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IPRの審理開始を拒絶するPTABの裁量権について (21/08/26)
はじめに
2012年の創設以来、当事者系レビュー(「IPR」)は特許訴訟において重要な役割を果たしている。これらの手続きは特許商標庁(「PTO」)で行われるミニトライアルであり、証言録取、専門家、およびライブの議論で構成されており、訴訟当事者が戦略的利益を迅速かつコスト効率よく進めるためのユニークな機会を提供するものである。しかし、IPR手続きにおける最近の先例によって、IPRを請願する被告のハードルが高くなっている。具体的には、IPR手続きを審理するPTOの行政機関である特許審判部(「PTAB」)は、連邦地裁での訴訟が同時進行していることを考慮し、効率性や司法資源の節約に関連する懸念を理由として、IPR請願に対してその審理の開始をますます裁量権を活用して拒絶するようになっている。PTABの裁量権による審理の拒絶は2020年に増加し、その決定のいくつかは、PTABの決定が将来の訴訟で拘束力を持つようになる稀な指定である「precedential(先例)」とされた。侵害訴訟に対抗する手段としてIPRに依存している大企業らはPTABの裁量的拒絶の慣行に対して数多くの異議申し立てを行っており、その適用の修正と完全な廃止の両方を主張している。
IPRの概要
米国発明法により2012年にIPR手続きが制定された。これらの手続きはPTABで行われる。米国議会は、発行された特許の有効性を判定するためのより効率的な手段を提供するためにIPRを創設した。そのため、IPRでは限られた義務的な開示(通常、専門家による証言録取のみ)が認められており、PTABは開始から1年以内に特許性の判断を下さなければならない。
IPR手続きはその開始以来、特許訴訟においてますます重要な役割を果たしてきており、侵害訴訟における被告らにいくつかの戦略的利点を提供している。例えば、PTABの特許性判断は、歴史的に特許への異議申立人に有利に働いてきた。PTOが発表した統計によると、2020年10月から2021年3月までの間に、PTABは最終審決書の82%以上で少なくとも1つの異議申立クレームを無効としている。また、一部の連邦地裁はIPRの結果が出るまで侵害訴訟をペンディングとすることを厭わない。このように、IPRは特許訴訟における防御戦略の重要な一部となっている。
PTABにおける裁量的拒絶
しかし、最近のPTABの先例によりIPRで特許に異議を唱えようとする申立人の負担が増加している。特に合衆国法典はIPRの異議申し立ての審理を開始するかを決定するために、PTABにある程度の裁量権を与えている。35 U.S.C. 314(a)を参照。歴史的には、PTABは、審理の開始の決定を主に請願のメリットに焦点を当て行っており、請願を拒絶するために314(a)を行使することはほとんどなかった。しかし最近では、PTABはIPR請願の審理開始を拒絶するためにその裁量権に頼っている。2020年5月、PTABは、314(a)に基づく裁量的な拒絶を検討する際に考慮する6つの要素をまとめたFintivを先例として指定した。
1. 連邦地裁が訴訟の中止を認めたか、またはIPR手続きが開始された場合に中止が認められる証拠があるか。
2. 裁判所の審理日とPTABが予測する最終審決書の法定期限との近接性。
3. 裁判所と当事者らによる並行手続への投資。
4. 請願書で提起された問題と並行手続で提起された問題の重複。
5. 並行手続における申立人と被告が同一の当事者であるか否か、及び
6. 請願のメリットを含む、審判部の裁量権の行使に影響を与えるその他の状況
Apple Inc. v. Fintiv, Inc., IPR2020-00019, Paper 11 at 5-6 (PTAB March 20, 2020) (precedential, designated May 5, 2020) (「Fintiv」) 以来1年間、PTABはFintivに依拠して頻繁に請願を拒絶してきた。とあるリソースによると、2020年には裁量による拒絶が60%増加したという。
https://www.unifiedpatents.com/insights/2020-ptab-discretionary-denials-report
Fintivに関するPTABガイダンス
2020年を通して、PTABは、Fintivに基づく裁量的拒絶の適用を明確にするいくつかの先例を発表した。例えば、SoteraにおいてPTABは、Fintivは、「レビューを拒絶するか、または開始することで、システムの効率性と完全性が最善に保たれるかの全体的な見解」を提供することを意図していると説明した。Sotera Wireless, Inc. v. Masimo Corp., IPR2020-01019 Paper 12 at 14 (PTAB December 1, 2020) (precedential, designated December 17, 2020) (「Sotera」) すなわち、PTABはIPRが、同時係属中の訴訟で既に行われた尽力を単に重複させるだけのものであるかを検討する。Soteraでは、PTABは、IPR請願で提起された、または提起される可能性があった無効理由を連邦地裁で追求しないという申立人の規定を引用して、IPRの審理開始を認めた。Id. at 18-21. PTABはこの規定が、重複する議論を排除することでIPRが連邦地裁訴訟の「真の代替」として機能することを保証するものであるために、審理開始に「強く」有利に働くものであったと判断した。Id. at 19.
