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コロナウイルスにより増大している予期せぬ影響(フォールアウト)の管理
~世界中の契約上の不履行の抗弁~ (20/05/30)
ほぼどんな基準に照らしても、新コロナウイルス・パンデミック(世界的大流行)はビジネス上の混乱という意味で、これまでグローバル市場が見てきたあらゆる事柄をしのぎそうである。国々、州、地域、そして産業全体がCOVID-19の蔓延を防ごうと停止している。株式市場は荒々しく揮発的なものとなり、数兆ドルもの価値を滅失させた。中国がウイルスの抑制をある程度したかのように見えるものの、報告によるとその産業は先行きが厳しいことが示唆されている。この文書を発行した際には中国政府はすでに何千もの不可抗力証明書とCNOOCやTotal、Shellのような注目されているビジネスも自然ガスの輸送の受領に関しての不可抗力事象を宣言していた。世界中の生産ラインは停止、もしくは減速し、物質的、労働的な不足が世界中の契約をさらに崩壊させている。法律事務所らは契約上の義務を遂行することを妨げるかもしれないこれまで全く予測していなかった問題に苦労している依頼人からの質問であふれかえっている。
COVID-19パンデミックがすでに新説を生み出しているようだが、この記事では契約上の履行を困難もしくは不可能にする予期せぬ事象を目の前に突き付けられたときに、裁判所らによってとられてきた伝統的なアプローチを説明する。
管轄間の違いはあるものの、これらの困難な状況に直面している裁判所らは通常3つの広い法的法理の下に、契約上の履行が免除されるかどうかを査定する。(1)不可能性(コモンローの不可抗力)(2)ハードシップ(実行不可能性)もしくは(3)契約上定義された後発的事由(例えば「フォースメイジャー(不可抗力)」や「ヴィスメイジャー(不可抗力)」契約上の条項)この記事ではこれらの法理がそれぞれ様々な民法とコモンロー、コモンロー体制の下どのように適用されてきたのかを説明する。
I. 不可能性の抗弁
不可抗力という言葉(フォースメイジャー(不可抗力)はラテン語でいうヴィスメイジャーに匹敵)はフランス語の言葉で最初のナポレオン法典に成文化されたものである。今日では民法、コモンローどちらの法体系でも不可抗力は履行が不可能であるとされたために、当事者を契約上の義務から免除する契約違反行為への抗弁である。以下の議論では法典を基にしたものと、コモンロー管轄が不可抗力と類似の不可能性の抗弁を扱い、査定しているのかについて言及する。
フランス法
フランスの民法には不可抗力は予想外の出来事によって履行が妨げられた際の契約上の免責として定義されている。具体的には、フランス民法1218条に以下の記載がある。
契約案件で、債務者の抑制力の範囲を超えた不可抗力があり、それが契約締結時に合理的に予期できず、その効果が適切な措置によって避けられなかったものは、債務者による義務の履行を妨げる。
もしも妨害が一時的なものであったら、その結果が契約の終結を正当化することになる遅れ以外に関しては義務の履行は延期される。もしも妨害が恒久のものであったら、契約は法律適用の効果によって終結し、当事者らは義務から解放される…
1218条を解釈するときにフランスの裁判所らが伝染病事象が不可抗力の抗弁を発動するのに十分であると判断することは稀だ。例えば、1998年にフランスの裁判所は(CA パリ、1998年9月25日1996/08159)(CA Paris, Sept. 25, 1998, 1996/08159)マイナーなペスト伝染病の流行は阻止するための措置が可能であったために不可抗力を構成しなかったとした。しかし、同じ裁判所が2013年にエボラ伝染病は不可抗力を構成しうるとした。(CA パリ、2016年3月17日15/04263)しかし、不履行が伝染病による直接的に生じた場合にのみ限る。そしてまた別のフランスの裁判所はフランスのカリブ海でのチクングニア熱ウイルス性伝染病はこの病気が周知され、非致死的であるために不可抗力を構成しないとした。(CA バセテール 2018年12月17日, n°17/00739)(CA Basse-Terre, Dec. 17, 2018, n°17/00739)
