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連邦巡回控訴裁判所、第1404条移送の分析へのさらなるガイダンスを提供 (21/02/24)
米国連邦巡回控訴裁判所は最近、特許訴訟における28 U.S.C. § 1404(a)の裁判地移送の申し立てへの適切な分析に関する重要な新たなガイダンスを提供した。具体的には、In re Apple Inc., 979 F.3d 1332 (Fed. Cir. 2020)訴訟で、意見の割れた連邦巡回控訴裁判所の判事らはAppleの職務執行令状の請求を認め、地方裁判所に特許侵害訴訟をテキサス西部地区(WDTX)からカリフォルニア北部地区(NDCA)へと移送するよう命令した。この判断は第1404条分析の多くの側面を明かにし、特許訴訟へのより厳格な裁判地フレームワーク適用の傾向という最近のトレンドを継続しているように思われる。
特許侵害訴訟(No. 6:19- cv-00532)はAppleに対して2019年9月にWDTX のWaco地区でAlan Albright判事の下にUniloc LLC が提訴したものである。2019年11月にAppleはNDCAが明らかに訴訟のフォーラムとして利便性があると主張し移送へと移った。地方裁判所はAppleの申し立てに対して審問を2020年5月12日に行い、その際にその申し立てを却下、文書命令がその後できるだけ早くに発行されるとした。地方裁判所はその後、クレーム解釈審問を開き、クレーム解釈命令を発した。6月15日にAppleは職務執行令状の請願を提出し、地方裁判所は文書命令を下し、1週間後の6月22日に移送を却下した。
連邦巡回控訴裁判所の判断の最初の重要な側面は、地方裁判所の移送の申し立てに対する命令発信の遅れへの明らかな批判である。地方裁判所の移送却下の命令が請願書の提出の後にしか発せられなかったために、Unilocは請願書が地方裁判所の命令の根拠の多くを検討することができず、Appleがその弁駁書で初めて取り上げられた議論の検討を行わなかったのだと主張した。連邦巡回控訴裁判所は異を唱え、Appleが地方裁判所の文書命令発行の前に請願を提出したことを訴訟の「急速進行」を理由に正当化した。In re Apple, 979 F.3d at 1337-38. その判断をするにあたり、連邦巡回控訴裁判所は地方裁判所を移送申し立てへの文書命令がいまだ未解決であったにも関わらず、クレーム解釈問題を検討し、解決したことを含め「かなりの点で本案の先へと先走った」として非難した。Id. at 1338. とりわけ、連邦巡回控訴裁判所は「当事者が移送の申し立てを一度提出したら、その申し立ての処理が必ず最優先されるべきである」ことを明白にした。Id. at 1337. 今後この裁定は地方裁判所らによる特許訴訟における裁判地移送の申し立ての敏速な判断への改まった重視を助長することになるかもしれない。
連邦巡回裁判所の判断はその本案に関してもまた注目すべきものである。Moore判事が彼女自身の反対意見(dissent)で指摘したように、地方裁判所が直面した問題が危ういものであったことを示唆する理由は多くある。それら理由には、AppleがWDTXに何千人もの人を雇用し大きなキャンパスを持ち続けたこと、AppleがWDTXで咎められていた製品を製作したこと、そして第三者と当事者証人がどちらもWDTXに居所を定めていたことなどが含まれる。Id. at 1347 (反対意見(dissenting opinion )). それにもかかわらず、大多数の意見は地方裁判所は移送の却下に関して明らかにその裁量を濫用し、特別な救済手段である職務執行令状を認めたとした。Id. at 1347. その過程で、裁判所は第1404条移送分析を司る公的及び私的ファクターの適用に関する重要な新たなガイダンスを提供した。
“Relative Ease of Access to Sources of Proof”(「証拠のソースへのアクセスの比較的な容易性」)-
まず、連邦巡回控訴裁判所は地方裁判所がAppleのNDCAでのリソースをWDTX、もしくはその近くでのリソースと「意味ある形で比較する」ことができなかったとした。In re Apple, 979 F.3d at 1340. 具体的には、裁判所は地方裁判所がWDTXでの証拠のソースを「過度に強調」した点で誤ったかもしれないとした。 Id. at 1340-41. 裁判所はいくらかの適切な文書がWDTXに位置していたことを疑わなかったものの、裁判所はこれはAppleがNDCAのヘッドクォーターに保管していた「豊富な重要な情報」に勝るには十分ではなかったかもしれないことを示した。Id. at 1340. 裁判所は先例の判断を繰り返し「特許侵害訴訟では適切な証拠のほとんどは通常侵害者としてとがめられている人からくるものである」とした。Id. at 1340、In re Genentech, Inc., 566 F.3d 1338, 1345 (Fed. Cir. 2009)を引用して。このような所見を述べているにも関わらず、裁判所は地方裁判所の追加のファクターが移送を認めるのに十分なものであるとし、そのためにこのファクターが「中立的」であるとした判断を妨げることをしなかった。In re Apple, 979 F.3d at 1340-41.
