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中国、外国による法律や大統領令の域外適用に対抗するブロッキング規則を公布 (21/01/22)
2021年1月9日、中国商務省(以下、「MOFCOM」)は、外国による規制およびその他の手段による不当な域外適用への対抗措置に関する規則(the Rules on Counteracting Unjustified Extra-territorial Application of Foreign Legislation and Other Measures:以下、「対抗規則」)[1]を公布し、即日施行しました。詳細は後段で述べますが、様々な制裁や輸出規制プログラムの対象となっている中国企業と取引きしている、または過去に取引きしていた多国籍企業は、この規則により大きな影響を受けるとみられます。特に多国籍企業の中国子会社は注意が必要で、中国以外の国が行う制裁や輸出規制を無視することを中国当局から義務付けられており、これに従わない場合は中国の行政処分を受ける可能性があります。さらに、制裁や輸出規制を理由として大手中国企業との取引を停止した多国籍企業は、中国で訴訟を起こされるリスクもあります。
背景
この対抗規則は、EUのブロッキング規則などと体裁は同様で、「中国の企業や個人に対し、第三国(地域)またはその企業や個人との間で行う通常の経済活動、貿易、その他の活動を禁止または制限する(以降、「域外措置」)」効力を持つ外国の法律や大統領令等の域外適用を中国政府が審査できるよう、その権限を政府に与えることを目的としています。
報道によると、米国が中国の企業と個人に対して制裁や輸出規制措置を強化していること、さらに、米国の「裁判所および執行機関」がその管轄範囲を超えて干渉してきていることに対して、中国は今後も複数の対抗措置を講じていく用意があり、この対抗規則もその1つだとされています。例を挙げると、中国は近年、(1)独自の「中国版エンティティリスト(Unreliable Entity List)」制度を導入しており、これにより、リストに掲載された信頼性を欠く企業や個人が中国と取引を行うことを制限、場合によっては完全に禁止することができますし、また、(2)中国としては初の輸出管理法も制定しており、この法律にはある面で米国の輸出規制制度と似通った規制メカニズムを取り入れています。
担当機関
中国は、中央政府の複数の部局から代表者を集め、対抗規則を執行する政府の責任主体としてMOFCOMが指揮する、「運営体制(Working Mechanism)」を新たに設置するとしています。今のところ、国家発展改革委員会(NDRC:古くから経済政策に幅広い権限を持つ経済関連の規制当局で、特に独占禁止法案件に強い権限を持つ)が加わることを除き、この「運営体制」にどの部局が入るのかは公表されていません。
報告義務と禁止命令
「域外措置」を受けることになった中国の企業(外国企業の中国子会社含む)または個人は、当該制約について30日以内にMOFCOMに報告することが義務付けられ、報告を怠った場合は、MOFCOMから行政処分を科される可能性があります。このような報告は、要請があった場合は秘密事項として保持するものとされています。
その後、MOFCOMが主導する「運営体制」により、報告された域外措置が正当なものであるか、以下の要素を総合的に勘案して審査されます。
• 国際法の違反または国際関係における基本原則への違反があったか
• 中国の国家主権、安全保障、発展の利害関係に影響を及ぼすものか
• 中国の企業または個人の正当な権利と利益に影響を及ぼすものか
• その他関連する要素
「運営体制」により当該「域外措置」が正当ではないと判断された場合は、「運営体制」により「禁止命令(prohibition order)」が発令される可能性があります。これはつまり、この原因となった「域外措置」が、基本的に「容認、履行、遵守」できないものだと宣言するということです。この「禁止命令」は、当該「域外措置」を報告した者のみならず、同「域外措置」の対象となるすべての中国の企業(外国企業の中国子会社含む)と個人が従わなければならず、従わない場合は、MOFCOMから行政処分が科されることになります(行政処分の具体的な内容は公表されていません)。
「運営体制」には、「禁止命令」の停止または撤回を随時行うことができる権利があります。中国の企業(外国企業の中国子会社含む)と個人は、「禁止命令」遵守の免除をMOFCOMに申請することもできます。言い換えれば、「域外措置」(たとえば米国の制裁など)に対して「禁止命令」が適用されることになった場合、外国の制裁に違反して処罰を受けることを回避する目的で外国の制裁に従うためには、中国当局から「禁止命令」遵守の免除を承認してもらう必要があるということです。
「禁止命令」の第1弾はすでに発動しているかと問われたMOFCOMの担当者は、明確な回答をしませんでした。しかし、すでに中国当局が検討を始めている「域外措置」事案がある可能性は高く、近いうちに「禁止命令」が次々と発令されることになるかもしれません。
救済措置
「運営体制」が「禁止命令」を発動した場合、「域外措置」の対象となる中国の企業または個人に対して、2種類の救済措置があります。
1つ目は、中国当局の「禁止命令」を受けて「域外措置」に従わなかったことで中国の企業または個人が重大な損失を被った場合は、個々の状況に応じて中国政府が「必要な支援」を行うことを検討する、というものです。この支援の具体的な内容は明らかになっていません。「域外措置」の適用により影響を受けた企業や個人の各々の事情に合わせて、様々な形態の救済措置が政府の支援として講じられる可能性はあります。
救済措置の2つ目がさらに重要なのですが、損害を受けた中国の企業または個人は、中国の裁判所で以下に挙げる当事者の全てに対して損害賠償を求める訴訟を起こすこともできる、というものです。
• 対抗規則に定めるところによる免除の適用を受けずに、「禁止命令」の対象となっている「域外措置」に従う者
•「禁止命令」の対象となっている「域外措置」に基づき下された判決や命令により、利益を得る者
今のところ、対抗規則にはこの訴訟がどのように行われるか、立証基準は何か、といった詳細は記載されていませんが、当社としては、おそらく実際の損害・損失と「域外措置」の因果関係を立証することが求められるだろうと考えています。損害を受けた中国の企業または個人がその損害を証明できるのであれば、外国の制裁措置に従って活動する外国企業側は、この条項に基づき、中国の法廷で責任を問われる可能性があります。たとえば、中国の企業または個人が米国にある資産を、米国の制裁法に従って凍結した米国の金融機関を訴えるといったケースが想定されます。
対抗措置
対抗規則ではさらに、不当な「域外措置」が講じられた場合、その状況に応じて、中国政府が必要な「対抗措置」を講じる権利を有するとしています。この「対抗措置」がいかなるものかは対抗規則に明記されていませんが、独自の中国版1)エンティティリストや輸出管理法など、中国がすでに適用しているものがその一例として参考になると考えられます。
以下の図は、対抗規則がどのように運用されるかを表したフローチャートです。
1) [1]MOFCOMが公表した対抗規則の英語版は、参照目的のみとしてこちらで公開されています。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
chietogawa@quinnemanuel.com