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重要度を増す人工知能の企業秘密保護 (20/05/22)
人工知能(AI)は急速に近代経済の重要な柱の一つとなった。広く引用されている、とある2017 年の研究によると、AI は2030 年までに国際経済に15.7 兆ドルもの利益をもたらしうるとのことだ。1)その予想は既に現実のものとなっている。ホワイトハウスのAI に関する2020 年2 月の報告書によると「AI は既に相当な経済的影響を企業らにもたらしている。これはAI がビジネスの中核をなしている企業だけに限らず、世界的な競争力を保ち続けるためにはAI 技術を取り入れる必要性があることを徐々に発見しているほぼすべての他の企業らにとってもいえることである。」2)AI の重要性の認識は広く、かつ世界規模のものである。ロシアのウラジーミル・プーチンは「AI のリーダーになるものが世界の支配者となる」とまで言っている。3)
したがって、企業らが自らのAI 技術への投資によって生まれた知的財産を保護するためのかなりの投資をしていることは驚くべきことではない。4)問題はこのクリティカルな空間で投資をいかにして保護するかである。例えば、自動運転車会社だとそのAIトレーニングデータ(すなわち、以前のテスト運転の記録群)、そのトレーニングデータから抽出された人工神経回路網の実装(すなわち、車が自分で運転することを手助けするソフトウェア)と自動運転車を稼働させるために必要なその他のデータ群に着目しているかもしれない。これらの要素それぞれに対し企業はどの局面では特許がとれ、どの局面ではそれが企業秘密保護の対象になるのか、もしくはその両方であるのかについて吟味しなくてはならない。判断を見誤ると企業はその最も重要な研究と開発に対して有意義な知的財産保護をまったく得ることができない結果に陥ってしまう。
しかし今日におけるAI 技術の特許化は困難でありうる。抽象概念の特許化の禁止により、AI システムへの有意義な特許を取得することはそう容易なことではなくなってきている。したがって、企業はますます彼らのAI 関連の知的財産を保護するために企業秘密保護へと注意をうつしてきている。この記事では特許と企業秘密の間のAI 部門におけるトレードオフを探る。そしていかにして企業秘密が企業がそのAI 関連の知的財産を保護するための欠かせないツールとなったのかを説明する。最後に、AI に関連する高価な知的財産を最もよく保護するためにいかにして特許と企業秘密の両方を活用するのかについての実務面でのガイダンスをもって締めくくる。
Ⅰ「人工知能」とは何か?
初めに用語について述べる。企業の中にはその根底にある技術がAI の確立された定義に合致するものでなかったのだとしても、機会があり次第自身の商品を説明するために「人工知能」という言葉をもちだす企業がある。この記事のためにこの記事ではAI は人間の知性をある一面では模倣する技術であるものとして広く言及する。具体的には、この定義の下のAI はコンピューターが明示的にそうすることをプログラムされていなくてもいくらかのタスクを実行することを可能にする。そのために、この記事では機械学習やニューラルネットワークとそれに関連する訓練モデル、アルゴリズムとデータに焦点を置く。
Ⅱ 特許VS 企業秘密 特許の一般開示のトレードオフ
特許は長年、主張された発明の製作、使用、販売とアメリカへの輸入を他者に対して許さない法的権利を権利者に与える。しかし、この政府に認可された独占の恩恵にあずかるためには、開発者は発明がその分野の他者によって再形成されることが可能な程度の情報とともに発明を公に開示しなくてはならない。発明の公への開示と引き換えに開発に認められる時間の制限のある独占という、この反対給付は米国特許法の根本的な政策目標の一つである。
対称に、企業秘密はその名が示す通り「秘密」である情報を保護する。その所有者が「その情報を秘密にしようと合理的努力をし」その情報が他者に「一般に知られないことにより、実際のまたは潜在的な独立の経済的価値を得る」情報であればどれも企業秘密として保護される。5)連邦法と州法の両方は企業秘密を保護するものである。歴史的に企業秘密は広範な対象に適用されてきた。その中には公共のデータ6)の編集物、ソースコード7)、回路図、図形や顧客リストなどがその他数多くの情報とともに含まれている。