“Cost of Attendance for Willing Witnesses”(「自発的な証人らの参加コスト」)-
次に連邦巡回控訴裁判所は地方裁判所のニューヨークの第三者証人らに移送が不利になった結論を取り上げた。第5巡回裁判所法の下「証人らの不便さのファクターは移動する追加の距離に直接関係して増加する。」Id. at 1341, In re Volkswagen of Am., Inc., 545 F.3d 304, 310 (5th Cir. 2008) (en banc)を引用して。しかし、連邦巡回控訴裁判所は地方裁判所がこの原理の「厳密」すぎる適用をした点において誤りであるとした。In re Apple, 979 F.3d at 1342. 厳密にいえばNDCAがニューヨークの証人らからはWDTXよりも遠かったのだが、連邦巡回控訴裁判所は「どちらの場合でもおそらくこれらの個人は長期間家を離れる必要があり、移動、宿泊と関連費用が発生する」と述べた。Id. したがって地方裁判所はNDCAでの当事者証人の存在により大きな重きを置き、明らかに移送に有利になるようにこのファクターを解釈するべきであったのである。Id.
“All Other Practical Problems That Make Trial Easy, Expeditious, and Inexpensive”(「その他すべての裁判を容易、迅速そして安価にする現実的な問題」)-
連邦巡回控訴裁判所はまた、地方裁判所の「その他の現実的な問題」ファクターの分析にいくつかの問題を発見した。まず、地方裁判所は訴訟の解決のために「重要なステップ」が踏まれたと判断したものの、連邦巡回控訴裁判所はこれらのステップを、「地方裁判所の当事者の移送の申し立てに訴訟の本案を過度に優先させる判断が、裁判地移送分析においてその当事者に不利に働くべきではない」として考慮に入れなかった。Id. at 1343. 裁判所は地方裁判所のNDCAにはWDTXよりも多くのペンディング中の訴訟が存在したという判断をも否定した。このファクターの下それぞれの裁判地での非常に多くの訴訟の比較さえもがある程度きちんと検討されており、id. at 1343 n.4、裁判所は特にそれぞれの裁判地では歴史的に民事訴訟において裁判までの間にそれぞれ同等の期間があり、実はNDCAは特許訴訟における裁判までの平均的な期間が短かったということを考慮すると、これが裁判までの期間という問題と非常に「関連は希薄である」とした。Id. at 1343-44. 最後に、裁判所は地方裁判所がNDCAでの少なくともいくらかの「重複している問題」を抱えるペンディング中の訴訟に少しも重点を置くことをしなかった点で誤ったとした。Id. at 1344. したがって、連邦巡回控訴裁判所はこのファクターが少なくともほんのわずかに移送に有利なものであるとした。Id.
“Administrative Difficulties Flowing from Court Congestion”(「裁判所混雑により生じている管理上の困難」)-
裁判所の混雑に関して、連邦巡回控訴裁判所は地方裁判所のその強引な訴訟のスケジューリング命令への依拠を否定した。連邦巡回控訴裁判所によると、「地方裁判所は強引な裁判の日程をただ設定するだけで、そのあとにそのことのみを根拠にし、歴史的にそのような強引なペースで訴訟を解決しない他のフォーラムがより混雑していると裁判地移送の目的のために結論付けることはできない。」 Id. at 1344. したがって地方裁判所によるこのファクターが移送に有利であるとした判断は誤っていた。
“The Local Interest in Having Localized Interests Decided at Home”(「ローカライズされた利害をホームで判断されることへのローカルの関心」)-
最後に、連邦巡回控訴裁判所は地方裁判所がAppleの「その訴訟につながりがないフォーラムとの一般的接触」に過度の重点を置いたと判断した。Id. at 1345. 連邦巡回控訴裁判所では、このファクターは適切に「はっきりと示されたそれぞれのフォーラムへの当事者の重要なつながりだけではなく、むしろ「特定の裁判地と訴訟を生じさせた事象との間の重要なつながり」を顧慮する。」Id., In re Acer Am. Corp., 626 F.3d 1252, 1256 (Fed. Cir. 2010)を引用。NDCAと訴訟を生じさせた特定の事象との間のつながりに注目し、(例えばNDCAでの原告の存在、咎められた製品がNDCAでデザイン、開発、テストされたという事実など)連邦巡回控訴裁判所はこのファクターが移送に有利に働くべきであったとした。In re Apple, 979 F.3d at 1345.
In re Apple訴訟はそれが提供する第1404条移送ファクターへの新たなガイダンスだけでなく、地方裁判所の移送を却下する命令への施された綿密な精査という点でも注目すべきものである。今後、この判断は特許訴訟での裁判地の綿密な精査の増加のきっかけとなるかもしれず、被告らに彼らの主たる事業所の裁判地へと移送する機会を増やすかもしれない。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
chietogawa@quinnemanuel.com