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新型コロナウイルス関連訴訟が外国主権免除の限界を問う (20/12/25)
米国でのコロナウイルスパンデミックの蔓延に伴い、パンデミックがもたらした米国の個人とビジネスへの影響への補償を求め、中国政府に対する一連の訴訟が米国の裁判所にて提起されている。過去9か月間にミズーリ州とミシシッピ州によるものを含む少なくとも24もの訴訟が提起されている。それらの訴訟のうち8つは主に訴訟追行や主張が認められない等の慣例的な手続き上の理由で既に棄却されている。残る16の訴訟とその他将来起こるであろう訴訟は、中国がこれらの訴訟に関して通常、特定の例外が適用されない限り米国の裁判所の管轄権が否定されるという主権免除を、外国主権免除法(「FSIA」)の下、享受しているために、内在的な課題に直面する。さらにそのほとんどは暫定的なクラスアクションとして提訴されており、クラスとしての承認いう段階を通過するということは考えにくい。
とはいえ、いくらかの訴訟は主権免除に関する新たな理論を立てており、それらのいくつか、もしくはその一部が免除の特権を切り抜けて継続する可能性は否定はできない。さらに連邦議会のメンバーによって中国から主権免除をはく奪しようとして発案された複数の法案を踏まえると、これらもしくは似たような民事訴訟がいつの日か継続することができる可能性がある。
万が一、中国政府に対して判決(デフォルトの判決を含むこともありうる)が下されるということが起こった場合には、一般の原告らが中国政府だけでなく、米国やその他管轄区にある中国国有企業の資産にも執行をしようとするかもしれない。
Ⅰ 訴訟と立法の試みの概観
少なくとも24のコロナウイルスによる損害に関する訴訟が中国に対して提起されている。ミズーリ州とミシシッピ州によって提起された訴訟とその他複数の個別の囚人による訴訟を除いて、訴訟のほとんどはパンデミックによって損害を被った個人や法人からなる極めて大規模なグループを代表することを目的とした暫定的クラスアクションであった。
主権免除の被告に対して訴訟を提起することの法的困難さを考慮し、上院と下院両方の共和党の立法者らと少々の民主党の立法者らは、中国からそのパンデミックの勃発に関連する行動へのFSIAの下の主権免除をはく奪しようと法案を提出した。そのような法案の行方と、それらがCOVID-19訴訟にどのような影響を与えるのかについては、もしも影響があるのだとしても非常に不確実であるが、米国連邦議会が特定の国に対象を定め、主権免除の原則を訴訟を通して制限しようとしたのはこれが初めてではない。-連邦議会は以前にFSIAを9.11の犠牲者がサウジアラビアを提訴することができるように改正したことがある。
Ⅱ 送達
中国に対するCOVID-19訴訟の原告はいずれも送達を成功しておらず、訴訟を進めるためのハードルとなっている。複数の訴訟で送達文書は北京にあるハーグ送達条約の取扱所へと配送された。しかし、パンデミックの真っただ中にその事務所が閉鎖されていたこと、そして、その結果起こった送達要請の残務によって著しい遅れが生じていることが関係するサービスベンダーらによって報告されている。参照Alters v. People’s Republic of China, No. 1:20-CV-21108 (S.D. Fla., filed Mar. 12, 2020), Dkt. No. 123 at 1 2; さらにこちらも参照Aharon v. Chinese Communist Party, No. 9:20-CV-80604 (S.D. Fla., filed Apr. 7, 2020), Dkt. No. 35 at 4 4.これらの送達文書のうち関係する被告に届けられたと報告のあったものは今のところひとつもない。
送達がどのよう方法で行われるかは重要な問題である。連邦民事訴訟規則によると、外国の国家、政治的小区域(例えば武漢市政府など)、またはエージェンシーやその機関(例えば武漢ウイルス研究所など)への送達はFSIAに従って行われなくてはならず、FSIAは同様に送達がすべての該当する国際条約にも準じて行われることを要求しており、そしてそれは中国と米国合衆国の場合には、民事または商事に関する裁判上及び裁判外の文書の外国における送達及び告知に関する条約、別名ハーグ送達条約として知られる条約が該当する。Zhang v. Baidu.com Inc., 932 F. Supp. 2d 561, 564-65 (S.D.N.Y. 2013)(外国の被告への規則の適用を説明し、ハーグ送達条約が中華人民共和国への送達を統制しているという考えを示して。)その条約の文言と条約に批准する際に中国が提出した留保条項と宣言の下、中国のあらゆる被告への唯一の適切な送達の方法は、必要な手続き書類を中国人民共和国司法部の訴訟扶助課(北京にある取り扱い所)あてに、当該の被告へと転送するために送付することである。