いろいろな意味で企業秘密法は特許法よりもより広範、もしくはより柔軟でありうる。特許とは異なって、企業秘密保護はどんな申請、登録もなしに取得できるものである。企業秘密の所有者がその情報が秘密であり続けるための適切な手段を講じ、情報が競争上の優位性を提供し続ける以上は企業秘密は自動的に生じるのである。企業秘密保護は理論的には情報が秘密であり続ける間は継続しうる。そして企業秘密法は「35 U. S. C. § 101 の下、特許による保護として考慮するに適する事物ではない事項を保護する」。Kewanee Oil Co. v. Bicron Corp., 416 U.S. 470, 482-3 (1974). 例えば、顧客のリストは企業秘密として保護されうるが、特許によっては確実に保護されない。
しかし他の意味で企業秘密は特許保護よりも脆弱である。重要なことは、独立の発明が企業秘密の不正利用への弁護ではあるが、特許権侵害への弁護にはならないということだ。最高裁判所が1974年に説明したように、企業秘密法は特許法に比べて多くの点ではるかに弱い保護しか提供しない。企業秘密法は公平で誠実な方法での企業秘密の開示、例えば独立の創作やリバースエンジニアリングなどを禁じてはいないものの、特許法は「世界に対して」いかなる目的によっても発明のすべての使用をかなり長い時間禁じている。企業秘密の保持者はさらに、窃盗もしくは秘密保持契約の違反などの開示や証明が容易でない方法により競合他社にその秘密が渡ってしまう重大なリスクをも負っている。特許法が障害として機能するとき、企業秘密は相対的にふるいのような働きをする。
Kewanee, 416 U.S. at 489-490 (脚注と引用は省略)
この見方は普遍的なものではない。最も有名な企業秘密、コカ・コーラの製法の保持者であるコカ・コーラがこれに同意するかどうかを尋ねてみたらいい。8)もっとはっきりいうと、1970 年代のKewanee 判決から時代は変わった。AI に関連するイノベーションのうちいくらかの種類のものはその振り子が特許保護を離れ企業秘密保護の方向へと移っていっているのかもしれない。
Ⅲ AI の特許化の難しさ-Alice 訴訟と抽象概念
近年AI の分野での開発を対象とした特許申請数の増加が急加速を見せている。AI 関連の特許申請の半分以上は2013 年以降公開されている。9)その期間内で機械学習に関連する申請が平均で毎年28%上昇、コンピュータビジョンに関連する申請が平均で毎年46%上昇、そしてロボット工学と制御手法に関連する申請が平均で毎年55%上昇している。
しかし申請の急上昇とは裏腹に、AI 関連の開発への特許による保護を求めることには潜在的な落とし穴がある。具体的には、特許を得るためには特許権者は35 U.S.C. § 101の下対象事項への特許適格性を主張しなくてはならないということだ。特許による保護に適格しない一つのカテゴリーは抽象概念である。この15 年の間の判例法の一般的な傾向は、抽象概念の特許化への禁止をソフトウェア中心の開発に対してはより厳しく適用するというものである。
特許の適格性を統制する現在の法律は2014 年のAlice Corp. v. CLS Bank International訴訟、最高裁判所判決に由来するものだ。10) Alice 判決とその結果のもと、裁判所らは「問題になっている申し立てらが特許不適格な概念に関するものであるか否かをまず判断する。そしてもしそうであったならば、それらの申し立ての中に他に何があるのかを見定める。」11) もしも彼らが発明が特許不適格な概念(例えば抽象概念など)に関するものであると判断した場合、裁判所は「申し立てられた抽象概念を特許に適格する申請に変じさせるのに十分な独創的な概念が 含まれているのか否かを判断するために、その申し立ての要素を吟味しなくてはならない。」12)
ほとんどすべてのAI 関連の発明がコンピュータのハードウェア上で動作しているソフトウェアプロセスによって実装されているために、これらの発明への特許適格性は一般に他のソフトウェア特許に対して適用されているのと同じ法理によって統制されている。しかし最近では、このような類のソフトウェアベースの発明への特許適格性基準の適用は予測不可能になってきている。13)
さらに最近PTO から出てきたいくらかのガイダンスは、その試験プロセスへとAlice判決後の法理学を導入するにあたり独自の課題に直面した。実際PTO は「Alice/Mayoテストを継続的な方法で適用することは困難であると判明しており、この法の分野において不確実性を発生させていること」を認めている。PTO はつい最近、2019 年に「抽象概念の列挙されたグルーピング」に基づいてAlice とその結果を適用する上でのより具体的な枠組みを提供しようとして、発展中の判例法をペンディング中の特許申請へと適用する際の新たなガイダンスを制定した。14)このガイダンスは比較的新しいにもかかわらず、その導入以降の初期批評の判断はこのガイダンスがAI 関連の申請に対し、よりフレンドリーな環境を提供するであろうことを示している。15)
