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Berkheimer判決後の米国特許法第101条の状況:最近の特許適格性に関する判決の概観 (21/07/01)
米国連邦最高裁判所によるAlice Corp. Pty. Ltd. v. CLS Bank Intern., 573 U.S. 208 (2014)訴訟およびMayo Collaborative Services v. Prometheus Laboratories, Inc., 566 U.S. 66 (2012)訴訟での判決以来、被告らはこれらの判決に依拠して米国特許法第101条に基づく特許の無効を主張している。Alice判決とMayo判決に基づいて特許の無効性を立証するために、被告らは、2ステップテストを満たさなければならない。まず、彼らは問題となっているクレームが、自然法則、抽象的現象、抽象的アイデアなどの特許不適格概念に向けられたものであることを示さなければならない。Alice, 573 U.S. at 217-18. 第二に被告らは、クレームに「発明概念」が含まれていないことを示さなければならない。Id. この2つ目のステップにおいて、Alice判決はトライアル法廷に、クレーム限定が「よく理解された、日常的で 業界で以前から知られている慣習的」な活動以上のものに関係しているかを審理させる。Id. at 225.
2018年、米連邦巡回控訴裁判所は、Berkheimer v. HP Inc., 881 F.3d 1360, 1363 (Fed. Cir. 2018)訴訟において、この2つ目のステップを取りあげた。Berkheimer訴訟では、連邦巡回控訴裁判所は、請求項に係る発明がAlice判決の2つ目のステップの下「よく理解され、日常的で、慣習的」なものであるかは、法律の問題ではなく、事実の問題であるとした。Id. at 1368. ほぼ即座にBerkheimer判決が、被告らが101条に基づいて特許を無効にすることをより困難にするものになるであろうと予測がされた。
Berkheimer判決以来、全国のトライアル法廷と被告らは、特に原告の事実関係が真実だとみなされている早期の訴答への異議申し立てという文脈でBerkheimer判決の影響に悩まされている。この記事では、Berkheimer判決数年後の実務的な影響に注目し、主要な法域における最近の裁判例を簡単に報告する。また、適格性を争う原告と被告の両方の立場から、注意すべき点についても説明する。
Berkheimer判決後の訴え却下の申し立て命令について
I. カリフォルニア州北部地区
被告らが米国特許法第101条の下、不適格であると信じる特許に異議を唱える一般的な方法の1つは、規則12(c)に基づく訴答への判決の申し立てである。規則12(b)(6)に基づく申し立てと同様に、この規則に基づいて申し立てを判断する裁判所は、「訴状にて主張された事実を真実とみなして、原告が法的救済を受ける資格があるか」を判断しなければならない。Cellspin Soft, Inc. v. Fitbit, Inc., 927 F.3d 1306, 1314 (Fed. Cir.2019).
Berkheimer判決にもかかわらず、カリフォルニア州北部地区のKoh判事は、MyMail, Ltd. v. OoVoo, LLC, 17-CV-04487-LHK, 2020 WL 2219036 (N.D. Cal. May 7, 2020)訴訟において、規則12(c)に基づくAliceの申し立てを認めた。この訴訟で問題となった技術は、ユーザーのインターネットデバイス上のツールバーを変更することに関するものであった。Id. at *8. 特許権者は訴答ではなくブリーフィングの中で、「Pingerプロセス」や「MOTスクリプト」などによってツールバーを更新・変更する特定の方法が発明的であると主張していた。Id. at *21. 訴え却下の申し立てを認めに際し、Koh判事は3つの根拠の下Berkheimer判決との区別をした。第一に、彼女は、訴状と明細書の両方はこれらの具体的な方法が発明的であることを識別できなかったと説明した。第二に、彼女はBerkheimer判決は「具体的な発明概念」を特定したと述べた。Id. その一方MyMail社は、PingerプロセスやMOTスクリプトによるツールバーの更新機能が、いかにして「ツールバーの更新プロセスを改善する(した)、先行技術での問題を解決する(した)」のかということを正確に特定することができなかったとした。Id. 第三に、彼女は2つの方法に関するMyMail社の主張は、単に「サーバ」や様々な「データベース」などの一般的なコンポーネントを日常的に使用することに関するものに過ぎなかったと結論付けた。裁判所は特に、明細書ではこれらの一般的な構成要素がどれ一つとして「本発明に固有のもの」として特定されておらず、さらに「どの機能をもが発明的概念として特定されていない」ことを特に指摘した。Id. これらの事実を考慮すると、Berkheimer判決は被告の申し立てを認めるに際しての障害ではなかったのであった。
