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人工知能の最新情報 (21/05/26)
6Gテクノロジーの可能性と危険性
6G技術は、人工知能を実現、ヘルスケアやデータ通信分野の変革、そして新たなプライバシー問題を生み出す、イノベーションの革命の先駆けとなる技術である。 6Gは、5Gの潜在的には100倍の伝送速度、ゼロに近いレイテンシ、1平方キロメートルあたり1,000万台までのデバイス接続密度を実現する。 これらの進歩により、ほぼすべてのデバイスが同時に接続できるネットワークが実現し、現在では不可能な技術が可能になるだろう。
6Gはまだ初期の段階にある。 政府や民間企業がこの技術への投資を始めたばかりで、2030年頃には商用利用が可能になると予測されている。 しかし、6Gの普及が予想され、これまでの状況を一変させる可能性があることを考えると、6Gについて今から学んでおくのが賢明であろう。
人工知能
人工知能(「AI」)は、世界経済の新たなフロンティアとなる可能性を秘めており、2030年には全世界で15.7兆ドルの経済効果があるとも言われている。 6Gには、私たちの現行法に影響を与える少なくとも2つの大きな発展の可能性がある。 広大な相互接続されたAIネットワークの構築と、AI発明者の重要性の高まりだ。 計算能力の増加とコンピュータサイエンスの革新は、AIのイノベーションを促進している。 2002年から2018年にかけて、AIの特許出願件数は100%以上増加した。 このペースは衰える気配がない。 各国はAI研究に資金を投入しており、NokiaやHuaweiなどの大手通信会社は、6G対応のAI技術への投資を始めている。
規制における空白
こうしたAIの革新は、現在の規制の枠組みでは対応できない形で、私たちの生活に影響を与えることになるだろう。 例えば、6G対応のAI技術は、自律走行車から医療用インプラント、位置情報センサーまで、デバイスを相互に接続する「スマート・アプリケーション・レイヤー」の構築を可能にし、これらのデバイスはすべてリアルタイムで相互に通信するだろう。 このネットワークは、これらのデバイスからデータを収集・分析する技術の集合体である「インテリジェント・センシング・レイヤー」によって支えられる。 生活のあらゆる部分が接続される可能性がある。 それに伴い、あらゆるデータが収集されるうるのである。
世間の反応はさまざまだと考える。 便利さや相乗効果を歓迎する人もいれば、技術的なパノプティコンの確立を恐れる人もいるだろう。 世界中での顔認証をめぐる議論を考えてみよう。 サンフランシスコは、市民の私生活への侵入を恐れて、警察やその他の機関による顔認識技術の使用を禁止している。 その他の場所では、ロンドンから北京まで顔認証は一般的であり、当局は犯罪対策としてのその能力を高く評価している。 このような議論は今後もますます高まると考える。
米国の規制当局はAIの進歩に追いついていない。 AIの規制は 「初期段階 」にある。 連邦レベルではほとんど何も発生していないのである。 2019年、ホワイトハウスは「アメリカのAIイニシアチブ」を創設する大統領令を出し、国立標準技術研究所はAIの標準化のための9つの「重点分野」を特定したが、拘束力のある政策は出されていない。 米国議会では、人工知能を規制するための法案が数多く提出されてるが、いずれも可決されていない。
この規制の空白は州レベルで、少なくとも一貫しては満たされていない。例えば、自律走行車の規制の難しさを眺めてみよう。 アリゾナ州などは、自らを「自律走行車の技術革新のためのお役所手続きのない実験室」と称している。 しかし、アリゾナ州で起きた死亡事故では、当時走行中であったプロトタイプの安全性に問題があることが明らかになった。事故後の報告書から自律走行車の製造元であるUber社が、事故前に自律走行用の緊急ブレーキと標準的な衝突回避システムを無効にしていたことが判明したのである。 自律走行車のメーカーらは一貫した規制の指針を公に求めている。
このような国家の規制のまとまりのなさは、国際的な規模でも繰り返されており、国々はどんな国際基準の下でもまとまっていない。 AI技術に関わる企業は、政府の承認が得られることが明らかになるまで、大規模な投資を延期する可能性も含めて、変化する規制の動向を注視する必要がある。
また、AIにはネットワークの効率を高めることで全体的なエネルギー消費量を削減できる可能性があるものの、AI技術は計算や通信に大量のエネルギーを必要とするために、エネルギー効率の高い導入計画は頓挫する可能性がある。 AIのイノベーターらには、6G革命を遅らせる可能性のある物理的、そして行政的な障壁の両方を理解する必要がある。
AI & IP
AIの特許が急増している中、米国特許商標庁の最近の決定は、AIの知的財産の新たな源泉を抑制する恐れがある。それは AIが発明した製品の特許に関するものである。 2020年4月、PTOは発明の新規性と重要性を独立して認識するように訓練されたニューラルネットワークのシステムであるDABUSと呼ばれるAIに関わる案件を検討した。https://www.uspto.gov/sites/default/files/documents/16524350_22apr2020.pdf.人間の介入なしに、DABUSは改良された飲料容器と、捜索救助任務のための「ニューラル・フレーム」装置を「発明」していた。 PTOは、「個人」、「彼女自身」、「人」などの法令上の用語を引用して、DABUSを発明者として記載することはできないと判断したのである。Id. at 8.