このガイダンスに関わらず、AI に基づく発明の特許による保護を求めるうえで深刻なリスクが残存している。Alice 訴訟とその結果で明瞭に示された制限を考慮すると、AI 関連の発明が米国特許商標庁の審査を潜り抜けたとしても、そのうちいくつがその後の将来的な訴訟に耐えうるかは明らかではない。Hyper Search, LLC v. Facebook, Inc.,No. CV 17-1387-CFC-SRF, 2018 WL 6617143, at *10 (D. Del. Dec. 17, 2018) はいくつかの裁判所らがいかにして人工知能に関する特許を無効にするためにAlice を適用しているかを説明している。
the ’412 特許の主張1では「ニューラルネットワークモジュール」と「サーバー」のようなコンピュータの一般的な機能性を記載している。(’412 patent, col. 19:49-67) 抽象概念の使用を「特定の技術環境」に制限することは抽象概念を特許適用な発明に変じさせはしない。Alice, 134 S. Ct. at 2358 (内部引用は省略)この詳述はニューラルネットワークが当技術分野で周知であったこと、発明者らが主張された発明がニューラルネットワークに限られるものではなく、むしろ「あらゆる人工知能エージェント」に当てはまるものであることを明言したことを示している。(’412 patent, col. 7:45-8:5, 19:23-27) 裁判所らは以前にニューラルネットワークを記載した申し立てが抽象概念以上のものを記載できていないために特許をうけることができないと判断している。参照Neochloris, Inc. v. Emerson Process Mgmt LLLP, 140 F. Supp. 3d 763, 773 (N.D. Ill. 2015)(ニューラルネットワークモジュールが「コンピュータの基本的な頭脳である中央処理装置」でしかないとして説明されているため、「人工的ニューラルネットワークモジュール」を含む特許の申し立てを§ 101 の下無効と判断。) 同上 at *10. これらの発見の後、裁判所は主張された特許を、不適当に抽象概念のみを主張しているとして無効とした。同上。
同様に、Purepredictive, Inc. v. H20.AI, Inc., No. 17-CV-03049-WHO, 2017 WL 3721480, at *5 (N.D. Cal. Aug. 29, 2017), aff'd sub nom. Purepredictive, Inc. v. H2O.ai, Inc., 741 F. App'x 802(Fed. Cir. 2018) において、裁判所は自動予測解析(automating predictive analytics)に関する特許の申し立てを無効とした。
次にこの訴訟を検討し、私はH20 の訴訟において、PPI の申し立てが心理作用と予測解析を行うために数学的アルゴリズムを使用するという抽象概念に関するものであるとの意見に同意する。 予測解析ファクトリー(predictive analytics factory)のメソッドは情報の収集と分析に向けられている。最初のステップはデータから学術的な機能や回帰を生成することだ。これは回帰モデルやアルゴリズムを通したデータの実行などが例として挙げられる基本的な数学的プロセスであり、特許可能な概念ではない。参照 DDR Holdings, LLC v. Hotels.com, L.P., 773 F.3d 1245, 1256 (Fed. Cir. 2014) (「私たちは汎用コンピュータ上で実行されるものを含む数学的アルゴリズムが抽象概念であることを知っている。」) '446 Patent で説明されている「機能生成モジュール」は「百、千もしくは万、もしくはそれ以上もの学術的な機能を生成するかもしれず」、'446 Patent at 9:55–57 での記述はこの結論を変えることはしない。同上 at *5
これらの特許はそれぞれ個別に存在し、判断らが将来のAI 関連の特許が必ず無効(もしくは有効)になるということを示すわけではないものの、それらの判断は企業らが人工知能の特許化を検討している際に気に留めておくべき道しるべとして存在している。同上と比較 SRI International, Inc. v. Cisco Systems, Inc., 930 F.3d 1295 (Fed. Cir.2019) (特許の申し立てを「検出された…ネットワーク交通データの分析に基づいた怪しげなネットワーク活動」としてそれが特許可能な対象事物に関するものであると判断した。)
