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米国特許庁、人工知能の発明の特許化に関して
パブリックコメントを募集 (20/06/29)
2016年にグーグルのDeepMind Technologies (DeepMind社)によって開発されたコンピュータプログラムがボードゲーム「囲碁」で世界第二位のプロ棋士に勝利した。このAlphaGoと呼ばれるプログラムは、コンピュータプログラムが習得するには複雑すぎると多くが信じていた昔ながらのゲームにおいて、韓国のLee Sedol選手に対し5試合中4試合に勝利した。ある概算によると、以後には宇宙の原子の数よりも碁盤の構成が存在するという。したがって、すべての可能な手を力づくで計算してもうまくいかないだろう。その代わりにAlphaGoは自身に上達の仕方を教える「ディープニューラルネットワーク」と呼ばれる人工知能(AI)アルゴリズムを活用した。
AlphaGoの2試合目にAIはそのクリエイティブな側面をみせた。コンピュータは実況解説者らが明らかに失敗とみなした動きをしたが、AlphaGoはこの動きによって最終的には勝利した。後にLeeと他の選手らはこの動きを「美しい」「ユニーク」そして「クリエイティブ」と評した。AlphaGoプログラムがイノベーションをその創造とそこから生み出される結果の両方に反映しているということは明らかだ。しかし、知的財産権によって発明が保護されるのか、またいかにして保護されるのかという疑問については今日でもいまだ未解決である。
2019年8月27日に米国特許商標庁(「USPTO」)は人工知能発明の特許化に関してのリクエストフォーコメンツを発表した。84 FR 44889.リクエストフォーコメンツでは、AI発明は広く「AIを活用したものとAIによって開発された発明」と定義されている。USPTOは一般に対してこのトピックに「彼らが関連すると信じるすべての課題」についてコメントするよう求めたものの、それ(USPTO)はさらに特定の目的をもった次のような質問をも列挙した。
・発明者の要件に関する現在の特許の法と規制は発明の構想に自然人以外の法人や法人らが寄与した発明を考慮するために改正される必要があるか?
・AIは当業者のレベルに影響するか?その場合はどうのように影響するか?例えば、当業者のレベルの評価にAIのもつ能力を反映するべきか?
・AI発明に特有の特許適格性考慮事項はないか?
・データ保護等、AI発明に必要な知的財産保護の新たな形態はないか?
2019年11月8日までにコメントは締め切られ、2020年3月18日から縦覧に供した。公開されたコメントの多くは、少なくとも現時点では、AI技術の出現によって発明者から自然人へと制限の緩和が行われることが正当化されるわけではないということを結論付けている。例えば、米国知的財産権法協会(AIPLA)は「特許権の所有権は現時点では自然人や法人にだけ確保された状態のままであるべきである。」としており、それは一つには現時点では、これが「真に独創的なAI」であるか否かを知るための情報がいまだ十分にはないという理由があげられるからだ。しかし、AIPLAは「もしも独創的なAIが将来的に存在する場合、特許請求された発明に対しAIの法人によるどのような種類の活動が独創的な寄与として捉えられるのかを考えることが必要不可欠である」と警告している。
米国電気電子学会(IEEE-USA)により提出された返答でこの組織は、AIは他の人間により作業を効率的に行うことを可能にさせた「コンピュータ実装技術」の類とほとんど何も変わらないと主張した。IEEE-USAはAIに個別に対処するために法律を修正するというよりも、特許適格性の法がそうしているようにAIとAIに関連しない発明の双方に適用することが難しい既存の法的基準を精査をすることを提案した。IEEE-USAはさらにAIが寄与するかもしれない発明はAIシステムを設計している個々人に起因するべきであり、特に「AIシステムの仕様、目的と入出力アーキテクチャを作成し、AIシステムを開発するものらが、あらゆるAIシステムの独創的出力の発明者らとして名付けられるべきである」と述べた。
最後に、タタ・コンサルタンシー・サービシズ社(Tata Consultancy Services) (TCS)はAI発明がもしも、そして認識されたときに考えるべきであるいくつかの実務上の障害に言及した。例えば、他の法人への特許権譲渡の実行、発明者が真の発明者であることを確信していることを示す宣言書への署名、そして発明者の知る先行技術を列挙したUSPTOへ開示書類の提出、そのすべてはAI開発者が成し遂げるには困難なことである。
米国の評論家らの一般的な見解はほとんどすべての米国外の法域で採用されているアプローチと一致するものである。例えば、欧州特許庁EPOと英国特許庁UKIPOの両方は「発明者の指定」が特許法の要件に合致しないという根拠の下AIを発明者と指定する特許申請を却下した。USPTOはリクエストフォーコメンツに対する回答に基づいた新たな規制やガイドラインをいまだ発行していないなかで、EPO/UKIPOによって却下されたものに関係する2つの特許請求が特許庁に係属していると考えられている。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
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