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SECとDOJ、コーポレートアメリカに対し積極的な姿勢を示す (21/11/26)
Biden政権が発足してからまだ10ヶ月も経っていないが、Biden政権の民事・刑事執行部門は、コーポレートアメリカを正面から見据え、より積極的な姿勢を示している。 米国司法省(以下「DOJ」)と米国証券取引委員会(以下「SEC」)の高官が最近行ったスピーチでは、どちらの組織も企業の不正行為に対して強硬なアプローチを同じような優先順位のセットを持ってして取る予定であることが示されている。 このような状況を乗り切るために、企業は、DOJやSECからの調査のリスクを軽減するために、コンプライアンスやコーポレート・ガバナンスのプログラムを積極的に強化する方法を慎重に考える必要がある。 しかし、調査が行われた場合には、企業とその弁護士は、自己報告と協力という伝統的なアプローチが「苦労の甲斐のあるものであるのかどうか」を検討する必要がある。なぜなら、協力によるリスクと不正行為の結果がもたらす影響が大きくなっているように見えるからだ。
最初に動いたのはDOJであった。2021年10月28日、Lisa Monaco司法副長官は、米国弁護士協会の第36回ホワイトカラー犯罪に関する国立研究所での講演の中で、企業の刑事執行に関する同省の方針を3つ変更することを発表した。
1. 協力クレジット - Yates Memoへの回帰 協力クレジットを獲得するためには、企業は、疑惑のある不正行為に関与した、または責任のあるすべての個人を特定し、その関与に関するすべての非特権情報を提供する必要がある。このアプローチは、Yates Memoに記載された要件を緩和し、誰が「実質的に」関与しているかを判断し、それに応じて情報開示を制限する裁量権を企業に対して与えた、Trump大統領時代に行われた省庁の方針の調整をいくらか取り消すものである。 現在では、協力クレジットを得るためには、企業はDOJに全面的な情報開示をしなければならず、これはDOJによるあらゆるアクションの潜在的な範囲と協力のコストを増大させる。
2. DOJの判断 - すべての行為を考慮 企業の不正行為をどのように告発し解決するかを決定する際に、DOJは、問題となっている行為とは似ても似つかない過去の失態を含めた、企業の刑事、民事、規制に関する記録全体を確認するようになった。そのため、例えば、FCPA調査の対象となっている企業が、過去にその収益認識プラクティスで制裁を受けていた場合、DOJはこの関連性のない過去の不正行為を考慮することになる。以前は、検察官は判断を下す際に、司法省マニュアルにより「企業の類似した不正行為の履歴」を考慮するよう指示されていた。しかし、今は異なっている。Monaco副長官は、今後は、「過去のすべての違法行為を評価する必要がある…その不正行為が、特定の調査で問題となっている行為と類似しているかどうかに関わらず。」そして、「検察官は、すべての過去の違法行為に潜在的な関連性があることを仮定することから始める必要がある」と明言している。これに関連して、Monaco副長官は、DOJが違反を繰り返す企業に対してDPAやNPAが提供されるかどうかを検討していると説明した。これらのことは全て、より厳しい企業責任と決議が課せられる可能性を高めている。
3. 企業決議 - 適切な場合に監視を行う Monaco副長官は、DOJが「企業がコンプライアンスと情報開示の義務を果たしていることを検察官に納得させるために適切な場合には、いつでも企業にモニターシップを課す」とし、このような制裁措置はこれ以降好ましくない、あるいは例外的なものとは見なされないと明言した。 多くの企業にとって高額で負担の大きいモニターシップ導入拡大の見込みは、裁判前の決議を強化しようとする同省の姿勢をさらに示すものである。
全体的に見ると、これらの変更は、DOJによる企業の不正行為に対する姿勢の強化を反映しており、企業が前段階で強固なコンプライアンスプログラムを導入することの重要性を強調しているものであるが、同時に、DOJが企業の不正行為を認定した場合の影響が大きくなることを考慮して、自己報告とDOJへの協力のコスト・ベネフィット分析に新たなコストをもたらすものでもある。DOJの動きを受けて、SECもすぐに追随した。 2021年11月4日、Gary Gensler委員長は、証券取引法施行フォーラムでの準備した発言の中で、SECが資本市場と企業の不正行為を取り締まるために、同様に強力なアプローチを取ることを発表した。Gensler委員長はその発言の冒頭で、初代委員長のJoseph Kennedyが1934年に残した、「委員会は、詐欺や虚偽の表示をして証券を販売する者に対して、分け隔てなく戦いを挑む。」 という言葉を引用した。この引用が基調となり、Gensler 委員長は、委員会は、個人や企業の財務上の不正行為に対する責任を追及することでその任務を遂行し、日常的な案件と、見出しを飾るような「インパクトのある」案件の両方を起訴することで、抑止力と法の尊重を促進すると説明した。 Gensler 委員長は、Monaco副長官のスピーチを明示的に引用し、企業犯罪に対するDOJのアプローチに対して彼女が行った修正を要約し、SECがMonaco副長官の見解を共有していることを明らかにした。「[SECとDOJ]は独立しており、それぞれの執行手段、権限、使命は異なるものの、(DOJが発表した)これらの変更は、企業犯罪者をどのように扱うべきかについての私の見解とおおむね一致している。」と。重要なことは、Gensler 委員長が、SECへの「協力」が、「合法的な召喚に応じたり、合法的に強制された証言のために証人を用意したりするなど、法的な要件を満たすこと」や「自分に都合のよい独立した調査を行うこと」以上のことであると述べていることだ。むしろ、委員会は、違法行為に関連する個人や情報に関しての完全な自己申告を求めるという、DOJの明確なアプローチに従うことになると思われる。 また、救済措置に関しても、委員会は、たとえ遠く離れた、あるいは関連性のない不正行為を繰り返している者に対しても、厳しい見方をすると思われる。
これらの発表を受けて、企業には考えるべきことが多くある。まず、企業、特に金融や医療など規制の厳しい業界の企業は、速やかに自社の状況を把握し、弁護士と相談して、組織全体で報告書やコンプライアンスプログラムを更新する必要があるかどうかを判断する必要がある。堅牢なシステムとコンプライアンス文化によって規制上の懸念に対し先に対応をすることは、そもそもの規制上の懸念を回避する可能性を高めるだけでなく、問題が明るみに出た場合の決議の厳格さを軽減するためにも、極めて重要だ。第二に、企業とその弁護士は、自社の規制遵守記録の全体的な評価を行うべきだ。そうすることで、SECやDOJが訪問してきたときに、企業は過去の問題に関する質問に対応する準備ができており、政府の懸念を最初に和らげることができる可能性がある。第三に、企業とその弁護士は、これまで以上に、協力が「全てを含む」事象であるという現実を念頭に置いて、この新しい世界における協力のコストと利益について今戦略的に考えることで、SECやDOJから今後ありうる問い合わせに先んじることができるだろう。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
chietogawa@quinnemanuel.com