最後に、いくらかのAI 関連のイノベーションはそもそもただ単純に特許による保護を受ける権利がまったくない。例えば、機械学習のアルゴリズムでの使用のために集められた生データはそれ自体に特許性がない。また、その生データが従来型でよく知られた機械学習アルゴリズムと組み合わさると、その結果がその企業にとって非常に価値があるかもしれないのに、それも特許化できないかもしれない。これらのリスクを考慮して多くの企業らは彼らのAI 空間における知的財産を保護するために代替策へと移行している。それはすなわち企業秘密である。
Ⅳ 企業秘密―AI の知的財産を保護するのにふさわしいツール
その性質上秘密であるために世界中の組織によって閉鎖的に保有されているAI の企業秘密の数を知ることは不可能であるものの、おそらく今日アメリカで生じたAI の知的財産のほとんどは企業秘密を利用することで保護されている。保護命令に照らして具体的詳細は機密であり続けるものの、裁判所らは既にAI に関連する特定の範囲の情報が企業秘密として保護できうると示している。それは例えば、アルゴリズム、ソースコードやビジネスが機械学習を実施するためにAI を活用する方法などである。16)
企業秘密保護には特定の実務上での利点がある。それは出願料金がかからない、リアルタイムでの保護、理論的には制限のない保護期間、そして広く適用可能な対象事項だ。特にAI に関してなぜ企業秘密が特許と比較して知的財産保護において特に価値があり適当なものであるのかについて以下複数の理由が挙げられる。
・特許システムがついていけるようには設計されていない急速なスピードでAI 技術は発展、改良17)されていること。
・どの技術が役に立たないかについて理解し、知識データベースを作ることで企業らは非常に高価な知的財産を創りあげることができること。この知識は特許による保護には該当しないものの、それは「ネガティブな企業秘密」18)として保護をうけることができる。もしも他の企業がこの情報を不正流用すると、彼らがこの情報によって自身の長年の研究と開発が誤った道へと走ってしまうことを避けられることになるかもしれないからだ。
・AI で最も重要な技術の一つであるのは特許保護には適していない実装ノウハウである。例えば企業の中には、自動運転車がまだ市場に広く出回ってはいないために他社に対して優位に立つために特定の技術の実装を競合他社から秘密にしてきたところもある。19)
・議論してきたように、多くのAI 開発はソフトウェアがベースとなっているためにAlice 訴訟を受け、その特許を得ることが潜在的により難しくなっている。AI と機械学習システムを3 つのステージに分解すると私たちは企業秘密保護がそれぞれのステージで提供する利点を確認することができる。
ステージ1:データ収集とトレーニング-トレーニングデータそのものは特許として保護されないかもしれないが、収集されたデータ群はその中に公開された情報を含む場合でも企業秘密として保護されうるかもしれない20)。このデータは非常に貴重でありうる。エコノミストによると「世界で最も価値のある資源はもう油ではなくデータである」とのことだ。21)
ステージ2:ニューラルネットワークとアルゴリズム-Alice のみの下、アルゴリズムを特許化することには困難が伴うかもしれない。しかし、アルゴリズム、もしくはニューラルネットワークのデザインと実装は法定上の条件が満たされた場合には企業秘密保護に適格するものである。
ステージ3:AI システムのアウトプット-アウトプットデータは該当する情報が秘密として十分であり、一般に知られていない場合には潜在的に企業秘密として保護しうる。
企業秘密がAI 企業にとってその重要性を増してきている一方で、企業秘密を活用する上での一つの主要な欠点は、知的財産が秘密として守られることができる場合に限ってのみ保護が認められるということだ。ソフトウェアを「秘密」にし続けることは下記のいくつかの理由で運用上骨の折れる大変な事柄でありうる。
(1)テクノロジー企業での転職率を考慮すると、離籍する従業員らが法的に企業秘密を秘密として保持することを要求されることを確実にする強固な雇用契約が必要である。
(2)ソフトウェアを「盗む」こと、USB ドライブにコードをダウンロードするだけでも盗めてしまうようなその容易さを考慮すると強固なサイバーセキュリティポリシーがつくられ施行される必要がある。22)