しかし、現在のパンデミックはこれらの事象で問題となっている伝染病らとは容易に識別ができるものであるようだ。ペストやチクングニア熱と違ってコロナウイルスは新たな、急速に広がる、致死の恐れがあり、そして誰もその治癒法を知らないものである。これらの理由から、フランス政府は既にコロナウイルスの突発的発生を政府契約における不可抗力事象であると宣言している。
ドイツ法
ドイツ民法275節では不可抗力の原則を法典化し、以下のように述べている。
「履行の訴えは履行が債務者、もしくは他のどんな人にとってもにとって不可能である場合に排除される。」
ドイツ法の下では不可抗力事象は契約上の義務における履行に関して、当事者らの抑制力が及ばない状況で、履行が恒久的に不可能になった状況でのみ排除される。履行の期限までに排除することが可能な契約上の事象への一時的な障害は、当事者をその義務の履行から免除しない。ドイツの裁判所は予期しなかった事象が履行を恒久的に不可能にしたのかどうかを判断するためにそれぞれの訴訟の事実を精査する。
中国法
中国法の下では不可抗力の原則は認識され、民法と契約法の一般原則の中にbu ke kangli(不可抗力)という言葉で法典化されている。主な契約法の規定は以下のとおりである。
117条
不可抗力によって契約の履行ができないとき、法律で特段の規定がない限り義務は不可抗力の影響力に応じて全体として、もしくは部分的に免除される。履行の沈滞の後に不可抗力が生じた場合、関係する当事者の義務は免除されないかもしれない。
この中での不可抗力は、予測できず、避けられず、乗り切ることのできない客観的な状況でのことを意味する。
118条
不可抗力によって契約を履行できないいずれかの当事者は、相手方当事者に加えうる損害を減らすために、速やかに知らせ、合理的な時間の中で証拠を提供する。
2002年に始まったSARSの流行によって中国の法廷に無数のbu ke kangli(不可抗力)の訴えが提起された。北京と広東省の裁判所らは第一審裁判所らへ伝染病関連の訴訟においてbu ke kangli(不可抗力)法理を以下の場合に適用するように指導した。(1)当事者らは問題となっている契約を伝染病が生じる前に結んでいた。(したがってこの結果が予測できなかった)そして(2)伝染病の併存効果が契約上の履行に関して弁解できない遅れの後に起こったものではない。2003年に中国の最高裁判所は下級裁判所らに伝染病訴訟を取り扱う際に、政府によって導入された方策のために当事者がその契約上の義務を履行することができない場合にbu ke kangli(不可抗力)法理を適用するよう指示した。
2020年2月7日に北京の房山区地方裁判所は裁判所らがコロナウイルスの流行によって影響を受けた契約を査定するときに、中国の最高裁判所の2003ガイダンスに従うことを助言するプレスリリースを発表した。しかし地方裁判所は不履行当事者の過失により生じた不履行に関しては免責されないべきであるとした。
国際物品売買契約に関する国際連合条約
アメリカ、中国と他91の国々は国連の国際物品売買契約に関する条約を採用している。(CISG)CISGは中国の当事者らとの商品の国際的な売買に関係した契約を一般に束ねる債務不履行に関する法律であり、不可能性の抗弁として広範に認識されているものを含む。具体的に、CISGの79条は該当部分において以下のように述べている。
(1)当事者は、もしも彼が履行の不能が彼の抑制の範囲を超えた障害によるものであったこと、契約の締結時に障害を考慮すること、もしくはその結果を避ける、または乗り切ることができなかったことが合理的に期待されなかったことを証明できた場合に自身の義務のいずれをも履行することができなかったことに関して責任を負わない。***
(3)この条文により提供される免責は、障害が存在していた期間において効果がある。
(4)履行ができなかった当事者は相手方当事者に自身の履行能力について、生じた障害とその影響について通知をしなくてはならない。
履行をできなかった、もしくは障害を知っているべきであった合理的な時間の中で 相手方当事者らによって通知が受理されなかった場合、彼(履行当事者)はそのような受信不能により生じた損害への責任を負う。