特筆すべきは、ハーグ送達条約が国に、もしも送達の要請への応諾が自国の主権やセキュリティを侵害することになると判断するのであればその要請を拒否することを認めていることである。米国の裁判所は条約の下で、送達の遂行を拒否する外国の決定を審査する権限はなく、そのような問題は外交的なルートで対処されるべきであるとしている。参照 Baidu. com Inc., 932 F. Supp. 2d, 566(言論の自由の侵害の申し立てに関連して中国政府とBaiduへの送達要求を扱った事件で、所轄の裁判所は中国司法省によって発行された拒絶証明書を尊重し、その発行の妥当性を審査する権限がないと判断した)また、Davoyan v. Republic of Turkey, No. CV 10-05636 DMG SSX, 2011 WL 1789983, at *2 (C.D. Cal. May 5, 2011)も参照のこと。
しかし、ハーグ送達条約15条の下では、適切な送達が試みられ、追跡をしようとしたのにも関わらず、6か月後に何の送達の証拠も得られなかった場合には、裁判所は訴訟の本案の裁定によって訴訟を継続することができるとされている。FSIAの下では、適用される国際条約に概説された方法による送達が不可能な場合には、米国の裁判所は他の送達方法を命じることができ、実際には公示、米国に基盤を置く被告の代理人へと配達、そして電子メールすらもが送達の方法に含まれてきた。言い換えると、中国が主権やセキュリティを理由におそらく異議を唱えることを踏まえると原告らがハーグ送達条約の下、送達を完了できる可能性は低いものの、原告らが条約上の手続きをすべて使い果たしたうえで、米国の裁判所に彼らが被告への送達を別の方法で行うことを許可するよう説得する可能性はあるという。
Ⅲ 主権免除
送達が実現する場合、もしくは実際に送達しようとする試みている際に、COVID-19訴訟は中国がこれらの訴訟に出頭するかどうかにかかわらず、FSIA の下、概説されている管轄権の基準点を明らかにしなくてはならない。裁判所には「どの当事者からも抗議がなかったとしても、事物管轄が存在するのか否かについて判断する独立の義務がある。」Arbaugh v. Y & H Corp., 546 U.S. 500, 514 (2006).
「[FSIA]の下、外国国家は推定的に米国の裁判所の管轄権から免除されており、特定の例外が適用されない限り、連邦裁判所には外国に対するクレームへの事物管轄権を欠く。」Saudi Arabia v. Nelson, 507 U.S. 349, 355 (1993) (問題になっている行動がFSIAの下、「商業活動に基づいた」ものに該当しなかったためにサウジアラビアが主権免除によって保護されていたと判断。)参照28 U.S.C. § 1604.
FSIAは一連の例外を28 U.S.C. §§ 1605, 1605A, 1605B and 1607で明記している。これらのうち、コロナウイルス関連の訴訟では商業活動、不法行為と国家支援のテロリズムの例外を主張している。訴状で主張された例外が現行の法において認められる可能性は低いが、しかしまだ、連邦議会がコロナウイルス関連の訴訟のカーブアウトを作成するためにFSIAを改正する可能性が残っている。
第一に、「商業活動」の例外は「米国で行われた、もしくは米国への直接的な影響を及ぼす外国主権者の商業活動に基づく行動」に適用される。Verlinden B.V., 461 U.S. at 488-89; § 1605(a)(2). さらに「影響は被告の…の行動の後の直接の結果」として続くのであればそれは「直接的」なものだ。」Id., at 618.コロナウイルス関連の訴訟のうちのほとんどが、この例外の根拠となるとされる活動を明確には主張していない。
Complaint 18, Alters v. People’s Republic of China, No. 20 Civ. 21108 (S.D. Fla., filed Mar. 13, 6 2020)参照. このような行動を主張する訴訟ですら、主張されている行動は商業的でもなければ、米国でのコロナウイルスの発生を直接的に引き起こしたものでもないように思われる。参照Complaint 40, Missouri v. People’s Republic of China, No. 20 Civ. 99 (E.D. Mo., filed Apr. 21, 2020)(中国の医療制度の運営、ウイルスに関する商業調査、メディアプラットフォームの運営と医療機器の輸出への制限)
さらに、いくらかの申し立てられている行動が個人用防護具の秘蔵、またその他消費者保護や反トラスト法への違反に関係してはいるものの、参照 Complaint 118-127, State of Mississippi v. People’s Republic of China, No. 1:20-CV-168 (S.D. Miss., filed May 12, 2020)―なんらかの商業活動(行為)を見つけようとする創造的な試み―政府の被告人らが関わっていた、もしくはすべての私営の団体にはなく政府の被告人らのみが主権国という実体として保持する権力を行使するということ以外に何かをしたということを示す申し立てられた証拠はない。