(3)リバースエンジニアリングが企業秘密の不正利用への弁護となりうるために23)、ソフトウェアはリバースエンジニアリングが可能でないことを保証するようにデザインされ、配備される必要がある。
そして(4)ビジネスを行うためには技術を従業員とパートナーらと広く共有することが必要であることが多いが、このことは企業秘密が開示されてしまうかもしれないリスクを増大させる。24)
これらの懸念に照らして、企業秘密保護を保持し続けることは企業に重要なコストを招き、かなりの継続的な警戒を企業に要求することとなる。企業秘密保護に頼っている企業らは自身のAI イノベーションの保護を確実にすることを助けるために以下のステップを踏むことができる。
(1) 企業秘密情報を権限のない方法で広めることができないように第三者らに秘密保持契約と制限的ライセンスを結ぶことを要求する。25)
(2) 企業機密情報を適切にラベリングする
(3) 企業秘密を構成する情報への無権限でのアクセスへのを可能性を制限するためにサイバーセキュリティポリシーを見直す。そして
(4) 離職する従業員が会社の資料を返却し、個人的な端末からすべての機密情報を削除したことを確実にする。26)
結局のところ、企業秘密はそれが秘密であり続ける限りにおいて保護される。厳しい規制を敷いても、企業は常にその情報が公になってしまうリスクを負っている。
Ⅴ 特許VS 企業秘密: AI 関連の発明に関して正しい決断を下す
企業秘密はAI 関連の知的財産を保護するために重要ではあるものの、特許と企業秘密の両方には異なる利点と欠点が残存している。したがって、あるイノベーションを、特許とするのか企業秘密として保持し続けるのかの判断はいかなる企業にとっても重要な戦略的判断を表象するものである。
主な問題として特許と企業秘密間の判断は常にではないが、時に相反しうるということが挙げられる。時に企業は秘密でないために企業秘密として保つことができない商品の公にさらされている面に関して特許を申請することがある。同時に企業はその製品内の一般に知られていない特定の製造技術や他のイノベーションを企業秘密として保持し続けることができる。27)他の戦略では、企業は技術を特許秘密として保持し続け、それと同時その特許申請の非公開を求めて特許保護を申請することもある。28)このシナリオでは、発明は特許申請期間中に企業秘密保護を受け、そして特許が発行されると特許保護を受けることができる。もちろん、その場合企業の申し立ては特許のみに限られる。
いくらかのAI 関連の発明に関しては、特許を適用する、もしくは知的財産を企業秘密として保持することが可能かもしれない。以下はこうした類の重要な決断を下す際に考慮すべき指針となるいくらかの要因である。
(1) イノベーションは特許保護に適格するものか?イノベーションは35 U.S.C. §101 の下の特許適格性を含む特許法の要件を満たすか?もしもそうでなければ、特許は利用できず、企業秘密が最適な選択肢となる。この記事で論じてきたように、これは多くのAI 関連のイノベーションや技術に当てはまりうることである。
(2) そのイノベーションはあなたのビジネスの一部に秘密として保持することができる種類の情報を含むか?イノベーションが商品自体から、もしくは他の適正な手段で容易に識別できる場合には企業秘密は利用できない。企業秘密はこの場面では「秘密」ではなくなるのである。したがって特許保護が最適な選択となる。
(3) そのイノベーションはすぐに一般に知られそうなものであるか?企業秘密は一般に知られていない情報のみしか保護しない。もしもイノベーションが競合他社やアカデミアにおいて比較的すぐに公開されるであろうようなものであるならば、企業秘密保護はまったくもって最適ではない。かわりに特許保護が最適な選択肢かもしれない。
(4) 訴訟における攻撃に特許はどれほど抵抗できうるだろうか?特許が特許事務所によって承認されたとしても、もしもあなたが特許が訴訟での攻撃に抵抗できないであろうと思っているのであれば、その根底にある知的財産が公に開示されなくてもいいようにイノベーションを企業秘密としておくことのほうがいいのかもしれない。
(5) 他の企業が自分の発明を実施していることを知ることはどれだけ困難なことか?特許の目的は他の人たちが自分の発明を実施することを防止することだ。しかし、発明が一般によって閲覧することができないようになっているサーバー上で運営されているAI アルゴリズムのためのものであったのならば、もしも競合他社らが技術の不正利用を行っているのであればそれがどの企業であるのかを知ることは不可能であるかもしれない。これは特許の価値を下げてしまう。反対に、その発明を完全にリバースエンジニアすることが可能であるならば、競合他社らはそれを企業秘密の不正利用のあらゆる申し立てへの弁護として使うことができる。29)
