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特許訴訟の最新情報 (21/07/30)
Fortress社のIntel社に対する20億ドルの評決、投資会社らによる特許訴訟のゴールドラッシュを浮き彫りに
近年、特許訴訟の領域に参入する投資会社が着実に増えている。投資会社の中には、特許訴訟やライセンシング企業への出資でその資産運用ポートフォリオを多様化しているところもあれば、事業全体を特許訴訟に向けているところもある。そのターゲット企業らは、原告らや訴訟資金の流入を嘆いている。テキサス州西部地区連邦地方裁判所での最近の判決は、投資会社による特許訴訟の高まりと、その潜在的な利益とリスクを浮き彫りにしているのである。
3月、テキサス州西部地区連邦地方裁判所の陪審員は、Intel社に対する特許侵害の評決を、Fortress Investment Group(以下「Fortress」)の子会社であるVLSI Technology LLC(以下「VLSI」)に対して有利な形で21.8億ドルという、これまでで2番目に大きな特許評決を下した。VLSI Technology LLC v. Intel Corp., No.6:21-cv-00299 (W.D. Tex.). その1ヶ月後、Intel社は31億ドルを求める別のVLSI訴訟で非侵害の勝訴を得た。VLSI Technology LLC v. Intel Corp., No.6:19-cv-00255 (W.D.Tex.). Intel社とVLSI社の3回目の陪審裁判が迫っており、VLSI社はさらに20億ドルを求めている。対象となる特許は、米国で毎年販売される数百万個のプロセッサに適用される可能性のある、基本的なパワープロセッサ技術に関するものである。VLSI v. Intelの訴訟は、控訴審やポストグラントレビューの手続きを経て長引くことが予想されるが、それは投資会社が特許訴訟で得られる可能性のある利益と、潜在的に価値のない投資に資本を投じるリスクを示している。これらの訴訟や投資会社による特許訴訟の増加を考慮すると、投資会社が特許を取得、主張するために採用するかもしれない戦略や、潜在的なターゲット会社が反撃するために何をしているかを理解することが重要である。
特許主張のための投資会社の戦略
全面買取: VLSI v. Intel訴訟は全面買取の例である。Fortress社は持ち株会社としてVLSI社を設立した。Intel Wins Trial Over Chips, Dodging $1 Billion-Plus Blow (1), Bloomberg Law, April 21, 2021. VLSI社は、現在Intel社に対して主張している特許をNXP Semiconductors社から取得した。NXP Semiconductors社は、SigmaTel社を取得することで一部の特許を取得したFreescale Semiconductors社を買収することによって特許を取得していた。S. Decker, M. Bultman, Intel Told to Pay $2.18 Billion After Losing Patent Trial, Bloomberg, March 2, 2021. NXP Semiconductors社は損害賠償金またはライセンス料の一部を受け取ることになる。
主張された特許は、2000年から2009年にかけて出願され、2020年から2027年の間に失効する。これらの特許は、電源管理など、現代のコンピュータの基本機能に関わるものである。出願当時、モバイル技術が台頭してきており、企業はこの分野で幅広い特許を取得しようと躍起になっていた。
Fortress社は、多くの基本的なコンピュータ特許の1つを突き止め、これらの特許を主張することに興味がなく、判決やライセンス契約から利益を得ることができる企業からこれらの特許を取得する契約を結んだ。 Fortress社の特許は、初期の無効性の訴えを持ち堪え、その損害賠償モデルの検証を受け入れようとする陪審員にまでたどり着いた。
特許を保有する企業の買収:ターゲット企業には、特許をライセンスしたり主張したりする企業など、さまざまな形態がある。その一例として、Fortress社によるサイバーセキュリティ関連の特許を保有し、ライセンスを供与し、その権利を主張するNPEであるFinjan Holdings, Inc.の買収が挙げられる。特許を保有するもう一つの一般的なターゲットは、失敗した(あるいはある時には成功していた)スタートアップ企業だ。技術の質とは別の理由で失敗した企業もあれば、技術的な理由で失敗したものの強力な特許を持っている企業もある。例えば、Fortress社は、Theranos社におけるその持株を活用して、Theranos社の法的トラブルにもかかわらず、貴重な特許を取得した。Francine McKenna, Theranos Closes Deal with Fortress to Shut Down Embattled Firm, MarketWatch, Sept. 17, 2018.
