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米連邦巡回控訴裁判所、自発的停止の法理(Voluntary Cessation Doctrine)に基づき特許権者にIPR控訴の棄却を認める (21/06/25)
米国連邦巡回区控訴裁判所は、特許権者が特許に関する訴訟を自発的に解決したことを理由に、被疑侵害者が提起した当事者間レビューの控訴を却下することを求めた特許権者の要求を最近認めた。ABS Global Inc., v. Cytonome/St, LLC, 984 F.3d 1017 (Fed. Cir. Jan. 6, 2021)訴訟において、パネルは特許権者がこのような救済を得ることができる具体的な状況の枠組みを示し、特許権者が申立人によって得られた非侵害の連邦地裁判決を控訴することを明示的に辞退することによって、このような控訴を無効にすることができることを説明した。
A. Cytonome社特許の地方裁判所訴訟と当事者系レビュー
しばしばあることだが、当事者間レビューにおいて特許公判審判部を前にする当事者らは、その特許に関する地方裁判所の訴訟にも関与していた。2017年6月、Cytonome社らは、Cytonome社に譲渡されている米国特許第8,529,161号を含む6つの特許の侵害を主張する訴状を提出した。問題となっている161号特許は、 マイクロ流体システムのためのデバイスと方法に関するもので、被告のABS社は、自社の牛の飼育事業においてこの特許を侵害したと訴えられていた。2017年10月、ABS社は161号特許のすべての請求項について、当事者系レビューの申立てを行った。審査部は審査を開始し、2019年4月に最終書面決定を出し、161号特許の一部の請求項を無効とするとともに、他の請求項について、ABS社が特許性のないものであることを証明する立証責任を果たせなかったとした。
最終書面決定が発行された頃には、連邦地裁の訴訟で略式判決の申し立てがペンディング中であり、実際その2週間後に、連邦地裁は被告のABS社製品は161号特許の請求項のいずれをも侵害していないとする略式判決を下した。そして、2019年6月、ABS社は、ABS社が残りの請求項に関して、それらが特許性のないものであることを示すことができなかったとした判決を覆すことを求めて、連邦巡回控訴裁判所に審査部の判決に対する審判請求書を提出した。
B. 連邦巡回控訴裁判所は、無効性に対する適用可能な例外はないと判断し、最高裁のAlready訴訟意見書の自発的停止の法理を適用
2019年11月、ABS社は控訴審に冒頭簡潔趣旨書(opening brief)を提出した。Cytonome社は、2020年2月に提出した再答弁趣旨書(response brief)において、ABS社は審査部の決定を不服とし控訴する第3条の当事者適格が欠けていると主張した。その主張を裏付けるために、Cytonome社は「連邦地裁の161号特許に関する非侵害の判決に対する控訴を追求しないことを選択し、ここにそのような控訴を放棄する」とする弁護士による宣誓供述書(affidavit)を添付した。ABS Global, 984 F.3d at 1019. 再答弁趣旨書はCytonome社の否認が、第3条の適格性に必要な事実上の損害を取り除いたと主張した。そして具体的には、Cytonome社は控訴を維持するためには、ABS社が161号特許請求項の権利行使の実質的なリスクにさらされていると結論づける根拠を示す必要があるが、それを証明できなかったと主張した。ABSの再答弁趣旨書は、管轄権は当事者適格ではなく、無効性の法理に基づいて分析されるべきであり、連邦巡回控訴裁判所は特許訴訟については無効性の法理の例外とされるものを認めていると主張した。
連邦巡回控訴裁判所は、管轄権を評価するための正しい枠組みは無効性にあるというABS社の主張に同意したが、適用可能な例外があるという主張には同意しなかった。適切な枠組みについて連邦巡回控訴裁判所は、最高裁の説明を引用し、「無効性の法理は、時間枠の中で設定された当事者適格の法理と表現することができるものだ。訴訟の開始時に存在しなければならない必要な個人的利害関係(当事者適格)は、その存続期間を通じて継続しなければならないのである(無効性の法理)。」Id.at 1021 n.1(Friends of the Earth Inc. Friends of the Earth, Inc. v. Laidlaw Env't Servs. (TOC), Inc., 528 U.S. 167, 189 (2000)を引用))このように考えると、Cytonome社が提起した問題は、当事者適格の問題ではなく、ABS社の控訴を無効にするために自発的停止の法理が適用されるかであった。
