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International Arbitration Update
国際仲裁の最新の動向 (20/02/29)
投資家対国家間の紛争解決と再生可能エネルギー
再生可能エネルギーへの投資は現在投資家、国家とエネルギー会社らにとって重要なトピックだ。化石燃料と典型的に関連づけられるオーストラリアでは北部での革新的な太陽光プロジェクトが話題になっている。「太陽ケーブルプロジェクト」はテナントクリーク近辺に1万5千ヘクタールの太陽光発電(いわゆるPV)配列があり、シンガポールへと海中高耐圧直通ケーブルを通してクリーンエネルギーを輸出しているものである。このプロジェクトは北部政府とシンガポール最大の独立電気小売業者、そしてオーストラリアの富裕層市民の多くの支持を得ている。再生可能エネルギーは仲裁コミュニティにおいても重要なトピックである。特に再生可能エネルギーへの投資を促進、奨励する投資家・国家間の紛争解決を支持するものの間の緊張と、よいのと悪いの両方の理由で彼らの再生可能エネルギー政策を変える部門における投資家によって国家に対して提起された仲裁の急増という文脈から重要である。この最新情報文書では再生可能エネルギーがかかわる紛争について論ずるために既存の外国投資保護体制、具体的にはエネルギー憲章に関する条約について論ずる。
エネルギー憲章に関する条約と投資家保護
1998年に施行されたエネルギー憲章に関する条約 (以下「条約」と略す)は50以上もの国々が加盟している。その中にはEU連合(2016年に脱退したイタリアを除く)、日本、ロシア、トルコとオーストラリアが含まれる。(ロシアとオーストラリアは批准はしていない)条約が成功するためのカギとなるのは外国投資保護体制においてエネルギー部門における外国からの投資を推奨することだ。この体制では、条約は他の署名国における「投資」(投資家によって所有、もしくは抑制されているあらゆる資産と広く定義される)において「投資家」(署名国における自然人、居住者、また株式会社)らに保護を与える。(1条と10条)これらの保護には投資家の「公平性と待遇」(FET)「完全なる保護と保障」の権利と署名国が「不合理で差別的な方策」と「違法収用」を課すことの禁止が含まれる(10条)主に投資家の当然の期待の保護に関係するFET基準は、条約の中で最も一般的に発動される投資家保護の基準である。
再生可能エネルギープロジェクトにかかわる政策
政府が再生可能エネルギーへの投資を報奨しようと新たな政策を導入し、従来の化石燃料の使用を奨励しなくなると、彼らはよくそれぞれの国際投資合意の中で外国投資保護体制と多くの問題に遭遇する。例えば条約やFET基準などだ。再生可能エネルギーの経済面は歴史的に報奨制度に頼ってきている。(しかしこれは再生可能エネルギーがよりコスト効率があがってきていることから変わってきてはいる。)従来の化石燃料によるプロジェクトと比較して再生可能エネルギープロジェクトが比較的目新しいため、これらのプロジェクトを推奨する報奨制度はたいてい効率的にデザインし、導入することが通常難しい。
スペインの経験
最近スペインが経験したことがこの政策らの問題を描き出している。
2007年にスペインは再生可能エネルギー、具体的には太陽光PVエネルギーへの投資を奨励するため新たなインセンティブ(報奨制度)を導入した。スペインが提供した一つのインセンティブは固定価格買い取り制度であった。これは太陽光(PV)発電への投資家らに主に最初の25年間はより高い率で、25年間たったその後のプロジェクトの残存期間は減少した率での電気販売を許すものであった。これらの政策は再生可能な投資を促進するのに大きな成功を収めた。発電と電気の分配のコストが、固定資産税納付者から公共料金として合法的に徴収できる額を超えたことと、2008年に起こった金融危機の結果発生した関税赤字の膨張により、スペインは導入したインセンティブを撤回し従来の規制へと戻した。最初は規制の改正は新しい太陽光PVプロジェクトにのみ適用された。しかし、この問題の大きさが明らかになってくるにつれて、スペインは新しい、改正された規制を遡及的に既に存在するプロジェクトに対しても適用するようになった。これらの規制は2008年に始まり、2013年にかけて徐々に厳しさを増しながら実施された。驚くことなく、新たな改正された規制は インセンティブがプロジェクトの終わりまで続くことに期待して投資判断をしていた太陽光PV投資家らから好ましく受け止められはしなかった。それぞれの公表された法廷による判決での判断のカギである問題はFET基準と太陽光PV投資家らの当然の期待である。2019年3月までに条約の下、投資家らはスペインに対して30以上もの仲裁の申し立てをしていた。スペインは混在した成功を収めた。いくらかの訴訟を勝訴したものの、敗訴した訴訟では投資家らに対して35億ユーロ以上もの支払いをしなくてはならなかった。もっとも最近では2019年12月に2つの判決が言い渡された。1つでスペインは勝訴、もう一つは引き分けという結果であった。再生可能エネルギーへの外国からの投資によって生じている投資家・国家間の紛争で戦っているのはスペインだけではない。イタリア、チェコとスロバキアは皆再生可能エネルギーへの投資に関する条約に基づく請求の対象となった。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
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