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ESG訴訟の最新情報 (21/08/30)
米国最高裁判所は、米国の裁判所への外国人不法行為法に基づいた申し立ての提起には、米国内での「一般的な企業活動」以上のものが必要であるとする。
2021年6月17日、米国最高裁判所は、Nestlé USA, Inc. v Doe, 593 U.S. ___ (2021)訴訟において意見を述べた。この訴訟はマリ出身の市民グループが米国の外国人不法行為法(「ATS」)に基づき、Nestlé社とCargill社がコートジボワールのカカオ農園で児童奴隷と強制労働の加害を幇助したと主張して提訴したもので、この個人らは自らがカカオを生産するための児童奴隷として売買されたと述べた。ATSは1789年に採択された米国の連邦法で、国際法または米国の条約に違反して行われた特定の不法行為について、米国市民以外が提起した訴訟を米国連邦裁判所が審理する権限を与えるものである。
連邦地方裁判所は当初この請求を棄却したが、第9巡回区控訴裁判所は、被告企業が米国内で「すべての主要な業務上の意思決定」をした、または承認したと原告らが主張したことを根拠に訴訟は続行できると判断した。Nestlé社とCargill社は、米国最高裁判所への再審請求に成功した。
「一般的な企業活動」を超えて
この点について裁判所は、8対1の多数決により、原告の訴状はKiobel v. Royal Dutch Petroleum Co., 569 U.S. 108 (2013)訴訟(Quinn Emanuel社がRoyal Dutch Petroleum社を代理して最高裁判所に提訴した訴訟)で定められたATSの域外適用否定の推定を覆すものではなかったと判断した。強制労働を幇助したとされる企業行為のほぼすべてが海外のコートジボワールで発生しているために、原告らは推定を覆すため、それらの域外違反とされる行為を幇助した米国内の行為について、具体的な事実関係を主張する必要があった。
第9巡回区控訴裁判所が、被告が米国内で「業務上の意思決定」を行ったと主張したことを根拠に原告らが訴訟の続行を許可した一方で、最高裁判所は「意思決定のような一般的な企業活動の主張だけでは、ATSの国内適用は立証できるものではない」とした。むしろ、トーマス判事が法廷で書いたように
「ATSの国内適用を支持するのに十分な事実の申し立てのために原告は、ほとんどの企業に共通する一般的な企業活動よりもむしろ国内的な行為を主張しなければならない。」のである。
裁判所は、どのような追加的な米国内での行為を示さなければならないかについて詳細を説明しなかったが、裁判所の判断は、原告、被告を問わず、ATS訴訟の実務に影響を与えることは間違いないだろう。棄却の申し立てを乗り切るためには、原告は今後「ほとんどの企業に共通する活動」の「一般的な主張」に頼るのではなく、外国の違反行為と国内の行為との間に「特定の関連性をもたらす」米国を拠点とした活動の具体的な詳細を主張しなければならなくなる。逆に、企業の被告らにとっては、ATSの請求が米国での一般的な企業活動のみを主張しているケースにおいては、申し立てが棄却される可能性が高くなるという。
いくつかの点でこのアプローチは、他の法域で国際法違反の疑いで企業に対して提起された訴訟で見られる、より寛容な傾向とは異なる。例えば、英国最高裁判所は、Lungowe v Vedanta Resources Plc, [2019] UKSC 20訴訟とOkpabi v Royal Dutch Shell Plc, [2021] UKSC 3訴訟という、いずれも英国籍の親会社と外国の子会社を相手にした請求が関係していていた訴訟において、その管轄権に対する様々な異議申し立てを却下した。これらの請求は、海外で発生した損害を主張するものでもあったが、両訴訟でのそれぞれの申し立て人らは、損害が英国の親会社が行使した運営管理に起因するものであると強く主張していた。Vedanta判決とOkpabi判決を受けて、英国の裁判所への請求は、例えば、グループ方針の発布や親会社による子会社の活動の管理などの企業活動を根拠として主張することが可能となった。
米国企業に対する請求に関して未解決の問題
外国法人はATSの責任を負わないとしたJesner v Arab Bank, 138 S. Ct. 1386 (2018)訴訟における米国最高裁判所判決以来の未解決な問題は、国内法人も同様にそのような請求から免責されるのかである。ATSの下での企業責任の問題は、現在、3回にわたって最高裁判所に提示されているが(Nestlé社のケースでは正面から提示された)裁判所は、国内企業がATS責任の対象となりうるかについて、いまだに決定的な判決を下しておらず、その都度、より狭い根拠または代替的な根拠を持って訴訟を解決している。Nestlé訴訟において何人かの判事は、国内企業がATS責任を負う可能性があるという立場を支持することを表明したものの、裁判所はいまだこの問題について直接の判断を下していない。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
chietogawa@quinnemanuel.com