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気候変動訴訟の臨界期 (20/06/29)
気候変動に関する民事訴訟の新たな波が臨界期に突入しようとしている。これらの訴訟は気候変動によって生じているとされている損害に対し法的救済を求めるという訴訟の新たなトレンドを象徴している。そして今のところそのターゲットはエネルギー産業である。(将来他の分野にターゲットの矛先が広がる可能性があるものの)これらの訴訟の原告らはエネルギー会社らに対して、様々な救済を求めて数多くの不法行為や商業法理論の申し立てをしており、その救済の中には損害賠償と気候変動によって生じたとされるパブリックニューサンスを是正するいわゆる「削減」計画が含まれる。より注目度の高い原告らの一部はコモンロー不法行為理論に基づいてエネルギー会社らを訴えている州と自治体らである。他の州や株主らは証券と虚偽広告の発行において虚偽の陳述がなされたとして、証券法や不正取引法に基づいて訴訟を提起してきた。そして他の原告らは連邦と州の憲法の下、安定した気候への「基本的権利」の認知を求めている。これらすべての事例は全州複数の管轄下で展開されており、その結果はエネルギー会社、他の業界、投資家らと政府に広範な影響を及ぼすであろう。
Ⅰ 不法行為に基づく気候変動の申し立て
気候変動により潜在的に生じうる害に対処するために、自治体の中には訴訟を彼らのコミュニティを守ることを意図した新たなインフラ支出の資金としようと活用するものもある。このような自治体による請求は被告人の様々な行動が温室効果ガス(「GHGs」)の排出につながり、そのことが海水面の上昇やより頻繁で激しい嵐などの影響をもたらしている地球の気候変動を生じさせ、州と地方政府に鎮静のための費用を負担させており、これからも負担させ続けるとの主張をするものであった。例えば、オークランドとサンフランシスコは上昇する潮汐と戦う防波堤をつくるために費用を求めCity of Oakland v. BP P.L.C., 325 F. Supp. 3d 1017 (N.D. Cal. 2018)、ニューヨーク市は嵐から公共事業インフラを防御するために費用を求めCity of New York v. BP P.L.C., 325 F. Supp. 3d 466 (S.D.N.Y. 2018)、ロードアイランド州はダムや道路、港、給水インフラ等を耐風にしようとする尽力に対しての補償的損害賠償を求めている等。Rhode Island v. Chevron Corp., 393 F. Supp. 3d 142 (D.R.I. 2019)
多くの原告らはさらに被告らにさらなる化石燃料の抽出を妨げさせる将来における削減をも求めている。
これらの不法行為訴訟の原告らはいくつもの法的理論を発展させてきた。それらは、無過失責任/不注意による設計や化石燃料の燃焼による弊害についての注意を喚起しなかったこと、洪水を引き起こしたことや原告らの土地に極端な降水が浸入することによる侵害、公衆の信頼を損なったこととプライベートニューサンスだ。それに加えて、多くの原告らはさらにパブリックニューサンス理論を用いようとする。パブリックニューサンスは原告に被告が不当に、いくらかの公権、例えば公的リソース、安全や健康などを実質的に妨げたことを示すことを要求する。その他の大規模不法行為における原告らもまた同じようなやり方でパブリックニューサンス法を用いようとし、それらはそれぞれは異なる結果に終わった。その例にはたばこ、オピオイド、鉛系塗料、汚染と火器訴訟が含まれる。しかし、現行の訴訟らが気候変動によって生じたとされている問題に取り組むためにパブリックニューサンス法を用いようとすることは最初の試みではない。American Electric Power Co., Inc. v. Connecticut, 564 U.S. 410 (2011)訴訟において、コネチカットは化石燃料の燃焼によって温室効果ガスを排出することでコネチカットの公衆が彼らの土地、インフラと健康を享受する権利を妨げたとして複数の発電所に対して連邦コモンローに基づいたパブリックニューサンスの主張をした。Justice Ginsburgによって立案された全会一致の判決によって、米国最高裁判所は連邦大気浄化法(CAA)とその結果であるEPA規制は直接的に発電所からの汚染物の排出を規制するものであり、したがってアメリカ合衆国議会と経営幹部が温室効果ガスの排出に関する問題の解決策であるとの考えを示した。