AIの発明者要件は増える一方だと推測する。 PTOは「発明者」という用語は、「発明の主題を発明または発見した個人」を指す必要があるとしている。Id. at 6. この見解の下であればこれらのデバイスは特許を取得できないことになる。 これは甚大な影響を及ぼすと考える。 AIシステムの所有者は、依然として知的財産権を保護したいと考え、営業秘密の保護など他の形態に頼ることになるかもしれない。 そうなれば、特許がエンフォースメントの主流となっている現状が大きく変わることになる。 営業秘密のエンフォースメントには、不正使用の証明や、場合によっては損害が不正使用に直接起因することを示すなど、独自の課題がある。 営業秘密への依存度が高まれば、企業はそのIPの方針や実務を転換しなければならなくなる。 営業秘密は、それが秘密にされている間だけ存在するものだ。 偶発的な開示であっても、営業秘密による保護は破られるのである。 特許から営業秘密のIP保護への移行は、AIをベースとした企業に対して雇用契約の更新を迫ることになるかもしれない。なぜなら従業員が会社を辞めた後も、彼らが会社のイノベーションの基盤となる秘密を決して開示しないことを確かにする必要があるからだ。
スペクトラム
6G技術では、無線通信を可能にするデータ用周波数であるスペクトラムに関する規制構造の大幅な拡大が必要となる。 6Gでは、100GHzから1THzの間の周波数が必要となる。これにより、システムの超高密度化が可能となり、5Gシステムよりもはるかに高い容量で、数百から数千の同時無線接続が可能となる。 このことによって、ゼロレイテンシーのローカルネットワーク、ローカルデバイス間のワイヤレス「ファイバーのような」データのレート、ワイヤレスなデータセンターネットワーク(インフラコストを削減する)、オンチップワイヤレスネットワーク、(ナノデバイスを接続する)ナノネットワーク、衛星間通信などのイノベーションが可能になる。
このスペクトル革命には、適切な規制が必要だ。 米国では現在、民間の使用を管理するFCCと、連邦政府の使用を管理するNTIA(National Telecommunications and Information Administration)の2つの連邦機関が周波数を規制している。 2019年3月、FCCは "6Gへのレースを開始した"として、3THzまでの周波数の開放を議決した。 FCCは、この範囲で研究者が実験できるように「実験ライセンス」を創設した。 これらのスペクトルはFCCとNTIAが管轄しており、両者の間で有意義な調整が必要になる。
2つの規制機関が存在すると、領域、信用、意思決定権をめぐって両者が争う可能性があり、産業界にとってはマイナスな面がある。 例えば、司法省の反トラスト局と連邦取引委員会(FTC)は、反トラスト法を執行する権限が重複している。 これに関して最近問題となったものとして、FTCが通信メーカーのQualcomm社に反トラスト法上の責任を負わせようとしたのに対し、DOJ反トラスト部は、同じ訴訟が国家安全保障を脅かすとし、Qualcomm社に不利益を与えることで、5G技術における米国のリーダーシップが損なわれ、中国のメーカーであり妨害工作を行ったとされるHuawei社を後押しする危険性があるとしたケースがあげられる。
ヘルスケア
6Gは、完全に自動化された手術、医療データの迅速な転送、および完全に移植可能なデバイスによって、ヘルスケアに革命をもたらすかもしれない。 しかし、医療には過誤訴訟がつきものだ。 6Gに対応したテクノロジーは、予期せぬ賠償責任の波を引き起こす可能性がある。 また、6Gのインフラ要件は、その相互接続技術を利用したいと考えている医療機関にとっても問題となるであろう。
欠陥のある機器による医療過誤の責任は新しい現象ではない。 例えば、Stryker社は、同社の人工股関節置換術に起因する訴訟を解決するために20億ドル以上を支払っている。 また、6Gエンジンを搭載したブレイン・コンピュータ・インターフェース(BCI)の導入についても考えてみよう。 BCIは、人が脳で機械を操作することを可能にし、多くの革新をもたらすものだ。 例えば、義足の高度化、アルツハイマー病患者の記憶力向上などがあげられる。 しかし、このような技術革新の可能性ともたらしうる利益には莫大な潜在的責任が伴う。 脳損傷の医療過誤による個別訴訟では数百万ドルの判決が下されることもある。 脳損傷の集団訴訟が起こればメーカーは莫大な賠償責任を負うことになるだろう。 医療機器訴訟では、責任はメーカーだけにあるわけではないため、メーカー、病院、医師などの流通チェーンに関わるすべての人々が、この潜在的な責任の波に注意する必要があるのだ。
インフラ