別の先例であるSnap Inc.では、PTABはとりわけ、連邦地裁とIPRでの手続きの相対的なタイミングを考慮した。PTABは、同時係属中の連邦地裁の訴訟が中止されたため、PTABでの最終的な書面による決定前に連邦地裁が有効性の判断に達することはないと述べ、Fintivの要因が審理開始に有利に働いたと判断した。Snap, Inc. v. SRK Technology LLC, IPR2020-00820 Paper 15 at 9 (PTAB October 21, 2020) (precedential, designated December 17, 2020) (「Snap」)を参照。PTABはこの要素が審理開始に「強く」有利に働いたと判断した。Id.
PTABが先例決定において、争点の重なりの度合いや手続きの相対的なタイミングに焦点を当てていることは、最近の非先例ケースにおいても同様である。例えばPhilip Morrisで、国際貿易委員会(「ITC」)の被告は、IPR請願の中で争われた特許請求項について、そのITCでの有効性の抗弁を完全に取り下げ、PTABは審理開始を認めた。Philip Morris Prods., S.A. v. RAI Strategic Holdings, Inc., IPR2020-01602 Paper 9 at 13 (PTAB April 2, 2021). ここでも、Soteraと同様に、PTABは、ITCにおいて申立人が無効性の抗弁を取り下げたことにより、手続間での問題の重複が解消されたため、審理の開始が認められるべきであると理由を述べた。Id. at 14-15. 一方、TesoでPTABは、タイミングが審理開始を拒絶する決定において特に重要な要素であったとした。Teso LT, UAB v. Luminati Networks Ltd., IPR2021-00122 Paper 12 at 11 (PTAB April 20, 2021) (「Teso」). このケースでは、当事者らは同時係属中である連邦地裁の訴訟に既に多額の投資を行っており、PTABが特許性の判断を行う10ヶ月前にトライアルが予定されていた。Id. at 7-9. このことと、複数の手続きで先行技術が重複していることが、審理開始の拒絶に大きく寄与した。Id. at 11.
Fintivへの異議申し立て
いくつかの企業らが、Fintivの正当性とその適用に疑問を投げかけている。例えば、AppleとGoogleは、PTABの裁量的な拒絶行為が米国発明法に違反しているとして、カリフォルニア州北部地区でPTABに対する宣言的判決を求める訴訟を提起した。Apple Inc. v. Iancu, 5:20-cv-06128-EJD, Dkt. 1 (N.D. Cal. August 31, 2020). 具体的には、AppleとGoogleは同法が、被告が侵害の訴状を送達されてから1年以内にIPRの請願をすることを明示的に認めていると主張している。Id. 6. したがって彼らは、連邦地裁のスケジュールを考慮して、法に基づいて適時に提出された申立てを拒否するPTABの慣行は、AIAに違反すると結論づける。Id. さらに原告らは、Fintivは、行政手続法で要求されているNotice and comment(告知とコメント)期間を提供しないため、これがPTABによる不適切なルール作りにあたると主張した。Id. 8-9. この訴訟は現在もカリフォルニア州でペンディング中である。
また別の異議申し立てにおいて、FitbitとGarminはPTABの先例設定パネル(先例意見パネル、または「POP」)に対し、同時係属中のITC調査のスケジュールに基づいて行われたFintivによる審理開始の拒絶を無効とするよう申し立てた。Garmin Int'l, Inc. v. Koninklijke Philips N.V., IPR2020-00754, Paper 13 Ex. 3007 (December 1, 2020) (「Garmin」). FitbitとGarminは、とりわけ、ITC手続きの迅速な性質が常に審理開始に不利に働くと主張している。Id. at 1-2. さらに申立人らは、ITCには特許を無効にする権限がないため、PTABはFintiv分析においてITCの調査を考慮すべきではないと主張している。Id. at 2. POPはいまだこの要求を検討中である。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
chietogawa@quinnemanuel.com