第二に、FSIAには「非商業的な不法行為」の例外が含まれており、それは原告らに「外国に対して米国合衆国内で発生し、不法行為やその外国の不作為によって…な人身傷害や死亡、資産への損害や損失」に対して金銭的損害を求めることを許す。28 U.S.C. § 1605(a)(5). しかし、この例外が適用されるには不法行為全体(不法行為と損害の両方)が米国国内で発生していなければならない。参照 Argentine Republic v. Amerada Hess Shipping Corp., 488 U.S. 428, 439-41 (1989)(非商業的な不法行為の例外は米国国内に影響を及ぼす可能性があっても、米国の領土外で行われた不法行為には適用されない。)Doe v. Fed. Democratic Republic of Ethiopia, 851 F.3d 7, 8 (D.C. Cir. 2017)(「非商業的な不法行為の例外は完全に米国合衆国内で起こる不法行為に関してその主権免除の特権を廃止する。」)ここでは、ウイルスの漏洩などの、参照. Complaint 52, State of Missouri v. People’s Republic of China, No. 20 Civ. 99 (E.D. Mo., filed Apr. 21, 2020) 申し立てられた不法行為らは明らかに米国国外での行動であり、したがって非商業的な不法行為の例外は適用されない。
3つ目にさらにいくらかの訴訟は、米国で起こる国際的テロリズムへの外国の関与が主張されている訴訟においてその外国から免除の特権を奪うという、テロ支援者制裁法(「JASTA」)によってによって創設された国際テロ例外にも依拠している。28 U.S.C. § 1605B 参照Complaint 4, Buzz Photos v. People’s Republic of China, No. 20 Civ. 656 (N.D. Tex., filed Mar. 17, 2020).この例外を満たすには、原告らは少なくとも「米国合衆国国内での国際的なテロリズム活動」の存在を他の要素とともに立証しなくてはならない。28 U.S.C. § 1605B; In re Terrorist Attacks on Sept. 11, 2001, 298 F. Supp. 3d 631, 642 (S.D.N.Y. 2018). しかし、パンデミックが中国の生物兵器施設からの漏洩による結果だという訴訟の必要最低限な主張は、「国際的テロリズム行為」にも米国国内で発生した行為としても的確ではないだろう。
上記にも関わらず、いずれ原告らにFSIAの免除規定を回避できる可能性はいくらか残っている。第一に、ミズーリ州とミシシッピ州と、また他の原告らも同様に、参照Aharon v. Chinese Communist Party, No. 9:20-CV-80604 (S.D. Fla., filed Apr. 7, 2020)、Ruocchio v. People’s Republic of China, No. 1:20-CV-7053 (S.D.N.Y., filed Aug. 31, 2020)、一つの可能性として、中国共産党を共同被告人として列挙し、非国家的な実体としての中国共産党は主権免除の範囲内には入らないと主張しようとすることである。
第二の可能性は、連邦議会が、中国政府に対するコロナウイルス関連の訴訟の継続を可能にする例外を加えるためにFSIAを改正するということである。実際、複数の共和党の立法者と何名かの民主党の立法者らは、この目的のために法案を提出している。このような10の法案が4月初旬から連邦議会へと提出されており、それらはそれぞれ民間の原告らが中国政府をCOVID-19パンデミックのために提訴できるようにするため、免除への特定の例外をカーブアウトしようと提出されたものだ。しかし、両党の支持を受け成立するに至ってはいない。最も進んだ法案は、COVID犠牲者のための市民正義法(Civil Justice for Victims of COVID Act )という、上院議員のマーサ・マクサリー(Martha McSally)が発起人となりその他7人の共和党の上院議員らとともに 2020年7月20日に上院に提出したものである。この法案は上院司法委員会で提起され、その後、2020年7月30日の上院本議会での審議に向けて報告されたが、それ以降の進展はない。しかし、これらの法案のうち一つ、もしくは将来提出されるであろうの同様の法案のいずれかの通過がまったく不可能なことではない。例えば、連邦議会はJASTAを2016年9月に「一つには9月11日の攻撃に対するサウジアラビアへの訴訟を許すために」制定した。 In re Terrorist Attacks on Sept. 11, 2001, 298 F. Supp. 3d at 642; さらに参照162 Cong. Rec. S6166–03 (daily ed. Sept. 28, 2016) (Sen. Richard Blumenthalの発言) (「もしもサウジアラビア政府が9/11に全くの関与がなかったのだとしたら、彼らは恐れることは何もない。しかし、もし彼らに過失があるのであれば、その責任を負うべきである。それが【JASTA】の基本原則である。」)JASTAの制定は反対とオバマ政権からの最初の拒否権の行使がされたにも関わらず生じた。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
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