Berkheimer訴訟後のまた別の訴訟にてKoh判事は、早い段階でのAlice申し立てを乗り切るには、特許はクレームされた発明概念を実現する方法を述べなくてはならないことを説明した。Voip-Pal.Com, Inc. v. Apple Inc., 411 F. Supp. 3d 926 (N.D. Cal. 2019), aff'd, 828 Fed. Appx. 717 (Fed. Cir. 2020). Voip Pal訴訟での特許は、プライベートのIPベースネットワークと外部ネットワーク(例:公衆交換電話網)の間など、インターネットプロトコル(「IP」)ベースの通信をルーティングすることに関するものであった。Id. at 930. 裁判所は、ユーザー固有の処理、トランスペアレントなルーティング、回復力、通信の遮断などを含む特定の主張に関してそれが「従来の技術を大幅かつ型破りに改良した」ものであると真に受け止めた。Id. at 974. しかしKoh判事は、Aliceではそれ以上のこと、つまり、原告は明細書から「望ましい結果がどのように達成されるかの方法」を正確に示せなければならないことが要求されていると説明した。Id. at 974. Voip-Palの原告はこれを行うことができず、「クレームと明細書のいずれもどのようにしてという重要な方法を提供していないために」、その改良はクレームされた発明に起因するものではないとされた。Id. (強調追加). MyMail判決の場合と同様に、Koh判事は訴え却下の申し立てを認めた。Id.
さらに最近では、カリフォルニア州北部地区のChhabria判事による規則12(b)(6)に基づく訴えの却下を、米連邦巡回控訴裁判所が支持した。Boom! Payments Inc. v. Stripe Inc., 2021 WL 116545 (Fed. Cir. Jan. 13, 2021). そこでの特許は、電子決済による支払いを行う前に取引が完了したことを確認するプロセスに関するものであった。Id. at *1. 連邦巡回控訴裁は、Aliceステップ2の下では、原告の訴状には「結論的記述」しか含まれていなかったために、そのクレームされた特許発明の対象は発明時には日常的または慣習的なものではなかったのだと説明した。Id. at *4. 原告は特許性についての主張をするための「もっともらしい事実の主張」を提供できなかったため、連邦巡回控訴裁は訴えの却下が正当化されるとの判断をした。Id.
II. デラウェア州地区
Berkheimer判決が決定されて以来、デラウェア州の判事らは、カリフォルニア州北部地区の同僚ら同様、主張された特許と訴状が、請求項に係る発明からの技術的な改善を少しも説明することができなかった場合には、訴え却下の申し立てを認める姿勢を示している。
例えば、WhitServe LLC v. Donuts Inc., 3 390 F. Supp. 3d 571 (D. Del. 2019), aff'd, 809 Fed. Appx. 929 (Fed. Cir. 2020) (unpublished), cert. denied, 20-325, 2020 WL 6701095 (U.S. Nov. 16, 2020)訴訟でConnolly判事は、Aliceのステップ1に基づいて、主張された特許が期日通知に対する応答を送受信するという抽象的なアイデアに向けられたものであるとの判断をした。Id. at 577. 具体的には、弁護士のような専門家は、クライアントのために特定のアイテムの期限がいつ切れるかを決定するために、長い間ドッキングシステムに依存していたと特許は説明した。Id. at 577. この特許は、クライアントからの承認を得るための自動化されたシステムを開示することで、顧客からの承認を得るために時間を費やすという問題を解決するとしていた。Id.しかし、上記のMyMail判決と同様にAliceのステップ2の下では、WhitServeの裁判所は、この特許は「日常的な機能を実行する一般的なコンピュータのコンポーネントを使用してその業務を自動化することによって、人間が専門的なサービスを提供する速度と効率を改善する」ものであると説明した。Id. at 581 (強調追加).したがって、裁判所は被告に同意し、Fed. R. Civ. P. 12(b)(6)に基づいて訴えを却下する申し立てを認めた。