(6) どれほど早く発明は時代遅れになってしまうのか?もしも発明が早く時代遅れになってしまう場合、特許が提供する保護期間(と特許を申請するのにかかるコストと労力)は割にあるものではないかもしれない。
(7) どれほど早く発明が商業化されうるのか?反対にもしも、開発が収益化するまでに長い時間を要するのであれば、特許権者によって与えられた保護期間が長期的投資と資本化を可能にする。
(8) 発明を説明することはどれほど困難なことか?特許を受けるためには特許申請者は発明を「発明者の特許の基になっている技術的知識を開示することと、主張されている発明を特許権所有者が保有していたことを示すということの義務を満たす」という両方の事柄にかなう説明をする必要がある。特許要件を満たすような方法での発明の説明が困難、もしくは時間がかかる場合には企業秘密の方が適当であるかもしれない。
(9) そのイノベーションは特許をとるに値するものであろうか?特許は請求と取得に時間とお金がかかる。すべてのイノベーションがこれほどの労力に値するものではない。ある種のノウハウでは、イノベーションを保護するために特許としてではなく、企業秘密を活用するほうが実用的であるかもしれない
企業秘密はAI 関連の発明を保護するための強力なツールであり、特にこの分野においてとても適したものである。特許と企業秘密はどちらも企業らに彼らが自身のAI 関連の知的財産を保護する強力な方法を提供する。どちらも特定の状況下で効果的でありうる。ほとんどの場合、最適な保護戦略には両制度のよく考慮された活用がなされている。
注釈・参考文献
1) 参照PwC’s Global Artificial Intelligence Study: Exploiting the AI Revolution at 3, https://www.pwc.com/gx/en/issues/data-and-analytics/publications/artificial-intelligencestudy.html.
2) American Artificial Intelligence Initiative: Year One Annual Report (February 2020) at 1, https://www.whitehouse.gov/wp-content/uploads/2020/02/American-AI-Initiative-One-Year-AnnualReport.pdf.
3) “Putin says the nation that leads in AI ‘will be the ruler of the world,’” The Verge, (Sept. 4, 2017), 以下にて参照可能 https://www.theverge.com/2017/9/4/16251226/russia-ai-putinrule-the-world
4) PwC MoneyTree Report (Q4 2018), https://www.pwc.com/us/en/moneytreereport/moneytree-report-q4-2018.pdf
5) 参照例として. 18 U.S.C. 1839(3) (Federal Defend Trade Secrets Act, definition of “trade secret”); Cal. Civ. Code § 3426.1(d) (California Uniform Trade Secrets Act, definition of “trade secret”).
6) 参照例として. N. Am. Deer Registry, Inc. v. DNA Sols., Inc., 2017 WL 2402579, at *7-8 (E.D. Tex. Jun. 2, 2017) (acknowledging that a novel or unique combination of publicly known elements may constitute a trade secret); Strategic Direction Grp., Inc. v. Bristol-Myers Squibb Co., 293 F.3d 1062, 1065 (8th Cir. 2002).
7) 参照例として. People v. Wakefield, 2019 WL 3819326, at *5 (N.Y. App. Div. Aug. 15,2019).