特許を主張する企業の株式の取得 : 全面的なリスクとコストをかけずに特許訴訟における利益の分配を受け取りたい投資会社は、特許アサーション企業に投資することができる。例えば、SEVEN Networks Inc. (「SEVEN」)は、Fortress社とその他プライベート・エクイティ企業が所有する非公開企業である。2015年にFortress社が企業支配権を購入して以来、SEVEN社はGoogle社を含む業界のリーダーに対して10件の特許侵害訴訟をQuinn Emanuel社が代理人を務めて提起している。ほとんどの訴訟はすでに和解しており、株主であるプライベート・エクイティ企業らはそれぞれの和解金の一部を分配している。
訴訟の資金調達 : 訴訟援助や倫理の法規の縮小に伴い、特許訴訟の第三者による資金調達(「TPF」)が拡大している。TPFでは、問題の事象に直接関与していない当事者が訴訟に資金を提供し、利益を分配する。資金提供者は特許を所有しておらず、特許を主張する権利もない。訴訟資金調達は、一般的に他の投資手段とほとんど変わらない。ベンチャーキャピタリストらは、投資家から資金を調達し、株式のように売買できる株式を発行する。例えば、訴訟資金提供者であるLexShares社は、投資家が株式を購入できる訴訟のポートフォリオを作成することに特化している。Dan Packel, LexShares Opens New $100M Litigation Fund to Investors, The American Lawyer, June 10, 2020. 投資家はそれらの訴訟から派生する利益を分配する。
アサーション戦略
連邦裁判所:連邦裁判所への提訴は、特許を主張するための最も一般的な手段である。この方法では金銭的な損害賠償が認められ、権利を主張する企業が特許を実施する必要はない。また、連邦裁判所ルートの選択により、特許所有者はしばし原告側に有利な裁判地や陪審員を選ぶことができる。
国際貿易委員会:ITCは、特許を主張することができる準司法的な連邦機関だ。ITCへの申し立てには2つの大きなメリットがある。(1) 解決までの平均期間が18ヶ月と地方裁判所よりも短いこと(Section 337 Statistics: Average Length of Investigations, United States International Trade Commission, April 16, 2021)と、 (2)ITCによる救済は、侵害製品の輸入を防止する排除命令を提供し、和解を迫る強力な手段となることである。しかし、ITCへの申し立てには不利な点がないわけではない。ITCへの申立人は、特許に関連する十分な国内産業(「DI」)を示さなければならない。商品を製造していない投資会社は、この要件に苦労するかもしれない。連邦巡回控訴裁判所は、InterDigital Communs., LLC v. ITC, 718 F.3d 1336 (Fed. Cir. 2013)訴訟において、DIはライセンシングによって満たすことができるとした。したがって、投資家は、ITCに申し立てを行う前に、ライセンシーを見つけなければならない。Quinn Emanuel社がQualcomm社を代理したCertain Graphics Processors, DDR Memory Controllers, and Products Containing the Same, Inv. No. 337-TA-1037 (ITC 2017)訴訟では、原告であるZiiLabs社はDI要件を満たすためにIntel社とのライセンス契約に依拠した。ITCのスピードと救済措置は、諸刃の剣となる可能性がある。 迅速な手続きにより、証拠開示が制限され、侵害を証明するための証拠が減少する可能性がある。排除命令は強力な武器になりうるが、排除命令は設計変更が可能であり、その場合にはITCは金銭的損害賠償を認めることができない。
ターゲットの反撃
ターゲット訴訟の防御戦略
投資会社はしばし、特許の所有権を示すことができず、それゆえに当事者適格、そして表示に関する法令への遵守を示すことができないという問題を抱えている。特許の所有権は非常に専門的で、特許の販売ごとに複雑になっているのである。所有権の連鎖に誤りがあると、原告の訴訟が頓挫してしまう可能性がある。投資会社には、特許の非オリジネーターとして、少なくとも1回の購入が要される。多くの場合VLSI v. Inteld訴訟のように、特許はその権利の主張の前に何度か売却されている。
特許表示は、特許所有者とそのライセンシーに、特許で保護されたアイテムに表示を
施すことを要求する。表示を怠ると、被告が侵害を実際に知った時より前に特許所有者が被った損害について損害賠償を請求することができなくなる。投資会社は特許をライセンスして利益を得ることを目的としている。しかし、ライセンシーの数が増えれば増えるほど、ライセンシーの特許表示を管理することは難しくなる。そのため、早期の特許表示の申し立ては、損害賠償額を減らし、早期の和解を促すことができる。
被告はしばしば、投資会社が発明者ではないということを強調する。陪審員は、特に企業に対して訴訟の場合に、発明者に共感する。原告を大規模な投資会社として描くことによって、陪審員の特許所有者を支持する傾向を中和することができる。また、投資会社が製品を製造していないことを強調することで、投資会社に対する否定的な反応を引き起こすことができる。
外部戦略: 勝っても負けても、ターゲットは多額の費用を負担することになる。訴訟を未然に防ぐ、あるいは停止させる戦略が望ましい。当事者系レビュー(「IPR」)は、訴訟を回避するための一つの方法だ。IPRでは、被告がPTABに対してその審判部が発明を自明と判断することを期待して、先行技術を提示することができる。しかし、このプロセスは確実なものではない。 Intel社はVLSI社に対してIPRを試みたが、その度に審査部はその開始を否定したため、特許の自明性を主張する機会を得られなかった。
IPRが失敗した後Intel社は独創的に、Fortress社を反トラスト法違反で提訴した。訴状では、Fortress社による特許の集約が「競争を排除し......その結果、製品の供給者に、特許をライセンスするために[Fortress社]に代わるものがあったとしてもほとんどない状態に陥らせ......その結果、ロイヤルティが膨らみ、それらの市場での生産量が減少し......また、被告のポートフォリオ全体へのライセンスについても減少を発生させた」と主張している。Intel Corporation v. Fortress Investment Group LLC, No. 3:2019-cv-07651 (N.D. Cal. 2021).
この提訴は険しく苦しい戦いを目の前にしている。独占禁止法は取引制限を防ぐことを目的としている。対照的に特許権は、発明の開示と引き換えに、一定期間、発明の独占的管理権を提供するためのものである。Intel社は、1つの発明に対する独占は許されるが、同じ分野の特許を多数購入することは違法な取引制限になるのだと示さなければならない。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
chietogawa@quinnemanuel.com