III. ニューヨーク州南部地区
ニューヨーク南部地区では、被告らは早い段階での申し立てにおいて多くの困難に直面している。例えば、2020年7月、Woods判事は、Personalized Media Commun.LLC v. Netflix Inc,., 475 F. Supp.3d 289 (S.D.N.Y. 2020) (「PMC」)訴訟におけるNetflix,の規則12(c)の申し立てに判決を下し、PMCは、異議を唱えられた特許に発明的概念が含まれていることをもっともらしく主張していたとした。Netflixは、異議申し立て特許の1つが、Berkheimer訴訟以前の訴訟(Personalized Media Commun.LLC v. Amazon.Com, Inc., 161 F. Supp.3d 325, 329 (D. Del. 2015) (「Amazon」))でAliceに基づいて無効とされた別のPMC特許と同じ特許発明の対象に向けられたものであるため、同様の理由で不適格とされるべきであると主張した。Id. at 302. しかしWoods判事は、Amazon訴訟での判決はPMC社の訴答での主張の十分性を検討しなかったため、利用できないと判断した。Id. (「最も重要なことは、この判決が訴状の中での主張について議論しあっていないという… 関連してAmazon判決は、この分野の法律を明確にしたAatrix判決とBerkheimer判決の前に判断されている。」)) 裁判所によれば、仮にリモート・プログラミングが抽象的なアイデア(Alice判決のステップ1を満たす)であったのだとしても、PMC社は、リモート・プログラミングをラジオやテレビと組み合わせることを、Alice判決のステップ2の下、先行技術と比較して大幅に進歩したと認められる十分に発明的なものであるともっともらしく主張していた。Id. at 302. 裁判所は、PMC社が「クレームの側面が発明的であるというもっともらしく具体的な事実の主張」をし、特許明細書がこれらの主張に矛盾していなかったとからこの申し立てを却下した。Id. at 303.
IV. テキサス州西部地区
Albright判事が2018年に連邦判事に任命されて以来、原告らによる彼の裁判所での訴訟の提起が急速に増加している。彼は概して、Berkheimer判決以降のAlice判決に基づく早い段階での訴え却下の申し立てを認めることに躊躇する姿勢を示している。例えばAlbright判事は、Slyce Acq. Inc. v. Syte - Visual Conception Ltd, W-19-CV-00257-ADA, 2020 WL 278481 (W.D. Tex. Jan. 10, 2020) 訴訟において、そのような申し立てを規則12(b)(6)に基づき認めるかどうかといった状況に直面した。Berkheimer判決を引用し、Albright判事は、主張されたクレームについて判断するためには事実に関する証拠開示が必要だと説明した。Id. at 6. (注目すべきは、Albright判事の法廷では、事実に関する証拠開示はマークマンヒアリングの後でなければ始まらないことである。)さらに裁判所は、Aliceテストを適用することの難しさも遅延の要因となっていると説明した。また、裁判所はAliceの申し立ての結果に予測可能性と一貫性がないことを「広く知られており、非常に問題なことである」と指摘している。Id. at *7. Albright判事は、追加の時間があれば、「業界で以前から知られていた、よく理解された、日常的で慣習的な活動」が何であったかを正しく判断するために、「特許とそのニュアンスを理解するのにより多くの時間を費やす」ことができると結論付けた。Id. (Berkheimer判決を引用)
Albright判事はその後、Slyce訴訟での自身の判決に依拠して他の訴え却下の申し立てをも却下し、Alice判決に基づいた早い段階での訴え却下に値するのは「稀なケース」のみであるとの説明をしている。「Slyce訴訟での裁判所の命令に鑑みて、裁判所は今回のケースが、訴訟中の特許の第101条適格性を規則12(b)の訴え却下の申し立てで解決することが適切な稀なケースの1つであるとは考えない」Aeritas, LLC v. Sonic Corp., No.6:20-CV-103 (W.D. Tex. Mar.14, 2020) (内部引用は省略) (訴え却下の申し立てを却下する命令).