控訴裁判所はAlready, LLC v. Nike, Inc., 568 U.S. 85 (2013)訴訟を参考に、侵害と無効の主張が競合する状況下での自発的停止に関する法律を検討した。この訴訟はNike社が商標権侵害を主張し、Already社が無効性を主張して反訴したものであった。Nike社は、自発的に広範な不起訴の誓約書を発行することにより、Already社の反訴を含む全ての訴訟を棄却しようとした。しかし、Already社は、少なくとも同社の将来の製品が再びNike社の商標権の下で脅かされる可能性があるため、これでは十分ではないと主張した。連邦巡回控訴裁が指摘したように、最高裁はこのような状況下では自発的停止の法理は権利者であるNike社に対して、被疑侵害者であるAlready社に対する権利行使を再開することが「合理的に期待できない」と示す最初の責任(Initial burden)を課すものであるとしている。この最初の責任が、主張されている侵害行為の全てを含む訴訟を起こさないという誓約によって果たされた場合に、被告侵害者は、次に、自身が付与された誓約に含まれない活動に従事している、または従事する具体的な計画を持っていることを反証する責任を負う。Already訴訟で最高裁は、Nike社は最初の責任を果たしたが、Already社は対抗責任を果たしていなかったと判断し、そのため訴訟は無効であるとした。
また、ABS社が主張した特許法の文脈における無効性の例外については、控訴裁判所はそのような規則を法律学上認めなかった。Id. at 1026. したがって、控訴裁判所は本件の特許紛争に対して、Already訴訟で示された自発的停止の法理を適用した。
C. Cytonome社がその責任を果たし、ABS社が対抗責任を果たせなかったと判断し、連邦巡回控訴裁は控訴を無効として却下
自発的停止の法理を適用し、連邦巡回控訴裁判所は、Cytonome社が連邦地裁の非侵害の略式判決に対する控訴を否認したことは、ABSに対する161号特許の権利行使の努力が再開されることが合理的に期待できないことを示す最初の責任を果たすのに十分であるとした。 この結果に至るにあたり、控訴裁判所は「Cytonome社が控訴する権利を否認したことで、連邦地裁の非侵害判決が事実上確定した」と述べた。ABS Global, 984 F.3d at 1022. 連邦巡回控訴裁判所の排除法理、特にKessler法理の下では、非侵害の最終判決は、被告製品に「非侵害の端末」の地位を与え、これらの非侵害製品またはその他これと「本質的に同じ」である製品をベースとした将来の活動に対し、同じ特許を将来主張することを禁止する。Id. この法律を考慮すると、Cytonome社の否認は、同一または類似の製品に基づく161号特許請求の範囲の侵害について、ABS社に対する将来の権利行使を事実上禁じたものであった。したがって、Cytonome社は、ABS社に対して161号特許を行使する努力が再開されることが合理的に期待できないことを示す最初の責任を果たしたのである。
次に、ABS社の、Cytonome社が161号特許の侵害を理由に再び訴訟を起こすことを合理的に予想していたこと、またはABS社がCytonome社の否認の範囲に含まれない活動に従事していた、もしくは従事する具体的な計画があったということへの反証を提示する機会に関し、連邦巡回控訴裁判所は、記録にはそのような形跡がないことを指摘した。 従って、控訴裁判所は控訴を無効として棄却した(ただし、Prost首席判事は、適切な処分は、審査部の決定のうち問題となっている部分を無効にすることであることを理由に、一部反対意見を提出した)。Id. at 1028.
D. 結論
この判例は自発的停止の法理が、当事者系レビューの最終決定書に対する上訴の文脈で適用されることを確かにするものである。商標訴訟であるAlready訴訟における最高裁の教義解釈に依拠し、本件でCytonome社が提出した宣誓供述書が、少なくとも被控訴人の最初の責任に対しては十分であることを確認することで、連邦巡回控訴裁判所は、将来の訴訟当事者らが同様の救済を得るための指針を示した。また、この分析は、被告となった侵害者が、侵害疑惑の否認の範囲に含まれない活動に従事している、または従事する具体的な計画があることへの反証を提出することには、かなりのハードルがあることを示唆している。
*本文ではVoluntary Cessation Doctrineを自発的停止の法理と翻訳しております。
*本文ではInitial burdenを最初の責任と翻訳しております。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
chietogawa@quinnemanuel.com