(これは先例Massachusetts v. EPAでCAAのもと、裁判所が潜在的な汚染者であるとして判断したものであった。)したがって裁判所はCAAがGHGsの排出者らに対する連邦コモンローの主張を排除したとの裁定をしコネチカットの裁判を終わらせた。その次の年に第9巡回区控訴裁判所はAEPのNative Village of Kivalina v. ExxonMobil, 696 F.3d 849 (9th Cir. 2012)での判決を延期した。アラスカの村、キバリーナも彼らがGHGs排出者らだけでなく、エネルギー生産者と抽出者ら(つまり石油とガスの掘削業者)をもターゲットとしたこと以外はコネチカットと似たような訴訟を提起した。第9巡回区控訴裁判所はこの区別がとるに足らないものであると判断し、以下のように述べた。「連邦コモンローは国内排出源に対する請求に関するものだけ排除されるものではなく、エネルギー生産者らの地球温暖化と海水面上昇への寄与に対する請求に関しても排除がされる。」County of San Mateo v. Chevron Corp., 294 F. Supp. 3d 934, 937 (N.D. Cal. 2018) (キバリーナを要約)しかし新たな気候変動訴訟の波の中でパブリックニューサンス理論は、連邦法を基にした請求のみについて判断し、州法を基にした不法行為の請求が排除されるのか否かについての判断をしなかったAEP判決を回避しようと模索している。 そのため原告らは作戦を変更し、かわりに州コモンローの請求を申し立て、連邦コモンローを意図的に避けることで回復しようとしている。
手続き上の小競り合い
このような不法行為の理論を主張する判例はいまだ発展中である。今までのところ、事例の中には本案に裁定が下されるであろう時期に向かっているものもいくらかはあるものの、最も鮮烈な議論は手続き上の問題に集中している。
現時点での主な問題は、これらの訴訟が連邦裁判所と州裁判所のどちらに所属するものなのかという点についてのままである。州裁判所に提起される訴訟それぞれに対し、エネルギー被告らは原告らが実際に主張しているのはAEPのもと越境汚染にもっぱら適用される連邦コモンローの違反であるとして、訴訟を連邦裁判所へと移管してきた。
移管の主な根拠は 連邦問題管轄に適用される十分に陳述された訴状の法理の必然的帰結であり、それは狡猾プリーディング法理(the artful-pleading doctrine)である。この法理では原告は必要な連邦問題を申し立ての中で主張することを怠ることによって移送を無効化することはできないと定められている。the artful-pleading doctrineは判事らに、連邦法の問題を現に訴状に挙げる州法の請求を見極めることを可能にさせる。そしてこのことは重要である、なぜなら最高裁判所は既に大気浄化法が連邦コモンローの不法行為の請求を排除することを決定しているからである。しかし、地方裁判所は今のところ、原告の自治体が確かに連邦法の請求をしているのかどうかについて意見が割れている。
2つの地方裁判所はこれらの不法行為の申し立てが実際、州ではなく、連邦の請求を理由づける事実を主張していると判断している。オークランドではオークランド市とサンフランシスコ市がカリフォルニア州裁判所でBPとその他の主要な石油会社を訴えた。彼らはカリフォルニア州法の下、海水面の上昇とその他地球温暖化の結果生じた害を緩和するための防波堤を作るため、公正な削減ファンドを求めるパブリックニューサンスの単一クレームを主張した。被告らが連邦裁判所に移管された後に、地方裁判所は原告らの申し立てがたとえあるとしても「連邦コモンローの適用を受ける」ものであると判断し差し戻し請求を却下した。ニューヨーク市でS.D.N.Yはそののちすぐに同じような判決が下された。
しかし、原告らは他の同様の差し戻し請求訴訟に他の管轄では勝利している。County of San Mateo, Rhode Island, Boulder v. Suncor Energy, 405 F. Supp. 3d 947 (D. Colo. 2019)とMayor & City Council of Baltimore v. BP p.l.c., 388 F. Supp. 3d 538 (D. Md. 2019)バルチモアでは、裁判所はパブリックニューサンスの主張には必ず連邦コモンローが適用されたとする被告の主張を受け入れず、バルチモアの請求を差し戻した。かわりに裁判所は訴えの州法への依存を考慮し、「通常の先取権が連邦問題管轄を生じさせるものではないとの強固に確立された原則と対立する」との主張をしたオークランドの裁判所のアプローチを完全に却下した。バルチモアの第4巡回区控訴裁判所がこの問題にはじめに取り組んだ高等裁判所であって、最近、連邦職員の移管は制定法のもと是認されたものではなかったと範囲の狭まい見解で判断しメリーランド地区の差し戻し命令を肯定した。952 F.3d 452 (4th Cir. 2020). 最高裁判所はこの訴訟で提示されている、きちんと差し戻された根拠が控訴された後に連邦控訴裁判所によってその根拠についての十分な再審理がなされているか否かに関する重要な問題を潜在的に解決しうる。