CISGの79条の提供する保護規定は一般にフランス法の下の不可抗力に匹敵するものだと考えられている。しかし、CISGの規定の下訴訟を提起する際、事物が訴訟にかけられるフォーラムが要因となる。なぜなら特定の管轄が地域の法律と規範の特殊性によって影響を受けるかもしれないからだ。
アメリカコモンロー
アメリカの裁判所らでは「不可抗力」という言葉は一般にコモンローの抗弁というよりかはむしろ、明示契約上の規定のことを指す。しかし、不可能性のコモンロー法理は予測できない事象によって履行が不可能とされた場合に履行の免除をすることがあるかもしれない。
アメリカ法の下の不可能性法理はそのルーツをイギリスのテイラーVSカルドウェル訴訟(Taylor v. Caldwell. )にたどれる。テイラー訴訟では、火災が音楽ホールを破壊したためにミュージシャンらが契約上の履行の義務を遂行することが不可能となった。同様に音楽ホールもミュージシャンらがパフォーマンスをするための場所を提供するという義務を遂行できなかった。女王座控訴裁判所は両当事者が火災によって将来のすべての履行が不可能となったために、履行を免除されたとした。
アメリカの裁判所も中断的で、予期せぬ事象が履行を不可能にする場合に、契約上の義務の履行を免除するために似たような原則を適用している。例えば、ケル・キム株式会社VSセント・マーケッツInc., 70 N.Y.2d 900 (1987)訴訟(Kel Kim Corp. v. Cent. Markets, Inc., 70 N.Y.2d 900 (1987)で、ニューヨーク州控訴裁判所は以下のように述べた。
契約内容の毀棄、もしくは履行の方法が履行を客観的に不可能にする場合に限り、 その不可能性によっては当事者の履行を免除する。さらに、不可能性は契約において予測、もしくは防ぐことができなかった予測されていなかった出来事によって発生したものでなければならない。
アメリカの裁判所らは不可能性の抗弁に対して制限的な見方をとっている。例えば、アメリカVSジェン・ダグラス・マッカーサーシニア・ビル 508 F.2d 377 (2d Cir. 1974)訴訟(United States v. Gen. Douglas MacArthur Senior Vill., 508 F.2d 377 (2d Cir. 1974)で第二巡回裁判所は「この法理の下責任を免除することは、完全に予測できなかった事象が契約を一方の当事者にとって価値のないものとする実質的な大変動が起こった場合にのみ限られる。」とした。さらに裁判所は当事者らが契約の中でリスクをどのように配分したのかを見る;不可能性のリスクが契約の表面上に配分されていた場合、裁判所らが履行をコモンローの不可能性の法理に基づいて免除する可能性は低い。
イギリスコモンロー
イギリスでは不可能性の抗弁は契約目的の達成不能法理の下にきっちりと含まれる。(下記で論じられているものである)アメリカと同様、この法理はイギリスの裁判所によって厳しく解釈されている。裁判所らは当事者らの契約の下のリスクの分配の問題と救済措置を求める当事者にとって契約の価値のそのすべてがなくなったのかどうかをよく検討する傾向がある。
その他の東アジアの法
フランス、ドイツ、中国法や、民法に基づいたシステムである日本、韓国と台湾も不可能性法理を法律として成文化している。しかし、コモンロー管轄圏の香港やシンガポールは、不可能性や契約目的の達成不能によって履行を免除するイギリスの前例に従うが、しかしそれらの法理を厳しく適用している。
II. ハードシップの抗弁
契約の履行が不可能でない場合でも、裁判所らは究極の状況が履行を予期せず困難なものとしたときには履行の免除をしたり、当事者の契約上の義務を変更することがある。下記の議論では、様々な管轄の裁判所らがハードシップの訴えに基づいて履行の免除、もしくは契約上の義務を再編する状況の概要を提供する。
フランス法
2016年のフランス民法への改正はフランス法の下のハードシップの抗弁を法律に成文化した。フランス民法の1195条は現在以下のように述べている。