グローバルな6Gネットワークには、密接に絡み合った送信機と基地局の網が必要だ。6Gの基地局の伝送距離が200m以下と予想されているために、6Gを本格的に導入するには、全世界で1,000億台の基地局が必要になるという試算もある。 米国の多くの都市では、1ブロックに1本の割合で5Gのタワーが設置されているが、多くの州では、企業がアンテナを設置する際の料金を市が設定することを禁止しており、地方自治や財産権をめぐる争いの火種となっている。 6Gの基地局の数が増えれば、それに比例して問題も大きくなる。
これらのインフラ争いは、地球上に留まる話ではないだろう。 各国はすでに上空からの6Gネットワークの構築に着手しており、世界規模での6G接続を提供しうる人工衛星を打ち上げている。 このような衛星の普及は、衛星衝突のリスクを高める「宇宙ゴミ」の大群の発生から、惑星間の覇権をめぐる世界列強間の緊張を高めることまで、さまざまな問題を引き起こすことになる。 これらの戦いは、ドローンを6Gネットワークの構築に使用することを研究者らが提案したために、より低い高度で行うことになるかもしれない。 その場合でも、FAAが2020年12月に一連のルールを発表したばかりであるなど、規制環境はまだ発展途上にあるのだ。
プライバシー
プライバシーは、6Gイノベーションにおける最も重要な法的な問題かもしれない。 テクノロジーがグローバルな接続性を約束すると、個人の生活全体が1つのデータ侵害によってすべて漏洩されてしまう危険にさらされることになる。社会における6Gの最終的な役割は、この約束された安全性が、社会のすべてのデータを保持する相互接続されたネットワークの十分な根拠に基づいた潜在的な侵害に対する懸念を払拭できるかどうかによって決まるかもしれない。
現行のFTC規制では、企業に「合理的なセキュリティ」対策を求めている。 プライバシーの問題にさまざまな規制当局が着手している。 SECは金融機関のサイバーセキュリティに関するガイドラインを作成し、DHSはサイバー犯罪者の調査を行い、商務省は「サイバーセキュリティに関する認識と保護を強化することを任務とする」としている。
また、各州が独自の規制を実施している。 例えば、ニューヨーク州は最近、SHIELD法を制定した。SHIELD法は、従業員を教育するための手順の実施や、「ビジネスの変化や新たな状況を考慮してセキュリティプログラムを調整すること」など、「合理的な」セキュリティ対策を実施することを企業に求めている。 また、同法は、ニューヨーク州一般事業法第350条(d)に基づき、合理的なセキュリティ基準の遵守を怠った場合、司法長官が最高5,000ドルの罰金を課すことを認めている。 S.5575B Reg.Sess.2019-2020(ニューヨーク州、2019年5月7日)
連邦法も州法も合理性を出発点にしているが、6Gの新境地でどのようなセキュリティプロトコルが「合理的」になるかを予測することは不可能なことである。 6Gのイノベーションを予測し、それに適応することの困難さは、州レベルのプライバシー法が厳しい罰則を課しているために、実際に影響を及ぼすことになるだろう。 2018年に制定されたカリフォルニア州の消費者プライバシー法では、消費者1人につき1件の侵害につき750ドルの罰金、または実質的損害賠償を課している。 さらに、民間訴訟の原告は、データ侵害による被害を示すのに苦労してきたが、6Gネットワークによってデータへの依存度が高まるため、それが容易になる可能性がある。 たった一度の侵害で、被害を受けた企業は壊滅的な損害を被る可能性がある。
しかし、6Gはプライバシーのルネッサンスとなる可能性を秘めている。 現在、暗号化は非対称暗号方式で行われている。これは、データが誰もがアクセスできる公開鍵で暗号化されるものの、秘密鍵がなければ復号できないというプロセスにのっとったものだ。 現代の鍵は、生成するのは簡単だが、現在の技術によるリバースエンジニアリングは困難なものである。 しかし、それは量子化によって変わるだろう。 量子コンピューティングでは、不確定性原理という、情報の一部を測定しようとすると、検出可能な方法でシステムが乱されるという、量子暗号化の中心となる考え方をを利用して、安全な鍵を作成することができる。 送信側のコンピュータは、暗号化されたデータを解読するための鍵を受信側のコンピュータに送信するが、両者はデータの乱れを感知することができ、送信側のコンピュータはデータの送信が乱れのない状態で完了するまで別の鍵を送信するのである。
このような暗号化技術の向上は、別の問題を大きくする。 それは、法執行機関による被告人のデバイスへのアクセス可否だ。 2016年には、アップル社は大量殺人事件の犯人の携帯電話のロック解除を拒否した。 暗号化が機能的に破れないものになれば、政府とサービス・機器提供者間の利害の対立が頂点に達することだろう。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
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