連邦裁判所に申し立てが排他的に所属するのか否かをめぐる争いは激しく、そのことにはよい理由がある。それは、原告らが他の様々な州法のもとでは存在しないかもしれない重大な障害に、連邦法のもとでは悩まされるからだ。例えばオークランドでは裁判所はカリフォルニアに定住しない被告らに対して提起された申し立てに関して、原告らの申し立てが被告らのフォーラム関連の活動から生じた、もしくはそれに関連付けられるものではないとの理由から人的裁判管轄権が欠如しているとしてその申し立てを却下した。そして裁判所は以下のように結論付けた。「地球温暖化が被告らのカリフォルニア関連の活動がなかったとしても継続したことは明らかである。」さらにオークランドで裁判所は国際因果関係に関与する申し立て、というのも「その悪影響が米国国内に及ぶのだとしても、ニューサンスに寄与する行為や排出が米国外で生じるもの」に関しては統治行為論によって裁判所から管轄権が奪われると判断した。裁判所は原告らの主張が 「そのような国際的な問題に関しては連邦裁判所が立法府と行政部 に従う必要性があるために排除された」ものであると判断したために原告らの申し立てを却下した。
州裁判所に差し戻された4つの訴訟に関しては、次の大きな問題(上訴の結果を待っている)は原告の州法請求がCAAによって移管されるものであるのか否かについてである。この問題は連邦コモンロー請求は移管されるともっぱら判断した最高裁判所のAEPでの判決によって明示的に未解決のままにされている。問題はCAAとCWAの但し書きの解釈とこれらの規定が州の気候変動への請求を裏付ける事実を保護するのか否かという点になる。その答えはこれからでるものであるが、裁判所が訴訟らを移管すると判断するようならば、これはコモンロー気候変動訴訟の終わりを告げることになるかもしれない。
州裁判所への差し戻しを獲得した被告らのうちそのいくらかは訴訟手続きが州裁判所にて既に始まっている。例えば、被告らはすでに棄却の申し立てをバルチモア市に提出している。それでも被告らはいまだ差し戻し命令を覆そうと奮闘している。被告らはバルチモア市の米国最高裁判所に移送命令を求め、私たちはオークランドとサンマテオでの第9巡回区控訴裁判所の判決、ニューヨーク市の第2巡回区控訴裁判所の判決、ロードアイランド市の第1巡回区控訴裁判所の判決とボルダーでの第十回区控訴裁判所の判決を待っている。意見が割れる可能性を考えると、この問題は最終的に高等裁判所までたどり着くかもしれない。
Ⅱ 商法に基づいた気候変動の申し立て
もう別の種類の気候変動訴訟は州と株主らがエネルギー会社に対して証券詐欺や不正取引慣行で請求を追求するものである。主な例はニューヨーク州によってExxonMobilに対しニューヨーク州裁判所に提起された訴訟で、詐欺と虚偽表示を禁ずる州証券法であるマーティン法への違反を主張したものである。New York v. ExxonMobil, 65 Misc. 3d 1233(A) (N.Y. Sup. Ct. 2019)ニューヨークは2013年12月から2016年にかけて、地球規模での気候変動に関するリスクをどのように内部で設定していたのかについて「ExxonMobilは一般大衆を誤解させやすかった様々な重大な文書上、口頭上の虚偽表示と省略を行った」と主張した。州の理論の核はExxonMobilが投資家らと公衆に資産と投資機会の価格を設定する際に、気候変動にかかわるリスクを説明するために実務で実際に使用するよりもより高いドル額を使用すると伝えたとされているということだ。(したがってExxonの財務計画が気候変動の影響に対してより弾力性があるように思わせた)