その契約の締結時には予測のできなかった状況の変化がそのような変化によるリスクを受け入れていなかった当時者の履行を過度に厄介にする場合、その当事者は契約を交わしている相手方当事者に契約を再交渉することを頼むことがあるかもしれない。最初の当事者は再交渉の間、自身の義務を履行し続けないといけない。再交渉の拒絶や失敗の場合に、当事者らは彼らが決める日時と条件の下、契約を終結する、もしくは共通の合意の下、裁判所にその適応に取り掛かるように頼むことをするかもしれない。合理的な時間の中で合意がなかった場合、裁判所は当事者の要求の下、その日時と彼らが決める条件の下、契約を改訂する、もしくは終了するかもしれない。
この規定を解釈する判例は少なく、フランスの裁判所らがパンデミックにどのようにこの規定を適用するのかはまだわからない。COVID-19パンデミックにより生じている巨大な混乱を考えると、フランスの裁判所らは契約上の履行を特に煩わしいものとしているコロナウイルスパンデミックが1195条によってその契約上の義務を免除するのかどうかについて真剣に考えるべきであろう。ハードシップ法理はフランス民法の下で求められる不可抗力法理の条件が満たされない場合に役に立つかもしれない。例えば、パンデミックにより生じた多大な混乱にも関わらず、義務を履行する能力がある当事者は(したがって不可抗力を否定)、もしも履行が契約を結んだ時点での予測よりも「過度に」より高額、もしくは困難になった場合に裁判所に合意の条件を改正するよう依頼するかもしれない。ただ前例の欠如のためにフランスの裁判所らがどのように具体的な事例を裁決するのかを予測するのは難しい。
ドイツ法
ドイツの二つの世界大戦の間で起こったハイパーインフレーションの時代にさかのぼるハードシップ法理は、ドイツ民法の313節に成文化されている。313節には
(1)契約のもととなった状況が契約締結時と大きく変わってしまい、もしも当事者らがこの変化を予測していたら契約を締結していなかった、もしくは異なる内容で契約を締結していた場合、契約の適応はその特定の事例のすべての状況、特に契約上の、もしくは法定上のリスクの配分を考慮に入れ、片方の当事者が変更なしに契約を支持することを合理的に期待されないということの範囲で要求できることを述べている。
(2)契約のバイアスとなった物質的観念が間違っていることが分かった場合には、それは状況の変化に相当する。
(3)契約の採択が可能でない場合、もしくは一方の当事者が合理的にそれを受け入れることが期待されないとき、不利益を被る当事者は契約を解除することができる。継続している義務の場合は、終了する権利は取り消す権利にとって代わる。
フランス民法に反映されている法理と同様、裁判所は契約締結時には予測されていなかった新発見のハードシップを構成するために契約を改正する際にドイツのハードシップ法理を適用する。
中国法
2009年に中国の最高裁判所は(準立法的な立場で機能)ハードシップ法理をqingshi biangengという言葉の下適用した。qingshi biangeng 法理は以下のように述べる。
契約の形成の後、当事者らが契約締結時には予期できなかった客観的な状況が生じ、それが不可抗力でない大きな変化であり、商業的リスクとしても適当せず、 片方の当事者に明らかに不利な継続した契約になる、もしくはその目的を達成不能にする場合に、当事者による契約の変更、もしくは終了の要求の下、裁判所は契約を変更する、もしくは終了するかどうかについて公平性の原則に従い、事例の実際の状況を考慮して承認すべきである。
COVID-19の発生以来、中国の下級裁判所、例えば黒竜江省地区裁判所システムなどはbu ke kangli (不可抗力)同様、qinshi biangengがパンデミックによって影響を受けた契約の改新や解除のために利用可能であるべきだと示唆するガイダンスを発行した。しかし、裁判所のガイダンスはまた、予期せぬ事象にだけこれらの法理が適用されるべきだとも示唆する。つまりこれは一般的にこれらの法理が近時の危機が知られた後に締結された契約には適用できないということを意味する。
CISG
CISGが契約上のハードシップの抗弁を提供しないことに実践の場の弁護士らは一般に同意しているものの、いくつかの裁判所や法廷らは79条(不可能性に関連する)をハードシップの状況において適用している。特定の法廷が単なるハードシップの抗弁に79条を適用するか否かは特定の事例を統轄している法廷による。