8) 参照 Coca-Cola Bottling Co. of Shreveport v. Coca-Cola Co., 107 F.R.D. 288, 294 (D. Del.1985) (「秘密の製法の文書版はアトランタにある信託銀行会社のセキュリティ金庫の中に保存されており、その金庫は会社の取締役会の決定によってのみ開けることができる。会社のポリシーとしてどの時点においても会社内の人間のうち2 人のみが製法を知ることができ、そしてその2 人のみがMerchandise 7X の実際の準備を監督することができる。会社はその2 人の人物の正体が開示されることやその2 人が同じ時に同じ飛行機で飛ぶことを許可していない。」)
9) 参照 WIPO Technology Trends 2019, Artificial Intelligence, https://www.wipo.int/edocs/pubdocs/en/wipo_pub_1055.pdf at 13.
10) Alice Corp. v. CLS Bank International, 573 U.S. 208 (2014).
11) 同上 at 218.
12) 同上at 221.
13) Alice 訴訟の余波で、地方裁判所と連邦巡回区控訴裁判所はこの枠組みを一貫して
適用することの難しさを述べている。
参照例として. Interval Licensing LLC v. AOL, Inc., 896 F.3d 1335, 1355 (Fed. Cir. 2018) (Plager, J., dissenting) (「特許適格性の基準としての「抽象観念」という抽象的な概念の無益さ」を説明している。) Berkheimer v. HP Inc., 890 F.3d 1369, 1374 (Fed. Cir. 2018) (Lourie, J., concurring); さらにこちらも参照 Testimony of Hon. Paul R. Michel, The State of Patent Eligibility in America, Part I: Hearing Before the Subcommittee on Intellectual Property of the S.Comm. On the Judiciary, 116th Cong. 2 (June 4, 2019) (元連邦巡回控訴裁判所の判事であったポール・ミシェルの証言記録によると、「最近の訴訟は不明確で、相互に一貫性がなく、混乱を招くもの」であり、彼はその結果を「和解させることができず」、また「個々の訴訟での結果をまったく自信をもって予想することができない」とのことだ。)
14) 参照 https://www.govinfo.gov/content/pkg/FR-2019-01-07/pdf/2018-28282.pdf.これらのガイダンスには法律による強制力はないものの、これらガイダンスはそれ自体がAlice 訴訟後の判例からの抽出に基づいていることに注意。
15) 参照例として. https://efoia.uspto.gov/Foia/RetrievePdf?system=BPAI&flNm=fd2018007443-10-10-2019-0 (「ニューラルネットワーク」を機械の監視という文脈で使用するということが人的活動を取りまとめる抽象的メソッドとして適するものではなく、この「計算複雑性」がそのクレームらを抽象的な心理作用という領域から取り除いたことを理由として、「ニューラルネットワーク、ロジック判断ツリー、信頼性評価、ファジー論理、スマートエージェントポロファイリングと事例ベース推論を使用して機械の監視オペレーションを説明する」クレームらの拒絶を取り消した。)
16) 参照例として. LivePerson, Inc. v. 24/7 Customer, Inc., 83 F. Supp. 3d 501, 514 (S.D.N.Y.2015)(人工知能に基づいたアルゴリズムを企業秘密保護に適格すると判断。)
17) 参照 “Nine charts that really bring home just how fast AI is growing,” MIT TechnologyReview (Dec. 12, 2018), 以下で参照可能 https://www.technologyreview.com/s/612582/datathat-illuminates-the-ai-boom/ (AI 分野でいかに「技術水準が急速に発展しているか」を説明。)
18) Cal. Civ. Code § 3426.1(d); accord XpertUniverse, Inc. v. Cisco Sys., Inc., No. CIV.A. 09-157-RGA, 2013 WL 867640, at *2 (D. Del. Mar. 8, 2013), aff'd (Jan. 21, 2015) ([Cal. Civ.Code § 3426.1(d)内での企業秘密]の定義にはネガティブな視点から見て商業的な価値のある情報を含む、それは例えばとある特定の過程がうまくいかないことを証明するような長時間を有し、高額であった調査の結果などは競合他社にとっては非常に価値のあるものでありうる。)
19) 実装ノウハウは企業秘密として適格するためには潜在的、もしくは実在的な経済的価値がなくてはならない。「同じ分野で他がやっていることを独自の方法でやってもそれは企業秘密には該当しない。」Agency Solutions.Com, LLC v. TriZetto Grp., Inc., 819 F. Supp. 2d 1001, 1017, 1021 (E.D. Cal. 2011)). もしも、ソフトウェアのある特定の機能が内密の方法によることなく知られている、もしくは知ることができる場合、関連するソースコードそれ自体が秘密として保たれているとしてもコードのいくらかの側面は企業秘密を構成しないかもしれない。しかし、同上参照。(「しかし、何かがなされる方法が企業秘密ではない一方、その方法に関する個別の事実はことによると企業秘密でありうる。」)
20) *8 (E.D. Tex. Jun. 2, 2017).