州の申し立てに対して、州裁判所は裁判後、裁判官の裁定からExxonMobilはマーティン法に違反していなかったとの判断を下した。ニューヨークは公表したものや投資家への掲示にて行ったとされた虚偽表示が正当な株主にとって重大なものであったということを示さなかった。2019年10月にマサチューセッツはその州内の裁判所にExxonMobilに対して同様の疑惑活動で訴訟を提起した。Massachusetts v. Exxon Mobil Corporation, No. 19-3333 (Sup. Ct. Mass. Oct. 24, 2019) 特にマサチューセッツの請求はすべてその消費者保護法(それはどの州も何らかの形でもっている)の範囲に含まれるものである。マサチューセッツはさらにExxonMobilが証券に関連しない偽装の消費者広告に従事したと主張した。州はExxonMobilが会社を「グリーンウォッシング」をしようと虚偽の広告に従事したと主張した。(ExxonMobilが気候変動を解決しようとする先導者であったと不当に示唆することによって)
株主代表訴訟と集団訴訟もまた気候変動訴訟が進化し続ける中で目が離せない訴訟らである。最初の訴訟の波はテキサス連邦裁判所でExxonMobilの法人取締役と役員に対して始められた株主代表訴訟である。役員と取締役に引当金の価値と気候変動による影響について株主を誤解させたことへの責任を負わせることを求めて、善管注意義務、不当利得と1934年証券取引所法への違反という理論に基づいて複数の訴訟が提起されている。例えばこちらを参照。 Complaint, Von Colditz v. Woods, No. 19-cv-01067 (N.D. Tex. May 2, 2019)これらの訴訟はまだ初期の段階にある。例えばVon Colditzでは、裁判所は原告らの訴訟要求に対し、被告が取締役会の考慮を待って保留中であり続けるためにした申し立てについて判断を下さなければならない状況だ。
Ⅲ 安定した環境と公の信頼への憲法上の権利
最後の気候変動訴訟の例は州と連邦政府に対して安定した気候理論による「基本的権利」を求める憲法上の請求である。
特に注目すべきなのがJuliana v. United States訴訟である。原告らである数名の子供たちは米国政府が化石燃料の抽出を認可、助成し、その燃焼が有害な気候変動につながり、原告らに身体的な害を及ぼし、趣味への興味を損なわせ、健康状態を悪化させ、財産を害する影響を与えたと主張した。その際彼らは政府が、(ⅰ)公衆の信頼を裏切った(ⅱ)憲法で保障された基本的権利である綺麗な環境と安定した気候を侵害した(ⅲ)そして子供の平等な保護を受ける権利を侵したと主張した。原告らは政府に「化石燃料排出を段階的に廃止し、過剰な大気中の【CO2】を削減」する計画を導入するよう命令する差し止め命令を求めている。
第9巡回区控訴裁判所の陪審員は原告の子供らには第三条の当事者適格が欠如していると判断した。947 F.3d 1159 (2020) 興味深いことに裁判所は公開見識の中で子供らが事実上の損害と因果関係を主張したことに言及したものの、オークランドやニューヨークでも見られたように原告らが権力分立と統治行為論に依拠して、その申し立てが第三条法廷によって救済のしようがあることを証明することができなかったと判断した。また、特に原告らに共和国の永続性への基本的権利があるとの見方が反対意見として主張された。反対意見はさらに第三条法廷は憲法によって保障されている基本的権利を補填するために権力分立の宣言を行うかもしれないと主張した。―ここではそれは壊滅的な気候変動を促進することによる「共和国の故意の分離」から自由である権利である。原告らは大法廷の審理を請求したが、それについてはまだ判断が下されていない。
気候変動訴訟はここからどこへ向かっていくのだろうか。重要な要素は、原告らの不法行為の申し立てがAEP判決により排除されているということを主張する被告らの上訴をアメリカ最高裁判所が受け入れようとするか否かということにありそうだ。(ということのようだ)もしも裁判所がそのような上訴を受け入れた場合、「パブリックニューサンス」気候変動訴訟の終わりを象徴することになるかもしれない。しかし、もしも裁判所がそうしなかった場合、被告らは様々異なる州法体制のもと複数管轄にわたる方法で本案にかかる訴訟を提起する手続きへと進むことになる。また原告らによる証券法や商業法の請求を主張する継続的な取り組み(私と政府の両方)があるであろうことを私たちは見越すことができる。これらの訴訟の結果はエネルギー業界だけでなく、その他のアメリカの産業、投資家らと政府にとって重要なものとなるであろう。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
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