V. テキサス州東部地区
Berkheimer判決以降、被告はGilstrap判事の法廷でAlice申し立てを勝ち取るため、特に訴答に対する異議を提起する場合には、概して苦しい戦いを強いられてきた。例えば、Luminati Networks Ltd. v. Teso LT, UAB, 2:19-CV-00395-JRG, 2020 WL 6803256 (E.D. Tex. July 15)訴訟 において、Gilstrap判事は、クレーム解釈は分析にとって有益であるということを説明し、規則12(b)(6)に基づく訴え却下の申し立てを却下した。Id. at *3. Albright判事の法廷と同様に、Gilstrap判事の法廷の被告らは、異議申し立てを行うための状況が理想的なものでない限り、マークマンの判断が下されるまでAliceの申し立て提出を待つことを検討した方がよいかもしれない。
Berkheimer判決後の略式判決
驚くことなく、Aliceのステップ2に関するBerkheimer訴訟での判決によって特許原告らは、事実に関する争点を作り出し、その結果適格性の問題に関する略式判決を回避する強力な武器を手にすることになった。
例えばVaporstream, Inc. v. Snap Inc., 2020 WL 136591 (C.D. Cal. Jan. 13, 2020)訴訟では、被告であるSnap社は、101条に基づく略式判決の申し立てにより、訴訟中の特許の無効化を求めた。Id. at *8. 係争中の技術は、電子メッセージの「追跡可能性」を低減することに関するものであった。Id.at *2. Huff判事は、Berkheimer判決の下Snap社の申し立てを却下する理由として具体的に2つの点を挙げた。Id. 第一に、特定のクレーム要素がよく理解されており、日常的でありかつ慣習的なものであるかどうかについて、双方の専門家が競合する証言を提出したため、略式判決で解決するには不適切な事実上の紛争が生じていたこと。Id. 第二に、裁判所にクレームの要素を個別に分析するだけでなく、順番に組み合わせて分析することもさせるBerkheimer判決とは対照的に、Snap社とその専門家は問題となっている個別のクレーム要素のみを分析した。そのためSnap社は、Aliceのステップ2の下要素を順番に組み合わせたものとして示すこともできなかったことである。Id.
この判決は、他の多くの判決と同様に、Berkheimer判決が早い段階での訴え却下の申し立ての場合と同様に、略式判決申し立ての段階で101条に基づいて特許を無効にする際の障害となり得ることを示している。被告が、クレームされた発明が「よく理解され、日常的で、業界で以前から知られていた慣習的な活動」であるかどうかを含むAliceのステップ2を専門家の報告書で十分に検討できないことは、それ以外ではメリットのある申し立てにおいて致命傷となり得る。一方で、トライアルにたどり着くことを希望している原告らは、自分のクレームの型破りで発明的な性質を裏付ける強力な事実と証言の記録を作成するのが良いだろう。
実務上のティップス
過去4年間の判決を総括すると、Berkheimer判決に関する初期の予測が大きく外れていなかったことがわかる。Berkheimerの判例により、特許適格性に関する異議申し立てを勝ち取ることがやや難しくなったのである。しかし、被告にとってすべての希望が失われたわけではないことも明らかである。Berkheimer判決の下でも、訴え却下の申し立ての段階を含めて、異議申し立てを成功させることは可能である。以上の事例を参考に、訴訟担当者は、Berkheimer判決が自分の訴訟に与えるかもしれない影響を考慮する際に、以下の点に留意する必要がある。
• 原告としては、特許明細書から特定の発明概念を訴状に記載するように常に尽力すること。そうでないと、Alice申し立てに攻撃材料を与えることになる可能性がある。(MyMail, 2020 WL 2219036; PMC, 475 F. Supp. 3d 289)
• 原告として、特定の結果を発明概念として主張する前に、その結果がどのようにして達成されるかについて、明細書に教示があるかどうかを確認すること。(Voip-Pal, 411 F. Supp. 3d 926)
• 被告としては、クレームされた特許発明の対象が発明時に日常的、または慣習的ではなかったという 「結論的供述」を訴状の中で探し、それを裁判所に指摘すること。(Boom! Payments, 2021 WL 116545)
• 被告として、Berkheimer判決以前に行われていた、クレームが従来人間が行っていた事柄を「日常的な機能を実行する一般的なコンピュータコンポーネント」を使用することによって自動化していることを単に列挙しているだけである、と示すという行為は、今日でも有効な戦略であることを心に留めておく必要がある。なぜならこれらのタイプの申し立てはいまだAliceの申し立ての影響を受ける可能性があるからだ。(WhitServe, 390 F. Supp. 3d 571)
• Berkheimer判決以前の判例は、現在では過去ほどの説得力を持たない可能性があることに留意すること。 (PMC, 475 F. Supp.3d 289)
• 略式判決段階での原告として、クレームの要素を個別に、また順序立てられた組み合わせとして分析することができなかった被告の専門家のあらゆる証言を利用するよう努めること。(Vaporstream, 2020 WL 136591)さらに、自分の専門家の証言を用いて、請求項の要素の非慣習的な性質について重要な事実の問題を作り出すこと。(Id.)
• テキサス州西部地区または東部地区の被告としては、マークマンの判断が下されるまでどんなAliceの申し立てをもその提出を待つことを検討すること。(Luminati, 2020 WL 6803256; Slyce, 2020 WL 278481)
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
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