21) 参照 "The world’s most valuable resource is no longer oil, but data." The Economist (May6, 2017), 以下で参照可能 https://www.economist.com/leaders/2017/05/06/the-worldsmost-valuable-resource-is-nolonger-oil-but-data
22) いくつかの注目を浴びた訴訟では、従業員らがソフトウェアや企業秘密データを競合他社で使用しようと持ちだしたいわゆる「インサイダー脅威」がかかわっているものがあった。
23) 参照例として. Sargent Fletcher, Inc. v. Able Corp., 110 Cal. App. 4th 1658, 1670 (2003)(「独立派生やリバースエンジニアリングの証拠は不正な方法での使用の要素を直接反証する。」)N. Am. Deer Registry, Inc. v. DNA Sols., Inc., 2017 WL 2402579, at *7 (E.D.Tex. June 2, 2017) (企業秘密はリバースエンジニアリングや独立派生がある場合には不正流用されていない)
24) 参照 LivePerson, Inc. v. 24/7 Customer, Inc., 83 F. Supp. 3d 501, 514 (S.D.N.Y. 2015) (原告がその中に顧客と合意した機密と使用を制限するライセンス制約だけでなく、機密性規定とリバースエンジニアリング、侵害やその技術を破壊させることに対する規定をもが含まれていることを説明した企業秘密の主張への棄却の申し立てを否定。)
25) 特定の管轄において、特にカリフォルニアなどはそのような合意の条件に競業避止義務の禁止一部として相当の規制を敷いていることに注意。参照 e.g., Cal. Bus. & Prof. Code § 16600.
26) 反対に、企業秘密責任を避けるために、以前競合他社で働いていた社員を新しく雇用する/新人研修を行う際に最善の措置が遵守される必要がある。
27) この場合にある避けるべき一つの潜在的な落とし穴は、当該人物が主張された発明を実施することができるようにする特許法の下の要件である。もしも企図された企業秘密の知識が主張されていることを実施するために必要不可欠であるのならば、それは特許申請において開示される必要がありうる、もしくはこの企業秘密は35 U.S.C. §112 の下、実施可能性の欠如によって無効になってしまうリスクを負っている。
28) 参照 35 U.S.C. 122 (特許申請者がその申請が公開されないことを要請することができる状況を説明。)
29) 参照例として. Kewanee Oil Co. v. Bicron Corp., 416 U.S. 470 (1974) (「企業秘密法…は独立の発明、偶然の開示、もしくはいわゆるリバースエンジニアリングなどの公平で誠実な方法での開示に対して保護を提供はしない。すなわちそれは、知られている商品から始め、その開発や製造において助成をした過程を推測するために結果から逆算して動くことである。」)他の裁判所や管轄ではこのいわゆる「リバースエンジニアリング」弁護を異なって適用している。というのも、企業秘密をリバースエンジニアするのに必要な時間、費用や労力を考慮しない裁判所もある一方、企業秘密が「リバースエンジニアリング…を通して容易に確認できる」ものであった場合にのみリバースエンジニアリング弁護を許している裁判所もある。
Barr-Mullin, Inc. v. Browning, 424S.E.2d 226 (N.C. Ct. App. 1993) と Midland-Ross Corp. v. Sunbeam Equipment Corp., 316 F.Supp. 171, 173 (W.D. Pa. 1970)を比較。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
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マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
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