アメリカ法
アメリカのハードシップに関係するコモンロー法理はよく実行不可能性、もしくは契約目的の達成不能と呼ばれ、ここでもこのルーツはイギリスの判例、クレルVSヘンリー, 2 KB 740 (1903)( Krell v. Henry, 2 KB 740 (1903) 訴訟にさかのぼる。クレル訴訟で、借用者はエドワード7世の戴冠パレードのルートを見下ろす建物を借りた。エドワード7世は病気になり、戴冠パレードは中止になった。裁判所は借用者は彼がもう利益の約定を得られないために(戴冠パレードの眺望)家賃を払う義務から免除されるとした。
この判断のもととなる原則は契約法リステイトメント(第2次)の261節と米国統一商法典(UCC)の2条に反映されており、これはほぼ同じ形ですべてのアメリカの州によって採用され、商品の売買に関する契約を司っている。
UCCの615節(b)は遅延した給付は「契約が結ばれた際には起こらないものと基本的な予測をされていたことが起こる不測の事態の発生により、合意されていた履行が実行不可能なものとなった。」際に免責されるとしている。しかし615節は契約締結時に両当事者らによって合理的に予測されているべきであった事象や状態にまで拡張されるものではない。例えばUCCの615節のコメント4はフォード&ソンズLtd VS ヘンリー・リーサム&ソンズLtd21 Com. Cas. 55 (1915)( Ford & Sons Ltd. v. Henry Leetham & Sons Ltd, 21 Com. Cas. 55 (1915) 、またイギリスの事例で、市場価格への決められた変化は審理できる契約上のハードシップではないとしたものに言及する。反対に、予期せぬ事象によって生じた必要不可欠な物資の著しい欠如はハードシップ条項を形成するかもしれない。いかなるハードシップの抗弁の結果はどれも問題になっている契約の具体的な文言による。例えば、N.インディアナ・パブ Serv Co VS カーボンCty コールCo 99 F.2d 265, 267 (1986年第7巡回裁判所)訴訟で(N. Indiana Pub. Serv. Co. v. Carbon Cty. Coal Co., 799 F.2d 265, 267 (7th Cir. 1986) 第7巡回裁判所は、当事者らの契約の中の価格が下落することが許されない最低価格の存在と価格限界の欠如は、市場の状況への変化により生じうるハードシップにかかわらず、価格の高騰のリスクが購入者にわたっていることを意味していると判断した。
同様の法理である契約目的の達成不能は予期せぬ事象が両者共通で認識していた契約の目的をその一方にとって価値のないものにするときに履行を免責するかもしれない。契約の目的の達成不能は契約のリステイトメント(2次)の265節に具体的な記載がある。それは以下の通り。
契約が作成された後、当事者の主要目的が自身の過失でなく、契約が作られた際には起こらないであろうと基本的に予測されていた事象の発生により実質的に達成不能になってしまったときに、文言、もしくは状況がそのほかを示唆しない限り、当事者の残る履行の遂行の義務はなくなる。
265節を適用している裁判所らは予期せぬ事象が「片方当事者の履行を事実上価値のないものとし、彼の契約目的の達成を不能にする」時には履行が免責されうるとした。参照:e.g., PPF セーフガードVS BCRセーフガード・ホールディングス85 A.D.3d 506, 508 (ニューヨーク控訴裁判所第一部署2011年(e.g., PPF Safeguard v. BCR Safeguard Holding, 85 A.D.3d 506, 508 (N.Y. App. Div. 1st Dep’t 2011) (契約のリステイトメント(2次)265節コメントaを引用)
