだ。 719 F. Supp. 2d 373, 374-76 (D. Del. 2010). ミラー判決はさらにファイナンサーと共有された文書は共通利益の法理によって保護されていないと結論付けた。なぜなら功を奏する結果となった訴訟の共有された利益は共通の法的利益ではないからだ。17 F. Supp. at 732. ミラー判決は共通利益の法理の目的は共有された法的利益をもつ当事者らが法的必要条件を満たし、自らの行為を適切に計画するために法的支援を求めることを奨励することであると説いた。Id., at 732-33. 裁判所はこれは、法律の遵守をおし進め、司法を促進し、訴訟を避けることで公衆の利益となるとし、これらの目的は法的助言ではなく、お金を求めることが目的である訴訟ファイナンサーらに関しては達成されないとした。しかし、インテル石油取引(Int’l Oil Trading)548 B.R. at 832を参照。(共通利益の認定は訴訟資金提供文書に関しても当てはまる); Rembrandt Techs., L.P. v. Harris Corp., 2009 WL 402332, at *7 (Del. Super. Ct. Feb. 12, 2009) (同様). 訴訟ファイナンサーらに対して開示された文書の性質、それら文書が一般に訴訟ファイナンサーと共有される時期により、ほとんどの裁判所はそれらの文書の開示の有無について、秘匿特権や共通利益の法理ではなく、職務活動の成果の特権のもと判断する。参照 e.g., Mondis, 2011 WL 1714304 at *3 (秘匿特権によって文書が保護されているか否かの問題については言及しなかった。)
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
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