リステイトメントはさらに契約目的の達成不能が契約締結時に両当事者らからの共通の理解の下の契約の必須条件でなくてはならないことを示唆する。例えば、レンブラント事業Inc VS ダーメス・ステインレス Inc., No. 5:15-CV-4248-LTS-KEM, 2017 WL 3929308 (N.D. Iアイオワ州2017年9月7日) 訴訟(Rembrandt Enterprises, Inc. v. Dahmes Stainless, Inc., No. 5:15-CV-4248-LTS-KEM, 2017 WL 3929308 (N.D. Iowa Sept. 7, 2017)では、長期的スパンでの農業事業を行う会社が、オペレーションの拡大計画の一部として購入予定であった、900万アメリカドルの業務用卵乾燥機を購入する契約から免責されることを求めて訴訟を起こした。農業事業は鳥インフルエンザによって自身の保有する半分の鳥の間引きを余儀なくされ、ケロッグへの利益の上がる卵の供給契約を失うことになってしまった後にその事業拡大計画を取りやめた。購入者はその義務の免除を求め、地方裁判所は当事者らの契約の不可抗力条項が履行が不可能ではなかったために発動していなかったと判断した。しかし裁判所は、契約の目的が予期されていたケロッグからの注文という需要に見合うように購入者のオペレーションの拡大を補助することにあったことを、両当事者らがわかっていたかもしれないことを示す十分な証拠を見つけたために契約目的の達成不能の問題に関して事例が訴訟に持ち込まれることを許した。
イギリス法
イギリス法の下、ハードシップだけで履行は免責となるが、契約目的の達成不能はクレルVSヘンリー訴訟(1903)Krell v. Henry (1903) の時からすでに認識されていた。イギリス貴族院上訴委員会のナショナル・キャリア Ltd VS パナルピナ (北)Ltd 1 AC 675 (1981) 訴訟(National Carriers Ltd v. Panalpina (Northern) Ltd., 1 AC 675 (1981) での判断が法理を以下のように形成した。
契約目的の達成不能は後発的事由により(どちらの当事者からの不履行もなく、契約は十分な規定を置いていない場合)契約締結時に合理的に当事者らが予期しえたであろう未執行の契約上の権利と/もしくは義務の性質が大きく変わる(単に費用や荷厄介だけでなく)ために、新たな状況で契約の規定を文字通りの意味でとることが不当である場合に生じる。また、そのようなケースでは、法は両当事者らをさらなる履行から解放することを宣言する。
ナショナルキャリアは倉庫の10年の賃借契約を結んでいた。ただそれは政府による倉庫へと続く道路の封鎖で20か月間妨害された。厳しい妨害にも関わらず、裁判所は契約目的の達成不能の法理は道路が3年後に借地契約の期限が切れる前に再度開通することから発動しないとした。そしてハードシップの訴えを取り扱うときにフランスやドイツ法の下で可能な救済措置とは異なり、イギリス法の契約目的の達成不能の法理では、状況の一時的な変化のために契約を書き直すことをさせない。実際にイギリスの裁判所が契約上の義務を免責したがらないことが最近、イギリスの高等法院によってカナリー・ワーフ(BP4) T1 Ltd VS 欧州医薬品庁(2019) EWHC 335 (Ch)(in Canary Wharf (BP4) T1 Ltd. v. European Medicines Agency (2019) EWHC 335 (Ch) の訴訟において以下のように説明された。「後発的履行不能の効果が契約を滅失し、当事者らをその契約の下のさらなる責任から解放することであることから、…それはそう簡単に発動されるべきではなく、とても狭い制限の中にとどめておくべきである。」
他の東アジアの法
ドイツ民法と似たハードシップ法理は日本、韓国、台湾の民法にもみられる。しかし、イングランド法に従う香港とシンガポールはハードシップ条項だけでは不履行の免責にはならないとしている。
III. 後発的事由条項
契約に「不可抗力(フォースメイジャー)」や「不可抗力(ヴィスメイジャー)」条項の表記が含まれているのはよくあることである。これらの条項らには一般的に契約上の義務を免責、もしくは修正することができる天災やテロリストによる攻撃、荒天、組合のストライキ、反乱や戦争などの事象が載っている。契約の中にはよく「MAC条項」や「MAE条項」と呼ばれる同様に当事者の義務を変更する、または当事者を未だ完了していない義務から解放することができる個別のハードシップ条項をも含むものもある。
異なる管轄の裁判所らは明示的不可抗力条項の解釈に対して異なるアプローチをとっている。例えばアメリカやイギリスの裁判所は不可抗力条項への広範な解釈を提供したがらない。イギリスでは、ブリティッシュ・エレクトルとその関連産業(カーディフ)Ltd VS パットレイ・プレシングス Ltd(1953)1 WLR. 280訴訟(British Electrical and Associated Industries (Cardiff) Ltd v. Patley Pressings Ltd. (1953) 1 WLR. 280)を先例として、「不可抗力事象」にだけ言及した一般的な不可抗力条項が不確実性には無効であるとされた。またさらに別のイギリスの裁判所はマリタイムInc VSリンブンガン・マクムールSDN BHD(2019)EWCA Civ 1102の訴訟 (Maritime Inc. v. Limbungan Makmur SDN BHD (2019) EWCA Civ 1102) で不可抗力条項は一定の不可抗力による事象が当事者の不履行の唯一の原因であったときに限って適用されるとした。アメリカの裁判所もまた不可抗力条項を契約で具体的に識別されていない状況には拡張することをしたがらない。例えばニューヨークの控訴裁判所はケル・キム株式会社訴訟で「通常不可抗力条項に実際に当事者の履行を実際に妨げる事象が明確に含まれる場合に限って、その当事者は免責を与えられる。」としている。
法体系によって当事者らはさらに明示契約条項が 本来であれば可能である依頼の権利をはぎ取ることになるかもしれないことを知っておくべきである。例えば、フランスでは民法の1218条の不可抗力レジームは契約上改定が可能で、したがって不可抗力条項の適格事象の制限的リストが利用可能な救済の範囲を狭めるかもしれない。契約が不可抗力条項を通して後発的事由の結果を扱うイギリス法の下のもとでも同じ結果が起こりうる。そのような状況では、当事者は後発的履行不能の法理に頼ることができないかもしれない。
IV. 結論
広範で、予想外の、そしていまだに不確かなCOVID-19パンデミックの影響を考えると、商業的な争いは避けられないものである。ビジネスが危機によって生じた争いを予測、もしくはすでに経験しているかのいずれにせよ、ビジネスは自身の潜在的な法的選択肢を法典と影響を受けている具体的な契約の条件の両方から吟味するべきである。具体的に、ビジネスは以下の行動をとることを考えるべきである。
・影響を受けている契約の準拠法と裁判地の選択に関わる条項を調査する、もしくは適用されうる法典と訴訟が提起できる場所を決めておく。不履行への抗弁が可能か、そしてどんな形での抗弁が可能かを法典とフォーラムは形作るかもしれず、また、後発的事由条項の明示条件がどのように解釈されるかをも形作るかもしれない。
・影響を受けた契約の予期せず起こる事象に関する何らかの条項の詳細を見直す。 特にそれらに伝染病やパンデミック事象が含まれているか、もしくは代替として一般的な定義やその事象をほぼ間違いなく包含できるであろう何らかの他の言葉があるかを見るために。そのような条項を発生させるために必要とされる通知に関するあらゆる契約上の規定を見直しておくのもよい。
・不可抗力事象への保証があるかを判断するために保険契約を見直す。
ゆくゆくはビジネスは以下の事柄をも検討すべきである。
・履行が伝染病の影響によってさえぎられる可能性のある新たな契約の草案を作成するときには、契約の目的を説明条項もしくは他の部分で明記することを検討する。契約の目的の識別の明示は後に裁判所もしくは法廷で契約の目的が履行不能であったか否かを判断する際に使用できる。
・COVID-19パンデミックとその潜在的な効果を説明するために不可抗力、またはMAC条項を適応させる。MAC条項に関しては、価格調整メカニズムや履行期限の調整が適切であるか否かを検討する。Q
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
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